第六十三話 そうして祭りは終わりに続く
エンディングセレモニーはつつがなく行われた。
文化祭実行委員長は感動で締め括ったが、それを聞いている生徒はあまり居なかったように感じる。やはり皆、祭りの熱が冷めていないのだろう。
そして後夜祭が始まった。
外はもう薄暗くなっており、一番星まで拝める。
校庭には大きなキャンプファイヤーが設置され、そこを中心として熱の冷めない生徒達が馬鹿騒ぎ。彼ら彼女らの祭りはまだ終わっていないらしい。
遠目で見ているだけでもその熱に侵されそうだ。
まるで自分が特別な人間なのだと錯覚してしまいそうになるその熱は、演劇が終わってからもずっと心の中で燃え続けていた。
初恋の相手にキスをされた。
元カノに告白をされた。
燃え続けるキャンプファイヤーは熱を増していき、高く舞った火の粉は天に向かう途中で儚く消える。
そんな風景を離れた位置で眺めていると、その横でスカートが揺れた。
「あんたが後夜祭に参加するなんて雨でも降るんじゃない?」
俺を睨みながらも隣へ腰を下ろした恋伊瑞。
バンドTシャツからクラスTシャツへと着替えたようで、おそらく後で写真とかとるのだろう。
「文実は強制参加なんだよ。薪を積み上げるのマジで辛かった……」
「ふーん。まぁ仕事があっただけ良かったじゃない」
「否定できない……」
皆んな何か作業してるのに一人だけボーとしてるの辛いんだよなぁ……。
「…………」
「…………」
互いに無言。
パチパチと炎の燃える音と、生徒が騒いでいる音を背景に、横並びで座り合っている時間が続く。
気まずいとは思いつつも、しかし口を開く気にもならなかった。
言いたい事。聞きたい事。それらが頭の中を回って、結局口を噤んでしまうのだ。
「よかったわね」
先に沈黙を破ったのは恋伊瑞だった。
「舞台の上であんな事するとは思わなかったけど、まぁこれで晴れて両思いじゃない」
「……そう……だな」
両思い。その言葉が何故か喉に詰まる。
そして飲み込めなかったからなのか、俺はその言葉を吐き出していた。
「そういう恋伊瑞もだろ? 佐久間のためにライブ頑張ったんだ。 上手くいってよかったな」
「…………そうね。うん、よかったわよ」
言葉とは裏腹にその表情はどこか悲しそうなのは何故なのだろうか。
つい聞きそうになったが、俺は口を噤む。
だって俺にはもう……聞く資格が無いから。
恋伊瑞の心の中に何があるのか知らないが、きっと佐久間が何とかするのだろう。そして恋伊瑞もそれに笑顔になって、二人の仲が更に深まって。
それで。それで…………。
「………………ダメだなぁ俺」
「何がよ。アンタがダメなんて今に始まった事じゃないでしょ?」
「本当にお前は慰める気ないよな」
「何よ。慰めてほしいの?」
きっと本当は分かっていた。
ずっと見ないふりをして、わざと目を逸らし続けて、自分の心を騙していた。
知らなければ楽だったから。知ってしまったら辛いだけだから。
でも――もう知らないふりは出来ない。
「いや。むしろ殴ってほしいかな」
「は? あんた何言って――」
俺は今日、大切な人を傷つける。
言葉にしなければ幸せでいられるのだろう。抑え込んだまま抱えていれば、この感情も消えて無くなるのだろう。
だからこれは俺のエゴだ。
憎まれてもいい。蔑まれてもいい。
それでも俺は。
「恋伊瑞。エンディングセレモニーの後さ、俺に時間くれないか?」
「………………やだ」
長い髪を垂らしながら俯き、小声で呟いた恋伊瑞は、それでも更に続ける。
「やだけど……わかった」
「ありがとな。恋伊瑞。――ぐへぇ!? え、なに!?」
「あんたが言ったんでしょ、殴って欲しいって。向こうだって待ってるだろうし。だから……頑張ってきなさいよ」
突然に背中を殴ってきた恋伊瑞は、言うだけ言って走って行ってしまった。
意味がよくわからないが、まぁ意味わかんない行動たまにするしなアイツ……。
でも約束を破るような奴じゃないことは知ってるので、そこは心配ない。
だから、今俺のするべきことは。
俺はスマホを取り出すと、数少ない連絡先を開き。
「――急にごめん椎名さん。話があるんだ」
祭りの終わりは近づいていた。
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