第十六話 勉強会。勉強会?
学生たるもの勉学に励むべし。
よく友達同志で、やれ集まって勉強会だの、通話しながら勉強だのとすることがあるが、それで身のある勉強になるのかと疑問に思うことがある。
絶対にならないとは言えないが、ほとんどの学生は集まることが目的になってしまっているのではないだろうか。
友達といると、ついつい無駄話をしたくなるし、遊びたくなってしまう。正直、これは学生なら仕方のないことだろう。
だから俺は思うのだ。
勉強は一人でした方が効率がいいと!
「ねぇ、相馬君って成績良いの?」
サイゼで女子三人、男子二人で並び合って座ると、白波さんがそんなことを聞いてきた。
「通知表まだ貰ってないからわかんないけど、中間テストは悪くなかったよ」
「勉強できるんだね。意外」
「意外って……。これでも中学の時は学年三十位にはいたんだぞ」
「トップ層じゃないのが相馬君らしいね」
「友達いなくて勉強しかやることなかっただけでしょ、相馬は」
「お前ら言いたい放題だな……、でも何も言い返せねぇ……」
白波さんに乗っかる形で恋伊瑞にも追撃を喰らう。
べ、別に友達いなくて勉強会アンチになってるわけじゃないんだからね!
いやでも実際、マジで勉強しかすることなかったからなぁ。あとは本読むくらい。スマホ持って行けなかったしね。
ボッチになれば成績上がる。夏期講習のチラシに書いて欲しい。
「ねぇ。なんであんた霞と普通に喋れてるの?」
「どういう疑問だよ……。俺だって普通に喋るよそりゃ……」
そんなにおかしいですかね。俺が普通に人と話すのは。
「いやそうじゃなくて。オドオドしたり、あからさまに目逸らしたりしてないから。うーん、やっぱりおかしいわね」
「え、待って。普段の俺ってそんなことになってんの?」
「うん」
「なってたねー」
「なってたな」
「マジかよ……」
斉藤まで肯定してるし。
もしかして椎名さんの目にもそう映ってたのか? もしそれが原因で振られたのだとしたら三日は寝込む自信あるぞ。
現実逃避をするように、ドリンクバーから取ってきたメロンソーダを流し込む。
「そんなことより!」
俺の人生を揺るがす事態をそんなこと呼ばわりしながら、杏奈さんがグラスを置いた。
そして、カエルを狩る蛇のような眼差しで俺を見る。
「小和と霞は普通にしてるけど、ウチはまだ許してないから!」
カエルである俺は、岩の影へ隠れたい感情を寸前のとろこで堪える。
悪いのは俺だ。友達を傷つけられて怒るのは当然だし、それだけのことを俺はした。
まずは謝罪だ。そう思って、頭を下げようとすると。
「杏奈、私はもう気にしてないから」
実際に恋伊瑞からその言葉を聞くと救われた気持ちになってしまった。
しかしそれで終わるのならば、杏奈さんは怒ったりしていないはずだ。
「それでもウチは納得できないから!」
「杏奈……」
「小和もそんな簡単に許しちゃダメだよ! こいつは小和が処女だって全校生徒の前で暴露したんだよ!?」
「うん、杏奈?」
「全校生徒に小和が処女だって知られちゃったんだよ!?」
「うん。落ち着いて杏奈」
「いくら本当に小和が処女だからって――」
「ちょっと黙りなさい杏奈!」
もしかしてこの人は天然なのだろうか。
押さえ込まれた杏奈さんだが、まだ言い足りないのかムグムグと口を動かしている。
「そんな怒ることでもないと思うけどなー、わたしは」
そんなことをしている友達二人に目もくれず、もう一人のダウナー系ギャルはまったりとした口調でそう言った。
今度は猫を見るような目を向けられる。
「小和の失恋話聞けたし、相馬君も面白かったしね」
いや違う。これ遊べる玩具を手に入れた目だ。
「それと、この歳でヴァージンって全然おかしくないと思うよ?」
「もうやだこの二人!」
顔を真っ赤にして机に伏せてしまった恋伊瑞。哀れなり。
ただまぁ、からかってはいるが、白波さんが友達を大切にしていることは知っている。
恋伊瑞から話してくれた事に一番喜んだのは彼女の方かもしれないな。
しかし恋伊瑞と白波さんには庇って貰えたが、それに甘えることは流石に出来ない。
「ごめん杏奈さん、白波さん。友達を傷つけた。罪滅ぼしになるかわからないけど、俺にできることなら何でもやる。本当にごめん」
頭を深く下げる。
俺にできる精一杯の誠意を見せたつもりだ。
知り合いにこんな姿みせるのは正直恥ずかしいが、これも含めて罰だと思う。
そんな覚悟を決めて発した言葉に返って来たのは。
「ぷ……、あははは! やっぱり湊面白いわ! 現実でそんなこと言う奴いるのかよ!」
予想外に斎藤の笑い声だった。
結構な覚悟を決めて言ったセリフをそんなこと呼ばわり……。
てか、え? 俺の謝罪って普通じゃないの?
確認するように女子三人に目をやると。
「あんた……。はぁ」
「てかなんでウチだけ名前呼び?」
一方は呆れてため息、もう一方は別のことが引っかかったようだ。
そして残りの白波さんは、肩をぷるぷる震わして笑いを堪えるのに必死らしい。
「ふぅ……。まぁ相馬君がそこまで言うなら、杏奈のあれ手伝ってもらえば?」
笑いきったのか、ドリンクを飲むや否やよくわからない提案をしてきた。
「えー、確かに人手欲しいとは言ってたけど」
「じゃあ丁度いいじゃん。貴重な男手だよ?」
「男だから悩んでんだけど……。小和はいいん?」
そう聞かれた恋伊瑞は伏せていた顔を上げ、こっちを見てくる。
その視線から逃げることは出来ず、数秒凝視された後。
「ん。私はいいわよ。なんでもやるって言ってたしね」
「……まぁ二人がいいならいっか」
「ちょっと待ってくれ。話が見えないんだけど……」
唐突に女子三人でトントン拍子に話が纏っていく過程に若干の恐怖を覚えつつ待ったをかけた。
「ウチの親戚、夏になると海の家やるんだよ。そこに毎年私達三人でバイトしに行ってるのね」
「で、そこに相馬君も来てもらおうって話。毎年なんだかんだで人少ないって思うからねー」
「あ、そーゆうね」
思ったより優しくて安心した。
しかしバイトか。今までそんな経験ない上に、海の家とかいうパリピの巣窟みたいな場所はやっぱり不安がある。
そんな不安が伝わったのか、恋伊瑞が諭すように。
「そんなに気張んなくても平気よ。旅行兼バイトみたいなもんだから」
「あぁそうか。じゃあ安心……ってえ? 旅行?」
「そうそう。言ってなかったけど、二泊三日だよ相馬君。言い忘れてたなー」
わざとらしく「うっかりうっかり」と頭をコタンと叩く白波さん。絶対わざとだ……。
「てかこいつが来るんなら斎藤も来ない? 男一人じゃ肩身狭いだろうし。バイト代もちゃんと出るよ」
え、もしかして杏奈さんって優しい?
何でもすると言った手前俺に拒否権はなかったのだが、女子三人と泊まり旅行なんて身が持たないことは分かりきっていた。
「いいの? じゃあ行こうかな。楽しそうだし!」
「おっけ」
楽しそうって理由で女子と旅行する決断出来るのはなんなの? 勇者なの?
「よし。じゃあ諸々の詳しい予定は今度話すとして、もう遅いし勉強会は終わろうか。連絡先だけ交換しとこ」
その後、連絡先を交換し帰路に着く。
スマホに追加された新しい三人の連絡先を眺めながら、ぼんやりと今日のことを思い返した。
やっぱり勉強しなかったなぁ……。
お読み頂きありがとうございます。
星での評価やブックマークをして頂けると執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。




