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80/100

80 愛されたかっただけ5。

「そんな、こんな筈じゃ」

『その声、良くも殺してくれたわね!!』


「アンタだって自業自得だろう!!」

『前は何もして無いじゃないの!!』


《その時だけ、何もしない程度じゃダメなんだよ》


『アンタ、まさか』

「君も、けど」

《似た様な失敗をすれば、最初からやり直し。俺は人の弱みに漬け込んで金を得た、そして考えの浅はかさから人を死に追い遣った、今は後悔してる》


 ガシャン。

 もう何度も聞いた音。


 あぁ、また僕らはココからやり直さなきゃならないんだ。


「あぁ、また」

『そんな』

《根本的に何を間違えていたか、何を変えるべきか分かっていれば、直ぐに終わる》


【はい、結構です、ではご退場となります】


『悪かったわ!自分勝手で思い遣りが無かった!!反省してる!もうしない!他人も大切にするから、だからっ、何でよ!嘘じゃないわ本心なのに!!』


【思ってるだけ、で良い、まだまだですね】


『ごめんなさい、次はちゃんとする、ちゃんとするから!!殺して!ママ!パパ!!助けて!!』


 僕は、他人の痛みに鈍感だった。


「僕は鈍感なクズ男だった、他人の大事な子供を傷付けた、害した事に言い訳を続け逃げ続けた」


 実の子供だと思ってやっと、こうして手が下せる程度。

 僕は鈍感で馬鹿だった、ごめん母さん、父さん。


『うぐっ』

「ごめんよ、本当に悪かった、ごめん」




 次は何度も死なず、子供からやり直せる。

 その事に一瞬だけ喜んだけれど、やっぱり地獄だった。


『お母さん』


 必要最低限しか、世話をされない。

 直ぐに私は施設に引き取られ、やっと安心した。


 なのに。


『あ』

『真似っ子』


 妹だった真似っ子が居た。

 けれど、今回は真似はしていない。


『何』

『真似しないんだ、前みたいに、それとも出来無いだけ?』


 真似するには多少なりとも財力が要る、けれど施設の子供にそんな余裕は無い。

 あぁ、相変わらず無視ね。


 しないんじゃない、出来無いだけ、だ。


 けどまぁ、どうせ関係無いんだし。

 関わらないでおいてあげる。




「何で」


『だって、幸せそうだったから』


 次こそは、真面目に生きた。

 結婚まで手を出さず、誰も傷付けない様に生きて来たのに。


「じゃあ、君は、僕と居ても」

『幸せだったけれど、ごめんなさい、もっと幸せになれると思ったの』


 僕は脱力した。


 彼女だって、真面目に生きてただけ。

 なのに僕が傷付けた。


 こんな風に傷付けて、更には復縁まで迫った。


 罰が。

 いや、まだ地獄なんだ。


 そうだった、ココは地獄なんだ。


「そう」




 あの真似っ子に、旦那を取られた。

 私がした様に、散々貢がせて。


『ごめんなさい、お返しします』


 許さない。

 絶対に許さない。


『彼女と一緒に、試練の間に行くわ』


【はい、結構です、ではご移動となります】


 けれど、あの男は居なかった。

 真似っ子と私だけ。


『何、ココ』

『本音で罪を告白して、協力すると言えば明かりが付くの。悪かったわ、取られて本当に嫌だった、もう同じ事はしないわ』


 ガシャン。

 聞き慣れた音。


 さぁ、後は溺れて死ぬだけ。


 幾らでも苦しめば良い。

 やっと普通に生きて、普通に得た男だったのに。


 悔しかった、悲しかった。

 こんなに嫌な気持ちは、本当に初めてだった。


『ねぇ、ちょっと』

『じゃあね、精々試行錯誤しなさい』


 餓死で死ぬのも乾きで死ぬのも、溶けて死ぬのも辛い。

 溺死はマシ、程度なのよね。




『何で、どうして』


【そこが分からないと、一生、出れませんよ】


『何でよ!!』


【お前も、あの世界を何度もやり直させた、歪ませただろ】


 聞き覚えの有る声。


『何で』


【分からないか、向こうで何度も死んでも、ココで何度死んでも】


『誰だって!誰だって、好きな様に生きてるじゃない』


【限度を守ってな、お前はどうだ、お前は何をした】


 だって、簡単に手に入りそうだったんだもの。


 全部持ってて、幸せそうだったから。

 嫉妬させたかった、怒らせたかった、謝らせたかった。


 私が持っていないモノを全て持っててごめんなさい、全部譲ります、そう言ってくれたら良かっただけ。

 ただ愛されたかっただけ。


『愛されたかっただけなのに』


【方法が異常過ぎるだろ】


『どうせ皆、見えない所では似た様な事をしてるクセに』


【しない人間も居る、そう認めると死ぬ呪いにでも掛かってんのかよ】


『居るワケ無い!』


【あぁ、自分だけが特別に愚かで、特別に汚い事を認めたく無いのか】


『私だけじゃない!!』


【だけ、じゃないにしても、異常だ馬鹿】


『ほら居る』


【少数だ馬鹿が】


『けど』


【分かった、似た馬鹿をそんなに集めたいなら良いぞ、全部で7人集めてやるよ】


 断れば良かった。

 まさか、こんなに大変になるだなんて思わなかった。


《何なんだよココ》

「あぁ、ドッキリだろ」

『違うの、本当に』

『何で水が、何で変わってるのよ!また、1から』

《出せよ!何処のどいつだよ!ぶっ殺してやる!!》

「お母さん、お父さん」

『死にたくない死にたくない死にたくない』


 何度も何度も死んだ。

 その事に耐えられなくなると、記憶がリセットされる。


 そう、最初から。


『何なのよココ!!』


《アンタ、巫山戯て》

『巫山戯て無いわよ!出しなさいよ!何よこの首輪!!』

「ドッキリでも何でも無いんだよ!!」

『落ち着いて、落ち着いて下さい、先ずは罪の告白を』

《俺は何も悪く無い!騙される方が悪いんだ!》

「もう死にたくない、嫌だ、お父さんお母さん」

『死にたい、死んだままが良い、死んだままが良い』


『もう嫌!何度繰り返せば良いの!!』


【お前の残りは、349京2413兆4400億回引く5回だ、なんせココは無限地獄だからな】


「アンタ一体、何をしたんだ」

「どんだけ、殺したんですか」

《おいおい、俺よりヤバいヤツかよ》

《聞いた事無いぞ、そんだけ地獄を味わう罪って、何したんだアンタ》


『わ、私は』


『アンタも、まさか、あの世界に』


【ココに居る奴は全て似た様な事をしでかした、いつか更生出来ると良いな、じゃあな】


 それから、何度も何度も痛い目に遭った。

 確かに何度やっても国が滅んだけど、私だけのせいじゃない、私だけが悪いんじゃない。


 私が殺したんじゃないのに、何故なの。




《何で、君は俺を傍に置く事にしたんだろう》


『お兄ちゃんが欲しかったんです、アナタは良い兄になる、だからです』


《だけ、か》

『はい、他に理由が欲しいですか?何が不安なんでしょう?』


《いや、ただ、俺は罪人で》

『罪の贖いの為にも、兄として私に接し続け、精々その短い寿命を終えれば良い。その対価にアナタの好きな輪廻に転生させてあげます、蝶ですか?熱帯魚ですか?』


《あぁ、そのどちらかで良い、その方が良いな》

『じゃあ、オオムラサキで、スズメバチにも負けないんだそうです。あ、日本の国蝶なんですよ、きっと大切にして貰えます』


《そうか、知らなかった》

『けど目が悪くて、鳥とメスを間違えて追い掛けて、食べられてしまう事も有るんだそうです』


《あぁ、馬鹿な俺にピッタリだな》

『ダメです、私のお兄ちゃんです、そんな間抜けな事はココでは許しません。何度でも蘇らせて、何度でも兄として生きさせます』


《そうか、ココには魔法が有るんだったか》

『はい、兄妹仲良く、持ちつ持たれつしましょう』


 俺は誰かの納得を得られたらしく、あの地獄からは抜け出せた。

 けれど、ココはまだ地獄(ゲヘナ)


 ただ以前とは大いに違う場所。

 償いが出来る場所。


 あの女達は、未だに罰せられるだけの場所に居る。

 そしてあの男は、未だに理解の間で納得させ続けられている。


 次がやっと、贖罪の間だと言うのに。


 俺はソレをすっ飛ばして、拾われた。

 あの地獄を管理する者が居るココへ、ココの姫に拾われた。


《あぁ、そうだな》

『はい』


 俺とあの男に合わせ、罰はあの程度だったらしい。

 今では古典的なワイヤーカッターだレーザービームだ、ショットガンだ溶液噴射だ、電子レンジだ焼死だと課され続けている。


 そうして耐えられ無くなれば、記憶をリセット。

 けれど不意に記憶が戻り、恐怖が倍増した中で生を終え、再び生き返る。


 死んでいるけれど、生きている。


 喉は乾くし腹も減る。

 クソもしたくなるし、痒みも痛みも有る。


《痒さのあまり、掻き毟って死ぬ罠は無いのか?》


『天の才ですね、はい、直ぐに用意させますね』


《いや》

『流石ですお兄様、お兄ちゃん』


 一見、可笑しな幼女だが。

 ココでは寧ろマトモな方。


 ココは地獄(ゲヘナ)


 だが俺が罪人だからか、意外にも住み易い。

 いや、どちからと言えば天国だ。


《はいはい、ヒナ様》

『ヒナちゃん』


《それは》

『ヒナたんが良いですか』


《いや、まぁ、追々で》

『では追々で』




 自分に傷を付けた者に良く似た罪人は、今度は娘が同じ事をされ、とうとう泣き崩れた。


 全く、スッキリしない。

 寧ろ、虚しさすら有る。


「ココまでされないと分からない馬鹿を」

《君は彼を信じた、その事だけは褒められるべき点だよ》


「伯爵」


 勘は大切だ。

 蔑ろにし、馬鹿な助言も鵜呑みにしてしまった結果、傷付いた。


 この傷は半ば、自業自得。

 けれど、未だに上手く処置が出来無い。


《傷と向き合う事は、確かに君の自業自得、けれど他は無罪だ》


 安易な開き直りは、単なる馬鹿が行う事。

 そんな馬鹿よりマシな程度、馬鹿は馬鹿だ。


「息を抜く場が分かりません」

《鵜呑みにしなくなった、それは確かに賢い選択だけれど。問題は誰を信じたいか、じゃないかな》


 今の心の中には、ユノちゃんとココの兄が居る。

 ユノちゃんは賛成してくれている、けれど。


「ココに居る兄が、本当に大丈夫か心配するんです」


《あぁ、異性の身内だからね、分かるよ》

「男親は、どう安心しますか」


《やっぱり経済力だね、最低限は有って当たり前、それと身持ちを崩さない賢さ》


「他には、無いでしょうか」

《如何に愛されているか、孫はどう育つか、愛する娘が無理をしないで傍に居られるか》


「住む世界が違い過ぎて、育ってきた環境の乖離がエグいんですが」

《なら試せば良い、嫌なら向こうが引き下がれば良いのだから》


「多分、脱落されるのが嫌なんです、それに後から文句を言われるのも嫌です」

《半端に記憶を取り上げたら良いんだよ、永遠に羨ましがらせ、そのまま未練がましく死ねば良い》


「あの、仮にも」

《好意だけを消しても良い、選ぶ権利は君に有る、試されるだけの事を彼らは行った》


「それは、元老院に」

《そうだね、手加減が難しい事、君が悩んで当然だよ》


「すみません、もう本当、グダグダと」

《好意も善意も無い者の言葉は、忘れた方が良い。実の成らない棘、単なる毒、決して薬にはならない。けれど君には薬が必要だ、不快感の無い、美味しい薬を長く飲む必要が有る》


「繊細さを謗る鈍感に、折れる必要は無い」

《そう、こうやって、いつしか身に降りかかるのだから》


「そう思えない相手が居るんですが」

《その為のココ、地獄(ゲヘナ)だよ》


 死後の世界は、誰にも分からない。

 なら、少しは勝手に都合良く解釈しても、誰にも迷惑を掛けないなら構わないだろう。


「是非、はい、お願いします」

《よしよし、良い子だね》

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