第二十一話 服を買いに②
「どうしたの? 早く入るわよ」
「お、おう……」
腹も膨れエネルギー補充をした俺たちは今、恋伊瑞オススメの店前にいる。
いかにも若者向けといった印象の通り客層も若く賑やかだった。あとみんなオシャレ。インスタでよく見るようなイマドキの男女ばかりだ。
そんな客層の中で絶対に浮く俺を、そんな客層の中でも視線を集めてしまう美少女が待っている。
「じゃあ行くかぁ」
「だからそう言ってるじゃない」
勇気を出して店内へ。恋伊瑞の後ろをトコトコ付いて行く。
見渡す限り服、服、服。なるほど、確かにこの量は近場のショッピングモールにはないな。
などと考えながら視線を戻すと、前を歩いていたはずの恋伊瑞が消えた。
キョロキョロと周囲を探してみるが姿はない。え、迷子? 高校生にもなって俺迷子になったの?
「どうされました〜?」
すると店員に声をかけられた。
「え、あ。ごめんなさい……」
条件反射で謝ってしまう。恋伊瑞がここの店員は話しかけてこないって言ってたのに!
店員は満面の笑みを浮かべてはいるが、俺にはわかる。この人は俺のことを危険人物でないか疑っているのだ。
いやでも待ってよ! 確かに男一人でいる客は少ないけど、いなくはないでしょ! これ差別じゃないですか!?
「あんた、何やらかしたのよ……」
「や、やってない。てか何かやらかした前提で進めないでくれ……」
「あ、お連れ様がいらっしゃったんですね。失礼しました〜」
恋伊瑞が来ると、店員はそそくさと離れてゆく。俺ってそんなに不審者っぽいのかよ……。
「はぁ、まったく。それよりもはいこれ。試着してきて」
そのカゴには複数の洋服が入れられていた。
なるほど、急にいなくなったのは洋服を探しに行ってたからか。
「ありがとな」
カゴを受け取り言われるがまま試着室に入った。
上から順番に着ていけばいいそうなので、取り合えず上に乗っている上下を手に取る。てか多いな、五セットくらいあるぞ。
ぱっぱと試着するかと、ズボンに手をかけて止まる。
いや、なんかさ。薄いカーテン越しに女子がいるって思うとドキドキするのは仕方ないよね?
そんなことは置いておいて、とりあえず着替え終わったが。なんというかその、俺の勘違いじゃなければこれって……。
思うところはあるが恋伊瑞に見せなければ始まらないのでカーテンをオープン。
いざ!
「ぷ、ふふ。うんうん、似合ってる、ぷふ! 似合ってるわよ相馬! あははは!」
「お前やっぱりか」
やはりふざけられていた。
でもなんか恋伊瑞がおすすめした服だし、こういうのがセンスいいのかな、言われてみばいい感じに見えてきたかもとか思ってた俺をぶん殴りたい。
なんだよTシャツに書いてある「アイラブドック」って。西郷隆盛かよ。いや犬好きだったのか知らないけど。
「はぁー笑った!」
「それはよかったです」
「ごめんって。次のからはちゃんとしてるから、ほら早く着てきて!」
そして二着目からは恋伊瑞小和のガチ選別が始まった。
「うーん、なし。次」
「……」
「あー……なし、次」
「……」
「これもかぁー。次」
「ちょっと待ってくれ」
痛い。心が痛いよ。
しかも無表情で事実だけを言ってきてる分なお辛い。小学校の学芸会で「相馬君に出来る役は……うーんないね」って言われたのを思いだした。チクチク言葉を使わなければいいってもんじゃないんだよ。リア充諸君は覚えて帰って下さいね。
「もーなによ。ちゃんと選んであげてるのに」
選別というか最後の審判みたいな感じだったが、結果的にどうあれ恋伊瑞は俺のために真剣にやってくれていた。そこに嘘偽りはない。
「そうだよな。悪い、続けるからアドバイス頼む」
そんな恋伊瑞を心から信じて。
「ないわね。次」
新しい洋服を探しに行く恋伊瑞を、涙を浮かべながら見送った。
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