97 正気に戻ると言う事。
長い夢を見た。
今はもう顔も思い出せないけれど、気になる子が居た。
物静かで恥ずかしがり屋で、器用な子だった。
編み物をしていて、1度だけこっそり声を掛けた。
とても照れた顔が可愛かったのに、思い出せないけれど、ずっと気になっていた。
僕の誕生日に、他の子から編み物を貰った。
そして気になる子からは、貰えなかった。
だから僕はマフラーをくれた子と付き合った、その子の方が可愛いと評判だったから。
僕は振られたんだと思ったから。
なのに、僕は盗まれた物を受け取り、付き合った。
言い訳を繰り返すウチに、友達は減っていた。
そしてクラス替えが起こり、僕の事と彼女の事が広まった。
僕は言い訳をした。
高校に行っても、友達は出来無かった。
僕はあの時、歪みを放置した。
もし、あの時、恥ずかしがらずに全てを言えていたら。
いや。
もう元には戻せない。
今言えても、もう単なる言い訳にしかならない。
実は君が好きで、誕生日に何も貰えなかったから、諦めたんだ。
でもコレが君のなら、嬉しかった、付き合いたかった。
きっと今言っても、無理だと分かる。
僕はもう、こんなに歪んで落ちぶれて。
もう、生きるか死ぬかの瀬戸際だから。
『ごめんね、音一さん』
来世は傷付けない様に、真っ直ぐに生きたい。
『ネネ、今日も王がドアの前に居るが、どうする』
「殴って追い返して下さい」
『分かった』
「まっ、冗談です」
『本当に殴っても構わないんだが』
「アレとは真逆ですね、誠実で真面目で、真っ直ぐで」
『だがネネに嫌な思いをさせたのは、同じだ』
「いや、あんなの、嫌な部類にも入りませんし」
『好かれはしないだろう』
「まぁ」
『俺の何処が良いのか、聞いても良いだろうか』
「体格」
『体格』
「大きくて安心感が有る、声も良いですし、顔も良いですし。ちょっと不器用な雰囲気が逆に安心出来ると言うか、浮気しなさそうで、したら直ぐにバレそうで。と言うか、本当に王が居ますか」
『あぁ、待たせている』
「良いんですか」
『ネネの為だ、仕方無い』
日替わりで慰めて頂いて3日目の朝、アホみたいに泣き腫らした顔を、王に見せてやりました。
《酷い顔を堂々と見せるだなんて、流石だ》
「まさかこんなに泣き腫らしているとは思わず、鏡を手に訪ねに来ましたか」
《あぁ、バレたか》
「目敏くて繊細で悪かったですね」
《すまなかった、どうか治させてくれないか》
「嫌です、目に焼き付けて罪悪で落ち込め」
《元気そうだな》
「流石に3日目ですから、少しは落ち着きました」
《この2日は針の筵だった》
「ざまぁ」
《どうすれば許せる》
「まだ考えてもいなくて悪かったですね」
《いや、出直す、良く休め》
『ネネ、おいで』
初恋の人が、と言うより。
知り合いがあんなにも歪んでしまった事に、ショックを受け大泣きした。
それからやっぱり、初恋の人だから、こんなにもショックなのかと悩んで泣いた。
今日は、何だか悲しくて泣いた。
何故なのか、何でか悲しくて泣いた。
『ネネさん』
「コレは王への当て付けです、お見苦しくてすみません」
《もう、本当、良い度胸ねぇ》
「へへへ」
『殺しましょうか?』
「いえ、ご心配無く、後はどうすれば許せるかだけですから」
《はい嘘〜、相当ショックだったでしょう?》
「カイム子爵は誤魔化せませんね」
《勿論よ、さ、今はどうなのよ》
「悲しい、変わってしまってて悲しい、あんなに歪んで可哀想で、悲しい」
《本当に、優しい気持ち。でも何も出来無いのは分かるわよね、アナタには現在過去未来において、どうする事も出来無かった》
『送り返す優しさが勿体無いですけど、それがネネさんです、もし運が良ければ生まれ変われます』
《そうね、まぁ、私なら蝶からやり直させちゃうわね》
『御弔いの涙です、ココから居なくなったんですから』
《あら良い事言うじゃない、じゃんじゃん泣いておやり、お線香の変わりよ》
『あ、お香はどうですか、お線香にはなりませんか?』
《なるわよ、捧げものは全部、仏様のモノだもの》
『じゃあ良い匂いだから、ついでにくれてやります、ジャスミンだそうです』
《じゃあ私は献杯》
『はい、コレはネネさんの分です』
「ありがとう」
送り返した事で、彼は直ぐに生まれ変わる事が出来た。
だから何もネネさんが悲しむ必要は無いのに、その事を誰も言えない。
もっと悲しむから。
でも、良い事なのに、悲しむから言えない。
『次に誰かがネネさんを悲しませたら、何回でも殺してあげますね』
何処に居ようとも、絶対に見付けて殺すんだから。
『事情は軽くお伺いしました、友人のこんな顔は見たくないです』
《うん、治せないけど治してあげたくなる、痛くない?》
「心が、痛いです」
《ごめんね、心の痛みだけは無理なんだ》
『筋肉痛です、筋肉痛と同じです』
「成程」
《痛かったら痛いって言って良いんだよ》
『本心です、変態の下心からでは有りません』
「痛い、息を吸うと、まだ痛い、大した事無いのに」
《あのね、痛みは人夫々に違うんだよ》
『しかも心です、痛いは大した事です』
《あ、誰かの尿管結石の痛みを王様に与えようか》
『可能です、秘術ですが出来ます』
「凄い、羨ましい」
《あ、それか心の痛みを伝えるのも居たよね》
『はい、ですが身代わりでは有りません、同じ強さで伝えるモノです』
「でも、王様には、ちょっと可哀想かも」
《優しいなぁ》
『でも舐められてはいけません、等倍で返さなくてはいけません』
「やっぱり、そうですか」
《僕の事なら気にしないけど、そうだね》
『何をしてやりますか、くすぐりがオススメです』
「なんて妙案を出しなさる」
《ユエは凄いからね》
『はい、私は凄いです』
私の愛する相手の友人。
そして私の友人です。
痛いは可哀想です。
「はい、立ち直る迄に5日掛りました」
《弔いは初七日ですから、上々かと》
「ご心配お掛けしました」
《いえいえなんの、真っ直ぐに立ち直られる事が、何よりですから》
「彼は猫背のままに立ち上がって、成長してしまった」
《はい、でしょうね》
「あんな風に、なりたくない」
《私達が居りますから、大丈夫》
「はい、もう出会う事も無いでしょうし、来世の幸福を願います」
《はい、そう致しましょう》
「問題は、この振り上げた拳の降ろし方です。皆が皆、容易に許してはならない、と言っております」
《はい、尤もです》
「くすぐりを受けて頂きます」
《成程》
こうして、王妃様に協力頂き。
《こんな、事で、本当に良いのか》
「はい、コレから更に感度が上がりますので、死ぬ手前で許します」
『ごめんなさいね本当に、全力でくすぐらせて頂くは』
《くっ、ひっ》
こうして、王には笑い死に寸前へと至って頂く事に。
で問題は勉強です。
アレのせいで、半分しか出来て無い。
コレが1番、悔しいかも知れない。
「あ、勉強が遅れた分も延長で」
『はい、承知しました』