エピローグ
「はぁーお腹空いたー! パスタとサラダと……ピザ頼んだらあんたも食べるわよね?」
「食べる食べる」
何処にでもあるファミレスで注文を済ませると、ドリンクバーから取ってきた飲み物で喉を潤す。
そして。
「変わらないわねー、私たち」
「変わらないなー」
俺と恋伊瑞は同じ事を呟いた。
「てか時間経つの早すぎ! ついこの前まで高校生だったのに!」
「ついこの前は言い過ぎだろ」
高校卒業後、同じ大学へ入学。そしてその大学も卒業した事で、今年から俺たちはピカピカの新卒生として社会人一年目を迎えていた。
いやもうね、辛いよ社会人。
しかし嬉しい誤算というか、悲しき事実というか、やはり俺には社畜の才能があったようで、それなりに働けている。
「で、何か言う事は?」
「……本当に、申し訳ありませんでした」
季節は秋。
昼は暖かく夜は肌寒い時期であり、学校では文化祭が行われる時期であり──俺たちが付き合い始めた時期でもある。
もっと言うと、まさに今日がその日なのだ。
付き合い始めて早七年。毎年交互にお祝いプランを考えていたのだが……。
「まさか忘れられてるとはねー。当日まで連絡来なかったらか何か用意してるのかなとか思ってたのにねー」
「いやもうほんと……すいませんでした」
だって仕事が! 仕事が忙しかったんです!
俺だって先月まではちゃんと覚えてたし、スマホのカレンダーにも予定を入れておいたのだ。でも恋伊瑞の言う通り時間が過ぎるのは早いもので、気づいたら当日になっていた。
いやもうね、本当に焦ったよね。
二時間前に『もう18時だけど、まさか忘れてないわよね?』って連絡来た時は全身から汗が吹き出した。
「今度ぜったい埋め合わせするから……」
「いいわよもう。今日私に会うために仕事早く終わらせたんでしょ?」
それに俺は頷く。
まぁそれでも店はどこも予約いっぱいで、結局ファミレスになっちゃったんだけど……。マジで情けないなぁ俺。
「もー! せっかく会えたんだから辛気臭い顔しない! 私はほら、会えるだけでも……嬉しいし……」
自分で言って照れないで下さい。いやもう本当に俺の彼女可愛いがすぎる。
「あでも! 私、銀山温泉行きたいのよね」
……本当に可愛くて強かだよ。
「じゃあ来月行こう。予約とか俺するからさ」
「ほんと!? やった~!」
俺が悪いのにそんな眩しい笑顔を向けないでくれ。もう何処にだって連れて行くよ!
俺の罪滅ぼしは決定したようで、恋伊瑞は「そういえばさ」と別の話題を持ってきた。
「杏奈が今度みんなで集まろうって。あんたいつ空いてるの?」
「急だなおい。まぁ休日ならいつでもいいけど……てかそれ俺も行っていいの?」
「いいでしょ。てか来るものだと思ってるわよ杏奈も。斎藤君もいるだろうし」
「まぁそりゃあいるか。あの二人、早かったもんなー」
「ねー」
杏奈さんの片思いから始まった二人の関係は驚くほどに上手くいき――なんと大学卒業と共に結婚したのだ。
これにはさすがの恋伊瑞も唖然としていた。恋伊瑞と白波さんに何の報告もなかったらしいしな。二人とも結婚式で号泣してたけど。
「ちなみにさ、白波さんも来る……よな?」
「来るけど……は? 何あんた浮気?」
「いやちげぇよ! だってほら、お前と付き合いだしてから急に避けられ始めたしさ……」
理由はまぁ……確信は無いがわかる。だからこそ、俺からは何も出来なかったわけで。
「……別に二年上がってからは普通だったじゃない。さっきだってチャットで『相馬君に会えるの楽しみ』って言ってたわよ」
「マジで?」
「マジで」
その言葉に俺は力が抜けた。
恋伊瑞の親友で、俺の高校時代に関わった数少ない友人と呼べる彼女。白波さんと縁が切れてしまうのは、やはり嫌だった。
「じゃあ湊も行くって連絡するわね」
「おう」
スマホをピコピコといじる恋伊瑞を見ていると、やはり昔を思い出す。
初めて出会った時は、まさかコイツと付き合うだなんて思わなかったもんな。
そういえば風の噂で聞いたのだが、俺の初恋相手である椎名さんは今、森川さんと同棲しているらしい。
同棲というかルームシェアらしいけど、椎名さん大丈夫かな……。森川さんなら普通に襲う可能性あるからな。
「よしおっけー! みんなとの集まりと銀山温泉、なんか大人になったって感じね」
「そうだな」
みんな少しずつ変わっていく。
止まらない時間の中で、それぞれが沢山の経験を得て、そうして俺たちは大人になっていくのだろう。
「あー、ちなみにさ」
「うん? なに?」
俺は徐にスマホ画面を彼女に見せる。そこには様々な物件が記載せれており。
「小和さえよければさ。一緒に内見……行かないか?」
恋伊瑞はポカーンと口を開け、持っていたピザを皿に落とす。
そして勢いよく立ち上がった瞬間。
「今すぐ行きましょう。ほら早く!!」
「いやもう夜だから! だから、明日とか。その……どうかな?」
「……遅いのよバカ」
「バカってお前、これでも勇気出したんだけ、ど!?」
急に抱き着かれた俺は、思わず声をあげてしまった。
何事!? 他のお客さんとか店員さんが見てますよ!?
しかしそんなものは関係ないと言わんばかりに、涙を浮かべながらとびきりの笑顔で。
「湊……大好き!」
「……俺も好きだよ、小和」
俺たちはどう変わっていくのだろうか。それはわからないが、これだけは言える。
きっと――特別な未来が待っているのだろう。
これにて遂に『フラれた者同士、友達未満の特別な関係』――無事完結致しました。
ここまで相馬達の物語に付き合ってくれた皆様、本当にありがとうございます!
この作品はここで完結ですが、新作ラブコメも執筆しているので、投稿した際には読んで頂けると幸いです!
最後になりますが、本当にありがとうございました!
次は別作品でお会いしましょう!!




