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75 彼女は誰なのか。

 休暇を無事に過ごし、4号とは関わらない日々が続く筈が。

 結局はノーク君がプール付き遊園地案を気に入り、帝国領で暫く過ごす事に。


 そして、問題が発生した。


 どうやら和食の香りを嗅ぎ付けたらしく、存在をバラす事になり。

 一先ずは東の国の者だ、と言う事になってしまった。


 思いの外、上手く接触がいかなかったらしく、元老院から補佐をしてくれないかと。

 なので補佐をしていたんだが。


「何で、こんな事を」


 折角、じっくり煮込んだ牛すじ煮込みが。

 何だコイツは。


 食べ物を粗末にするヤツは大嫌いだ。

 何で、転けたフリをしてぶち撒けた。


《コレは一体、どうした事なんだろう》

『ごめんなさい』


 あぁ、コレが狙いか。

 成程。


 しっかりと目に涙を溜め、ポロポロと涙を零す。


 そして長い間、それこそ誰かが話すまで。

 ずっと、このまま。


 誰かがコチラを責めるのを、ずっと待つのだろう。

 だが、コチラは既に経験済みだ。


「実は私、こうした事は2度目なんです」


《ネネ》

「初恋の人が居たんです、学校に。そして、クラスメイトも同じ人が好きでした」


 私は恥ずかしがり屋で、その日に渡す筈のプレゼントを、どうしても渡せなくて。

 休み時間に机の中に入れていた、そして戻って来ると、プレゼントは無かった。


 誰かの悪戯だろう、探せば何処かに有る筈だ、と。


 ですが下校時刻になっても戻らず、探す宛も無く帰りました。

 家に帰って家族に泣き付きました、でも元は持って行ってはいけない物、諦めるしか無かった。


 そして休みを挟み登校日、好きな人が私が作ったマフラーを着けていた。

 けれど、一緒に登校していたのは女の子。


 私は休み時間に、女の子を問いただしました。

 けれど目に涙を溜めて何も言わないまま、授業の鐘が鳴り、好きな人に問い詰められた。


 女の子は良いました、ごめんなさい、ネネちゃんと同じ人を好きになって。

 以降、彼女は黙ったまま、休み時間が終わり。


 翌日から、私を見れば涙ぐむ。

 私は男の子や周囲からイジメていると思われ、何を言っても、もうダメでした。


 ですがあまりの事に、3日目には私も泣きました。

 同じ人を好きになったからって、マフラーを盗むなんて酷い。


 騒がしかった筈の教室は、静まり返っていたそうです。

 引っ込み思案で恥ずかしがり屋、そう思われていた子がハッキリ物を言い、しかも大問題を明かした。


 当然、教師が仲裁に入ります。

 ですが女の子は黙って泣くばかり、片や私は泣きながら訴えた、私の手編みのマフラーだと。


 そして品物を返され、揉み消されそうになりました。


 その子の方が可愛がられていたから、あぁ、教師すら顔で選ぶのかと。

 直ぐにも親に事情を全て話し、親は贈られた子の家にも事情を話し、証言が得られた。


 包装紙の余りもリボンの余りも、まだ家に有り、学校へ訴え出た。


 当然、教師の窃盗の揉み消しも問題となり。

 女の子は転校、教師は病気休暇の後に退職。


《そう、それで男の子の方は》

「無いですね、何も」


 そしてクラスメイトも。

 言い訳が思い付かなかったんだと思います、あの子の様に。


『でも、信じて貰えただけ、転校しなくて済んだだけマシじゃないですか』


《比べる事かな》

『でも、だって、私は』


《君はそもそも、嘘、だろう》


『違います、何で』

《君の名はユノ・ナダギでは無く、イワナガ フミコ、ユノ・ナダギの嘗てのクラスメイトだろう》


 泣いていた筈の彼女が、スッと表情を消した。

 それが堪らなく恐ろしかった、そしてユノちゃんを思い出した。


 きっと、ユノちゃんもコレを見たのだろう、と。


 そして聞いていた通り、彼女は逃げ出そうとした。

 けれど、直ぐにケント氏が捕まえると。


『いやぁあああああああああ!!』


 喉が潰れそうな絶叫。

 けれどケント氏は怯む事無く床に組み伏せ、レオンハルト氏が魔法で眠らせた。


「マジで、獣っすね」


 こうした者を放置するれば、本当に魔獣と化してしまうらしいけれど。

 真実なのだろう、そう思える様な形相だった。


 泣き喚く様な顔では無く、敵意の有る叫び。

 雄叫びに近い何かだった。




《ネネ、ハグさせて》

「それより対話をお願いします」


《分かった、ネネはどうして変わったの?》


「思いを溜め込んで泣いても、それだけでは不利だと本当に実感し、例え嫌われ様とも死なないと信じた事です。話し方の指導は専門家も含めされていたので、後は度胸だけだった。嫌われる事を酷く恐れていたんです、それに話す事も自信が無かった、でもそんな場合じゃないと大声で叫んだんです」


《大変だったね、ハグさせて?》


 不安定なネネは、肩に頭をもたれてくれた。

 可愛いネネ。


「大変でした、緊張と解放から手足は酷く震えて、恥ずかしくてムカついて。ぶっ倒れそうでした、でも都合良く倒れられないもので、過呼吸程度でした」

《味方は?》


「間の悪い事に、隣りのクラスにしか居なかったんですが。その子も、後に故あって縁を切りました」

《よしよし》


「はぁ、改めて考えると、本当に舐められっぱなしの人生ですよね」

《今は舐めて無いよ》


「ですけど、どうせ何とか」

《ならないと思ってたよ、だから直ぐに報告もした、元老院の記録を見る?》


「見たら認めなきゃならなくなるので、保留で」

《他には何が見たい?》


「報告書の全て」


 いつか言われると思ってた。


《分かった、覚悟しておく》

「諸刃の剣ですけどね」


《だよね、ごめんね》


 悩んでる。

 ならきっとネネは直ぐに読もうとする。


「やっぱり見ます」

《良いよ、原本は元老院の書庫だから、僕は行けないよ》


「あぁ、不便ですね」

《ううん、全然、だってネネと一緒に居られるんだし》


 匂いも体温も感じられるんだから、その程度の不便。

 何の問題も無い。


「では、行ってきます」

《うん、行ってらっしゃい》




 意外にも、最初から評価されていた。

 警戒心が高く、道徳心が有り衛生観念も有る。


 そう計画通りに行く様な者では無い、と。


「どう、思われましたか」

『この段階で、最低でも膿出しには使えるだろう』

《もし予想以上の者なら、アレらの相手に良いかも知れない》


『但し、相手にも選ぶ権利は有る』

《決して、無理強いはならない》


「既に見当は付いていた筈。何故、補佐をさせたのですか」


『だが、無理強いはしていない筈だ』

《アナタは何か無ければ言わないでしょう、言う事を躊躇う、言わぬ道も有ったでしょう》


 確かに、ユラちゃんを宛てがう事も出来た。

 身の上話をせず、そのままを言う必要も無かった。


「確かめたワケでは無いんですね」

『あぁ、それは無い』

《既に成果を残す手前、心配はアナタのお心の濁りのみ、どうか頼って下さいませんか》


 今まで他人を頼った事が、どれ位有ったろうか。


 家族で完結しており、他人を頼る事が無かった。

 頼る間が無かった。


 それはきっと、他人にしてみれば壁。

 若しくは、羨む位置。


 事実は分からないけれど、疎まれる存在だった可能性は十分に有る。


「善処します、ですが以降は善意を考慮して下さい、腐っても同郷ですから」


『あぁ、以後気を付けよう』

《はい》

「では」


 コレでも、頼っているつもりだった。

 けれど、確かに壁を感じるだろう事も分かる。


 そして、こんな事でも無ければ、もしかすれば言わなかったかも知れない。


 それはある意味、隠している様なもの。

 大手を振って言う事でも無いけれど、嫌われるにしても、言わなければ伝わらない。


 選ぶ材料は、提示すべきだ。




《早かったね》

「意外とマトモでした」


《でしょ》

「少し狡い事をしようとしていました、あの事が無かったら、言わなかったかも知れません」


《あんなのと少しでも似ているなんて、恥ずかしいものね》

「はい」


《ハグして良い?》


「はい」


 やっぱり、思った通りだった。

 ネネは恥ずかしい事を隠そうとした、けれど言ってくれた。


 良かった、補佐をさせて。

 ネネが思う通り、何か無ければ言わなかった筈だしね。


《僕もね、腹黒い悪しき為政者になるって、元婚約者に言われた事が有るんだ》


「それは、半ば褒め言葉では」

《本当の策略家なら、誰にも気付かれない方が良いとは思わない?》


「まぁ、確かに」

《僕なりに隠していたつもりだったんだけど、こんな愚か者にも見抜かれて恥ずかしい、悔しいって固まった事が有ったんだ》


「腹黒」

《ネネは良いんだよ、貶すフリをして褒めてくれているんだし。言うべきでは無い事は言わない、賢くて優しい、だから補佐したのにね》


 愚か者に心を砕いても、意味は無い、寧ろ損でしか無い。

 コレで、手を差し伸べる相手を少しは吟味してくれる様に、なる筈。


 可愛いネネ。

 可哀想なネネ。


 こんな僕を受け入れようとしている、優しいネネ。

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