82 またしても来訪者。
プール付き遊園地案からかなり逸れ。
地獄に鋸球体、試練の間が完成し。
ボティス伯爵にお祝いを頂き、ついでに以前からの疑問を伺う間が出来た。
「あの、以前から気になっていたんですが、かなり数が違うのは何故でしょう」
《あぁ、幾つか不適当なモノは省いているからね》
「そうなんですね、すみません、そこまで詳しくは知らなくて」
《獣としてはならない、だなんて。折角、苦労して結ばれた者へ、更に罰は与えられないからね》
「確かに、ですよね」
地獄の区分けはかなり細かい。
八大地獄では、辺獄は東の国の事。
煉獄は、この世の事。
八熱は、南側に存在し。
復活を意味する等活、黒縄。
圧縮を意味する衆合、叫喚、絶叫を意味する大叫喚。
焦熱、業火を意味する大焦熱、無間。
そうした名称を使い、大まかに区分けされている。
そして八寒は、北側。
頞部陀は、腫れ物。
尼剌部陀は、しもやけ。
頞哳吒は、嗚咽。
臛臛婆は、呻く。
虎虎婆は、口ごもる。
嗢鉢羅は、青い蓮。
鉢特摩、赤い蓮。
摩訶鉢特摩、大きな赤い蓮。
中には聞いただけでは地獄とは分からない呼び名が散逸し、更に細かい地区割りの名は可愛い感じのモノも有る。
ただ、それらを幾ら計算しても、272には及ばず。
何か意味が有るのか、若しくは欠けているのか、詳しく聞けないままだった。
だって、何か重要な事かも知れませんし、迂闊に聞けなかったんですよ。
『ネネさん』
「お、ヒナ様、こんにちは」
『こんにちは』
幼女のハグは癒し。
「どうしてコチラに?」
『偉業ですよ?ゴミ捨て場に魔法陣を書けば、そのまま収監と分別が行われ、ついでに改心もさせられるかも知れない。コレは大発明です、偉業です』
「ありがとうございます、単なる知恵の寄せ集めなんですが」
『私には何も無いから無理です、ネネさんは凄いです、ですからご褒美を持って来ました』
「有り難いんですが、既に」
『それはそれ、コレはコレです。はい、どうぞ』
可愛らしくも綺麗な箱。
「ありがとうございます」
『ふふふ、開けている下さい』
開けると、鍵と指輪と、手紙。
「この鍵は」
『それはですね』
《まぁまぁ、先ずは座って、はい》
『はい』
手を上げ抱き上げられ、何処から湧いたのか使用人が椅子とティーセットを出し、ボティス伯爵がお茶を淹れた。
ココに居ると、本当に異世界を感じる。
《で、何をあげたのかな》
『ベルゼ・バアル王の王宮の鍵です、怖がらせたらいけないからと、私が代理に任命されたんです』
「じゃあ、この指輪は」
『はい、ソロモンの指輪です』
「そんな貴重なモノを」
『いえいえ、指輪は7個有るので、そこまででも無いですよ』
《地獄の後ろ盾の証、それとソロモン王国へ行くには、コレが有った方が良いからね》
『あぁ、はい、ですね』
《思い出したかな》
『はい、精霊の住処なんです』
「えっ、じゃあ、あまり行かない方が」
《招待状も入っているなら、精霊も認めたも同然、きっとアレと遊園地が気に入ったのだろうね》
ココの始祖に認めて貰いたくないワケでは無いけれど、コレは明らかに大事では。
『ふふふ、だから私なんですね』
《あぁ、そうだね、流石のスズランも困惑しているのだし》
「すみません、こんなつもりは全く無くて」
『流石、私利私欲の無いネネさんですね、ふふふ』
「いや、私利私欲盛り盛りだったんですが」
《利己的な欲だけに塗れた事を、精霊は認めない。公共性が十分に有る事、知っているだろう、知識だけでココを生きる事は難しい》
『知識の寄せ集めが案です、折角知識が有るのに案を出せない者は、私は嫌いです』
《そうだね、では指輪の使い方を教えてあげよう、一休みしてからね》
『はい』
流されていると言っても過言では無いのでは。
『大丈夫かい?』
見た事も無い、イケメンが目の前に。
しかも、ココ、中世っぽい。
「ココは」
『君の世界で言うなら、かなり北の土地、ココに有るよ』
壁に貼られた地図は、見た事が有る姿をしてはいるけれど、知っているモノより土地が分断されてる。
と言うか、今更だけど、日本語だった。
「あ、助けて頂いたみたいで、ありがとうございます。すみません」
『良いんだよ、僕の役目でも有るからね』
役目。
もしかして、他にもココへ。
と言うか、僕は単に眠っていただけだった筈。
一体、何故、どうしてココに。
「すみません、何が何だか」
『気にしないで、食事を用意させるけれど、何か苦手なモノは有るかな』
「牛乳はお腹を下しちゃうので、それ以外なら、死にはしません」
『そう、では用意させよう』
「ありがとうございます」
どうしよう。
何なんだココ。
『どうだい、ココは』
ちょっと、付いていくには難しい価値観や死生観だった。
しかも純粋な人間は僕の様な存在だけ、良く似ているのに、全く違う。
魔獣や聖獣、妖精や精霊の血が入っている、人の姿をした者が人種と呼ばれていて。
普通に町中にはユニコーンやペガサスが居る。
「ちょっと、難しいですね」
『もしココに居るなら、慣れるしか無いね』
「あの、帰る方法って」
『幾つか有るけれど、何かを成せば直ぐに帰れるよ』
何かを成すって。
凄い曖昧で抽象的な。
「例えば、何をでしょう」
『とある者は水場を整え、とある者は農作物の効率化、中には特殊な魔法印を作り帰還を果たした者も居るよ』
「なら、もし残ろうとした場合って」
『君が強くココに居たいと願うだけで叶うよ』
「その間って」
『時間が止まっている事が殆ど、けれど君の場合は、少し見せてあげよう』
僕は、眠っている間に、家具の角が頭に直撃する直前だった。
「コレって」
『大きな災害が有ったらしい、各地で君の様な者、来訪者が来ているんだ』
自分の者の様な者が、来ている。
「以前にも」
『あぁ、幾度と無く来訪者は来ているよ』
戻っても、例え生き残ったとしても、五体満足で居られるかどうか分からない。
なら、ココに残った方がマシ。
けれど、単なる怪我で済むなら。
でも、何かを成すって。
一体、何をすれば良いのか。
『最悪は僕が面倒を見るよ』
「えっ」
渡りに船だった。
殆どの知識はココに揃っていて、知識チートしようがない。
逆に情報は得られるけれど、活かせる方法は既に活かされているし、趣味がまるで活かせない。
正直、詰んでいる。
出す案出す案、追々に計画されているだとか、既に実行中だとかで。
『僕の良き友人として、色々と教えてくれないか』
「はい」
そうして僕は低きに流れ、貴族に囲われる事となった。
友人として付き合えば、僕の世話をしてくれる、と。
なのに。
「な、何これ」
『ほら、君は男、僕も男だろう』
「だからって、何で」
『だからだよ、ココには魔法が有る、性別を変える魔法もね』
目を覚ますと僕は女になっていた。
「こんなの」
『大丈夫、痛い事はしないよ』
「何で!!」
『君は、友人とこうした事はしないのかい?』
「しないよ!」
『けれどセフレはどうだい?友人、なんだろう』
「それは、同性とは」
『だからこそ、君は女じゃないか』
「だとして、何で」
『君は与えられた分か、それ以上を提供したかい?』
「それは、だから、様子を」
『何にでも限界は有る、君は対価を返す期間を超えてしまった』
「案を出す!出すから!!」
『そう、なら猶予を上げよう』
確かに彼には知識は有る。
けれど、案は無いまま。
『このままだと』
「出す!出すから追い詰めないでくれるかな!!」
追い詰めなければ、得た分を返そうともしなかったと言うのに。
まぁ良い、幾らでも時間は有るのだから。
『仕方無い、良いよ』
もし案が出たなら、君を自由にしてあげるよ。
本当に、ね。
「はぁ、やっと」
本当に下らない案を出し、何とか認めて貰い、男に戻されてから。
やっと、久し振りに外へ出れた。
『じゃあね』
「まっ、何で」
『自由だよ、君は好きに生きられる』
「そんな、住む場所も何も」
『稼ぐ自由、働く自由を君は得た、じゃあね』
僕には、1人で生きるのは無理だ。
コッチで言う母国に行ったとしても、こんなんじゃたかが知れてる、下手をすれば見下されるか蔑まされるか。
しかも、今更、毎日米と味噌汁だけだなんて。
「待って!頼む、何でもするから、女にでも何でもなるから」
言った後、しまったと気付いた。
けれどもう、引き返せない。
『お願いします、は?』
僕はあまりに無能で、ココで1人じゃ生きられ無いんだから。
『お願い、します』
『良いよ、改めて宜しくね、良き友人として』
悪魔の記憶が覗けてしまった。
憤怒の国に滞在している間に、こんな事が。
「あの、何故、こんなに多くの者が」
『君が見た通り、災害と同調し、ココへ多くの者が来ているんだよ』
《杭の話を覚えているかな》
「はい」
《杭が抜けていた時期は、あらゆる世界へと繋がっていたんだ》
『良いも悪いもココへ来て、そして人種も向こうへ行ってしまった』
《とある世界を、人種は滅ぼしかけた》
『あぁ、クローンを作り唯一神とし、一党独裁を成し遂げ様とした世界』
「なんて事を」
《我こそは平和を成す者、その自負から神話作り》
『いにしえの神々を滅ぼし、新たな文明文化を築き上げた』
《けれど、僅かに残した精霊が暴走し》
『創造主は排され、クローンが真の唯一神となった』
《その先はもう確認出来ていないけれど、良い方向へは、行っていないだろうね》
『そうした行為を封じる為にも、杭が穿たれた』
《けれど位置が悪くてね、その歪みを正した際の余波だよ》
「なら、私も」
《いいや、君は違うよ》
『もしも戻りたいなら、手を貸すよ』
「記憶が保持出来れば、良いんですけどね」
《それは、思わぬ対価を支払う事になるだろうね》
『とある者は命の灯火が短くなり、とある者は自らが壊れる病となった』
《向こうを大きく変えてしまえる以上、対価の支払いは大きくなる》
『例え君が何をしなくとも、因子を持つ以上は変化のリスクとなる』
戻れたとしても、きっと自分は巻き戻ってしまう。
いつまでも悩み続け、前に進めないまま、悪癖も直せず下手をすれば更に失敗を重ねる筈。
短くも長い問答の果てに、得られた答え。
コレは、手放したくない。
「少しでも、難しいですかね」
《そうなると、いずれ消えてしまうだろうね》
『例え書き残したとしても、不意の事故で失われるかも知れない、書いた事すら忘れてしまうかも知れない』
《恒常性は分かるね》
「はい」
『向こうには向こうの正義が有る、ルールが有る、沿わなければ排除されてしまうんだよ』
「まるで生命体」
きっと、だからこそ、何か穴が有るかも知れない。
けれど、そんな賭けに出るより、今はココで生きたい。
『いつでも協力するよ、君を王も認めたのだから』
「忘れてた」
《さ、もう帰ろうか、姫のお昼寝が終わりそうだからね》
天使の様な寝顔の、悪魔と人種の子。
王様と対となる、女王の子。
「はい」
どうしよう、認められても困る。




