60 龍2。
「何か、夢を見た気がするんですが」
《幸せな夢だったか》
「はい、多分」
《新しい、龍の夢だったのかも知れないな》
「あぁ」
《食事はどうする》
「猛烈に魚が食べたいですね、出来れば白身魚」
《既に調味料や食材を仕入れられるのだろう、遠慮する必要は無い筈だが》
「手間」
《あぁ、料理人も呼ぶのはどうだ》
「ココに、言葉が」
《あぁ、そうか》
「あ、いや、ヒナちゃんを頼ろうかと」
《あぁ、何か伝手が有るかも知れんな》
「取り敢えず、適当に作ってみます」
《女体化し、付き合ってやろう》
「あ、はい、宜しくお願いします」
下準備をしながら思い出そうとしたけれど、全く思い出せず。
ただただ、柚庵焼きだけが残って、作ってしまった。
《上々か》
「食べてみないと何とも、頂きます」
影さんの女体化に互いに慣れる為、本来の侍女の方々は補佐になった。
最初の頃の様に、基本は1人。
けれど少し違う。
影さんも居るし、コンちゃんも居る。
あ、それと龍も。
慣れない、何となく居る事は認識しているのだけど、未だに姿があやふやなまま。
表に出る事も無い、不確かな存在。
《慣れたなら、夢の記憶の長さも変わるだろう》
「あぁ、成程」
ユノちゃんが居ない。
寂しくて、心細い筈なのに。
同郷、同じ容姿と同じ言葉、同じ文化の存在はどうしても心の拠り所にしてしまう。
いや、実際はかなり違うのだけれど。
違う。
居心地が良い存在が居たからこそ、勝手に、心強いなと思ってしまっている。
弱い。
弱いけど、良く、靡かなかったと思う。
あの状態で選んでしまったら、きっといつか後悔していた筈。
あの状態で失敗していたら、絶対に後悔していた筈。
不安定なまま選んでも、もっと先延ばしにしていたとしても。
彼だけ、を選ぶ事は出来無かった。
それにハーレムは、互いに望まない状態。
少しズレていたら、もう少し。
いや、かなり平和だった筈。
多分、受け入れていたと思う。
《食事時に、考え事はどうかと思うが》
「あぁ、ですね」
ネネの様子が変わった。
確かに受け入れる態勢にはなってくれている、けど、それは他の男の影響。
喜ばしさと同時に、酷い妬ましさに襲われる。
僕がネネの傷をどうにかしたかったのに。
他の男に癒された、傷が塞がれた。
僕がしたかった事を、奪われた。
ネネの心の中の居場所を奪った。
僕が占有する筈だった場所を、奪われた。
どうしてもっと、強引に。
いや、どうにも出来無かった。
だからこそ僕は魔獣化した。
そうすればネネの傍に居られると思っていたのに。
それ以上、人種には不可能な事が、ネネに施されていた。
神霊による、神化。
今なら僕にも出来る。
出来るけれど、きっと僕には耐えられない。
「どうして溶けてますか」
《ぁあ、ごめん》
「どうしました、お裾分けに来たのですが、白状しないなら差し上げません」
《どうしたら、ネネに、受け入れて貰えるかなと思って》
「それで自己崩壊ですか」
《何か、他の男に、少し心を奪われてそうだから》
「人種には無い居心地の良さだったのかと思います、ですが兄です、勘違いしないで下さい」
ネネは、そう思い込もうとしてる。
そんな事も分かってしまうのは、魔獣化の欠点だ。
《ネネの役に立ちたい、傍に居たい》
「良い所を100個、出ませんか」
《策は有るよ》
「成程、赤血球とか使うつもりですね」
《流石だねネネ》
「良いですよ、私が妥当だと思えたなら、ですけどね」
《本当に良いの?》
「別に投げやりだとか焦りでは無くて、良い加減、しっかり向き合うべきかと」
《あの男のせい》
「確かに影響は有りますが、あの方とは無いです」
思い込もうともしているし、実際にそうだとも認めてる。
無い、ネネの中に居るけれど、ネネの可能性の中には無い。
有るのは、僕とレオンハルトとの可能性だけ。
《ありがとうネネ》
例え電撃が走ろうとも、僕はネネに触れる。
話せる、触れ合えるのだから。
「はい減点」
《えー》
「私の兄弟姉妹を超えてみて下さい、それなら私も容易く靡けますし」
《教えて》
「コレは兄の嫌いな食べ物です、柑橘類のほのかな香りと甘味が有るので、ウチでは常に2種類出ます」
《家族が作るんだよね》
「はい、もう1種類がコッチです、単なる味噌漬け焼きです」
《不思議な匂いだよね、ミソ》
「ですよね、無理しなくて良いですよ、私もハギスは苦手なので」
《アレは僕も苦手だよ》
「あぁ、そうなんですね」
《ネネはどっちが好き?》
「両方、どっちも好きなので余った方を食べてました」
《もっと教えて》
「追々で。じゃ、失礼します、レオンハルト氏にも配るので」
《うん、またね》
苦手だ。
ただ、苦手なのは本能から。
大きくて強そうな、イケメン。
「正直に言います、苦手です」
『それは、俺の事だろうか』
「はい」
襲われれば力では叶わない。
走って逃げても秒で捕まるだろう。
しかもイケメンと言う事は、浮気の心配をしなくてはならない。
『ぁあ、すまなかった』
「しっかり反省して下さい、コッチはか弱い女です、しかも男に張り合う気も無いただの女。丁重に丁寧に扱って下さい、大きな熊と自覚して下さい、コチラは生まれたての仔猫です」
『分かった』
「紳士で居て下さい。触れる時は許可を求めて下さい、若しくは何か言って下さい」
『分かった』
警告も兼ねているのに、嬉しそうに返事をされてしまった。
やっぱりドMなんだろうか、レオンハルト氏は。
「そう嬉しそうにされても困惑しか無いんですが、何故ですか」
『苦手な事、弱点を開示してくれた事が嬉しい』
「あぁ、弱点。アナタは馬です、心優しい巨体を持つ草食動物、でも私を容易く殺せる能力が有る」
『触れたい』
「ダメです、流されそうになりそうなので接触は週に1度程度でお願いします、天涯孤独の凡庸な孤児なので」
色々と、迷っていた。
ココに居着くか。
どう生きるか。
なのに、ユノちゃんと言う支えを失った反動か、兄妹が出来たからか。
急に、吹っ切れてしまった。
自分は弱い、とても弱い生き物の純血種。
しかも生後半年にも満たない、経験の乏しい人種。
きっと向こうに戻ったら、家族を頼る元の生活に戻るだけ、自信も無く縋る人生になる。
少し噛み合わないけれど、家族は幸福を願ってくれる人達。
向こうの体は死んでしまうかも知れないけれど、魂はココで向こう以上に幸せになる予定なので、どうか安心して欲しい。
『ネネに尋ねたい事が有る』
「何でしょう」
『ココに居る決心は出来たのだろうか』
「勿論」
向こうには便利な魔道具も、魔法も無い。
か弱い自分は、向こうでは安心して幸福には至れない。
なので悲しまないで欲しい。
少し早めに、他へ生まれ変わっただけだから。
『ネネ、次は俺に抱かれる筈だったが』
「覚えてましたか」
『先送りにして構わないが、処女は貰う』
喧嘩にならない方法を、考え。
あ、クッカーニャで良いか。
「喧嘩は困るので、改めて決定方法を考えます、では」
遊園地にクッカーニャ。
忙しい、まだ行きたい場所が有るのに。




