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第五話 待ち合わせ


 最寄駅から一度乗り換えを挟んで二駅先の改札口を出る。

 目の前に広がるのは巨大なショッピングセンター、みんな大好きららぽーとだった。

 数々のショップが入っていることに加え、映画館やイベント会場まである。ここら辺では最大級のレジャースポットだ。

 日曜ということもあってか、人の多さに気圧されながらスマホで時間を確認する。

 時刻は十二時半。集合時間よりも早めに到着してしまったのは、緊張しているからだろうか。


『明日十三時にららぽ集合ね』


 昨日の連絡を見返しながら、周りを見回してみる。

 家族連れや友達同士で遊びに来ている人たちが多いが、やはり目に留まるのはカップルだろう。

 デートの定番とも言っていいこの場所を恋伊瑞に指定された時は心臓が飛び出るかと思った。

 恋愛感情は無いとはいえ、女子に遊びに誘われたらニヤけてしまうのは仕方のないことだ。

 もちろんデートだとは思っていないが、髪形をセットしたり服を選んだりはした。まさか練習のお披露目がこんな形になるとは。

 どうしよう。一回トイレに行って鏡見てきた方がいいかな。てか俺臭くないかな、家出る前にお風呂には入ってきたけど……。


「……あんた、滅茶苦茶に挙動不審だからね」


 後ろから声をかけてきた恋伊瑞を見ると、俺は一瞬息を呑む。

 涼しげな印象を与えるブラウスに、切れ込みの入ったスリットスカート。そこから白く細い足を惜しげもなく出していた。

 俺は見惚れていたのを隠すように顔を背ける。

 

「一言目のセリフがそれかよ……。まぁ事実なんだけどさ」


 休憩席で立ったり座ったりを繰り返したり、その周辺をウロウロ歩いたりしてたからなぁ。俺でも不審者だと勘違いするレベル。

 そんな俺に話しかけてくれただけ恋伊瑞は優しい。

 

「……あんた、今日髪いじってる?」

「え? 一応、ワックス付けてみたんだけど」

「なんか寝癖みたいだから練習したほうがいいわよ」

「……」


 絶句とはこのことだろう。

 マジかよ……。鏡の前で意外といけてるかもとか思ってた自分をぶん殴りたい。

 

「まぁ、よく見れば気になる程度だから平気よ。いつもとあんま変わらないから大丈夫」

「慰めになってねぇ」


 やっぱ全然優しくないわこいつ。


「それで、今日は何で呼ばれたんだ? なんも言われてないけど」

「あぁ、今日はね」


 途中で言葉を区切ると、ポシェットから二枚の紙を取り出し俺に見せびらかすように掲げた。どうぶつの森かよ。


「今日は映画を見ます。チケットはあるからね」

「それはまた、ずいぶん急だな」

「……そうでもないんだけどね。ほら行くわよ。上映時間もうすぐだし」


 そう言うとスタコラと映画館に向かって歩き足してしまう。


「あ、おい待ってて! 金払うから」

「いらないわよ。捨てようとしても捨てられなかったチケットだし。お金なんて貰えないから」

「どんな呪いのアイテムだよそれ……」


 怖い話は好きな部類だが、リアル怪談はご遠慮願いたい。


「流石に悪いって。払うから」

「いいわよ」

「いや払うって」

「いいって言ってるでしょ!」

「いやでも……」

「~~だからぁ!」


 恋伊瑞は足を止めると、鬼の形相で振り返った。


「これ佐久間君とのデートのために取ったチケットだから!」

「…………ごめんなさい」


 ガチで呪いのアイテムだった。

 

「チケットだけ先に買って、デートに誘おうとしてたら振られちゃったから使い道が本当にないのよ」

「順番が逆だろそれ。普通予定合わしてからチケット買うんじゃないの?」

「そ、それは……! 映画デートの事を考えたら舞い上がって先にチケット買っちゃったのよ! 分かるでしょ!」

「滅茶苦茶分かる」


 いいよな、映画デート。ポップコーンの食べさせ合いとかしたすぎる。


「そういう訳でお金はいらないから」

「はい」


 地雷を踏みぬいた俺に選択権なんか無かった。

 恋伊瑞から呪いのアイテムもとい映画のチケットを受け取る。

 座席は普通の一般席だ。番号的に真ん中の方だろう。

 よかった! カップルシートとかだったら気まずくてトイレに逃げ込んでたよ!


「……ちなみに、見る映画はこれだから」


 恋伊瑞が指さしたのは、上映している映画のポスターがズラッと並んでいる中の一枚。

 タイトル『世界一の恋』。今話題沸騰中の恋愛映画だった。


「な、何か言いなさいよ!」

「タノシミデス」


 トイレに逃げ込みたい。

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