8)「大成功おめでとう」のメッセージ(Last)
ある日の夜。
ふと、クローゼットを開けたときだった。
探しても——
いまだに高校の制服が見つからない。
いや、たたんであったはずの体操服もない。
(……あれ?クリーニングに出したっけ……?
いや、それすら……思い出せない)
代わりに、
小学校の制服と体操服だけが、いつも通りに整えられていた。
その瞬間——スマホが鳴った。
ぽんっ
LINEの通知。
名前は表示されない。
でも、わかっていた。
開くと、たったひとこと——
「大成功おめでとう」
送り主のアイコンは、
あのとき、最初に教室で隣にいた
あの女の子の笑顔だった。
白いシャツ。
吊りスカート。
名札の下に、しっかりと
「サヤカ」と書かれていた。
僕はスマホを置き、
静かに小学校の制服の袖を通した。
もう迷いはなかった。
朝の光がカーテンの隙間から差し込んでくる。
新しい一日の始まり。
僕は鏡の前に立ち、制服の名札を指でなぞった。
「イチノセハル」——カタカナで。
(ああ、そうか。わかったよ。)
この制服を着ることは、
過去に戻ることではなかった。
未来へ進むことだったんだ。
ランドセルを背負って、玄関に向かう。
「いってきます」
振り返らなくても、わかっていた。
母も父も、サヤカも、みんなが僕を見守っている。
ドアを開けると、まぶしい光が溢れていた。
そして——
「朝の光を胸に抱いて」
誰かが歌っている声が聞こえた気がした。
僕は大きく深呼吸して、その光の中へ踏み出した。
世界は、いま、ちゃんと繋がっていた。
「おわり」