96 邂逅。
コチラとしては、既に試練を達成し。
更には至れた者として、試す気も、見定めの策略も組んでは居なかった。
だが、神々は彼女を気に入ったらしい。
『“音一、さん?”』
「“鈴木さん、ですか”」
『“うん、そうだよ、久し振りだね”』
「“そうですね”」
既に試練を終えた者の前に。
いや、コレは我々への試練らしい。
《スズランの、紹介を構わないだろうか》
「あ、失礼致しました、私の同郷のスズキと申します」
《どうやら顔見知りらしい》
「はい、初恋の方でした」
《そうか、では世話を》
「断固、お断り致します」
《では案内は他に任せ、詳しく教えて貰おうか》
「はい」
元恋人は予想したけれど。
まさか、あの初恋の相手と対面する事になるとは。
《それで、どうした経緯が有るのだろうか》
「同じ学舎に居り好いていましたが、私が作った編み物が盗まれ、彼に贈られていた。その贈り主と彼は親密になり、私は耐え切れず暴露し、彼を含め同じ班に居た者とは疎遠になりました」
《成程、では向こうからは何も》
「はい、全く、何も有りませんでした」
一時は他人が編んだ物を自分が編んだと錯覚、妄想したのかと混乱もしたが。
あの事件以降は、間違い無く記憶の混濁は無い。
《それで、スズランはどう動いた》
「記録と家族への報告以外は、全くしませんでした」
《その理由は何だ》
「例え間違いだとしても、加担していなくとも、恥を忍び自ら和解へ向かうべく行動せねばならない時が有る。そうした行いが出来無い者と、繋がりを保つ必要は無い、そう家族に言われ納得し実行した次第です」
《その行動に後悔は無いか》
「全く無いです」
ココに来て、改めてアレは間違いでは無かったと思った。
更に、あの態度。
《では、どうしたい》
「関わりたく無いです」
《だが、出来るなら一国民として補佐はして欲しいんだが、どうだろうか》
「対価は」
《望みは》
「特に無いです、自身で叶えます」
《では、もし協力しないのならば。スズランの真名を遊園地とやらに刻み、世界中に流布してやろう》
「何て卑劣な」
《冗談だ、ただ真価を早く問える事は、皆の利益になるとは思わないだろうか》
「思いますが関わりたくないです、絶対に」
《復讐したいとは思わないのか》
「労を掛けてまで関わる価値を」
《成程、ならアレは星屑か》
「はい、私にとっては、そうです」
《そうだな、では関わらずして見定める方法を考えるなら、敢えてコチラから関わらせる事はしないと誓おう》
「お出ししなかったら」
《どうしたワケか、スズランの世話係になってしまうかも知れない》
「捻り出してみますが、最悪は泣きながら逃げ出しますのでお覚悟を」
《あぁ、承知した》
今から逃げ出してやろうかしら。
『あ、音一さん』
アレは、ネネ様の敵。
《音一様の侍女をしております、玉響と申します、どうかお控え頂けませんでしょうか》
『やっぱり、日本の方なんですね』
《ご忠告申し上げましたよ、では、失礼致しますね》
『あの、確かに誤解が』
《“下がって頂けますか、礼儀作法に反します”》
流石カイル様、後でネネ様のお耳に入れておかないと。
《“アレだけご忠告差し上げたのに、何故でしょう”》
ネネ様の侍女、タマユラが何を言っているのかは分からないが。
大体は察しが付く。
《“アレ”は、愚かだからだろう》
どうにかしてネネ様に接触しようとし、接触が出来無いとなると今度は手紙や贈り物を贈り、送り返された事に何かを言いに来る。
一体、あの執念は何なんだ。
『きっと、自身の無能さを理解し、取り入りたいのでしょう』
「勉強が出来無い子では無かった筈なんですけどね」
何故か、物凄く粘着されている。
そのせいか、もう、謎の生き物Xにしか見えない。
若干の恐怖と嫌悪。
一体、何がしたいのか分からない。
『神童も何とやら、では』
「あー、んー」
出来るなら、SPI適性検査を受けさせたかったのに。
問題が殆ど思い出せない。
と言うか予習したり暗記するものじゃないだろう、と。
『何か案は出てらっしゃるんですか?』
「けど知識が無く」
『なら悪魔にお尋ねになっては?』
「成程」
この世界に知恵の引き出しが存在している事を、つい忘れてしまう。
案だけで知識が無くとも、良い案なら評価される事も。
《良いよ》
「ですが、対価は」
《今回は僕では無いんだ、次に君から頼られた際は、推して欲しいと言われていてね》
「どなたでしょう?」
《オロバス侯爵だよ、直ぐにココへ来る筈だ》
そうしてポティス伯爵の庭で待っていると、芦毛の馬が蹄を鳴らし天空からやって来た。
どう鳴ったんですか、蹄。
《スズランの、ご機嫌よう》
瞬きの間に人型になると、見覚えの有るアルビノ男性だった。
ユノちゃんや私に、定期的に贈り物をくれるのに、遠くで手を振るだけの方。
「数々の品をありがとうございました」
《いや、アレは君達の存在への対価だ、気にする必要は無い》
「存在するだけで、ご褒美が」
《彼が最も好むモノは、誠実さだからね》
《例え完璧では無くとも、完璧であろうとする誠実さも含む。対価は君と関わる事だ、スズランの》
悪魔程、紳士。
「あ、ですが今回は、相対するモノは不誠実かも知れませんので」
《彼の仕事は法務省、問題無いよ》
《あぁ、問題無い》
何だか、馬らしいと言うか武士と言うか。
兎に角、男気の悪魔。
「宜しくお願い致します」
僕の事を好きだった筈、何故、どうして避けるんだろう。
そう思っていたけれど、根本が違った。
彼女は、周囲によって監視され、接触を邪魔されているだけ。
僕の事を覚えていたし、あの贈り物を編んだのは彼女、しかも現に今でも目が合う。
それに、今日やっと、彼女と会う事が出来る。
『やぁ、音一さん』
「どうも鈴木さん、では先ずコチラをお受け下さい」
彼女が出したのは、SPI適性検査。
『どう言う事かな』
「コレでアナタの居場所が決まります、では」
つまりは、コレに合格すれば彼女と結婚し、僕は安泰なワケだ。
よし、頑張るしか無いよね。
『不適格って、どう言う事かな』
「結果として不適格と出ました」
『いや、何かの間違いじゃないかな?』
「いいえ、コチラがアナタの回答です」
『いや、間違いだよ、僕はココは1に丸をしたし』
「コレは本来、暗記して行う事では無いのはご存知ですか」
『勿論知ってるよ、けれど社会で生きるには』
「アナタの中に有る本当の答えが、ココには書かれるんです」
『本当の事って、確かに完璧に当て嵌まるかと聞かれると、必ずしも』
「ココに魔法が有るのは承知していますよね」
『だって異世界だしね』
「そして精霊も妖精も、悪魔も居る」
『まぁ、居るだろうとは思うけど』
「オロバス侯爵、お願い致します」
《法務省に勤めるオロバスだ、貴族位は》
『侯爵ですよね、お会いしたかったんです、始めまして鈴木です』
《あぁ、宜しく》
オロバス侯爵に触れた者は、誠実に話してしまう。
例え自覚が無かろうとも、全て、真実を話してしまう。
「昔は、勉強も運動も出来ていた、何故そうなってしまったんですか」
適性検査の紙には、オロバス侯爵の魔法が掛かっていた。
真実を書き記してしまう魔法。
そして彼の結果は。
《スズランの、少し耳を塞ぐぞ》
「はい」
そして魔法により、真実だけが聞ける事となった。
『ずっと必死に頑張っていたからね、モテる為に』
「頑張ってらっしゃったのに、何故こうなってしまったんですか」
『あの事件以来、上手くいかなくなった、全て』
「アレからどうなったんですか」
『言い訳を誰も聞いてくれなかった、俺は悪くないのに、君に謝れって五月蝿いから切ったんだ』
「その先は」
『高校に進学したけれど、勉強は常にギリギリだった、クラスメイトが助けてくれたらこんな事にはならなかったのに。中学での事を未だに言うヤツが居て、孤立したんだ』
「大学は」
『三流大学に、けど就職は壊滅状態、あのSPIのせいでね』
彼に行ったのは、性格検査。
社会関係的側面が特に問題だった、問題を回避しがちで批判的、従順性は低く自己尊重性と懐疑思考性が高い。
そして何より、決定的な問題点が有る。
「あの事件以来、アナタが嫌いになりました」
『強がらなくても良いんだよ、僕も謝るからさ、やり直そう』
極度の認知の歪み。
「ココでのSPIは、認知の歪みの検査に使われます。アナタが思い込もうとしている状態とは別に、正しい状態へ丸が記載される」
『騙した事なら許すよ、だから僕と一緒になろう、ちゃんと幸せにするよ』
「私の事を、どう思っていましたか」
『正直忘れてた、地味で目立たない子で、面倒を起こしてくれたなと思ったけど。若気の至りって有るし、僕は許すよ、どうでも良いからね』
「何故私に目をつけたんですか」
『明らかに異世界に知り合いが居たら、誰だって頼るでしょ、僕はそうしてるだけ。君には何の情も無いけど、金も地位も有りそうだし、そう言えば向こうでもそうだったから丁度良いかなと思って』
「そうですか、さようなら」
『待ってよ、ごめん、機嫌を直してよ音一さん』
「大変だったと思います、こんなに歪む位に大変だったのだろうと。でも私には何も出来無い、そしてココの者にも、さようなら」
《本当に送り返して構わないのか》
「はい、きっと向こうの薬の方が、彼には効く筈ですから」
《では、送り返そう》
向こうへ戻った彼がどうなるか、分からない。
ただ、ココに居ても誰も得をしない。
いや、居て欲しくないだけ。
存在すらして欲しくなかった。
「ありがとうございました」
《スズランが言う通り、確かに幼い頃は歪んでいなかった、アレは自業自得の毒で歪んだだけだ》
話し掛けてくれていたなら、許せていた。
そう願っていた。
同級生とも、話し掛け合い許し合い、少しずつ打ち解ける。
そう夢見ていたけど、誰も話し掛けず、腫れ物の様に扱った。
何度も何度も、自分が間違っているんじゃないかと思った、そう家族に何度も相談した。
《ネネ》
「本当に、辛かった。誰か1人でも、声を掛けてくれたら、それで良かった筈なのに」




