第四十七話 呼び出し
「放課後時間あるよな?」
教室でスマホを見ていると、急に杏奈さんからそう言われた。
それ疑問形に見せかけた命令ですよね……。
「えっと。ごめんなさい……」
怖かったので、とりあえず謝ってみる。
ボッチに何か言いたいときは堂々と言ってほしいものだよね! 「あー。そ、ソウヤ君? ソウヤ君って今ティッシュ持ってる?」みたいな感じで。いやソウヤ君って誰だよ。名前間違えて覚えてんじゃねぇよ。
「なんで謝んだよ。なに? 予定ある感じ?」
「いやないけど」
「本当になんだったんだよ! じゃあ放課後時間空けとけよ!」
そう言い放つと、俺に指を指しながら自分のテリトリーへ帰って行った。
えぇなに……? 俺、とうとうボコられるんですか?
いや杏奈さんは態度と口が悪くてちょっと顔も怖いだけで、根が優しい人なのは知っている。
まるで映画版ジャイアンみたいな性格を素で行く人なので、きっと想像よりもしょうもないことで呼び出されたのだろう。
でもそれはそれとして、やっぱり怖いので、恋伊瑞に一応チャットを送ってみる。
『杏奈さんに放課後呼び出されたんだけど、何か知ってるか?』
『黙って来なさい』
家に逃げ帰りたいです……。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
学生の放課後といえばなんでしょう。
そう答えはサイゼです。
ということで呼び出しに指定されたサイゼに入店すると、そこにはギャル三人衆が既に揃っていた。
まるで今から生死をかけた学級裁判が始まりそうな雰囲気だが、愛嬌のあるマスコットはいないので、ひとまず胸を撫でおろす。
「相馬君こっちこっちー」
すると、愛嬌のある白波さんが細腕を振りながら俺を呼ぶ。
「あ、どうも」
飲み会に後から参加する中年みたいな登場になってしまった。
いや分かんないって。どうやったら綺麗な流れで参加出来るんだよ。
そして更に分からないことがもう一つ。
俺どこに座ればいいのかしら。
杏奈さんと恋伊瑞が隣同士、白波さんが対面に一人、というこの席状況。
もちろん白波さんの隣に座るのが普通なのだろうが、勝手に座って嫌な顔とかされたら学校行けなくなるしなぁ。
「座らないの?」
俺がテーブルの前で突っ立ていると、白波さんは自分の隣のスペースをポンポンと叩きながら聞いてくる。
どうしよう、彼女が女神に見える……。
心の中で両手を合わせてお辞儀をした後、俺は女神に導かれるまま彼女の隣へ腰を下ろす。
「相馬もドリンクバーでいいわよね?」
「うん、頼むわ」
「おっけー。てかなんか食べる? ポテトとか頼もうかな」
恋伊瑞とそんな会話をしていると、隣からメニューがバンと現れた。
「はい相馬君メニューだよ」
「あ、ありがとう」
白波さんから差し出されたメニューを眺める。やっぱサイゼ安いなー、学生の味方すぎるだろ。
「相馬君は何が好きとかあるの? わたしはサラダ好きなんだー。ほらエビ乗ってるやつ」
あぁ、女子は好きだよなエビとかパスタとか。そう考えるとやっぱりサイゼは最強なのかも知れない。
女性ウケもいいとか、デートの定番になっても不思議じゃない。
「俺は辛味チキンとか好きだな」
「おー、やっぱり男の子だねー。じゃあそれ頼もうよ、シェアしよ?」
「うんいいよ。そうしようか」
「じゃあ店員さん呼ぶねー」
すると恋伊瑞が持っていたメニューを机に置いた。何故か少し睨まれながら。
「私もポテト頼むわ。あんたにもあげるから!」
「え、あぁうん。ありがとう?」
「だからあんたのも、そのさ」
「あぁ、あげるよ。てか四個入ってるし、みんなにあげるよ」
「……うん。ありがと」
そう言うと、嬉しそうにする彼女。
そんなに辛味チキン食べたかったのか。まぁ美味いもんなあれ。
「……わたしもエビのサラダ頼もうっと」
「じゃあ店員さんを――」
俺が呼び出しボタンを押そうとしたその時。
ずっと沈黙していた杏奈さんが口を開いた。
「ウチ、斎藤のこと好きなんだけど!」
ピンポーン…………。
俺の押した呼び鈴が、情けない音を上げながら、やまびこのようにこだました。
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