83 ココへ来る理由。
慣れない土地、慣れない場所で俺は成果を出し、結婚した。
幾度か顔を合わせた事も有る、可愛げの有る女、だった。
《はぁ、何、コレ》
「えっ、何って」
《こんなの、全然使えないモノばかりじゃない》
「は?」
《有能だからと聞いて結婚したのに、本当、使えないわね》
「えっ」
《はぁ、どうせ今までの事は持ち上げられていただけ、ね。全く、騙されたわ》
「なぁ、どうしてそんなに不機嫌なんだよ」
《アナタが、無能だから》
何を言われたのか分からなかった。
俺は知識だけじゃない、様々な案を出し、認められたんだ。
なのに。
「何が気に食わ」
《そうやって一々説明しなければならない所、持ち上げ煽てられていた事に気付かなかった。いえ、そうね、数々の違和感に気付けない所ね》
「何がそんなに」
《本当に頭の悪い人、良いわ、説明は向こうでさせるわね》
「ちょっと待てよ」
《触らないで話し掛けないで、お願い、もうアナタは赤の他人となるのだから》
そうして俺は促されるまま馬車に乗り、俺達の仲人の様な相手、ベリアル辺境伯の元へ送り届けられた。
《あぁ、とうとうバレてしまったんだね》
「どう言う」
《君は仕事しか出来無い無能だった、ココで新たに生まれ変わる事も出来た、けれど君は全く変わらなかった》
「なん」
《密かに妻に点数を付けていた事、ついでに浮気もバレ離婚、その悪質さが会社にまで伝わり仕事を外される様になった。折角、君が満点を付けていた筈の女は浮気し、再婚を果たす前に破綻。だからこそ、戻るつもりが無かった》
「だからって、そんな、誰だって」
《そうだね、頭か性格が悪いか、その両方が悪い者なら誰でもする事。ただね、君はココでは、最初からマイナス30点だった》
「何で、どうして」
《こんな事をしたのか、僕が欲しかった獲物が来なくてね。うん、八つ当たりだね》
「八つ当たりの為に」
《君だって、大した男でも無い分際で、寧ろ君には120点の女を傷付け手放した。自己評価が、君は高過ぎる、良く分かっただろう?》
「俺は案を出したじゃないか!!」
《コンクリート製の道路?本当に馬鹿だね、維持費や維持の手間暇、景観はどうなるんだい》
「それは」
《案を出すだけ、それは知識の蓄積さえ有れば、誰にもでも出来る事》
「なら、そう」
《言う事はヒントを与えるも同然だ、そんな狡い行為を、君は妻だった者に許していたかな?》
俺が、アイツに言った事を。
まさか。
「アイツが」
《いや、君の妻だった者は来なかったんだ、本当に残念だよ》
「な、じゃあ、どうやって」
《僕は悪魔、嘗て天使のサタナエルだった者、ソロモン72柱に連なる悪魔。君がもっと、妻だった者の事を知ろうとしていれば、君は気付けた筈だった》
「悪魔」
《そうだよ、白い翼を持った悪魔だ》
「そんな、嘘だ」
《こう、覗いていたんだよ》
そこには向こうの俺が映っていた。
そして妻だった女も。
その手に有るのは、嘗て俺が馬鹿にした本。
そこには、確かにベリアルの名が有った。
「そんな、何で」
《ふふふ、相変わらず愚か者は面白い事を言うね、全く思い当たる節が無い様な言い回しだ》
「俺は誰も殺して」
《ココの詳しい名称は、八寒地獄。大きな赤い蓮、摩訶鉢特摩の◯◯、と言う地獄。彼女の心を殺し、大切な時間を無碍に奪った、君は大罪人だよ》
「なら、今までの事は」
《うん、全て八つ当たりだよ》
俺は、上手くやってきたつもりだった。
つもり、なだけだったんだ。
《全く、言って下さったら良かったのに》
《すまないね、言える程、まだ整理が出来て居なかったんだ》
《分かるわ、分かるけれど。もう、許すわ、八つ当たりにも協力するから励みになさって?》
《ありがとう、ラウム》
彼女をずっと見ていた。
僕に同情してくれた、優しい女性。
彼女の幸せを願っていたのに、愚かな男に騙され、傷付けられた。
仕方が無い事だとは理解していた。
けれど、彼女の元夫がコチラに来たと知り、仕方が無いでは済まなくなった。
《さ、どうなさりたいの?》
《尊厳も何もかも、徹底的に破壊してくれ》
《それなら得意ですわ、お任せあれ》
私、壊す事は得意ですの、それに物の移動も。
人は無くすと乱れ、壊れてしまう。
宝と、そうした事だけしか知りませんの。
だから、愛を知りたかったんですの。
分かりたかった。
「君は」
《ごめんなさい、少し機嫌が悪かったの、頭の良いアナタなら許してくれるわよね?》
「君も、悪魔なんだろう」
《ごめんなさい、彼はとっくに可笑しくなっていたの。だから彼の言葉は鵜呑みにしないで、大丈夫、アナタは良い子よ》
「どうせ、またそうやって」
《あら、じゃあ私と家に帰りたくないのね。けれどアナタ、お金は有るの?》
ココでは敢えて、通貨を導入しているの。
その方が色々と面白いからと。
「今までの」
《離縁するのは構わないわ、けれど離縁したら、本当にアナタは後悔しないかしら?》
無くして初めて理解する、馬鹿な子。
愚かな人種は獣と同じ。
私と同じ。
だから賢い子が欲しかったの、賢い子なら、いつか私に愛を分からせてくれるんじゃないかって。
私は宝の在り処と、それに関する過去や未来の事が分かる。
そして宝の移動、そうした事による破壊。
だけ、なの。
ずっと、分からないの。
愛がなんなのか、どう言う物なのか。
宝なのは分かるわ。
奪われたり勝手に移動されたら、誰だって嫌だって。
でも、それだけ。
「家に、帰りたい」
《そうね、帰りましょう、アナタ》
皆が大事にしている様に大事しても、大事にされても。
良く分からないの。
宝だ、それしか分からない。
だからベリアルが良いのが居るって言うから、貰っただけ。
けど偽物だった。
それは良いの、ベリアルは愛を知っているから、大事な宝を傷付けられて八つ当たりがしたかった。
それは良く分かるの、宝の事だから。
友は宝よ、だからベリアルを許した。
ましてや私の宝は私、私は何も傷付いていないのだもの、許すも何も無いわ。
彼は宝を得られなかった、傷付けられた、傷付けた者が居た。
そうね、誰が悪いかと言えばコレ。
コレが自らを宝だと思い込み、そう振る舞った。
偽物の宝。
偽物の宝には偽物の宝の扱いを。
友人を傷付けた罰は破壊。
ね、私はあまり賢くないの。
だから賢さは私に無い宝、アナタを尊敬しているわ、賢くて愛を知るベリアル。
「本当に、すみません」
《ありがとう、スズランの姫》
北の地獄の統治者の1人、ベリアル辺境伯。
愛の有る悪魔、嘗て神の荷姿を拒絶し、以降は地獄を管理するサタナスとして堕天させられたと言う天使。
「もうご存知かと思いますが、兄もアナタの事が好きでした」
《そうなんだね、それは知らなかったよ》
「良く似た何かでは無く、本当に神を愛してらした、だからこそ神は重要な仕事を任されたのだと」
《ふふふ、ありがとう。意外と稀有なんだよ、そう思ってくれる者は、年々減り続けているんだ》
「宗教離れが凄いそうで」
《あぁ、けれど今こそ、真の理解に到れる者も多い。そして僕の事は当然な事、些末な事とし忘れ去られる》
神や仏が必要とするモノは、信仰。
どんな形であれ認識し、存在を否定しない事。
それは精霊も悪魔も同じ。
「だから姿を現しては下さらない」
少しでも何かを間違えれば、立場を奪う事になってしまう。
《かも知れないね》
全ては誤解かも知れない。
そう思うだけで、悪魔を過度に恐れる必要は無くなり、実際を目の当たりにすれば。
いや、無理か。
「どう、だろうか」
誰が本当の事を言い、誰が嘘を言っているのか。
全く分からない。
《ふふふ、真実を知る気も無い分際で尋ねるなんて、どうなさったの?》
アレ以来、妻が呆れる素振りが全く無い。
ただ、こうして稀に毒を吐く事は有る。
けれど、真意を尋ねる事が出来無い。
もし俺が本当に無能なら、俺は食うに困る事になる。
案への対価としての金銭も立場も、何もかも嘘なら。
俺は無能な無職。
「いや」
《さ、自信を持って行ってらっしゃいませ、旦那様》
週に1度、1つの案を持って行き、説明するだけ。
それが億劫で堪らない。
最初は楽な世界だと思っていた。
けれど、全ては偽りだったのかも知れない。
『あぁ、どうぞ、お入り下さい』
今まで、大勢の前で意気揚々と説明していたけれど。
「はい」
あぁ、ココは地獄だ。
本当に地獄なんだ。
作り笑いだ。
俺を馬鹿にして楽しんでいた、だけ。
『では、ご説明をお願いします』




