90 やっぱり悪魔。
はい、結局は頼る事になってしまいました。
悪魔に。
『あら、面白いじゃない、お手伝いさせて頂くわ』
「あの、どう」
『ぽっかり空いては不便が有る、気にしているのは繋ぎ目ね』
「はい」
『もう、良い子ね。先ずは今回の話し合いを全て消し、少し顔を変え、幾ばくか巻き戻って貰うわ』
「やっぱり、そうなりますよね」
『地盤固めに苦労は付き物よ、苦痛無くしては改革は成し得ない、かしらね?』
「はい、宜しくお願いします」
明らかに男性の容姿、けれど口調や声色、振る舞いは女性そのもの。
この方の名は、シャックス子爵。
本当に、既存の性癖を壊す様な方ばかりだ。
いや、勿論良い意味で。
『好きだよカイル』
まさか、2度も告白するだなんて思わなかった。
しかも同じ相手に。
《あの、何で俺なんでしょう》
前と似た反応だけれど、少し違う。
本当に、僕との事は欠片も無い。
『カイルは知らないだろうけれど、僕はカイルを見てた、良く知ってる』
《その、知っている事と俺の実態に、乖離が》
『なら確認させて、僕の好きなカイルじゃないなら、諦める』
《まぁ、はい》
『ありがとう』
嬉しかった反面、不安が有った。
僕を全く知らないカイルに、僕から見たカイルの事を言ったとて、それは僕の中のカイル。
思い出が有るからこそ、共感し共有出来る事。
《取り敢えず、侍女として来ているんですし、そこを真面目にお願いします》
『うん、勿論』
けれど、ダメだった。
身内でも何でも無い僕は、僕を知らないカイルは、僕に全く靡く事も無く。
ただただ、赤の他人のまま。
「ちょっ、ノーク君」
『ごめんなさい、甘えていたのは僕です』
カイルの中に居る僕に、僕が甘えていた。
今の僕だけでカイルを振り向かせるなんて、無理なんだ。
『さぁ、このまま、忘れたままの方が楽よ』
ノークがネネ様に泣き付いた。
それを俺は止めようとした、その瞬間、悪魔が現れた。
名も何も知らないけれど、目の前に存在する者は、悪魔だと分かった。
《何故》
『頼まれたの、真実の愛の為に』
《真実の、ノークが》
『いいえ、スズランの姫に、ふふふ』
悪魔が俺の額に指先で触れた瞬間、全てを思い出した。
記憶が欠けている間の事も、全て。
《何故、記憶を》
『近親の禁忌を防ぐのは当然の事、そしてアナタには選ぶ権利が有る、』
《俺達は》
『近親の禁忌とはならない血筋、けれどもしアナタの中に有るなら、それは防がれるべきだわ』
《やはり、俺の中に》
『いいえ、けれど言っても信じないでしょう。後はアナタ次第、さぁ、アナタはどうしたい?』
見極めたい。
そして出来る事なら、近親の禁忌は避けたい。
《なら、どうすれば》
『簡単よ、アナタが区別するだけで良い、けれど区別しなくても構わないわ。あの子も賛同しての事、こうなる事は、予測出来ていた筈なのだから』
《俺がアイツを選ばない道も》
『泣く泣く、致し方無く、ね』
《どうして、そこまで》
『それはもう分かっているでしょう、問題は、何故アナタは近親の禁忌を避けたいか』
あぁ、簡単な事だった。
けれど俺には気付けなかった、気付こうともしなかった。
《はぁ、申し訳無い》
『ふふふ、良いのよ、対価は式。じゃあね』
ネネ様が落胆した通り。
本当に、人種は劣等種だ。
『何、カイル』
《話が有ります》
「ならココでどうぞ」
『ネネ様、僕は大丈夫だから』
「弟は可愛がるもの、過保護にするものなんです、絶対に立ち会います」
《俺は馬鹿でした、不器用で馬鹿で、見ぬフリをしていました》
『カイル、思い出しちゃったんだね』
《色々と思い出し、如何に自分が不器用かも思い出しました》
『そう』
《近親だから惹かれる、そうした事を俺は認めたく無かったんです》
『うん』
《俺は、好くなら、邪心無しに相手を好きたいんです》
『うん』
《もう少し、俺に時間を下さい。俺の事が本気なら、もっと粘り強く、落としてみせて下さい》
『良いの?』
《好くのも好かれるのも、邪心無しが良いんです、でなければ諦めて下さい》
『うん、頑張るよ』
《ネネ様、ノークと俺が面倒を掛けますが、どうか宜しくお願い致します》
「うん、はい」
《では、失礼します》
そうしてカイルは部屋を出ると、再びドアをノックした。
きっと、泣き付いた僕を叱る為。
また、記憶の無いカイルに戻った。
「良いの?」
『はい、本当にカイルと想い合うには、乗り越えなければならない事ですから』
「そんなに好きですか」
『はい、とっても』
ココ数日、自ら出した案に、自らが苦しめられています。
いや、実際に苦しんでいるのはノーク君で、単なる傍観者なワケですが。
《どうどう、せいせい》
「玉響ちゃん、非常に心苦しいです。烏滸がましいとは思いますが、神々や精霊はこうなのかと思うと、同情しか有りません」
《神々も其々、今が最高に盛り上がってらっしゃるかも知れませんよ》
「あぁ」
ドラマなら、良い視聴率を叩き出しそうな展開ですが。
何だかんだ言って、他人事、赤の他人の苦痛。
でも身内ですよ。
我が可愛い弟が、苦しんでいる。
泣き付かれた時は、半ば半信半疑でしたけど。
部屋に入れてもマジ泣きしてましたし、あんな感じでしたし。
全く、気にしないは無理です。
《では、そろそろ秘技を教えて差し上げましょうか》
「秘技?」
《卑怯だろうと何だろうと、意識させれば勝ちです》
「そんな、強引な」
《ではどちらかが強引に柵を乗り越えない限り、進展しないとは思いませんか》
「いや、確かにそうですけど」
《あの方はネネ様のような鉄壁の城塞持ち、攻略にはどうなさいましょうか》
「自分なら、時間を多く過ごせばと、思いますが」
《ネネ様に、全く興味が無くとも、ですか》
いや、何かしらの興味を引かれてこそ、知ろうとするか避けるかの行動に出る。
糸口や切っ掛けが必要なのは確か、だからこそ。
「噛ませ犬か、事件や事故、出来事が必要」
《はい、では、どうなさいましょうか》
「媚薬を盛ります」
《成程》
ノークの媚薬となるのは、女貞子、トウネズミモチの実だ。
普段は食用とされないが、生薬や薬酒に、強壮薬として利用される。
《強壮薬酒と言われた時点で、何故控えない》
『だって、僕も居るから、避けてくれてるかと、思って』
媚薬効果の有るモノは、その分解が終わるまで続く。
あの少量なら半日も掛からないだろうが、辛いは辛いだろう。
《無理にでも水や茶を飲め、良いな》
『僕の知ってるカイルなら、もっと優しいのに』
そう言ってノークはポロポロと、泣き出した。
策略家としてはルーイと並ぶ、王位継承権の上位に居る者が。
俺の為に継承権を破棄しても構わないと、そして奥目もなくポロポロと。
《悪かった、どうしたら良い》
『カイルが相手して』
媚薬の効果は其々だ。
以前のルーイ殿下は催淫と眠気、カイルは感情の抑制が難しくなるらしく、未だに泣いている。
《そうした事は他の》
『何がダメ?どうすれば良い?』
《前にも言ったが、態々、性転換までする必要は》
『それはカイルの判断、僕はそんなに間違いそう?』
《いや、だがノークは若いだろう、俺には自信が無いんだ》
『何の自信?』
《心身共に、お前を満足させられる自信が無い、しかも俺は不器用な筋肉馬鹿だ》
『それが良いのに』
《もっと上を目指せるだろう》
『じゃあネネ様にも同じ事が言えるの』
《いや》
『何でダメか、何処がダメかハッキリ言ってくれないと、諦められないよ』
《正直、自信が無いだけだ、俺には勿体無い》
『じゃあ、抱けそうも無いとかじゃ』
《いや、あの背中が丸見えの衣装は良かったんだが、相手が俺だとな。行き遅れの身内殺し、もっと他に選ぶべきだ》
『カイルより好きになれなくても?』
《お前が思うような、サイズじゃなかったらどうする》
『ふふふ、別にそんなのはどうでも良いのに』
《いや大事な事だろう、一生の付き合いになるんだぞ》
『僕が全部何とかする、例えカイルと相性が悪くても、絶対に満足させる』
《はぁ、そこまでか》
『うん』
《男同士なのに、良くそこまで思えるな》
『カイルは良い男だもの、いっぱい狙われてるし。でも満足させられるのは僕が1番、同性の強みが有るし』
こう話している間も、ポロポロと泣き続けている。
俺はこの先、ココまで思われる事が有るんだろうか。
ノークは、コレ以上に誰かを。
いや、無理だろう。
ネネ様同様、滅多に懐には立ち入らせないと聞いている。
《はぁ、そんなにか》
『試してみてよ、それでダメなら、もっと練習する』
《お前、まさか》
『誰ともしてない、カイルで練習する』
《本当に、真面目さ以外に何が良いか分からん》
『教えるから試させて、お願い』
まさか、自分と本当に同じ属性の方だとは思わなかった。
《大変、申し訳御座いませんでした》
「まさか、カイル氏も自信無い族だったとは」
《俺も、ココまで自信が無いとは、思いませんでした》
『だけ、じゃないよねカイル』
《好かれるなら、近親の禁忌無しに、好いて好かれたい。そこを、無視し、自信の無さには気が付きもしませんでした》
「でもエロスには勝てなかった」
『ネネ様のお陰です、ふふふ』
「エロス強し」
《はい、またも負けました》
「おや」
《あ、の》
俯いて顔を隠して照れている。
確かに、お前は俺か、と。
「カイル氏、今日からアナタは私の双子の兄です」
《えっ、あの》
「ノーク君とは別にしっかりとご相談に乗るので、どうか相談させて下さい」
《ネネ様、それは嬉しいんですけど、性別が》
「魔法印を使いますので、男同士、相談し合いましょう」
『カイル、一方的に負け続けても良いの?』
《宜しくお願い致します》
こうして、固く同盟が結ばれたが。
直ぐにルーイ氏にバレ、以降のカイル氏の相談相手はケント氏となった。
同盟失敗。




