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国語は世界を変えるのか?(2)

 ベッドに潜り込んでいたのは聖女さんでした。

「聖女たるものが、なんとはしたない。恥ずかしくないのですか!」

 説教して、部屋から追い出しましたよ。

 後のトラブルなど知らんわ!

……とにもかくにも、好みのタイプじゃないんです。仕事仲間としては有能なんだけどなあ。


 そして、朝食を食べるとコトダマ様が入っているという養老院に向かった。

 そこは都の郊外、というか、完璧に隔離された谷底の街にあり、厳重な壁に囲まれていた。

「ご面会ですか。ここにサインをお願いします」

 門衛が誓約書へのサインを求めてきた。

……縦に書くべきか横に書くべきか。

「……ん、文字が読み書き出来ないのかな。ならば、○を書いておくがよい」

 急に横柄な口調になったので、日本語で「勇者ミーム」とサインしてやった。もちろん縦書きである。

「何だ、これは」

「あいにくと俺は外国の出身だ。この国の文字は書けなくとも、日本語なら読み書きできるのだ」

「う、うーん」

 門衛は、首をかしげている。

「ちなみに、国王陛下とも知り合いだし、王女殿下とは友達だ。今度来たときに会えるといいのだがな」

「失礼しました!」

 また態度がかわる。

「ここのルールをご説明いたします。こちらへどうぞ」

 壁の看板の注意書きを読み上げる。

「まず、『ここに入る者は一切の希望を捨てよ』というのがこの街のモットーです。出入り口は一ヶ所だけ、通行証は絶対になくさないでください。全て自己責任です」

……要約すると、養老院に入っているのはきわめて攻撃力の高い魔道士や剣士や元高位の政治家で、その中でも特に判断力が衰えて世間に対して面倒そうな人々が収容されているのだという。たとえるなら、プリウスを運転させたら危険な方々ばかりというわけだ。

「というわけで、ご面会の方には全員、全て自己責任だという誓約書にサインをいただいているのです」

「というと、最悪、殺される可能性もあると?」

「ありえます。ですから、くれぐれもご安全に」

 コトダマ様がいる建物を教えてもらい、そこに向かう。

 門衛にはさんざっぱら脅されたが、中は至って平和だった。

 いい年の爺さん婆さんが日向ぼっこをしている。

 と思ったら、言い争いが始まった。

「わしはここの婆さんと戦いに来たんじゃ。そこをのけ!」

「それはなりません。祖母は今、()()中なのです」

「そうか、()()()。はーはっはっは、それはいいことを聞いた。勝ったぞ、ババアめ!」

 見れば、目的地の家の目の前である。

 ジジイは頭の下半分だけが長髪の、見るからに意地悪そうな魔法使い、いじめられているのは魔法学校の青い制服を着た金髪ポニーテールの美少女だった。そして、周りの爺婆たちは、にやにやしながら二人の言い争いを見ている。

「困ります! 祖母は体調が悪いんです」

「ならばますます好都合。我が氷魔法で永久に葬り去ってやろう!」

 これは勇者の出番だ。

「ちょっと待った~! 無益な争いはやめましょう」

「なんじゃ、若いの。他人のいさかいにくちばしを突っ込むんじゃない!」

「いえ、そうも行きません。俺もこの家を訪ねてきた一人……」

「何、貴様もコトダマ婆ぁのタマとって名を挙げたい口か。まずは小手調べに貴様から血祭りに上げてやろう」

……何、このバトルロワイヤルな街! 確かに絶望しかないわ!

 老人はこちらに杖を向けた。

「地の底の果てなる常闇の地、すべてのものを鎮める重き氷河の冷酷なるかいなよ、余は命ずる。全ての敵を()()()()()()! 致るべし、行きとし生ける物を貫く氷の結晶よ……」」

……長い。こんな呪文、()()的じゃない!

そして、俺は思わずつぶやいていた。

「アブソリュート・ゼロ」

 爺さんは完全に油断していたのだろう。

 杖をふりかぶったままがちがちに凍りついた。

「ひぃ!」

 少女は、口元に拳を持ってきて凍り付いている。もとい、動かなくなっていた。

 周りの観客達が近寄ってくる。

「あーあ、凍りついとるわ」

「こりゃ、医者に連れて行くか」

「プリーストに頼むかのう」

「げほっげほっ、わしゃまだ死んどらん。肺が痛むぞ。なんて寒さだ。またいずれ決着をつけようぞ」

 爺さんは、よろよろと逃げていった。


「感動しました! すばらしい切り返しです」

 生徒ちゃんが目をきらきらさせて見上げてくる。

「で、君は?」

「サクラと申します。コトダマの孫です」

「俺は勇者ミーム。最近この世界に転生してきた冒険者なのさ」

 ポッ。

 サクラの頬が桜色に染まった。



 


 


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