第五十一話 会議は踊る
文化祭実行委員の仕事は多岐に渡る。
文化祭準備期間から当日までやることが色々あるわけだが、それと並行して行わなければならないことがある。
それがクラスの出し物関連だ。
「それでは出し物について案がある人ー」
白波さんが教壇の前で口を開くと、いつもつまらないギャグで笑いを取ろうとする芸人気取りの坊主が勢いよく挙手をした。
「やっぱりメイド喫茶っしょ!」
「はぁー? ふざけんなよ新井!」
「はんたーい」
「ヲタクすぎだぞ新井」
「えー! まじかよ反対かよー!」
マジかよ俺やっちゃったよー。と、坊主頭に手を乗せながら嬉しそうにしている。
反対意見を引き出すことによって笑いをとろうという魂胆が丸見えだが、それでもクラスの中心人物が言えば笑いに変わるのだ。
どんなに寒いギャグでも滑る話であっても、何を言うかではなく誰が言うかが大事なのだから。
俺はそんな吐き気がする身内乗りを横目に見つつ、一応は出た意見なので黒板に『メイド喫茶』と記載した。
あと完全に個人的な理由だが、メイド喫茶は正直悪くないと思う。
うちのクラスは美人多いし。
「ちょ! ソ、ソウタ君? 俺の黒歴史書くなってー!」
「あはは! お前、ソウタ君にもいじられてんじゃん!」
いじってねぇよ。てか誰だよソウタ君って。人の名前くらいちゃんと覚えろっての。まぁ俺もお前の名前知らないけど。
とか思っていると、司会進行を務めていた白波さんが急に振り返り。
「相馬君、書記してくれてありがとねー。本当に助かるよ相馬君」
「いやまぁ、司会任せちゃったし。これくらいはやらないとさ」
「ありがとね相馬君!」
そんな白波さんらしからぬ大きめの声は、さっきの坊主頭にまで聞こえているだろう。
いや勘違いだったら恥ずかしいんだけどさ、もしかして俺の名前を正そうと……?
「じゃあ他に案のある人ー」
声量を戻し、いつもの気だるげな様子に戻った彼女に困惑する。
それからも意見が出るがこれというものは中々見つからず、クラス連中の集中力が切れていくのが分かる。
「じゃあ劇はー?」
俺が困っていたらいつも手を差し伸べてくれる人だ~れだ。
斎藤。まるでヒーローのように見えてしまう。
ここで大事なのは良い意見を出すことではなく、誰が意見を出すかなのだ。
停滞した議論に油をさす役割を買って出た斎藤は話を続ける。
「ほら、うちのクラスって話題になる人多いじゃん?」
「あー、確かに! 椎名さんとかいるし!」
「うわ、絶対成功するじゃん」
人で人を集めるという点でいえばコンカフェも変わらないが、確かに学園祭に適した健全さで言えば劇になるだろう。
ちょっとコスプレした女性陣見たかったのは内緒。
クラスメイトも意見が一致しだしたのか、どんな劇にするのかまで話し合っていた。
話すのはいいけどオリジナル脚本で行こうとか言ってる新井を誰か止めてくれ。
斎藤の鶴の一声のおかげで雰囲気が一変した。
そんな感謝を伝えるため彼に向って目くばせをすると、歯を見せながら笑顔を向けられる。
やだカッコイイ……。
これには杏奈さんも乙女顔ですわ。いや本当に目がハートになってますね、ガチ惚れじゃないですか。
「それでは劇に決定で。あとは何をやるのかまで決めまーす」
事務的なまでの進行に、しかし盛り上がった議論の熱量は変わらなかった。
いかに椎名さんを美しく見せるかに重点を置いた男子の考察に、森川さんが呪い殺すのではないかというほどに殺気を放っているが見ないふり。
いや無理です。今の俺には止められませんって……。
「じゃあ『白雪姫』『シンデレラ』『ロミオとジュリエット』の三作品を会議に持っていきますね」
やりたい出し物が決まったら、そこからは文実の仕事だ。
他のクラスと出し物が被っていないかを精査し、OKが出たら決定となる。
「それでいいよね相馬君」
「うん、ありがとう白波さん」
「こちらこそだよ」
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「あれ……恋伊瑞?」
中庭のベンチに一人座っている姿が見えた。
今日は文実の集まりもないので、いつもの三人組で帰っているものだと思ったが。
「何やってんだあいつ」
だが、そんな疑問は直ぐに解消されることとなる。
見間違いだと思いたかった。
しかし何度瞬きをしても、勘違いだと思考し直しても、その光景が変わることは無い。
――佐久間光輝が、そこにいた。
お読み頂きありがとうございます。
星での評価やブックマークをして頂けると執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。




