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国語は世界を変えるのか?(1)

勇者は世界の秘密をたずねていきます。

「北の魔王」を倒してからの王国軍の働きは三倍増しくらいになった。

幽鬼をバシバシ倒しまくる。

そして、女神ラマギーリはちゃっかり請求書を書くと神々の世界へと消えていった。

「えっと、小麦粉を脂で練った物を五百個、灯明を五百皿。蜂蜜を一ガロン。お布施の紙幣は五百枚燃やす。……王様に出せない額ではないだろうし。てか、ガロンって何だよ。わからん!」

そして、ふと気づいた。この世界で普通に日本語が通じている異常さに。

……まあ、女神なら日本語が読み書きできても不思議はないけど、俺ばかりか聖女さんまで日本語のシャレに吹いてたぞ。

試しにつぶやいてみる。

「コンソール」

何も出てこない。

「ステータス」

何も出てこない。

普通、ラノベやアニメの世界ならこういうとき本人にしか見えないステータスウィンドウとかが出てきて、ヒットポイントとメンタルポイントなんてのを表示してくれる物なんだが。

「そうね。この世界はそこまで親切じゃないから」

心を読んだ聖女さんが補足してくれる。

「ああ。まあ、これが普通なんだろうけどね」

……でも、「北の魔王」ははっきりと自分のレベルをカウントしてたんだよなあ。

謎の多い世界だった。いや、むしろ謎なのがあたりまえなのだ。それを解明していくのもまた、転生者の醍醐味なのだ。


というわけで、のこった幽鬼軍団を掃討するためのプリーストや魔道士の一団と入れ替わる形で、勇者パーティーはパーティー会場へと戻った。

まずは女神からの請求書を王様に渡し、書記官に内容を言葉にして伝える。

女神をどういう風に祀ったらいい、ときかれたので、掛け軸型の尊像を提案する。

「本当に、もう解決したのだろうな」

王様の心配は、もっともなことだ。

「くるっと丸っと解決しました」

……ひょっとしたら、北の魔王はまだどこかで生きているかもしれない。けど、それはレベルがマイナス十二分の一という、なんとも奇妙な世界なのだ。


勇者と魔道士ちゃんが旅立って数日。

俺は王宮のラウンジに来ていた。

ここは軽食も取れるし、何より聖女さんがいない。心を読まれるというのは、あまり気持ちのいいことではないからだ。

何もない日の勇者は暇だ。剣の稽古をするにしても、力と速さがつりあう相手がいない。城で剣聖と呼ばれている人物ですら俺には太刀打ちできないのだ。読書でもしようかと思ったが、この国の文字は読めなかった。誰かに読んでもらうのも大人げない気がする。だから、昼間は自主的に王宮の中を警備している。バー――といってもぶら下がる方だが――で懸垂をしたり、サンドバッグを叩いたり。本当に退屈なのだ。

「こんばんは」

王女だった。

彼女とは、気さくに話が出来る。

何せ、普通の人なのだ。心を読まれないというのが何と心安らぐことか。

そして、今日は襟ぐりの広いドレスを着ている。つい目線がそこに落ち着いてしまう。

「勇者様は以前、私の名をきかれましたね」

「はい」

「今でも聴きたいですか」

……それはつまり、今でも求婚してくれるかという意味だ。魔道士ちゃんが去ってしまった今となっては、このチャンスは逃しがたい。酒が背中を後押ししてくれた。

「はい、聴きたいです」

「ユミナ、です。私の真名(まな)はユミナです。勇者様の真名は何とおっしゃいますの」

「それが…… この世界に来たときに記憶が欠落してしまったようでして」

「あらあら。(わたくし)、からかわれたのかしら」

王女の表情が曇った。そして、バーキーパーをしているメイドに告げる。

「ウォッカ・マティーニ! ダブルで! シェイクして!」

大きめのバラライカグラスに、オリーブを二個刺したピンがそえられる。振り終わったシェイカーから透明なカクテルが注がれる。

「あら、つきあっていただけませんの?」

「あ、いえ、俺も同じ物をお願いします」

俺もウォッカ・マティーニを飲んでみた。

酔いがすぐにくるきついカクテルだった。

気がつくと俺は、この世界についての疑問をべらべらと口にしていた。

「だから。言葉が前いた世界と全く同じなんです。不思議だと思いませんか。それどころか、カクテルも、その材料も、同じなんですよ」

「はあ。それは不思議ですわね。……あ、アースクエイク、ちょうだい」

「ナンバーワンでしょうか、ナンバーツーでしょうか」

「どちらでもいいわ。えっと、ミームとしては言葉のことが気になるのね。それならコトダマ様にきいたらいいんじゃないかしら」

「え? あの方はボケているって大臣たちが言ってましたが……」

「年寄りってのは、昔とった杵柄(きねづか)の話になったら俄然話し出すものなのよ」

王女は、うりゃー、とか、どっこいしょ、と言いながらスツールを降りた。そして、よろめきかかる。

隅にひかえたメイドたちがあわてて駆け寄った。俺も支えようとして……

「なりませぬ!」

一斉にメイドたちが叱責する。

……そうだ、王女に触れたら死刑になるんだった!

一気に酔いが覚めた。

メイドたちが王女を支えて去り、俺も自室に転がり込んだ。

ふかふかのベッドに誰かいたようにきがしたが、俺は気にせず眠りについた。


 





ウォッカマティーニ。

別名、ジェームズ・ボンド・マティーニ。ただし映画ではオリーブは入れなかったはず。


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