45 精霊。
「悪魔については」
アレは当初、人型を取ってはいなかった。
少し変わった生き物が居る、私達はそう思うに過ぎず、関わる事も無かった。
『アレは遠慮していたのか、あの場では言わなかったが、私達やアレの名を呼んだのは古き星の子らだ』
そうして悪魔達は自己を認識し、私達も又、認識させられてしまった。
そうである、と。
「星屑とは呼ばないんですね」
『初めは異なる星から飛来した者、流星と呼んでいた』
善い悪いの基準が無かった時代、私達は星の子の話す事を聞いてしまった。
そして認識し、理解してしまった。
星の子は、善意から情報を齎した。
けれど、それは私達にとって、悪だった。
人型になってしまい、戻れなくなったモノ。
人種への恋しさを募らせ、消えてしまったモノ。
変化が生まれ、混沌が生まれ、新たな種族が生まれた。
私達は、流星を処分する事を決めた。
けれど、悪魔達は抵抗した。
《僕らが飼い殺す、だからどうか見逃してくれないか》
私達は同意し、監視を付け、暫く見守った。
けれど、流星の子は帰ってしまった。
「帰還、ですか」
『はい、瞬きの間に現れ、瞬きの間に消えてしまいました』
《まさに星の子だ》
そして私達も悪魔も、混乱を抱えたまま、長い長い離別の時を過ごしました。
けれど、既に知ってしまった。
『ココからは悪魔が言っていた通りです』
「何故、許したのでしょうか」
『再び流星の子、現れ消えた子の存在、ですね』
私達は未だに、情報を齎されてしまった事を悪だとしていた。
けれど、現れた子は何も齎さず、ただ過ごす子だった。
どちらにも悪意は無く、ただ良いだろう、と思う行動を選択したに過ぎない。
微生物を齎した流星を悪とするなら、生きるモノ全てを悪としなければならない。
その事を認め、存在を認めました。
本来、情報に悪も善も無い。
「包丁であり、鉛筆」
『はい、所詮は道具、全ては使い方次第』
「人種も」
『はい』
「存在を許していても、赦してはいないんですね」
『はい』
《あー、ぅうん》
「全てに好かれるのもおかしな事、しかも迷惑、最も嫌いな害虫に纏わり付かれても嫌ですしね」
《あぁ、確かに》
『害虫とまでは言いませんが、自然発火する山火事、程度ですね』
「燃えて種が散る種にしてみれば、恵み」
『他には迷惑でしか有りませんが、そうですね』
《そう虐げられてる情報、私が知らないだけって事だよね》
「ですね、妖精が虐げられるだけの物語とか有りますし、昆虫型の妖精の造形が非常に細密だとヤバいですし」
《あぁ、確かに。お兄ちゃん凄い趣味だね》
「いえ、妹です」
《ぉお、まさかの情報源だ》
「関わる事が楽なモノに引き継いで下さって結構ですよ、幻想を砕くお手伝いも致しますし」
『いえ、中にはニガヨモギを好むモノ居る、今の私をそう思って頂いて構いません』
《んー、悪魔の方が酷い目に遭ってる気がしてたんですけど、悪魔さん達は何でそんなに人種が好きなんでしょう?》
「変態なのでは」
『はい』
《あー、ドMかぁ》
『はい』
《冗談言う方ですか?》
『いえ』
《マジかぁー》
コレも、持つ者と持たざる者の違いなんだろうか。
寿命が存在し、短命な人種。
片や不死の悪魔、精霊。
「人が蝶を美しいと思う、それと同じなんでしょうか」
『それは悪魔にお尋ねを、既に純粋な人種を好むモノはもう、居りませんから』
《あ、そっか》
すっかり混ざってしまった段階で、精霊は許す他に無くなってしまっただけ。
なら、その鬱憤は。
「その鬱憤は何処で発散出来るのでしょうか」
『見世物小屋やショーですね』
《あぁ》
『若しくは、一切関わらない、そう守られた場所も有るのでご心配無く』
《でも、何か出来ませんかね?》
『立ち入るべきでは無い場所に立ち入らない、そこを守って頂ければ構いません』
《はい》
「ありがとうございました」
この方も、愛憎入り乱れる状態が今でも続いているかも知れない。
出来るだけ早く解放を。
『案内もしますが』
「ではミモザを見世物小屋へ」
《えー》
「冗談です、無難な場所を姫と回って下さい」
《スズランは?》
「もう少し伯爵と話そうかと」
《了解ー》
愛憎の入り乱れ方が良く分からないけれど、コレも精霊としての矜持なのかも知れない。
なら、せめて関わる総量は最小限に。
何も、誰かに苦痛を齎したくて存在しているのでは無いのだから。
《ネネ》
「知っていましたか、悪魔や精霊について」
《この世界の始祖、常に存在し消え去る事の無い存在。けれども神とは違う、万能では無い存在》
「具体的には」
《来訪者が使役しようとする存在、僕らにはそうした発想は出ない、見分ける1つの指標だね》
「あぁ、お邪魔しました、失礼します」
《ネネ》
「すみません、ついクセで尋ねに来てしまった事を今更気付き後悔しております、顔を合わせず過ごすつもりだったので」
《じゃあもう少しだけ、他に尋ねたい事は?》
「葬儀でのお作法について、です」
《人種の事、で良いかな》
「はい」
《衣装は黒、光物は無しで、花は生前に好きだったモノなら何でも構わない。もし分からないならハンカチを喪主に、刺繍入りでも何でも構わないよ》
「ありがとうございました」
《うん、またね》
僕は、堪らなく浮かれていた。
そして、その事に気付き自分自身が嫌になった。
激怒したかと思うと、僕は手放す事を真っ先に考えた。
そして死すらも。
そう調べ物をしていた最中、ネネが来てくれた。
堪らなく嬉しくなった。
そして、怖くなった。
恋や愛は、何て恐ろしいんだろうか。
こうして容易く感情が上下する。
制御の方法を学び、誰よりも会得していた筈が。
こうして容易く感情が揺さぶられてしまう。
手に入れたい。
手に入れて。
手に入れ、ただ僕は安心したいだけなんだろうか。
僕は、手に入れたら、ネネに興味を失ってしまうんだろうか。
怖い、怖くて堪らない。
僕がネネを捨てる、ソレを否定出来無い。
僕はネネを無難に捨て、直ぐにも政略結婚を受け入れるだろう。
嫌だ。
けれど、僕ならしかねない。
嫌だ。
『失礼します』
《レオンハルト、どうしたのかな》
『お食事のお時間ですが、如何致しましょうか』
《ぁあ、うん、直ぐに向かうよ》
『はい』
やはり、少し不安定なのね。
『そう、ありがとう』
『いえ』
『コレは主の為、引き続き様子をお願いね』
『ルーイは』
『分かっているわ、もしもの為、よ』
『どうか、宜しくお願い致します』
『勿論よ』
私は最初から王になるだろう、そう育てられてはいなかった。
外見の特徴は全て、女だった。
けれど、魔獣の血が肝心な場所で発露していた。
成長し、恋をした私は発情し。
体内に仕舞われていた生殖器が露呈した。
驚きと同時に、絶望した。
愛する人の目の前で、違う、と示してしまったのだから。
けれど、愛しい人は変わらず受け入れてくれた。
不思議な事に、変わらず。
けれど、理由は直ぐに分かる事となった。
私が王となるかも知れない、その事に思い至っての事だった、と。
私は、とてもとても許せなかった。
私は王位は要らなかった。
愛だけで、十分だった。
そして王に会える機会を経て、辞退を申し出た。
けれど王は、私を説得して下さった。
善き王は悲しみを知る者の方が良い、と、復讐のお手伝いまでして下さった。
そして、復讐を終えると同時に、王は私を指名した。
《良い男だなアレは》
『先代、お加減は宜しいのですか』
《少し咳が長く続いているだけだ、心配し過ぎてくれるな》
『どうぞ、お座りになって』
《あぁ、どう思う、アレを》
『とても危ういかと』
《あぁ、用意はどうなっている》
『はい、滞り無く』
《まさか、この代でも使う事になるとはな。やはり重圧とは、どんなに訓練されようとも、耐えるには限界が有る》
『はい』
《だが、皇帝はこうして分担するにも限界が有る。姫を守ってやるのだぞ、帝国内だけの支えでだけでは、逃げ場が無くなってしまう》
『はい』
《ふふふ、もうすっかり王だな。余計な口を出した、すまんすまん》
『いえ、先代が居てこそ、私は王として振る舞えるのです。さ、参りましょう、お茶をお淹れしますわ』
《あぁ、行こう》
私の愛しかった彼は、私が傀儡の王となる事を知り、離れていった。
ですけれど、それは嘘。
彼は某国の密偵なる者に情報を売ろうとし、処刑された。
傀儡などでは無く、支え合い。
若き王に反感を抱く者は、必ず出てしまう。
なら、先代と共に育てるなら、家臣も納得せざるを得ない。
それは家臣の次代も同じ事。
常に共に育ち続ける、コレが黒の強欲の国。
「ぁあ、次代よ、王よ、良く来た」
《無理をするな先代》
「全く、年寄り扱いをするんじゃないよ、腰を痛めただけだよ」
《無理をしたからだろうに》
「お前もだろう、咳がまだ収まらんそうだね」
《たった5日だ、大袈裟な》
『もう、ふふふ、お茶を淹れますね』
私達は血の繋がらぬ家族。
けれど、何処よりも繋がりは強い。
常に、同じ苦しみを背負って来た者を、王としているのだから。
「それで、アレを使うのかい」
《あぁ、危うさがな》
『はい、私も心苦しいのですが、寧ろ最良かと』
「あぁ、私も賛成だ、ウチの子もあの荒波を警戒している」
《俺のもだ、暴風と静寂の繰り返しだ、とな》
『では、実行させて頂きます』
「あぁ、そうしなさい」
《頼むぞ次代》
『はい』




