62 戻る。
その日、地震が起こった。
そんな中、ネネちゃんは本当に行方不明者の中に入る事になり。
私は無事な実家へと、数日後に何とか帰って来れた。
『お帰り』
お兄ちゃんだけ家に居た。
当たり前なんだけど。
何か、安心しちゃった。
《馬鹿でごめんね》
『何された、怪我か、頭を打っ』
《ううん、大丈夫、本当に、ごめ、んね》
お兄ちゃんは家で、株で稼いで生きている。
勿体無いなと思ってた、ちょっと繊細だけど、悪い人じゃないのにって。
けど、馬鹿なのは私の方。
たった数回だけ寝込んだだけだけど、いっぱい分かった事が有った。
私、本当に無神経だった。
私は嘘も方便だって思えるけど。
ネネちゃんもお兄ちゃんも、嘘が嫌いで、嘘が下手。
良い事なのに、勝手に不器用扱いしてた。
真面目で誠実で、良い人なだけ。
だから外は生き辛くて、身を守る為に、閉じ籠もっちゃうだけなのに。
勝手に、自分の方がマシだって。
『泣くなら上がれ、通報されても困る』
《うん、ごめんね》
『メシは』
《ううん、駅前で食べた》
『じゃあ風呂、荷解き、洗濯』
《うん、荷解き先にする》
『分かった、部屋に居るから、何か有ったら言えよ』
《うん、ありがとう》
余計な事は言わないし、言う時は本当の事で、正解で。
だから、もう、ダメなのかな。
偽ユノはもう消えたし、もう、終わりなのかな。
「あら、ユノちゃん、お目々真っ赤ね」
洗面所の鏡には。
《ゼパルさん?》
「あー、良かったわ、まだ記憶が有るのね」
《あ、え》
「いずれ消え、死の直前に思い出す、そうして辻褄が合う様になっているの」
《そんな》
「まだ回り足りないものね、後悔ばかりよね」
《うん、けど》
「戻れるわよ異世界へ、けれど、暫く戻って来れない。しかも、記憶を失う事は変えられないわ」
《胸を張って、ココに戻りだがっだ》
「そうね」
《残らなぐでも、頑張りだい》
「ユノちゃん、凄い不細工、ふふふ。じゃあ、良い?」
《宜じぐお願いじまず》
ココに来た時と、同じ様な不細工顔で女が鏡に吸い込まれると、巻き戻りが起きた。
『成程な、因果律の調整の合間に、歪みを戻したってワケか』
《じゃの、多少の事象のズレは巻き戻しにより修正される》
『けど、捻じれの影響ってワケでも』
《良い塩梅に刺さっておった杭が抜けたんじゃよ、で、再び刺す迄の時間稼ぎによりアレが巻き込まれた》
不細工女が言っていた、自身の偽
者。
最凶最悪の、偽ユノ。
『阿呆だなぁ、時期を見極めろっての』
《全くじゃよね、じゃからワシらが生まれてしまうと言うのに》
最も最悪な時期に、最も最悪な組み合わせで、最も最悪な事が起こり。
俺達クトゥルフが生まれた。
『アレは、あぁ、そうか』
《消えるのが、1番じゃろ》
ネネと言う女は、災害時に行方知れずとなり。
あの腐れ女は。
『あひひひ、ふひっ、ふひひひひ』
生き返り、地獄の苦しみを味わう事になる。
何故か病院着で大学をふらふらと歩き回っていた女が、地震により起きた爆発事故で顔を焼かれ、手足も失うが命を取り留め意識も回復する。
死ねず、顔を搔く事も出来ず、幻肢痛に悩み続け生きる事になる。
恐喝の犯罪者として。
正に、生き地獄だ。
《珍妙な笑い方じゃぁ》
『ふひっ、ふひひひっ。あ、夢の中でも追い詰めてやろう。丁度、良いのが居るんだ』
《まぁ、ココの医科学は発達しとるんじゃし、そう発狂はせんじゃろう》
『だよなー』
《はぁ、実に良い趣味じゃよね》
寝ても覚めても悪夢。
あぁ、最高だなおい、後50年はココで楽しめるぞ。
夢の中で手足も顔も取り戻させてやる、幾らでも、何でも与えてやる。
それから目覚め、絶望しろ。
良い夢も悪い夢も、予測が付かない様に見せてやる。
発狂も出来無い世界で、50年は苦しめるんだぞ、恵まれてるなクソ女。
『ひひっ、ふひひひひ』
《ほれ、お主のは暫くワイプじゃワイプ、コッチ見せい》
酷い夢を見た気がするけど、全く覚えていない。
ただ、凄い後味が悪いけど安心する様な、本当に変な感じしか残っていない。
最近まで、全然、夢らしい夢なんて見なかったのに。
《ネネ、勘が馴染み始めたのだろう》
「勘って、馴染むものですかね」
《魔獣や神霊の影響を受けての事だろう、一種の予知夢、或いはシンクロニシティだ》
「あぁ、成程」
シンクロニシティはユングが提唱した、集合的無意識だとか、霊的繋がりだとかの。
《身支度を整えてやろうか》
黒蛇さんの女体化。
凄いエロい、無駄にエロい。
いや、無駄では無いか、コッチに引っ掛かってくれれば。
『ネネ、準備しないとルーイに突撃されるよ』
「あ、はい」
コンちゃんの女体化は、可愛い。
可愛いのに性別不明で凄く可愛い、ダメだ、寝起きの語彙力。
《歯を磨いてやろうか》
「結構です」
意外とユノちゃんが居なくても大丈夫。
と言うか、そう魔獣を信用しなかった事もいけない、頼るなら信じないと。
《おはよう御座います、お姉様》
《おはようネネ》
お姉様、驚いてますわ。
お城に帰った筈のお兄様が居て、カッと目を見開きましたわ。
「おはよう御座いますエル様、ソレ、どうなさったんでしょう」
《ふふふ、お兄様、この外見で魔獣なんですの。ですから向こうの城内に入れず》
《ココで世話になる事になったんだ、宜しくねネネ》
お姉様、眉を顰めるのを我慢なさると、こうカッと目を見開きますの。
動揺を隠そうとするお姉様、実にいじらしいですわ。
「でも、一応は」
《ええ、ある程度の場所は入れますわ、ですけど》
《重要な場所には入れないからね、以降はエルが向こうで過ごす事になったんだ》
《ふふふ、そしてお兄様はお姉様と、諸国を回る》
私、あまり興味は無いのですけれど、楽しそうな旅路になりそうで。
少しだけ羨ましいですわ。
「レオンハルト様も」
『勿論です』
ほら。
「ご配慮賜りましてまして、誠に感謝致します」
ネネさんに、正式な爵位が与えられました。
そしてルーイ殿下が、お父上と別れの挨拶をしている時、彼女が現れた。
『お前の名は』
「わ、私は、私の、名前は」
いつか現れるだろう、とは聞いていたけれど。
本当に、タイミングが悪い人。
『お願いしますデバル伯爵、』
「ふふふ、勿論よヒナ様」
《そうだね》
「殿下」
《あぁ、デパル伯爵》
「ふふふ、あの子も私が引き取るわ。アナタの姿、借りるわね」
《では君は僕が、さ、旅支度を》
《ありがとうございます》
『お心遣い、感謝します』
この世界の人種にとって、悪魔とは優しく真面目で、賢い存在。
決して、排される様な事は無い。
《あぁ、思い出せないんですか》
「すみません、何か、もしかして頭を打ったのかも知れなくて」
『そうか。では世話を頼むレオン、ルーイ』
『はい』
《はい、仰せのままに》
この女は散々にユノさんの名を騙った事、そして元からの因果で、地獄を巡り続ける事になる。
《可愛いよ、ネネ》
「ルーイ、でもアナタ、婚約者が」
《君の魅力に負けたんだ、愛してる、受け入れてくれるよね》
「はい」
反省していたら、少しは手加減してあげたのに。
《ふふふ、やっぱり愚かな来訪者だったんだね、残念だよ。レオン殿下、捕縛で良いですよね》
「えっ」
『失礼する』
「ちょっと待っ」
『何処から来たかも、名も思い出せない、叡智の結晶としての価値は無いと看做して良いだろう。しかも常識も衛生観念も貞操観念も無い、それに良心も、善人なら婚約者が居る相手をしっかり拒絶すべきだ』
《ですよね》
「だって、ルーイがどうしてもって言うから」
『子供が強請れば酒を与えて良いとでも?産む機械にする価値すら無い、去勢させよう』
《ですね》
「待って、名前なら思い出したから」
『もしかして、ユノ・ナダギかな』
「そう、そうなの」
『成程、やはりパブリックドメイン化しているんだな、来訪者ユノの名は』
《前任の来訪者様の言う事は正しかった、ユノの記録に間違いは無いと証明されましたね》
「えっ、ユノが居たの?私、知り合いで」
『そして国を滅ぼす存在、悪しき来訪者、だろう』
《知っているんですよ、コチラに来る前は皇帝を誑かし、皇妃を処刑させ国を滅ぼした。その更に前は妻の居る者を唆し、その妻に刺された》
見せて貰ったけれど、本当に酷い事になっていた。
無辜の民が、何度も何度も死を繰り返してしまう世界。
例え私の事では無くても、コレは許せない、許すべきでは無い。
「違う、それは私じゃ」
《あぁ、でしたら友人を虐めていた方ですかね。コチラには既にユノノートが有るんですよ、さ、お名前をどうぞ》
「何それ、まるでデス」
『有益な事を話せないなら猿ぐつわを噛ませるが』
「言う!言うってば!」
向こうでは、悪人が居なくなる事は無い。
けれど、ココでなら減らせる、全滅だって不可能では無い。
『お疲れ様でした、デバル伯爵、』
「いえいえ、寧ろコレからだもの。ふふふ、どうなるのか楽しみだわぁ」
《君に任せるよ、じゃあね》
『何度も死ぬ事になってしまった方々の分も、お願いしますね』
「はい、お任せを」
悪しき見本は必要。
それにネネさんと、ユノさんが悲しむだろうから、全滅はさせないけれど。
私は出来る、出来てしまう。
私は悪魔の最高位なのだから。




