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第四話 休日の過ごし方


「次からは遅れないようにしろよ」

「気を付けます」


 我がクラス一年B組の担任教師であり数学担当の川野先生は、低い声でそう言いながらプリントを受け取ってくれた。

 怒らず注意で済ましてくれるとは、なんて優しい先生なんだ。

 中学時代、一日提出期限を過ぎてしまった宿題を持って行った際にこっぴどい説教を受けた俺からすると涙が出そうになってしまう。

 ここだけの話、担任が強面の男性教師だったと分かった時は心底ガッカリしたなんて言えない。

 漫画やアニメのように、可愛い新米ドジっ子教師を期待してたのに……。

 などと考えていると、川野先生は思い出したように話し出す。


「そうだ相馬。今度クラスで体育祭の選手決めするから何に出たいか考えといてな」

「あ、はい。わかりました」


 そういえばホームルームで同じことを言っていた気がする。

 この学校の体育祭は全員強制出場する「玉入れ」「綱引き」「大縄跳び」の他に、選択競技がある。

 確か選択種目は「百メートル走」「障害物競走」、そして目玉の「一年対抗リレー」の四種目だ。

 この選択競技はクラスで選ばれた人達が出る種目である。(もしくは自主的に)

 つまり運動部や陽キャが参加するやつであり、それ以外には関係のない話だ。

 もちろん俺もその内の一人。


「選択競合で一位を取ればインタビューもあるし、気合い入れてけよ」

「考えときますね。失礼しましたー」


 お辞儀をして職員室から出ると、外から体育祭を楽しみにしているであろう運動部の声が聞こえた。

 校庭が見える階段横の窓まで行くと、サッカー部が模擬試合をしているようだ。


「佐久間ー! そっちいったぞ!」

「任せてください!」


 そう答えた生徒は大きくジャンプをし、ボールを確保。そしてドリブルで三人抜きを果たした後、華麗にシュートを決めた。

 その瞬間に黄色い声援が聞こえる。

 佐久間光輝(さくまこうき)。恋伊瑞の元彼だ。

 爽やかイケメンで高身長。それにサッカー部期待の新人でエース候補とは、好きになれる要素がどこにもない。

 きっと体育祭でも大いに活躍することだろう。

 シュートを決めた佐久間は声援に答えるように手を振ると、女性陣から更に大きなエールが返ってくる。もはや悲鳴と変わりないだろあれ。

 何不自由ない学園生活。毎日が楽しくて仕方ないと言っているような笑顔だ。


「……なんで振ったんだよ」


 佐久間と恋伊瑞が並んで歩く姿を想像したが、すぐに考えるのを辞め、帰路についたのだった。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 土曜日のお昼過ぎ。

 学校も休み、明日も休みという最高の曜日だ。

 多くの学生は、友達と遊びに行ったり、彼女彼氏とデートしたりし、休みを満喫しているころだろうか。

 友達もおらず、先日振られてしまい彼女もいない俺の休日といえば、家の中でゴロゴロとしているだけだった。

 椎名さんと付き合っていた休日は、デートのためにワックスの練習や、サイトで服の着こなし検索などをしていたが、今ではする意味もない。ちなみに、実践するデートの機会もなかった……。

 途中だったゲームをやり、積んでいた本を読み、スマホでSNSを見る。俺が休みの日にしていることなんて半分以上がこれだ。

 とはいえ、俺も高校生になったことだし、いつもとは違う休日の過ごし方を模索してみてもいいのではないだろうか。いつまでも中学生と同じだねとか思われたくないしな。

 思い立ったが吉日。俺は親が契約しているサブスクで普段は見ない海外映画でも見ようかと、スマホを手に取る。すると、タイミングよくピロンとチャットが画面に表示された。

 なんの割引クーポンが送られてきたのかと思ったが、差出人は恋伊瑞。


『明日暇?』


 短い文章。

 しかし、メデューサに睨まれたように体が硬直してしまった。

 どう返信しようかなんて考えている訳ではない。今日の予定が何も無いように、明日の予定なんて何もない。ぶっちゃけ暇である。

 俺が既読を付けずに画面を眺めている理由は、ほら、恥ずかしいじゃん。

 送られてきたチャットに秒で既読付けて返信なんかしたら、「こいつずっとチャット画面開いてたのか?」とか思われるかもじゃん。

 自意識過剰なのは重々承知だが、気になるものは気になるのだ。

 ということで、きっかり一分の時間を空けて返信をした。


『暇だけど、何かあるのか?』


 あれ? よく見たらこれ、ぴったり一分後に返信してる方が恥ずかしくないか?

 などと考えていると、恋伊瑞の返信は数秒後に返ってくる。


『明日、二人で出かけない?』


 俺のどうでもいい自問自答は、一瞬にして忘れ去られた。

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