65 アレルギー。
好き嫌いに対して、安易にアレルギーだとか言うつもりは無いが。
半ば恋愛アレルギーだと断言したい。
自由が欲しい、息苦しいと感じていたのは。
恋愛の香りを嫌悪していたから。
つまりは。
「未だ苦しいままです」
《お疲れ様で御座います、ネネ様》
今、子女に膝枕をして頂いている。
結局、ユノちゃんの様に同郷の者を求めてしまった。
いや、料理人を雇っただけと言えばそうなのだけれど。
頗る甘えさせて頂いている。
実に頼り甲斐の有る妹様、龍人さんの従姉妹、玉響ちゃん。
人種だそうで、属性は鉱物の神霊種、けれど温度変化の魔法以外は無いらしい。
そして絵と料理が上手で、即採用となった。
いや、実際に母国語の方が本音も愚痴も出し易いので、代わりと言うより居るべき存在なんだけども。
思い付かなかった。
正式に玉響ちゃんから申し出が無かったら、一生、侍女選びで悩み続けていただろう。
雇用するなら現地採用が原則だろう。
そう勝手に思い込んでいたのだから。
「お母さん」
《はいはい、産んだ覚えは有りませんよ》
「ですよね」
《ふふふ》
お互いに頭を下げ合い、頼み合った仲。
正直、友人知人より気が楽だ。
「兄弟姉妹が幼い頃は、母方の祖母が世話を手伝っていたそうです」
自分は2人しか産めなかったからと、母と伯母の子の世話をしていた。
けれど早くに認知症が始まり、妹が産まれる前には家政婦が家に居た。
口が固く、優しく頭も要領も良い人だった。
妹と直ぐに懐いた。
けれど祖母に慣れている兄や姉は、もう既に大きかったからか距離が有った。
いや、雇われている、と言う事を理解しての事だったのかも知れない。
才能の有る妹を良く構い、良く褒めた。
不満は無かった、さして特別扱いも差も無く、寧ろ当然だとすら思っていた。
けど、その違和感に気付いたのは妹だった。
両親と妹、家政婦が話し合いをした次の日。
子守りが雇われ、やっと違和感に気付いた。
平等でも公平でも無かったと。
子守り専門では無い、本当にただの家政婦なのだから仕方が無い。
問題にはしなかった。
その事を妹に叱られた。
何故、不満に思わないのかと。
両親や姉は優しいからだと言ってくれたけど。
正直、舐められてたのだと思う。
「ぺろぺろ」
《ネネ様は信じてらっしゃったのでしょう、無意識に無自覚に、善人だろう。と》
「ですね、はい」
両親が選んだ大人。
姉や兄が認めている大人。
本当にその通り、疑いもしなかった。
けれど自分で自活出来る様になると、その家政婦はひっそりと辞めた。
流石に改めて考えた時は、詫びの1つもしろや、と思ったけど。
それが傷を広げる場合も有るな、と。
実は大人は器用で不器用、完璧な人は少ないと、そこで初めて理解した。
《で、不出来な男に流された》
「へぃ」
《勘を抑え込まれる世界だとお伺いしています、完璧主義ですかネネ様は》
「いえ、そうありたいと思ってもいましぇん」
叱咤激励の際は常に、頬をぷにぷにと押され続ける。
正直、妹より可愛い妹様だ。
ちょっとシスコン発症する人の気持ちが分かった程。
いや、実の妹が可愛げが無いワケでは無い、可愛い所も十分に有る。
ただ、芸術肌にも拘らず酷く冷静なのだ。
某歌手の様に売れ筋を分析し、売れる芸術を早くに会得し開花させた切れ者。
ウチ1番の稼ぎ頭になるかも知れない。
そう、自分はドベ。
いや稼ぎについて両親も1人で暮らせる程度で十分だと言っているが、他人だ。
他人が1番に五月蠅い。
きっと、真の友人は居なかったのだと思う。
どちらかと言えば同業者、本に出て来る様な友人は1人も居なかった。
《ネネ様はお独りで過ごせる方ですから、さして必要無かったのでしょう》
全く以ってその通り。
と言うか、兄弟姉妹と一緒に過ごせていたので十分だったとも言える。
買い物は姉の付き合いで揃うし、お下がりも豊富。
勉強は兄や姉が補佐、情報は家族で共有。
全く、何の不便も無かった。
勝手に常に揃っていた。
だから恵まれていたとは思う。
けど、家族の中で明らかに最下層になってみろと。
しかも他人から指摘されまくる。
悪意無しに、悪気無しに。
そりゃ幾ら家族が良くても捻くれもしますよ。
お前らのせいでな。
「はぁ」
《お生まれになる時代が悪かったのかと、貴族は身内との付き合いが殆どですから》
「確かに、平安貴族はどうでした?」
《ソチラと、さして変わり有りませんよ、入浴の頻度は上ですが》
「そこ、そこが懸念点でした。欧州は厠事情、東洋は入浴事情、江戸こそ理想の中世」
《ですが、髪型が懸念点となる》
「そうなんですよぉ、頭に何か有ると頭痛がする」
《分かります、だから私も禿のまま、ですから》
「偶になら良いんですけどねぇ」
《上になる程、髪を上げねばなりませんからね》
向こうよりも、流行が常にコロコロと変わる江戸。
貴族はそう変えない方でも、今の流行りは大奥スタイル、上げたうえで長い髪を後ろに垂らす時代。
試しに付け毛を足しやってみたけど、クソ違和感。
けど下ろすと病人スタイル。
下ろして過ごして良いのは庶民限定。
それもそれで考えましたよ。
ですけど奥さん、結局はか弱いアピールになっちゃうんですよ。
上げる元気も無いか酷く無頓着な傾奇者、若しくは酷い倹約家か、酷く弱い者だと主張する者か。
髪を切られた罪人か。
髪切り、と呼ばれる妖怪が向こうにも居るんですが。
要は小指の代わり、恋愛沙汰が上手くいかなかった場合の落とし前的なアレの言い訳に、妖怪に切られたとなったそうで。
コチラの髪切りは、人に憑く。
憑いて切らせ知らしめる。
コイツはヤバいヤツだ、と。
髪を伸ばしてくれる神社も有るとの事でしたが、手入れが面倒なので断った。
いや子供の頃は伸ばしましたよ、けど寝る時に下敷きにしない様にしたりだとか、編まないといけなかった。
それに、どうせ別に可愛くも無いしと、中等部の頃には既に短くしていた。
初めて切った時はもう、爽快だった。
何故、無駄に苦労していたのか、と。
最近は。
「あ、カツラが無いのは何故ですか、変装防止ですか」
《それも有りますが、髪には魔力が宿ります、お忘れですね》
ぷにぷに、ニコニコと。
もう、癒し。
幾らでも分からせられたい。
「ふぇい」
確かに幼女に威圧感は無いから、幾らでも注意されたいけれど。
分からない、実行しちゃう方のロリコンは滅びれ。
白馬の王子様と一緒。
所謂、かぐや姫。
理想だけれど決して実在しない。
しない。
《あら、綺麗な白子の象ですね》
白い象に乗った、王子様。
「“誰ですかアナタは”」
『“どうも、国の差し金、隠し札。あだ名は鳥です、宜しくネネ様”』
金〇武を彷彿とさせる。眉が濃い爽やかイケメン。
「“苦手です”」
『“あ、はい、承知しました”』
そうして王子様は去って行った。
《ふふふ、面白い方ですね》
「私室を覗く無法者ですけどね」
膝枕でぷにぷにされてるの見られたわ。