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第十四話 体育祭を終えて


『これにて体育祭を終わります。みなさん――』


 閉会式の音は、いつもの寂れたベンチまで聞こえてくる。

 あの最悪なインタビューの後、保健室で目を覚ました俺は、のうのうとクラス待機所に戻ることなんて出来ずにここへ辿り着いた。

 中学では体育祭や文化祭なんて図書室で時間を潰して過ぎるのを待っていた俺だが、なんだこうして考えてみると進化したんじゃないだろうか。

 無理やり個人競技に出場し、反則をして一位を取り、インタビューで女子の秘密を大暴露する。

 うん、退化だこれ。一生恨まれても文句言えないレベル。

 来週学校行きたくないなー。さすがにイジメとかはないと思うけど、いない者扱いは全然ありえるよなー。

 まぁ話す相手いないから通常通りか……。


「やっぱりここにいた」


 自問自答で自傷ダメージを負っていた俺に声をかけたのは、物理ダメージを与えてきた恋伊瑞だった。


「怪我してるんだから大人しく保健室にいなさいよね」

「保健室の先生に白い目で見られる恐怖を知らないだろお前。めっちゃ怖かった……」


 目覚めた直後に「面白半分でああいうこと言っちゃダメよ」と言われた時は凍死しそうになった。


「自業自得でしょ!」

「仰る通りです……」

「本当よまったく」


 呆れ顔を浮かべながらも、俺の隣へ腰を下す。

 校庭の方からはワイワイキャーキャー聞こえてくるので、まだ閉会式の真っ只中なのだろう。


「赤組負けたわよ。私とあんたが一位になったから結構良い線行ったんだけどね」

「運動部員は悔しがってそうだな」


 あと杏奈さんな。こういう行事は絶対燃えるタイプでしょ。


「てか閉会式出なくていいのか? あの二人とか待ってそうだけど」

「誰かさんのせいで質問責めにあったから逃げてきたわ」

「……ごめんなさい」

「まぁ、いつか二人にも話さなきゃとは思ってたしね。逆に話しやすくなったわ」


 なるほど。深い仲だからこそ言いづらいこともある。

 仲が良いからこその面倒くささもあるだろうし、すれ違いだってあるはずだ。でもきっと、それを全部ひっくるめても一緒にいて楽しいと感じてしまうのが親友なのだろう。

 そんな関係を羨ましいと思いつつ。


「斎藤君から聞いたわよ。沢山ズルいことしたらしいわね」

「え!? マジかよ……」


 確かに斎藤の口を封じてはいなかったが、よりにもよって一番知られなくない奴に知られてしまったようだ。

 ただ俺がなんでそんなことをしたのかまでは斎藤にも教えていないので、そこは不幸中の幸いか。

 偉いぞ過去の俺。佐久間にムカついたとかいうダサい理由だったから言えなかっただけだけど。


「そんなに一位になりたかったの?」

「まぁな。高校に入って初めての体育祭だったし」


 うっすらと聞こえる閉会式の音の方へ顔を向けながら答える。


「なによそれ。らしくなさすぎるでしょ」

「俺だって一度くらい目立ってみたいと思っちゃったんだよ」


 思えばここで恋伊瑞と話すのはあの日以来だ。

 泣かせてしまったあの時と同じように、今だって彼女の顔は見えていない。

 隣に座っているはずなのに、振り向けば見える距離なのに、そうすることが躊躇われてしまう。


「それでテンパって、酷いこと言った。本当にごめん」

「……謝るならこっち見て言いなさいよ」


 それなのに、俺の意中を知ってから知らずか、暴君にも思える優しい言葉をかけてくれた。

 ゆっくりと振り返ると、当たり前だが恋伊瑞小和がいる。

 初めて出会った時のように、ぶすっとした表情で、しかし涙はないその顔と向き合う。


「ん」


 早くしろと言いたげな仏頂面に逆らうことなんて出来ず、俺は頭を下げる。


「ごめんなさい。大勢の前で傷付けた」

「本当よ。馬鹿」

「あぁなんでも言ってくれ。これで許されるなんて思ってないけど、ちゃんと受け入れるから」

「馬鹿! 変態! スケベ野郎! あとはそうね……」


 そして、数秒沈黙したのちに。


「……ありがと」


 その言葉に勢いよく顔を上げてしまった。

 空は徐々にオレンジ色へ変わっていっており、人々を暖かい色に染め上げていく。

 だから、恋伊瑞の頬が赤らんで見えるのもきっと夕日のせいなのだろう。

 恋伊瑞が何を思っているのかなんて、このベンチで出会っただけの俺には検討がつかない。

 それでも俺は、そんな彼女に苦笑しながら。


「おう」


 そう短く返した。

お読み頂きありがとうございます。


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