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6 訓練。

 ルーイ氏とは正式な婚約者となった、けれども表立って公表はせず、先ずは次の来訪者用の訓練をする事に。


「では先ず、美味しそうに食事をする所からで」


『あぁ』


 お望み通り役に立つ、しかも食の文化交流もすると言うのに。

 ラインハルト殿下は暗い。


「何に一喜一憂してるか知りませんが、コレは訓練です、それとも他の者にさせますか」


『いや、すまなかった、受けさせてくれ』

「では、少量をご用意させて頂きましたので、お口に合わなくても表情を崩さずお食べ下さい」


『分かった』


 流石に納豆は暫く無理そうなので、ピラフから。

 コレは普通に好評、けれど味噌汁はやはり苦手、でも味噌漬けは平気。


 どうも殿下は、僅かな酸味が苦手らしい。

 それと生醤油の香りも。


 刺身出したら泣くかな。


 いや、イクラの醤油漬けならイケるかも知れない。

 魚卵の塩漬け、ココではタラコが食べられているんだし、イケるだろう。


 と言うか、イクラ食べたい。


 いや、コレは追々だな。

 自分へのご褒美にしておこう。


「はい、では次にパーソナルスペース、ボディランゲージについてですね」


 こうして、姉と兄から得たキャバクラの技術と知識、ホストの接待術を叩き込む日々が続く事となったのだが。

 殿下が日に日に暗くなり、とうとう話し合いの場を設ける事に。




『すまなかった、さぞ俺達が愚かに見えていただろう』


「まぁ、はい」


 ネネの圧倒的な接待術は、実に効果覿面だった。

 あのルーイですら、ネネに傾き始めている様に見えた。


『本で見知っていた事と、実際は、随分と違うな』

「古い文献と生きた見本ではかなり違うでしょうね」


『あぁ』


「こうして湧かされた好意は殆どが偽物です、どうか決して惑わされず。と言うか婚約者とはどう接していたんですか?」


『今思えば、かなり他人行儀だったと思う』


「それも理由が」

『そこまでする意義を見出せなかったんだ、結婚してから、そうした事をすれば良いとしか思っていなかった』


「繋ぎ止める努力をしなかった」

『あぁ』


「いや、まぁ、殿下だけの失敗だとは思いませんし」

『君に全く気を向けられない事が、寧ろ、残念なんだ』


「そんなに信用なりませんかね」

『いや、どちらかと言えば好ましいと』


「それは幻想です、作られた好意で」

『こうして学ぶ前からなんだ』


 ネネは既に魔道具を使用している、だからこそ、コレは嘘では無いと分かっている筈。


「ムキになってらっしゃるだけでは、他ではさぞ黄色い声援を浴びてらっしゃるかと、だからこそ繋ぎ止めなかったのでは。その座に居られるだけで満足だろう、と」


『正直、代えは居ると、何処かで思っていた事は認める』

「まぁ、来訪者や皇太子よりは代えが効くでしょうし、致し方無い事かと」


『真剣に、考えてくれないだろうか』

「何故」


『なっ』

「利が無さ過ぎて意味が分からないんですが」


 今まで、自分が如何に立場に依存していたのかを理解し、愕然とした。

 ネネに利を呈示出来無い、にも関わらず、情に訴え掛けるだけでは。


『すまない、コレでは前と同じだな』

「いえそこまでは言いませんが、少し舐められてる気がして不快ですし、こんな皇太子で大丈夫か。そうした懸念が浮かんでしまいますね」


『すまない』


「このままでは心配ですし、もう少し女性に慣れて頂く必要が有りそうですね」


『もし、拒否すれば』

「いえ、構いませんよ、補佐が信用出来るなら国内で生きていれば良いだけですし。ただ私は国外に行く予定です、視察も兼ねて諸外国を見なければ、この国の間違いも見えませんから」


『もし、俺が同行したいと』

「皇太子が国外に行くとなれば、相応の理由が必要では」


『君の護衛となれば』

「それは私が認めません、ご自分の間違いを認めたくないなら、他の事で解消して下さい」


『この好意が間違い、か』

「間違いでは無いのかも知れませんが、アナタは私の何を知って好いたと仰るのか。優しさだ賢さだと仰るなら、ココの者はどれだけ質が低いんですか、それに質を見極められる程接しているのかも疑問ですし。正直、この程度の女に傾くとか、ガッカリと言うか何と言うか。コレでは本当に、この国、滅びますよ」




 すっかり頭を抱えてしまったので、侍女と共に下がらせて貰う事に。

 と言うか、ルーイ氏、良く口を挟まないで居たな。


『あの、ネネ様』

《僭越ながら》

「辛辣と思われても結構です、国外に行くとなればもっと鍛えられる事が起きるかも知れないんですから、今のウチに折っておくべきなんですよ」


 平和なら平和ボケで結構、兄弟姉妹がしっかりしているなら、それでも構わないだろう。


 けれども外交は別だ、それこそコチラの少しのミスで付け入られたら胸糞悪い、盤石なら安穏としていれば良い。

 補佐し守られ、それなりの相手と結婚し、それなりの幸せを。


 そうか、来訪者は諸刃の剣。

 マジで得ようとする者も現れるのか、面倒だな。


 そろそろ、魔法の講義をお願いすべきか。


《大変、失礼を》

「いえ、それより、そろそろ魔法について学びたいので手配をお願い致します」

『畏まりました』




 私は女性の魔導師。

 この方が来られてから、お声が掛るまで、ずっと城にて待機していたのですが。


 とても不安でした。


 もし、私が呼ばれなければ、最悪は愚者が来訪してしまったと同義。

 ココを知らない者が知ろうともしない、それはあまりに愚行、最悪は殺処分。


 更に言うなら、ココが滅ぼされてしまう場合も。


 ですがネネ様は良い方でした。

 勉強熱心な方で集中力も有り、しかも頭の回転も悪く無い。


 本当に安心しました。

 ですが。


『残念ですが、魔力容量は多いですが、ネネ様には魔法の素養が薄いかと』


 魔法の素養とは、端的に申し上げて魔法に対する造詣、発想力。

 通常の魔法行使には問題が無いのですが、幾ばくか特殊なモノの会得は人並み。


「あぁ、ですよね」

『ですけれど、魔道具も御座いますので』


「あの、この袋は?」


 ネネ様が指を指したのは、非常に使い勝手が悪いとされる、収納袋。


『ストレージの魔法が掛かっております』

「えっ、使いたい」


『使用は勿論、持ち込みすら禁止されている場所が殆どですので』

「あぁ、何でも入れられて何でも運べちゃいますもんね」


『はい』


 話が早くて助かります。

 最悪は、1から10まで教えなければならない、そう覚悟していました。


「その、ストレージの魔法の習得には」

『そうした魔法を既に持つ者との契約で使える様になります、本来の(ヒト)種は、魔法は使えませんから』


「ほう、では契約先は?」

『魔物、聖獣、そうした者との契約です』


「成程、三点方式か。あ、続けて下さい」

『契約を成立させる方法は、多岐に渡ります』


「ほう」


『ストレージの魔法ですと、吸血鬼との婚姻や。肉体の、一定以上の提供が、主だそうです』


「ほぅ」

『それでも、魔道具と同様、使える範囲は限られますし。相手のランク次第では、例え魔力容量が有っても、制限が掛ってしまいます』


 例えるなら、大きな薪を小さな窯で使用する様なもの。

 そして幾ら小さな魔法でも、次は継続力において格段に長く保てる。


 個人としては、魔力容量が大きい事は問題になりません。

 ですからネネ様の場合でしたら、心配する事は無いのですが。


「身近に居りますか、そうしたモノと契約した方」


『いえ』

「何故」


『女の場合ですと、血も身も捧げる、餌であり花嫁とならなければいけませんので』

「あらまー、成程、それで便宜上は一夫一妻制だと」


『はい』

「カイル様にも居りますか、そうしたモノが」

《いえ、愛馬など、主に戦闘用の魔獣や聖獣です》


「おぉ、一緒にして大丈夫なんですか」

《ウチは大丈夫ですが》

『相性によりますね』


「成程、クソ複雑そうですね」

『はい、魔法を得るには先々の事を考え、かつ得られない場合も想定しなければなりませんから』

《はい、流石の俺も頭を使わされましたから》


 器が小さければ小さい程、組み合わせを考慮せねばならない。


 ネネ様の器は膨大です。

 ですが組み合わせ次第では、得られぬ魔法が出てしまう事も想定されています。


 ですが、それは荒唐無稽な想定の場合のみ。


「成程。あの、話題を変えますが、どうして外側に閂が有るんでしょうか」


《あ、あぁ、アレは。最悪は、来訪者様共々、閉じ込める為です》

「やはりそうでしたか」


《申し訳御座いません》

「いえ、疫病も、それこそ悪しき者ならそうすべきですから」


《ですが、こうしてネネ様は》

「あ、外観や何某の偽装は不可能ですか」


『あ、はい、場所によっては』

「つまりココには結界が有る」


《はい》

「あ、相応の説明責任を負っている者に聞くべきなら、その方から聞きますが」


《いえ、俺はそうした者ですから》

「成程、役割分担してらっしゃるんですね」


《はい》


「今日はこの辺で休憩させて下さい。カイル様、出来れば文章でオススメの魔法や魔獣、聖獣をお願いします」

《はい》


「先生、長々と失礼致しました、またご指導願えますでしょうか」

『はい、勿論』




 思っていたより、実はこの国しっかりしているのかも知れない。

 情報を局所集中させず、部門毎に分けている。


 もしかすれば、元老院すらも、敢えて殿下を当て馬に。


 いや、だとして。

 いや、分からないな、まだ判断のしようが無い。


 現時点では、問題は起きてはいないのだから。


「はぁ」


《大丈夫?ネネ》


 あぁ、コレもどうにかしなければ。


「偽の婚約者なのをご理解して頂けてますかね、お気持ちにはお応えしかねます、それにどちらかと言えば童貞の方が好ましいですから」


《なら、どうして》

「皇太子が非童貞でも童貞でも選びません、兎に角、面倒が嫌なんです。私にそこまでの器用さと賢さは有りません、どうかご理解下さい」


《ネネは賢い方だよ》


「ココではそうでも、向こうでコレは中でも良い評価の方、上には上が居るんです」


《それは、それこそ統治者ともなれば》

「家族です、私は家族に比べれば下なんです。すみませんが落ち着いて考え事がしたいので、どうか出て貰えませんか」


《分かった、ごめんね》

「いえ」


 あまり、自分の事は言いたくなかったのに。

 仕方無い、有能だと誤解されるよりはマシだろう。


 向こうの様に勝手に期待され、勝手に落胆される。

 それだけはもう、本当に嫌だ。

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