第1話
「お嬢様!お逃げください!」
メイド風の若い女性がうつ伏せの状態で額から血を流しながら叫ぶ
「駄目よ!ミーナも一緒に逃げるのよ!」
少女が女性の左手を方にまわして立たせる。
「このままでは、二人とも魔物の餌食になってしまいます」
鬱蒼とした森の中にポつんと開けた場所に二人はいたが周囲からは、いくつもの視線を感じる。
「私がこのまま囮になりますので、その隙にお嬢様はお逃げください」
女性が手を振り払おうとする。
「そんなことできる訳ないじゃない!命を粗末にしないで!」
少女が女性を叱責しつつ女性の身体を支えながら一緒に逃げようと時、
「グルルルル・・・」
涎を垂らしながら近づいてきた狼のような魔物。
気が付くと周囲を囲まれ絶体絶命の危機に陥っていた。
「神様・・・」
少女が神に祈った瞬間、遠くの空から聞きなれない轟音が聞こえ、音のする方向の空を見上げると巨大な鳥に似た鉄の塊が急接近し、無数の光弾が魔物たちの身体を貫き、遠くから襲ってこよう近づく魔物に炎を吐きながら飛ぶ巨大な矢のようなものが襲いかかり、まばゆい光と共に大爆発を起こし瞬く間に魔物たちを吹き飛ばしていた。
気が付くと辺りには焦げた匂いが立ち込め、後に残ったのは少女たちに襲いかかろうとした魔物の慣れの果てだった。
「助かった・・の?」
少女が呟くと、背後から轟音と暴風を巻き起こしながら鉄の鳥が降り立ち、鳥の頭部から一人の人間が姿を現した。
そのいでたちは、物語に出てくる天空の守護者そのものだった。
さかのぼること1時間前
シベリア山脈山岳地帯某所
「現在、高度50フィート、速度マッハ0.7、標的予想位置まであと2分」
敵のレーダーから発見されるリスクを出来るだけ避けるため、山肌を限界高度ギリギリで保ちながら1機のF-117攻撃機が直進する。
目的は旧ソ連の秘密核施設の完全破壊。
まもなく標的が目視できる距離まで接近したその時、
「ビービービー」
ミサイル接近の警告音が鳴り響き、前方から4発のミサイルと無数の対空砲火が飛来してきた。
「見つかったか!」
レーダーを避けるため超低空で飛行していたため回避行動がとれない。
「仕方ない、ギリギリでかわす!」
速度を目一杯上げて対空砲火をかわし、連続した急旋回によるG(重圧)に、俺も爆弾を装備して重くなった機体(F-117)も分解寸前になりながら追尾してくるミサイルをかわし、ようやく目標を視認する。
「目標捕捉・・・投下!」
敵の秘密地下施設に2発の燃料気化爆弾を投下した。
投下された地中貫通型燃料気化爆弾は地下深くにめり込み、十数秒後に大爆発を起こし、周囲を飲み込むように巨大なクレーターが出来上がっていた。
操縦するF-117を旋回させながら目標が完全に消失したことを確認すると
「こちらAWACSスカイアイ、聞こえるか」
電子妨害兵器が消滅したため無線が回復したようだ
「スカイアイ、こちらシャドウ、目標破壊、繰り返す、目標破壊」
「了解シャドウ、衛星で確認した、ご苦労だったな」
俺はコウ=ダイアモンド=スワンプ(41)
アメリカ軍第11空軍第355戦闘飛行隊に所属する中佐だ。
生まれは日本で父親が日本人で母親がアメリカ人だが、幼いときに列車事故で両親を失い父方の身内は既にいなかったので、アメリカに住む母方の祖父母に養子として引き取られ育ってきた。
空軍士官学校を卒業して空軍に入隊、つい先日まではアメリカ国内でF-35のパイロットとして勤務していたが、急遽出撃命令が下り今ここにいる訳だ。
「それにしても、参謀本部の考えは理解できねえな」
「こんな危ない橋渡る(無謀な作戦)よりも、電子戦機で妨害しながら高高度からBuffかBearの編隊で空爆すりゃ確実なのによ」
「いくらステルスでもお役御免の機体使って攻撃だなんて、あんたに”KAMIKAZEしてこい”って言ってるようなもんだぜ」
F-117は世界で最初のステルス戦闘機としてデビューしたが、隠密攻撃に特化したせいか他の戦闘機より機動性は低くレーダーや攪乱装置はおろか、機銃すら付いてない機体だから見つかったら逃げようがない。
それでいてステルス性能を維持するための費用が馬鹿にならないから割と早く退役させられた機体なんだが、何機かはモスボール(梱包)されていて、パーツ取りとデータ採取以外は殆ど使われてない。
その埃の被った機体でこんな無茶な作戦を命令されるなんて、彼の言う通り“KAMIKAZEしてこい(死ね)”って言われてるようなもんだ。
「参謀本部のカスター中将の命令なんだけど、俺もよく分からないんだよ」
「FLBにはこいつと4機の無人機しか用意されていなかったし」
「カスター?あの人形みたいに無表情なやつか?」
「あの将軍っていつから参謀本部にいたのか誰も知らないんだよな・・・」
俺も基地で作戦命令を聞いたとき少し話したけど、確かに存在感が無い人形みたいな人だったな。
「まあ、あんたは“NINJA”って仇名されるくらいの凄腕だからな、差し詰め金のかかる機体でなくても作戦を成功させられると踏んで、お役御免の機体使って金を浮かせるつもりだったんじゃねえのか?」
「そうかも知れないけど、上官命令じゃどうしようもないし」
釈然としないがこれが現実ってやつだ。
「それもそうだな、おっと、航空機4機が後方から接近中、IFFは味方と表示」
AWACSのレーダーに4機の航空機が表示され識別コードはFLB所属の無人機だった。
「あとはリーパーが監視任務にあたるだろうから、シャドウは帰投してくれ」
「了解、直ちに帰投します」
さて、来た道を引き返して帰るか。
操縦桿を傾けようとした瞬間、
レーダー照射の警告灯が表示された。
「え?捕捉された!?」
慌てて操縦桿を引いて上昇する。
「ザ、ザザザー・・・無駄だよシャドウ、いや、スワンプ中佐」
誰かが無線に割り込んできた。
「その声はカスター将軍?一体どうい・・」
問いただそうとした瞬間、ミサイルアラート(警報)が鳴り響く。
あろうことかリーパーから8発のミサイルが発射された。
「撃ちやがった!?」
機体を急降下させて回避行動を取ったが、8発のミサイルは中々振り切れない。
「いくら君が、追尾してくるミサイルを機体を反転させながら機関砲で撃ち落とすような規格外の腕の持ち主でも、その機体ではどうしようもあるまい」
「それに、脱出装置が壊れている機体をわざわざ選んで君を乗せたのだから、素直に死んでくれないと困るよ」
「何故こんなことを!」
「知る必要は無いよ」
必死に回避しながら詰め寄ったものの、冷たく無慈悲な声が聞こえた瞬間、かわし切れなかったミサイルが機体に命中し、俺は意識を失った。
2030年代初旬
カルト集団が一部のテロリストと共同し武装蜂起、ウラル山脈の某所に存在すると言われている旧ソ連の秘密核施設を占拠しており、アメリカに放射能汚染爆弾を送り込む準備をしているという情報が流れてきたため、アメリカがロシアに依頼し現地を確認したところ米露両軍の最新兵器が多数配備されており、事態を重視したアメリカとロシアの首脳は合同混成軍を送り込み事態を収拾することで一致した。
標的が山岳地帯の真ん中に位置しているため、巡航ミサイルや無人機による精密誘導攻撃が最適と目論んでいた軍上層部だったが、対空兵器によって全て撃ち落とされるという無様な結果に打ちのめされた。
更に、歩兵や特殊部隊による地上からの制圧を試みてみるも、最新鋭の無人戦車まで多数投入されていて、近づくことすら出来ずにいた。
これに危機感を抱いた両軍上層部は、核兵器の次に威力のある燃料気化爆弾による破壊を決定し、パイロットの犠牲を最小限にするために、ステルス機単騎による特攻作戦を打ち出すことになった。
その貧乏くじを引かされたのが俺だが、まさかこんな目にあわされるとは・・・
「・・・う?」
誰かが話しかけてきた?
いや、空耳だろう。
これからどうなるんだろ。
「おーい!聞こえるかのう?」
「うわあ」
耳元で大きな声で叫ばれ、とっさに飛び起きた。
「ようやく目覚めたかのう」
目の前に長髪白髪で、おまけに髭まで長く真っ白な仙人みたいな老人が座り込んでいた。
「こ、ここは一体?それにあなたは誰ですか?」
まわりをきょろきょろ見渡したが何もない白一色の世界で、床には水が貼ってある。
その水には俺自身の身体が移っておらず、代わりに青白い火の玉がゆらゆらと浮かんでいるだけだ。
「ここは高次元空間といってのう、お主のいた世界で言うところの異次元とか天国とかいう場所かのう」
「そして儂はこの高次元空間を管理している者じゃが、神と崇められてもおるのう」
「え?神様?それじゃ俺は・・・」
第1話を最後までお読みいただきありがとうございます。
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