63 赤の憤怒の国。
亜熱帯気候の土地だからか、もう春だからか。
赤の憤怒の国は、暑い。
場所を整理すると、真ん中の砂漠地帯は虚栄の国、そして憤怒の国はアジア圏。
そのまま反時計回りに行くとレオンハルト氏の悲嘆の国、その横には現帝国領となっている元虹の国、そして帝国領。
そのまま横へ行けば強欲、怠惰と続き、その上には北欧領。
下にはアフリカ大陸、怠惰と虚栄の間はソロモン王国領となっている。
ほぼ向こうと大陸の形は同じ、けれど決定的な差が有る。
大きな川が各国を分断し、スエズ運河に至っては、通り放題。
そうした海運や航行は、全て美食の領域。
例の船乗りさんは、実は美食側、故郷の味に飢えていたら連絡がし易いだろう、そうした心配りも兼ねていたらしいが。
見事に無下にしてしまった。
《ネネ》
ルーイ氏は現在、ショタだ。
しかも色素の薄いショタ。
土地を離れれば離れる程、能力が弱くなる王族の呪い。
既に魔獣ジャンルとなったルーイ氏は、黒い髪色も濃い紫色の目も、現在は薄紫色と現実離れした色になっており。
魔獣の頂点に非常に似ているが、ショタ。
「何ですか」
尚、ココは離宮と言うか別荘、実に東南アジアらしい建物となっている。
黄色いトンガリ屋根に白い壁、白い柱はギリシャ神殿を彷彿とさせるが、その建物は祭事用。
住居はご想像通りの、ほぼ竹で出来た住居。
高床式、且つ高い天井にハンモック。
当然、衣類も南国仕様。
非常に過ごし易い。
《実は僕の元婚約者が、この国に居るんだ》
可哀想になる程の、お花畑ちゃん。
多分、熊と仲良く暮らせるタイプだろう。
「それが何か」
《興味無い?良い見本であり、悪しき見本》
確かに、アレだけのお花畑で居られる程に平和だった。
しかも未だにお花畑なら。
いや、面倒の極みそう。
「面倒は勘弁です、それに古典も嫌いですので、下手をするとアナタも嫌いになるかも知れません」
因みに憤怒の国の王宮は、紫禁城に存在している。
興味は有るけれど、念の為にタイ辺りで様子見をさせて貰っている。
そうしてある程度、知識を得てから。
《構って?》
少年ルーイ氏は、実に外見は可愛らしい。
だが、中身は相変わらず。
「自習してるのが見えてませんかね」
《休憩しよう?》
正直、可愛い。
東南アジアの衣装とのミスマッチ具合が、逆に良い。
見ているだけ、なら。
「自分にこんな趣味が有るとは思いませんでした」
《精子にも劣化は起こるからね》
「あぁ」
コレは合法か違法か。
いや、法的には問題は無くても、この外見を食べるのは流石にちょっと無理。
せめて、もう少し。
《殿下》
《カイル、邪魔しに来たの?》
《はい》
「ナイスカイル氏、どうされましたか」
《俺の事を聞いて頂こうかと》
ルーイ氏はココで襲われ、カイル氏が付き添う事になった、としか知らされていない。
他にも何か面倒な事が有ったのか。
「是非」
彼は正直者だ。
少なくとも、陰謀を目論む側では無い、筈。
《母方の祖母の姉の孫の子が、襲ったんです》
「それは、ほぼ赤の他人では」
《元は関わりも殆ど無い豪族、成り上がりの領主でした》
領地経営も問題無く、それこそ大きな問題も無かった。
けれど、だからこそ帝国から話が来た際、幾ばくか繋がりの有る俺との顔合わせを中心とし。
あくまでも視察は、軽く行われる程度。
それがどうしたワケか、その遠い親戚は勘違いをした。
もしかすれば、帝国とも繋がれるかも知れない。
「阿呆ですね」
《はい、そして阿呆は娘を押し付け様とした》
王位継承権の端であれ、優秀ならば妾を持つ事も有る。
その大義名分しか、その親戚には目に入らなかった。
責務や義務、それに添えない者は問答無用で排除される。
まさか、産むだけで構わないだろう、そう思っているだろうとは誰も予測が出来無かった。
「マジですか」
《お調子者でしたが、弁えてはいたんです、その時までは》
きっと、付け入る隙を探していたのでしょう。
ただ周囲は感知していましたが、それは商売の事だろう、そう思っていたんです。
「あぁ」
《全員、気が緩んだ夜でした》
以前から健康の為にと、隊員其々に薬酒が配られていたんです。
日替わりで全員に行き渡る様に、非番相当の者にだけ。
俺は飲み慣れていたので、殿下にも進めた。
幾ばくか香辛料で荒れた胃腸に良く効く薬酒をと、殿下に勧めてしまった。
最初は平気だった。
だが2回目で事が起きた。
「気付かないものですか」
《前回の味に慣れたなら、もう少し効く様にする、そう言われ》
毒見役にも問題は起きなかった。
ですが、殿下に変化が現れた。
「魔獣の血、ですか」
《はい》
盛る事だけは一流でしたが。
付き添いは俺とレオンハルトです、直ぐに異変に気付いたんですが。
既に
「手練れだったんですか」
《いえ、ですがそう育てられていた、ある意味で秘蔵の娘だったそうです》
「あぁ」
幸いにも夢現でしたので、レオンハルトに付き添わせ、全て捕らえさせる為、手足を切り落として回った。
あくまでも殿下はトドメを刺しただけ。
殿下の手は、殆ど汚れてはいません。
《どうか俺は嫌いになっても構いません、ですが殿下の事は》
「身内の不始末をご自身でなさった、ご立派ですカイル様」
《ありがとう、ございます》
「それにしても、そんなに薬酒は、人種には効くんでしょうか?」
《いえ、それに、殿下の薬酒は非常に珍しい薬草で。ネネ様の国の、ウワバミソウ、と言うモノなんです》
「大蛇、龍の系譜だからですか」
《はい、ですが、今はお変わりになったので。もし何か有ってはと、先に、謝罪させて頂こうかと》
昨今では、非常に珍しいスライム種。
帝国領では王族の血が発揮される為、薬草が効かなかったとしても。
もしかすれば、ココでは効いてしまうかも知れない。
「ウワバミソウを、既に試したんですかね」
《漬け物だけですが、はい、特に変化は無かったんですが》
「生はどう出るか」
《しかもココなら、はい》
「興味本位で尋ねますが」
《俺はガルーダ、蛇を喰う魔獣の血が、濃く流れています》
「ですけど、西洋顔」
《母の血の影響が強く、父にも若干の混ざりが有りますので》
「その、末席でらっしゃると」
《妾の子と言うか、子だけを欲しがった両親の、打算の産物です》
「それはまた、非常に」
《両者共に仕事人間でして、ですが悪い親では無いんです。一見すれば、ただの家族に見えますから》
「その、本妻さんとは」
《関わりは行事の際のみですが、特には》
「お子さんが出来無かったのでしょうか」
《欲張りだと思われるかも知れませんが、腹違いの妹が3人、居ます》
「なる、ほど」
《気に入らないかも知れませんが、出来るだけご納得頂ける様に》
「いやいや、気張らずお願いします。成程、それで張り詰めてらしたんですね」
《まぁ、はい》
「他に何か有りますか」
《一応、後宮が存在しています》
「なん、ですと」
《ですが、本来とは違います、どうか誤解なさらない様。お願い致します》
「休憩します」
《あ、はい、失礼します》
知恵熱が出る前に、引き下がる。
コレは学んだが。
『くすぐってあげようか?』
「それはまた、随分と突拍子も、無くは無いか」
『する?』
「無理」
《なら、水浴びだろう》
「ソレにします」
竹好きな所に共感が湧く。
竹林の中に、ぬるい温泉。
いや、気温はほぼ夏場に近いんですが。
冷やし過ぎず良い塩梅で。
待てよ、寒冷期はどうした。
《どうしたネネ》
「寒冷期は有りましたか」
《あぁ、正しく今だ》
「は?」
《ネネが来る少し前、ほんの10年程前からだ》
「なん、だと」
《コレから何世紀か冷え込む、小氷期なのだろう》
「一般、常識ですか」
《あぁ、そうだな、ついで温暖期だろう》
「対策は、既になされてますよね」
《とっくにな、田植えは多種、果樹も既に多く植えられている。森にもだ、獣が飢えれば人種にも損害が出る》
「すみません、すっかり抜けてました」
《問題は無い、気を休めろ》
「ふわぃ」
知恵熱を出さない方法。
それは頭を空っぽにする事。
あーーー、と頭の中に声を響かせる方法が主流だけど。
正直、最近は食べる事に依存しつつ有る。
イクラ丼食べると、暫くは頭が空っぽになる。
それと、黒蛇さんのトントン。
上手いんだ、伊達に長寿じゃない。
あぁ、イクラが切れたら何にしよう。
キャビアは興味無いし。
ウニは、別に良い。
何だ、何が好きなんだ自分。
《ネネ》
「自分の好物が分かりません」




