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第三十六話 花火の中に


「いやー食べたなー。流石に満腹」

「だな」


 バーベキュウの後片付けをしながら斎藤とそんなことを言い合う。

 肉や野菜だけでなく、マシュマロやカステラ等の変わり種まで綺麗に食べ切ったのでクーラーボックスの中は空っぽになっていた。

 七人とはいえ女子五人だし多いかなと思っていたのだが、無用な心配だったようだ。


「それ燃えないやつでしょ、こっちに頂戴」

「さんきゅーな」


 不燃ゴミの回収係を担当している恋伊瑞は、そう言ってポイポイと袋へゴミを投げ入れていく。

 

「てかあんた、霞に何かした?」

「いや何もしてないけど、どうかしたのか?」

「ほらあれ。ずっとあんな感じなのよね」


 指をさされた方向へ視線を向けると、椅子に座って呆けている白波さん。

 それを杏奈さんがグラグラ揺らしていた。

 何やってるんだあの人達は。


「てか白波さんも心配だけど、お前は夜大丈夫なのか?」

「なにが?」

「いや椎名さんと同じ部屋割りだろ。気まずいんじゃないのか?」

「あー、そのこと。まぁいいわよ。ここで部屋変えたら逃げたみたいになる気がするし。絶対向こうもそう思ってるしね」


 なんで一夜でここまで仲が悪くなるのか。

 バイト中も一切口きいてなかったからな。それなのに仕事はスムーズだったのが不思議でならないけど。


 一通り片付けも終わると、白波さんも復活していた。コップに注がれたお茶を一気に胃へ流し込んでいる。

 そんな様子からもう大丈夫だと判断したのか介抱から離れた杏奈さんは、別荘の中に走り大きな袋を持って戻て来た。


「やることも済んだし、やっぱり最後はこれでしょ!」


 袋の中には花火セット。それを掲げると一同反対の色は見せなかった。

 

「だったら浜辺でやらないか? 雰囲気出ると思うし!」


 という斎藤の提案で、浜辺まで移動した俺たち。

 バケツに水を入れ、チャッカマンで蠟燭に明かりを灯す。

 そして各自好きな花火を手に、順番に蠟燭で火を付けていく。


「おー! 写真撮ろ写真!」


 七色の火花が美しい光景を咲かせた。

 女性陣は集まって器用に写真撮影を始める。その写真、画像で見れば綺麗なんだろうけどさ。画面外では恋伊瑞と椎名さんが睨み合ってるからね。


「男子も来てって。早くここに火向けて」


 言われるがままに行動をし、これぞ青春みたいな写真の一部になる。

 思い返してみれば、みんな事あるごとに写真を撮っていた気がするな。斎藤とかも部屋からの景色とか撮ってたし。


「相馬君どしたのー?」


 もうすっかり回復したらしい白波さんは、ゆったりと火花を散らす花火を持って隣に来た。


「そういえば俺、この旅行で全然写真とか撮ってないなって」

「確かに相馬君がそういうことしてるの見てないかも」


 陽キャはこうやって思い出を増やしていくのか。

 くそ、俺にもうちょっと遊び慣れがありさえすれば後悔なんてしなかったのに。


「……じゃあさ。ほらこっち見て」

「え? これって」

「はいチーズ」


 パシャリ。

 急に肩を寄せてきた白波さんは、内カメにしたスマホで写真を撮った。

 俺とのツーショットを。

 そしてフォルダから写真を拡大すると、それを見せながら。


「ほら。思い出できたね」


 ……その写真貰えるのかな。


「まぁ多分、旅行の後にグループで写真共有すると思うし、そう悲観しなくてもいいと思うよ」

「あ、そうなんだ」

「でもこの写真は相馬君とだけ共有するからね」

「……ありがとうございます」

「どういたしまして」


 心の中でガッツポーズを決める。


「見てあれ。杏奈めっちゃ楽しんでる」


 杏奈さんは、花火を二本持ちにして子供のように笑う。

 その横では森川さんも花火を持ってゆっくりと動いていた。


「森川さんはあれ何やってるんだろう。ダンス?」

「あれは花火文字だねー。インスタ用かな」

「見たことあるようなないような」


 映えを撮るのも大変なんだなー。取り直ししてるし。

 杏奈さんまでやり始めてるし。

 

「ちょっと霞も手伝ってよ! 杏奈こだわり強くて」

「えー」

「ほら早く!」

「もー」


 杏奈さんの動画撮影を手伝わされてた恋伊瑞は、ついに一人では無理だと悟り白波さんを連行する。

 すげー、杏奈さん三本持って踊ってる。あれ完成したらどうなるんだ。

 てか斎藤も手伝ってるのか。海から水しぶきを上げ、エモい演出をしている。影の主役はお前だよ斎藤。


 しだいに手持ち花火がなくなってくると、設置型の花火に移行する。

 ちなみに設置型に火をつける役割は森川さんが挙手したので全て彼女に任せているのだが、着火するたびに嗜虐的な笑みを浮かべるのは勘違いだと信じたい。


 そんなこんなで、結構な量のあった花火は瞬く間に消費されていき。


「ついにこれの出番か」


 俺は期待と不安が入り混じった声で呟く。

 目の前にあるのは他の花火とは比にならない大きさの設置型花火。それはもはやただの筒だった。


「本当にそれ家庭用のやつなの? どくろマークとかあるけど」

「まぁ片手で持てる程度だし平気でしょ」


 その筒を安定した場所に設置をし、少し距離を開けて集まる。


「じゃあ行くよ~!」


 身震いするような表情で導火線に火を付けた森川さんは、小走りしながら俺たちの元へ。

 緊張しながらも、その瞬間を待つ。

 そしてついに炎が筒にまで辿りつくと――


 ひゅるるるる、ぽん!


 甲高い効果音とともに大きな一輪の花を咲かせた。


「……え。これだけ?」


 そう思った刹那。


 ぱんぱんぱんぱんぱん!

 

 心地のいいリズム音と共に、連続して小さい打ち上げ花火が夜空に上がった。


「お〜」

「一発限りじゃなかったんだね」


 シュワワーーーー!


 打ち上げ花火が終わると、今度こそ最後の力だと言わんばかりに虹色の炎が柱のように噴き出す。

 その明かりに全員の顔が照らされ、この光景を脳裏に刻んでいるのが分かる。


「綺麗。ね、相――」

「綺麗だね相馬君!」


 花火にも負けない笑顔を向ける椎名さん。


「そうだね」


 つい花火よりも彼女に惚れてしまう。

 俺はあまり意識しないようにし、頭を張って雑念を消す。

 そして心を落ち着かせた後、逆方向へ顔を向けた。


「恋伊瑞、今何か言ったか?」

「……別に」

「? そうか」


 呼ばれたような気がしたが勘違いだったらしい。

 でも何故だろうか。

 恋伊瑞の表情がどこか悲しそうだったのは。

お読み頂きありがとうございます。


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