第十話 体育祭①
校庭に整列すると気持ちのいい風が吹く。
快晴に恵まれ、気温も心地よい。まさに運動日和というやつだろう。
俺は赤色の鉢巻きをポケットから出すと、周囲を見渡してみる。
赤か白の鉢巻きをそれぞれが額に巻き、首や肩にかけ、リボンのようにして可愛くしている女子もいる。マジであれどうやってるの?
これから始まる青春イベントにやる気が満ちて目を輝かせている者もいれば、俺やる気ないですよアピールしている奴もいる。そういう奴に限って鉢巻をしっかり巻いているものだ。
開会式とはいえど並んでいるだけの俺たちには特にやることもなく談笑していることが多いが、悲しいことに談笑する相手のいない俺は女子の体操服姿を眺めるくらいしかやることがない。てか椎名さんが可愛い。
恋伊瑞はコレじゃない感がすごいな。私服を知っているぶん違和感が凄いが、こう見ると逆に似合ってるんじゃないかと思ってしまうのが不思議だ。白波さんは……なんというか、マニアックですね……。
そんなこんなで校長先生の何も頭に入ってこない話を聞いた後、学年代表の選手宣誓が終わると。
『それでは体育祭を開始します。皆さん楽しんでいきましょう』
そんな放送と共に開会式が終わり、体育祭が始まった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
我が校の体育祭はクラスごとで赤組白組に分かれる。
開会式が終わり、競技が始まると赤組も白組もサッカーワールドカップ並みの盛り上がりを見せていた。
学年も名前も知らない出場選手達を同じ色というだけで応援し、勝っても負けても笑顔が絶えない様はまさに青春極まれり。
しかしお昼を過ぎた辺りからその盛り上がりは停滞していった。もっと言うと赤組が盛り下がっていった。
理由は単純でホワイトボードに大きく書かれた『赤組140点 白組200点』の文字。
要は、覆すのが難しい点差を付けられてテンションが下がったのだ。
勝つことが全てじゃなく皆んなで楽しめればそれでいいとは言うが、やはり勝てるのなら勝ちたいのだろう。運動部員の人達とかちょっとイライラしてるし……。
しかし、「玉入れ」で合計二個しか入れられなかった俺が言うのもなんだが、赤組が弱いわけではない。
「佐久間さっきの玉入れ何個入れたん?」
「数えてないよそんなの」
「あ、俺数えてたよ! 三十七個入れてた!」
「そんなことする暇あったなら玉入れに集中しろよ!」
赤組の待機スペースの後ろを、そんな会話しながら通らないで下さい……。
繰り返し言うが赤組が弱いわけではない。
白組の得点王、佐久間光輝がバランスを崩しているのだ。
佐久間が出る種目はとことん持っていかれ、いつのまにか点差が開いてしまった。
これに女子のハートは撃ち抜かれ、男子の心が撃ち抜かれる。なんだよあいつ主人公かよ。
しかもこの後「一年対抗リレー」にも出るらしいので、赤組の勝ちはほぼ無くなったと思っていいだろう。
『続いての競技は一年女子百メートル走です。選手の皆さんは整列して下さい』
アナウンスが流れると、スタート地点に選手が並び出した。
その中には恋伊瑞の姿もある。
「「小和ー! がんばれー!」」
「「恋伊瑞さんファイトー!」」
クラスの女子に続いて男子も声を出し、たった一人を応援していた。
しばらくするとオンユアマークスで場が静まり返り、セットで皆が一様に息を呑んだ。
そして、パァンという音が響き渡る。
「はやっ」
その走りを見てつい言葉が漏れ出る。
恋伊瑞の走りは圧倒的で、百メートルなのにもかかわらず後ろと大差をつけてゴールテープを切った。
運動神経が良いことは知っていたが運動部も混じってる中でこれは驚いた。友達の杏奈さん(苗字がわからない)とか感動で泣いてるし……。
見事に一位を獲得した恋伊瑞はやけに豪華な台座へ上がりインタビューを受けている。
「速かったなー、てか可愛くね? 一年だよな」
「あー、たしか恋伊瑞とかいう子だよ。でもめちゃビッチらしいぜ」
「マジかよ。まぁ言われてみればそんな感じするな」
二年だと思われる二人組がそんなことを話しながら前を通過した。
幸いなことに、白波さん達がいる場所までは聞こえなかったみたいなのでそれは良かった。あの二人の耳に入ったら絶対殺されてましたよ先輩方……。
「小和ー! マジで速かったよー!」
「めちゃ頑張ったからね!」
いつのまにかインタビューも終わり、クラスの元へと帰ってきた恋伊瑞は、ギャル二人に抱きつかれている最中だ。
それを横目で見ていると、斎藤が俺の隣に座り小声で話しかけてくる。
「本当にやるんだな? 一応言われたようにしといたけど」
「急にこんなことさせて本当にごめん。マジで助かる」
「いいよ別に。まぁ何が目的か知らないけど頑張れ。お礼はラーメンでいいからな」
「任せてくれ。餃子も付ける」
そう言うと、俺は立ち上がりクラスの待機スペースを離れる。
『続いての競技は障害物競走です。選手の皆さんは整列して下さい』
「あれ? 障害物競争って斎藤じゃなかったか?」
「斎藤だったよ絶対。なんであの人が出てるん? 名前はえっと」
そんな中、一人の少女がポツリと溢す。
「何やってんのよ、あいつ」
そんな呟きは何も聞こえないまま、俺はスタートラインに立っていた。
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