53 東洋編2。
お2人は、本当に僅かな情報しか知らず、無線機的な魔道具で指示され話していただけ。
そして、全て、上に見聞きされていた。
「はぁ」
《でも、コレで自由なんだよね?》
《実は》
『もう1つ、有りますのや』
もう1つの事に、ガッカリしなかった自分は、幾ばくか無共感者なのだろうか。
魔道具の市女笠を付け、下町に降りた。
その下町の一角では。
妖怪が、転移転生者を、飼っている。
市女笠に付いている、虫の垂衣を通すと。
妖怪の本来の姿と名が見え。
「正直、安心してしまいました」
『あ、好感触なんやね』
《まぁ、私も、凄いのが居たって聞いてますから》
《なら安心やな、仕方無い事やねんけど、良い事とは完全に言い切るんは難しい事やから》
「すみませんが、寧ろ良い事ではと思いますが、何が懸念事項なんでしょうか」
《自由や無い、っちゅう事やな》
「監視対象だと確定しているなら、問題無いのでは」
『せやけど犯罪は犯してへん、せやのに監視拘束するのは人権侵害や、言うて』
《お前らが悪やー、言うて何回か襲われてますねん》
「あぁ、愚かな同郷が大変申し訳御座いません、ソレらを存分に使い倒して頂いて結構です」
《いやー、流石は帝国に公認されはっただけは有るわ、うん》
『はぁ、コレでやっと気兼ね無く話せるわ』
《あー、ココまでが試験だったんですね、成程》
「存在を知り、秘匿する有益性は理解していますし、ココの流れも尊重します。と言うだけでは、確かに不安要素は抱えたままになりますからね」
《せやせや》
『どんなに綺麗事を言わはっても、目の当たりにしはったら心変わりしはる、かも知れへん』
「飼われている者からの反乱が無いなら、ある意味では人権は守られているのだと思いますが」
《悪魔とはちゃうくても、妖怪の本質は分かってはるやろ》
《妖怪の、本質?》
「天邪鬼やサトリ、どれも人と関わってこその妖怪、人無くしては成立しない存在」
『せやね』
《お互いを認識してこそ、人と妖怪や、しかも妖怪は人がおらんかったら満たされへん》
「垢舐めさんはもう、本当に満たさないでしょうね」
《あ、そっか》
《せやせや、餓死しはるわ》
『しかも妖怪に舐められたい人がおったら、それはもう、成立してはるやろ?』
「そう洗脳したのでは」
《教育と洗脳、何が違うんやろかね》
《えー》
「先を考える力を養い、身勝手な行動をさせないのが教育、洗脳はほぼ逆かと」
《せやな、世の駒やけど、大将にもなれるんが教育や》
『洗脳言うんは歩、一辺倒、何も面白くあらしまへん。妖怪はそこに過敏やさかい、逆に厳しいんやわ』
「人の作為を感じ取るとキレそうですもんね」
《あざとい、言うんはエラい嫌いな質やさかい》
『天邪鬼はんは憤り、サトリはんは驚きが好きなんよ』
《あぁ、演技なんか嬉しくもない、みたいな?》
《せやせや》
『しかも情愛が加わりはったら、加工しはった人を呪うかも知れへんし』
「コレが特別製なら、妖怪だ、と認識して接していない方も居るのでは」
『察しが宜しおすな』
《ひぇー、それはちょっと怖いかも?》
『何にも、失礼な事をせえへんかったら大丈夫やし。もう認められはった人にちょっかい出すのは、格上さん位やね』
「《格上さん》」
《ソッチで言う、神霊さんやね》
格上の神霊と言えば、何か。
『蛇の陽気が匂うな』
その何か、を思い浮かべてしまったからなのか。
音も無く天から降って来たのは、鹿の角の様なモノを生やした、人型。
そして羽織りには、龍の絵柄。
「龍神」
『俺はあくまでも龍人族の者、と名乗っている、神を名乗っては面倒な役割を与えられてしまうんでな』
《龍、人?》
『あぁ、神では無い何か、神霊種だ』
惜しい、とか思っちゃったんだけど。
ネネちゃんはバリバリに警戒してる。
「ならないのでしょうか、それとも」
『なら、なりたいかお前は、神に』
「死んでも嫌です、と言うか死んだ後に神になるとか余計に嫌です」
『そう言う事だ』
《あー、惜しいとか勿体無い、とか思っちゃったんですけど?》
『好かんヤツの平和すら願ってやる、なんて御免だ』
「そこには同意です、私怨を絡めないとか苦痛そうなので無理です」
《あー、確かに》
『しかも、嫌いなヤツの子孫も得をする雨なんぞ降らせる、そんな事をする位なら神なんぞならん』
「完全同意です、雷を打ち込めないなら損しか無い」
『お前、本気だな』
「はい、殴る権利を無駄に放棄する、だなんて愚の骨頂だと思います」
『だが、その一撃すら改心の切っ掛けとなるなら』
「償いが無い限り許さない」
『完全同意だ。流石、蛇の陽気を纏うだけは有るな』
「それ、褒められているんでしょうか」
『褒めている、率直さや素直さは神霊の好む所だ』
「害さないで頂ければ結構です、ありがとうございました」
『力が欲しくはないんだな』
「ぐふっ」
《何で吹いちゃった?》
「失礼しました、古典的な定型文が来るとは思っていなかったので、つい」
『そう柔らかいのも良い、柔軟性は万物を惹き付ける』
「結構です、それなりに声掛けは頂いておりますので結構です」
『気に入った』
「結構です」
『案内してやろう』
「加虐精神が旺盛過ぎでは」
『人が嫌がる事を進んでするのが俺だ』
「どっちの意味で、でしょうか」
『両方なら、どうする』
「遠慮させて頂きます」
『あぁ、お前への利を提示していなかったな』
各国を見回った私でも、見事に腰に手を回したかと思うと、流れる様に耳打ちをする一連の流れに。
思わず見入っちゃった。
「一生、清い水に困らないって、それほぼ神様では」
『向こうの妖精程度でも出来ると聞いているが、こう公にするか』
「身を守る為ですから」
『こう堅いのも良い、清さを保とうとしない池に興味は無い』
「何で好かれますかね」
『教えてやろうか』
「まさか、愚かな女が多過ぎてこうなら、逆にキレますが」
『流石に違うが』
「はぁ、女性はもう1人居るんですが」
《ねー》
『コレはココと縁が薄い、所詮は糠の釘だ。だが良い酵母を付けた釘、いつか何処かで重用されるだろう』
「発酵食品子、醸すさん」
《私は新しい酵母菌かな?》
「良い設定だと思う、次でそう自己紹介して欲しい」
《確かにこの柔軟性は面白いかも》
『だろう』
「知った風な口を」
『知ると言うより分かる、そう言う事だ』
《精霊と神様の間の子?みたいな?》
『そう捉えてくれて構わない、ただ立場は悪魔とさして変わらんがな』
「自治はどの様になさっておいでで」
『こう真面目なのも良い』
《ですよねー》
「もー」
《まぁまぁ、ご案内頂けるならお願いしよ?》
「面白がってる?」
《うん、はい》
思わず両手でサムズアップしちゃった。
だってネネちゃん、困ってる時が可愛いんだもん。
『では、お前は雲で良いか』
《おぉ、触れる雲、凄い》
「じゃあ私もコレでお願いします」
『定番は俺に抱えられて運ばれる筈だろう』
「そ、定番を敢えて外しているワケでは無くて」
『だろうな、ほら』
《お揃いだねー》
「はぃ、宜しくお願いします」
守りを固めている筈が、防戦一方ながらも徐々にやり込められている気が。
いや、事実だ。
嫌がっている事を喜ばれている。
高等なイジメに遭っている気分だ。
『顔が良いから拒絶し難いんだろう』
正解だ、返事すらしたくも無い。
「はぁ、顔が良いは七難隠しますから」
《確かに》
『そう選ぶべき世で生まれ育ったなら、何も顔で選ぶ事は悪く無いだろう』
「限度が有るのと、顔で選ぶ者への差別が有るので」
『だが進んで愚か者を選ぶワケでは無いだろう、騙す方が悪い、その事は世の常だと思うがな』
「顔が普通で愚か者を選びましたが何か」
『そう人を容易く見抜けるなら、困る者が減っている筈だが』
《巧妙さが増してますからねぇ、犯罪も》
『犯罪ならお前は被害者だ、迷うのも無理は無いが、過度な自罰精神は却って道を惑わせる事になるぞ』
「神様の様な事を仰いますね」
『この程度で神なら、老人は全て仙人になれるだろうな』
「話を戻します、飼われているのは転移転生者で間違い無いですね」
『生真面目だな本当に』
《良い所だと思うんですけどね?》
『だが、愚か者には窮屈に感じるのだろう』
痛い所をチクチクと。
「はいそうです、そうした文言を散々吐かれましたので」
『なら言え、対価とする』
下手なカウンセラーより質が悪い。
「生真面目で息苦しい、真面目でつまらない、冗談が通じない」
『己の不真面目さ、利己的さ故に息苦しくつまらぬと感じ、不都合な事を茶化せぬ頭を疎ましく思われたのだろう』
「はいそうです、分かっているなら」
『吐き出す事が対価となるなら、安いモノだと思うがな』
「愚かだと思うなら」
『真の愚か者は自省せん、他罰的で他責的、だがそう見抜けなかった事を何より悔いている』
「失敗を認めるのが苦手なんです」
『大きな失敗だ、恵まれていなければ子が生まれ被害に遭っていたかも知れん。それを苦も無く処理するには、些かお前は頭が良過ぎる』
「何故、ですか」
愚か者は省みぬ、お前が思う以上に。
常に根底に歪んだ己の正しさが有る事も分からんクセに、疑問も持たず、揺らがん。
つまらん、何処でも常世の者では無いモノに裁かれる典型だ、関わる利すら無い。
《あ、アレだ。ウチの国で、ウチの国の言葉で話し掛けてくれる人は、思わず絶対に助けちゃう。みたいな》
『努力ですら無く、当たり前にそうした事を率先しようとする者。それが愚かなら、この世ですら愚か者まみれだろうな』
「正直、ゴミを片す程度で褒められましても」
『誇れとは言わんが、当たり前を良しとしても構わんだろう』
《あー、当たり前だし、って。気取る感じで恥ずかしい?》
「それを肯定すると、奥ゆかしさに繋がりそうなんですが」
《褒められ慣れて無いワケじゃないのに》
『謙虚さだろうな、上には上が居ると理解してこその、裏を勘ぐる賢さだろう』
「純真無垢さを好む者は、根底の扱い易さに期待している。逆に賢さを好む者は、自らの優位性を崩さない為」
『穿ち過ぎとは言い難いな、実はそうとすら気付いておらん者も、何処にでも居るのだから』
「では、なら、どう選ぶべきか」
『塩梅と調和、それと勘だ。お前は最初の勘を理性で抑え込み、失敗した。差別や区別ですら無い、持って生まれた勘を抑え込まれた、故に失敗したに過ぎない』
《あぁ、顔で選ぶな立場で選ぶな、中身で選べ差別するな》
『そう失敗へ仕向けた真の悪を憎み拒絶するべきだろう、本能を抑え込む事だけが全てでは無い、と理解しているのだから』
「だからこそ、塩梅が難しいんです」
『中庸こそ最も険しい道だが、良く考えてみると良い、お前の周囲とて見抜けなかったのだから同罪だ。他者の罪を取り上げるな、他者の罪は他者のモノ、お前が背負えば罪が増す』
ただ他者の罪を己が罪とする者も、所詮は単なる愚か者に過ぎん。
正しく罪を分け、適正なる罪を背負う事をしなければ、正しく罪の重さを実感する事は永遠に無い。
《だからこそ、閻魔様のお仕事って大変で、それだけ役職分けをしてるって事ですよね》
『あぁ、お前も理解はしているだろう、他者の罪についてもな』
「それでも、だからこそ、他罰的になる事が怖いんです」
『愚か者に成り下がる、それが怖いのだろう』
「アレは、もう、悍ましさでした」
同じ人種、同じ言語を話し、同じ国で育った筈の何か。
異国どころか異星人、確実に地球外生命体にしか思えない。
ソレを、一時的にでも受け入れてしまった。
気付かなかったとは言えど、好いて、受け入れてしまった。
『穢れてしまった、そう思ったのだろう』
「はい」
一時的だとしても、関わり関係を持ってしまった。
あの、異物と。
確かに、どうして誰も気付かなかったんだ、とも思った。
けれど、もし、敢えて言わないだけだったのなら。
もう、縁を切るしか無い、と。
《ネネちゃん》
「完璧主義だ、誰にだって失敗は有る、別に大した失敗じゃない」
『擁護に見せかけた攻撃か』
そんなつもりは無い。
思い過ごしだ、思い違いだ、受け取り方に問題が有る。
屈託の無い、悪意の無い言葉なら、罪は無いのか。
なら、コチラが勝手に傷付いているだけだとして、同じ事が有っても許せるのか。
表面上、そうだと言っても、結局は否定する。
見て体験してしまった。
そして言われてしまった。
「あの時は、こう仰っていましたよね、と」
その時の自分に悪意は無かったけれど、アナタがそう言うって事は、仕返しのつもりにしか思えない。
何故、傷口に塩を捩じ込むの。
《それ、ダブスタの無神経バカじゃん》
「ソレが分かってても、どうせ何とも思わず生きるバカだと分かってても」
『だからと言って、傷は癒えんだろうな』
偶々だとしても、一定数は存在する。
しかも偶々だ、と主張する者すらも向こう側かも知れない、なら母数は増える事になる。
そんな世を、どうして生きたくなるのだろうか。
どうして、ただ怪我が痛いと言っただけで、傷口に塩を塗られる事を我慢しなければならないんだろうか。
どうして、そんな世をどうにかしたいと思えるんだろうか。
どうして。
《多分、舐められてたんだと思う》
どんなに良い人でも、どんなに優しそうな人でも、必ず何処かに固定概念が有る。
ソレが酷くなると偏見、差別になる。
逆に、本当に固定概念すら全く無いと、騙される事になる。
純粋で素直で優しそうな人って、子供でも分かる、寧ろ子供だからこそ敏感なのかなとも思う。
だから、それがネネちゃんの良い所なんだけど、悪い人に舐められる要因になった。
『愚かさ故では無く、純粋さが招いた不運だとも言えるな』
《そうそう、納豆を美味しいって言う感性が無いクセに、納豆を悪用した》
「分かる様な、分からない様な」
《本当に純粋じゃないから、悪用した人は気付く事すら出来無いんだよ、純粋さに漬け込んで騙したんだって事が》
『もう一押しだな』
《んー、悪人に捕まえられた妖精、純粋な妖精は悪人には良く見える》
『少し外れたぞ』
《あ、ほら、巫女的存在なんだよ。世を測る道具的な巫女で、蔑ろにされると世が滅ぶ装置》
「滅んで、くれて無いかと」
《そこは何人も居るのと、それにも罪悪感を持つだろうから、分からない所で世が見放される》
『戻らんなら、本当にそうなるかも知れんが。その事に幾ばくか悩むのも、巫女らしいと言えば巫女らしさだろう』
《純粋さを恥じろって、それこそどうかしてるじゃん?だって悪を悪と直ぐに分かる事がダメ、なんだから》
「でも」
『愚か者と純粋な者の違いは分かっているだろう、だが自身を良き者だと判別する事を拒絶している、それで正しく道を歩めるか』
《はい、休憩で》
『仕方無い、そうしてやろう』




