80 愛されたかっただけ5。
「そんな、こんな筈じゃ」
『その声、良くも殺してくれたわね!!』
「アンタだって自業自得だろう!!」
『前は何もして無いじゃないの!!』
《その時だけ、何もしない程度じゃダメなんだよ》
『アンタ、まさか』
「君も、けど」
《似た様な失敗をすれば、最初からやり直し。俺は人の弱みに漬け込んで金を得た、そして考えの浅はかさから人を死に追い遣った、今は後悔してる》
ガシャン。
もう何度も聞いた音。
あぁ、また僕らはココからやり直さなきゃならないんだ。
「あぁ、また」
『そんな』
《根本的に何を間違えていたか、何を変えるべきか分かっていれば、直ぐに終わる》
【はい、結構です、ではご退場となります】
『悪かったわ!自分勝手で思い遣りが無かった!!反省してる!もうしない!他人も大切にするから、だからっ、何でよ!嘘じゃないわ本心なのに!!』
【思ってるだけ、で良い、まだまだですね】
『ごめんなさい、次はちゃんとする、ちゃんとするから!!殺して!ママ!パパ!!助けて!!』
僕は、他人の痛みに鈍感だった。
「僕は鈍感なクズ男だった、他人の大事な子供を傷付けた、害した事に言い訳を続け逃げ続けた」
実の子供だと思ってやっと、こうして手が下せる程度。
僕は鈍感で馬鹿だった、ごめん母さん、父さん。
『うぐっ』
「ごめんよ、本当に悪かった、ごめん」
次は何度も死なず、子供からやり直せる。
その事に一瞬だけ喜んだけれど、やっぱり地獄だった。
『お母さん』
必要最低限しか、世話をされない。
直ぐに私は施設に引き取られ、やっと安心した。
なのに。
『あ』
『真似っ子』
妹だった真似っ子が居た。
けれど、今回は真似はしていない。
『何』
『真似しないんだ、前みたいに、それとも出来無いだけ?』
真似するには多少なりとも財力が要る、けれど施設の子供にそんな余裕は無い。
あぁ、相変わらず無視ね。
しないんじゃない、出来無いだけ、だ。
けどまぁ、どうせ関係無いんだし。
関わらないでおいてあげる。
「何で」
『だって、幸せそうだったから』
次こそは、真面目に生きた。
結婚まで手を出さず、誰も傷付けない様に生きて来たのに。
「じゃあ、君は、僕と居ても」
『幸せだったけれど、ごめんなさい、もっと幸せになれると思ったの』
僕は脱力した。
彼女だって、真面目に生きてただけ。
なのに僕が傷付けた。
こんな風に傷付けて、更には復縁まで迫った。
罰が。
いや、まだ地獄なんだ。
そうだった、ココは地獄なんだ。
「そう」
あの真似っ子に、旦那を取られた。
私がした様に、散々貢がせて。
『ごめんなさい、お返しします』
許さない。
絶対に許さない。
『彼女と一緒に、試練の間に行くわ』
【はい、結構です、ではご移動となります】
けれど、あの男は居なかった。
真似っ子と私だけ。
『何、ココ』
『本音で罪を告白して、協力すると言えば明かりが付くの。悪かったわ、取られて本当に嫌だった、もう同じ事はしないわ』
ガシャン。
聞き慣れた音。
さぁ、後は溺れて死ぬだけ。
幾らでも苦しめば良い。
やっと普通に生きて、普通に得た男だったのに。
悔しかった、悲しかった。
こんなに嫌な気持ちは、本当に初めてだった。
『ねぇ、ちょっと』
『じゃあね、精々試行錯誤しなさい』
餓死で死ぬのも乾きで死ぬのも、溶けて死ぬのも辛い。
溺死はマシ、程度なのよね。
『何で、どうして』
【そこが分からないと、一生、出れませんよ】
『何でよ!!』
【お前も、あの世界を何度もやり直させた、歪ませただろ】
聞き覚えの有る声。
『何で』
【分からないか、向こうで何度も死んでも、ココで何度死んでも】
『誰だって!誰だって、好きな様に生きてるじゃない』
【限度を守ってな、お前はどうだ、お前は何をした】
だって、簡単に手に入りそうだったんだもの。
全部持ってて、幸せそうだったから。
嫉妬させたかった、怒らせたかった、謝らせたかった。
私が持っていないモノを全て持っててごめんなさい、全部譲ります、そう言ってくれたら良かっただけ。
ただ愛されたかっただけ。
『愛されたかっただけなのに』
【方法が異常過ぎるだろ】
『どうせ皆、見えない所では似た様な事をしてるクセに』
【しない人間も居る、そう認めると死ぬ呪いにでも掛かってんのかよ】
『居るワケ無い!』
【あぁ、自分だけが特別に愚かで、特別に汚い事を認めたく無いのか】
『私だけじゃない!!』
【だけ、じゃないにしても、異常だ馬鹿】
『ほら居る』
【少数だ馬鹿が】
『けど』
【分かった、似た馬鹿をそんなに集めたいなら良いぞ、全部で7人集めてやるよ】
断れば良かった。
まさか、こんなに大変になるだなんて思わなかった。
《何なんだよココ》
「あぁ、ドッキリだろ」
『違うの、本当に』
『何で水が、何で変わってるのよ!また、1から』
《出せよ!何処のどいつだよ!ぶっ殺してやる!!》
「お母さん、お父さん」
『死にたくない死にたくない死にたくない』
何度も何度も死んだ。
その事に耐えられなくなると、記憶がリセットされる。
そう、最初から。
『何なのよココ!!』
《アンタ、巫山戯て》
『巫山戯て無いわよ!出しなさいよ!何よこの首輪!!』
「ドッキリでも何でも無いんだよ!!」
『落ち着いて、落ち着いて下さい、先ずは罪の告白を』
《俺は何も悪く無い!騙される方が悪いんだ!》
「もう死にたくない、嫌だ、お父さんお母さん」
『死にたい、死んだままが良い、死んだままが良い』
『もう嫌!何度繰り返せば良いの!!』
【お前の残りは、349京2413兆4400億回引く5回だ、なんせココは無限地獄だからな】
「アンタ一体、何をしたんだ」
「どんだけ、殺したんですか」
《おいおい、俺よりヤバいヤツかよ》
《聞いた事無いぞ、そんだけ地獄を味わう罪って、何したんだアンタ》
『わ、私は』
『アンタも、まさか、あの世界に』
【ココに居る奴は全て似た様な事をしでかした、いつか更生出来ると良いな、じゃあな】
それから、何度も何度も痛い目に遭った。
確かに何度やっても国が滅んだけど、私だけのせいじゃない、私だけが悪いんじゃない。
私が殺したんじゃないのに、何故なの。
《何で、君は俺を傍に置く事にしたんだろう》
『お兄ちゃんが欲しかったんです、アナタは良い兄になる、だからです』
《だけ、か》
『はい、他に理由が欲しいですか?何が不安なんでしょう?』
《いや、ただ、俺は罪人で》
『罪の贖いの為にも、兄として私に接し続け、精々その短い寿命を終えれば良い。その対価にアナタの好きな輪廻に転生させてあげます、蝶ですか?熱帯魚ですか?』
《あぁ、そのどちらかで良い、その方が良いな》
『じゃあ、オオムラサキで、スズメバチにも負けないんだそうです。あ、日本の国蝶なんですよ、きっと大切にして貰えます』
《そうか、知らなかった》
『けど目が悪くて、鳥とメスを間違えて追い掛けて、食べられてしまう事も有るんだそうです』
《あぁ、馬鹿な俺にピッタリだな》
『ダメです、私のお兄ちゃんです、そんな間抜けな事はココでは許しません。何度でも蘇らせて、何度でも兄として生きさせます』
《そうか、ココには魔法が有るんだったか》
『はい、兄妹仲良く、持ちつ持たれつしましょう』
俺は誰かの納得を得られたらしく、あの地獄からは抜け出せた。
けれど、ココはまだ地獄。
ただ以前とは大いに違う場所。
償いが出来る場所。
あの女達は、未だに罰せられるだけの場所に居る。
そしてあの男は、未だに理解の間で納得させ続けられている。
次がやっと、贖罪の間だと言うのに。
俺はソレをすっ飛ばして、拾われた。
あの地獄を管理する者が居るココへ、ココの姫に拾われた。
《あぁ、そうだな》
『はい』
俺とあの男に合わせ、罰はあの程度だったらしい。
今では古典的なワイヤーカッターだレーザービームだ、ショットガンだ溶液噴射だ、電子レンジだ焼死だと課され続けている。
そうして耐えられ無くなれば、記憶をリセット。
けれど不意に記憶が戻り、恐怖が倍増した中で生を終え、再び生き返る。
死んでいるけれど、生きている。
喉は乾くし腹も減る。
クソもしたくなるし、痒みも痛みも有る。
《痒さのあまり、掻き毟って死ぬ罠は無いのか?》
『天の才ですね、はい、直ぐに用意させますね』
《いや》
『流石ですお兄様、お兄ちゃん』
一見、可笑しな幼女だが。
ココでは寧ろマトモな方。
ココは地獄。
だが俺が罪人だからか、意外にも住み易い。
いや、どちからと言えば天国だ。
《はいはい、ヒナ様》
『ヒナちゃん』
《それは》
『ヒナたんが良いですか』
《いや、まぁ、追々で》
『では追々で』
自分に傷を付けた者に良く似た罪人は、今度は娘が同じ事をされ、とうとう泣き崩れた。
全く、スッキリしない。
寧ろ、虚しさすら有る。
「ココまでされないと分からない馬鹿を」
《君は彼を信じた、その事だけは褒められるべき点だよ》
「伯爵」
勘は大切だ。
蔑ろにし、馬鹿な助言も鵜呑みにしてしまった結果、傷付いた。
この傷は半ば、自業自得。
けれど、未だに上手く処置が出来無い。
《傷と向き合う事は、確かに君の自業自得、けれど他は無罪だ》
安易な開き直りは、単なる馬鹿が行う事。
そんな馬鹿よりマシな程度、馬鹿は馬鹿だ。
「息を抜く場が分かりません」
《鵜呑みにしなくなった、それは確かに賢い選択だけれど。問題は誰を信じたいか、じゃないかな》
今の心の中には、ユノちゃんとココの兄が居る。
ユノちゃんは賛成してくれている、けれど。
「ココに居る兄が、本当に大丈夫か心配するんです」
《あぁ、異性の身内だからね、分かるよ》
「男親は、どう安心しますか」
《やっぱり経済力だね、最低限は有って当たり前、それと身持ちを崩さない賢さ》
「他には、無いでしょうか」
《如何に愛されているか、孫はどう育つか、愛する娘が無理をしないで傍に居られるか》
「住む世界が違い過ぎて、育ってきた環境の乖離がエグいんですが」
《なら試せば良い、嫌なら向こうが引き下がれば良いのだから》
「多分、脱落されるのが嫌なんです、それに後から文句を言われるのも嫌です」
《半端に記憶を取り上げたら良いんだよ、永遠に羨ましがらせ、そのまま未練がましく死ねば良い》
「あの、仮にも」
《好意だけを消しても良い、選ぶ権利は君に有る、試されるだけの事を彼らは行った》
「それは、元老院に」
《そうだね、手加減が難しい事、君が悩んで当然だよ》
「すみません、もう本当、グダグダと」
《好意も善意も無い者の言葉は、忘れた方が良い。実の成らない棘、単なる毒、決して薬にはならない。けれど君には薬が必要だ、不快感の無い、美味しい薬を長く飲む必要が有る》
「繊細さを謗る鈍感に、折れる必要は無い」
《そう、こうやって、いつしか身に降りかかるのだから》
「そう思えない相手が居るんですが」
《その為のココ、地獄だよ》
死後の世界は、誰にも分からない。
なら、少しは勝手に都合良く解釈しても、誰にも迷惑を掛けないなら構わないだろう。
「是非、はい、お願いします」
《よしよし、良い子だね》




