第四十一話 ジェットコースターの楽しみ方
「たけぇー」
ついそんな言葉が漏れ出てしまった。
現代アートのようなウネウネしたジェットコースターが頭上に迫っている。
これ壊れないよね……。
「列進みますねー」
お客さんの回転率が速いのか、思ったよりもどんどんと列は進んでいき、いつの間にか車両が見える位置までたどり着いていた。
「それではゆっくりとお座り下さーい!」
ジェットコースター担当のお姉さんがマイク越しにアナウンスをする。
お客さんは順番に乗車していき、次第に俺たちの番が来た。
若干の緊張を孕みながらいざ乗り込もうとしたその時。
「じゃあ大和君が右側ね!」
「え!?」
泉が急に座席指定を出した。
どっちが前ねとかなら聞いたことあるけど、左右を指定するのはなんなのだろうか。
大和は驚きつつも、言われた通りに右側へ。そしてその隣りに泉も乗り込む。
「そ、相馬さん!?」
「なに? てか早くお兄ちゃんたちも座りなって!」
俺たち以外は全員席に入っており、アナウンスのお姉さんからも早くしてくれと圧を感じる。
「ほら相馬早く乗りましょ」
当たり前のように乗り込んだ恋伊瑞は、手招きをしながら俺を呼ぶ。
いや乗るけどさ。
変に緊張してしまうのは何故だろうか。これじゃあ俺だけが気にしているみたいで恥ずかしい。
前にいる泉はニヤニヤしているが、お前は俺たちではなくて隣の大和を見てやれよな。顔真っ赤でジェットコースターどころじゃないぞそいつ。
ガタン、と乗り物が動き出す。
体が宙に浮いていく感覚がし、下を見ると地面からどんどんと離されていく。
「結構高いな」
並んでいるときから分かっていたことだが、下から見るのと実際に上がっていくのとでは全然恐怖度が違った。
てか普通に怖い。
自然とレバーを握る手に力が入ってしまう。
「なにあんた、怖いの?」
「……うん。って、待て。何考えてるお前」
「別に~」
明らかに悪いことを考えている笑顔だった。
「これ観覧車の真ん中を通り抜けるんだって。ほらあそこ見てみてよ」
「え? あぁあれか」
目線の先には言われた通りの光景がある。
あそこまでの道のりは長いなとか考えていたその瞬間――右手に温かい感触が重なった。
俺の右手を握った恋伊瑞は、しっかりと俺の顔を見つめながら、見惚れるほどの笑顔で。
「楽しまなきゃね!」
俺の腕はレバーから引きはがされた。
「は……? ああぁぁぁぁぁああ!」
「きゃーーー!!」
手を繋いだままバンザイした状態で落下。
無理やりレバーへ手を戻そうとしても、恋伊瑞に抵抗されて戻せない!
待って! 落ちる! 落ちてる!!
「うぁぁぁぁああ!」
「きゃーー!!」
恋伊瑞に手を握られたとか、恋伊瑞は今どんな顔してるのだろうとか、そんなこと考えている暇なんてない。
むしろ握られた手を、こっちから強く握り返している。
「気持ちいわねー!」
「感じる余裕ないってー!!」
落下が終わるまで、そんな情けない叫び声を上げ続けることとなった。
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