おまけ ラーメンを食べる
体育祭も終わり、あと少しで試験が来る今日この頃。
友達のいないボッチにとって、休み時間というのは休める時間ではないと思う。
つねに集団で群れていなければ死んでしまう高校生からしてみれば、一人で学校生活を謳歌するなんて考えられないだろう。
故にボッチは異端者として見られ、一方的にカースト底辺だと決定付けられる。
「あの人いつも一人でいて可哀そう」なんて陰で言われた日には、ダッシュで家に帰りベッドに包まって脳内デスノートに名前を書き込むまである。……あれは辛かったなぁ。
そんな独善的なことを思われないためにも、休み時間の過ごし方には創意工夫が必要なのだ。
そして高校生になった今スマホを弄ることが出来るため、一人で過ごせる難易度がだいぶ下がった。
いやもうほんとに中学はキツかったよ。中学校はボッチ限定でスマホ持参を許可をしてほしい。
そんな訳で、スマホでSNSを見ながら俺忙しいんで暇じゃないんでアピールを実行する。
インスタを開く気力は無かったのでXを開きスクロールしていくと。
「そろそろ誘わなきゃなぁ」
ラーメンの映った画像を見ながら呟く。
体育祭で無理な協力をしてくれた斎藤との約束がまだ果たされていないのだ。
さすがに夏休み前までにはお礼をしておきたい。
「大丈夫か湊? そんなにスマホ睨んで」
いつの間にか目の前に現れた斎藤と目が合う。思わずバトルが始まりそうだったが、手持ちモンスターがいなくて助かった。
俺とは違い友達の多い斎藤にとって、一対一で会話をできる時間は結構限られている。授業中以外はほぼ席にいないからね、この人。
なので誘うなら今だ。
「あー、放課後暇?」
「ひまひま。どっか行く?」
何この人怖い。
こんなナチュラルに誘うことできるの? てか逆に俺が誘われてるし。これが逆ナンですか?
「ラーメン奢る約束、今日はどうかなって」
「おーマジか。じゃあご馳走になろうかな。サンキュー」
「お礼言わなきゃいけないのは俺だしな」
凄いトントン拍子で放課後の予定ができた。
なにはともあれ予定を組めたことに安心した後、そこで俺はもう一人の存在を思い出す。
「そうだ。もう一人誘いたいんだけどいいか?」
「いいぞ。まぁ湊が誘える相手は一人しか思い浮かばないけどな」
「お前も意外とズバズバ言ってくるよな……」
斎藤の言葉に若干傷つきながらも、おそらく想像通りの人物へチャットを飛ばす。
すると了承を得られたので、学校終わりにそのままラーメン屋へ向かうことになった。
学校帰りにラーメンを食べる。この文字列だけでテンションが上がって、午後の授業に身が入らなかったのは許してほしい。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「そういえば俺、湊に謝らなきゃいけないことあるんだった」
「なんだよ突然」
駅前で残りの一人を待ちながら、思い出したように斎藤が口を開いた。
「体育祭で俺と湊が悪巧みしただろ? あれ恋伊瑞さんにバラしちゃったんだよな。俺たち二人が体育祭前から話してるの見てたらしくてきずいたらしい」
「そのことか、いいよ別に。てか斎藤が謝ることじゃないし」
「そう言ってくれると助かるよ」
そんなことを話していると。
「待たせてごめんね」
「平気平気」
話題の中心人物であり、待っていた残りの一人。恋伊瑞が短いスカートを揺らしながら、小走りで到着する。
うーむ、結構揺れてるのに何故見えないのかは一生の謎ですね。
「そういえば湊、店は決まってるのか? もしあれなら俺が近くの店探すけど」
「前から思ってたけど斎藤は俺のこと子供か何かだと思ってるよな? さすがに店は決めてあるよ」
たまに斎藤の優しさが辛い。
そのまま俺を先頭として西口から路地裏を抜けた先にある目的地へと到着した。
「ねぇ私どこ行くのか聞いてないんだけど、まさかここ?」
硝子越しに見える店内を指さしながらそう聞いてくる。
店の前にはこれでもかというくらい大きく『家系ラーメン』と書いてある看板が置かれていた。
「そうだけど……。嫌だったか?」
「嫌ではないけど、私外でラーメンとか食べたことないんだけど」
「え、マジで?」
「マジだけど」
えぇ、そんなことあるの?
確かに女子では行きにくい店だとは思うが、一回もないなんて。
前にスタバで恋伊瑞に引かれたけど、こんな気持ちだったのか。
「まぁ中入ろうぜ。恋伊瑞さんも意外とハマるかもしれないし」
「ハマるかはわかんないけど、そうね。せっかく来たし」
斎藤のリードもあり、取り合えず店内へ入る。
「恋伊瑞ちょっと待って。先にここで食券を買うんだよ」
「あ、そうなの? 先に言っといてよ」
「悪い。あと、今日は俺が奢るから食べたいやつ選んでくれ」
「何かっこつけてんの? いいわよ自分で払いうから」
「俺お前に最悪な事しちゃったし、それにほら。前にスタバ奢る約束してたのに、結局それも出来なかったからさ。だからここは奢らせてくれ」
それでも納得いかないのか「でも」と呟く恋伊瑞。
「恋伊瑞さん、ここは奢られてあげなよ。湊にかっこつけさせてあげようぜ?」
斎藤のその一言が効いたのか、彼女は俺をチラ見すると。
「じゃあ今日はご馳走になるわ。ありがと」
「こちらこそ。じゃあ好きなの選んでくれ。餃子も付けるから」
「じゃあ俺はネギラーメン」
「はいよ。恋伊瑞は?」
「て言われてもねー。あんたは何にするの?」
「俺は味玉かな」
「じゃあ私もそれ」
「了解」
それぞれのラーメンと餃子を買うと、カウンターが開いていたのでそこに腰を下ろす。
俺の隣に斎藤、そして俺の隣に恋伊瑞が続けて席に着いた。え、俺真ん中なの?
「しゃせー! どうしましょうか!」
「俺は固め、濃いめ、多いで!」
「俺もそれでお願いします」
「かた? は?」
斎藤に続いて俺も注文をすると、残された恋伊瑞だけが眉を歪めていた。
「麺の硬さと味の濃さと油の量を選べるんだよ。この人のは全部普通でお願いします」
「かしまりましたー! 少々まちくださいませー!」
熱気の入った店員が厨房へと消えると。
「慣れてるわね、あんた」
「まぁたまに一人で来るしな」
「へぇ……」
料理店に詳しい男子は好感度が高いらしいが、恋伊瑞的には別にプラスではなかったらしい。てゆうか若干引いてる気がする。ラーメン好きなんだからしょうがないじゃん……。
しばらくすると、それぞれの目の前にラーメンが置かれていく。
ふわっと広がる湯気から胃をくすぐる匂いが宙を舞う。
「……ちょっと相馬。これ何カロリーあるのよ」
「ラーメン食べるときに気にするな」
「想像よりも油が――」
「いただきます」
恋伊瑞を無視して静かに唱えると、箸とレンゲを手に取りスープを一口。強い塩気を楽しんだ後は、一心不乱にカロリーの塊を流し込む。
店内唯一の女性客である恋伊瑞は、怒涛の勢いで麺を啜る俺をまたもや引き気味に見つめていたが、覚悟を決めたのかスープを一口飲む。
すると一瞬静止。そこから彼女の箸が止まることは無かった。
「ごめん相馬。餃子食べきれない」
「いいよ無理すんなって」
ラーメンを綺麗に食べきった恋伊瑞だったが、さすがに五個入り餃子はキャパオーバーだったようだ。
「残り三個食べて」
「え」
「なによ、あんたもお腹いっぱいなの?」
「いや、それくらいなら入るけど」
不思議そうに見つめてくる。
いやお前、普段は恋愛脳のくせに何とも思わないのかよ。確かに飲み物とかに比べれば難易度低いけど!
しかしここで変にキョドってもキモイだけなので、冷静に冷静に。
「もっとゆっくり食べなさいよ、早食いじゃないんだから」
一気に胃へ流し込んでしまった。ごめんなさい、三個の餃子だけ全然味がわからなかったです……。
「サンキューな湊! うまかったよ」
「うん、美味しかったわ。その、ありがと」
「こちらこそ」
喜んでもらえたのなら良かった。俺も二人へのお礼とお詫びが出来て良かったし、やっぱりラーメンは人を幸せにするのかもしれない。
うん、やっぱりラーメンが最強だわ。
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