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43/100

43 悪魔。

 紹介された方は、ボティス伯爵。

 茶色い髪に瞳、お顔立ちは平凡、装いも落ち着いた上品な色合いと装い。


 そして特徴的なのは、牙を彷彿とさせる白く鋭い角が2本、額の生え際から生え。

 凄く、綺麗な歯。


《ボティスだ、伯爵をさせて貰っているよ、宜しく》

「はい、宜しくお願い致します」

『宜しくお願い致します』


《さ、君はコッチだ、おいで》


 伯爵は彼女を抱き上げ、専用にと整えられたであろう席へと座らせた。

 そして彼女も彼女で、座り心地や触り心地を確かめ、満足気。


 それを見て伯爵も、満足気。


『ありがとうございます』

《いえいえ、さ、君も座っておくれ》

「はい」


 ココで、ふとロリコンの文字が頭に浮かんでしまい。

 更に驚愕の事実に気付く事になった。


 長命種が短命種を愛する事が、そもそもロリショタコンでは無いのだろうか。


 つまり、ケント氏はオネショタ。

 そして影さんは、もう、何だ。


 実質不死にしてみれば、もう、ペドか。


 いや、だが寧ろペット感覚の場合も加味すると。

 ドラゴンカーセ〇クス的な異次元さだろうか。


《何やら、グルグルと考え込んでいる様だけれど》

「あ、失礼致しました、先ずはコチラをお読み下さい」


《どれどれ、成程。うん、念の為に簡易で構わないから、口頭でも説明をお願い出来るかな》

「はい、ざっと言うと他の世界を何度も繰り返させた者、ユノ・ナダギの周知とココへ来ていたかの有無。そして来た場合の対処について、です」


『繰り返し?』

「彼女が死んだ場合、若しくは何かしらの条件が揃った段階で、巻き戻り現象が起こっていたそうです。一部の者は一時的に記憶を引き継いでいたり、若しくは再び記憶が無いままに同じ事を繰り返す、若しくは記憶を引き継ぎ続ける」

《成程、確かに警戒すべきだろうね、(ヒト)種にその因果律の調整は難しいのだから》


『じゃあ、悪魔が居ない世界なんですか?』

《若しくは、神も居なかったか。いや、成程、さぞ悲劇が繰り返されたのだろうね》

「だそうです、本物のユノ・ナダギが訪れた事で、そのユノ・ナダギが何者なのかと言う事になったそうです」


《なら、偽ユノ・ナダギについて、だね》

「はい」


《君は、どう思う?》


(ヒト)種への脅威は排除したいです、それに懸念も、出来れば遊びに来て欲しいですから』

《ふふふ、だそうだ、協力させて貰うよ。全ての悪魔が、ね》

「ありがとうございます」


《先ずは偽ユノ・ナダギ、らしき者が来たか》

「はい」


 そして彼が右手を挙げると、影から古い電話機を持った若い執事が跪いたまま生え、電話機を差し出した。

 その受話器を取ると同時に、秘匿の結界が張られた。


 けれども音を遮るだけ。

 非常に薄い膜の向こうでは、僅かに口が動いている事が分かる。


 そして受話器を置くと共に、その結界は溶けて消え。

 執事も影へと戻っていった。


《お待たせ、どうやらまだ、らしい。困ったね、他に行っているのだろう》

「そこまでお分かりに」


《死者に詳しいガミギュン、ゴミ捨て場の管理者であり一帯を治めるバアル・ゼバブ王に。あぁ、先ずはこの国について、君にも教えてあげよう》

『はい、宜しくお願いします』


《先ずは、お茶をどうぞ、地図を用意させるから》

『はい』


 彼は非常に外交上手、いや接待上手なのだろう。

 彼女にお茶を差し出すと、自動式人形にお菓子を運ばせ、妖精にお菓子の紹介を。


 妖精。

 いや、元は悪いイメージが有ったと言うし、生息域を選ばないのかも知れない。


 と言うか、お菓子の種類が異常だ。

 3段の回るガラスのケーキスタンドに、和洋折衷、中華のお菓子まで乗っている。


 マカロンにギモーヴ、ミニショートケーキにクッキー、キャラメルに金平糖に。


 龍鬚糖(ロンシェンタン)、作るの大変な筈。

 職人がココに流れ着いて、いや、本場からお取り寄せか。


「凄い種類ですね」


《あぁ、大変だったろうに、けれどココでは心配する事は無いよ》


 何の事か、一瞬分からなかった。

 けれど、理解した時には思わず溜息が出そうになってしまった。


 彼らにしてみれば愚かな決まり事の中、態々無駄に苦労させられ、見極められていたのだろうと思っての言葉。

 つまりは情報統制され、物に不自由していたのだろう、と。


「いえ、不自由は無かったのでご心配無く」

《柵を出たからと言って、鞍が付いたままで不自由が無いとは、相当に躾けられてしまったのかな》


 成程、馬扱いですか。

 面白い、確かに血筋のコントロールは必要、しかも狙い通りの子が生まれるとは限らない。


 そして某国の最高位は馬がお好きだったそうだし、引退すれば自由になれる。


「成程、正に馬」


《ふふ、すまないね、少し挑発したつもりだったんだけれど》

『ボティス伯爵、私の友達に意地悪は止めて下さい』


 本当に、真剣に怒ってくれている。


 血反吐を吐きたい。

 罪悪感を血に変え吐き出してしまいたい、3ℓは吐き出したい。


《君の友達なら、余計に見定めさせて欲しいんだよ、愚か者と親しくなる事は損でしか無いからね》

「ご尤も、仰る通りです、不愉快では無かったのでご安心を」

『飼われた馬だって言ったんですよ?怒って良いんですからね?』


「いえ、言い得て妙なんですよ、私の後ろには帝国と強欲の王が既に居りますから」

『でも、飼われてるんですか?』


「ココの方にしてみれば、ですが本当に柵は有って無い様なもの、馬にも分かる様に境界線を教えてくれているに過ぎない。それこそ人種としての作法、ココの当たり前、常識を教えて貰っているんです」


『良い子だって分かりましたか?』

《はい、十分に、失礼致しました》

「いえ、向こうでは人か獣だけ、ですので獣と同じ様に言われて怒る方も居ますが。ココには様々な種が居ますし、どちらかと言えば獣に近いだろう、そう思われているのだと思いますから」


《獣にココまでの複雑性は無い、それに個体差も、何かを新たに生み出す能力も無い。そこまで見下げていると捉えられてしまったなら、改めて謝罪致します、我々は人種にも敬意を払っておりますから》


「では、星の子にはどうでしょう、偶々星屑にならなかった」

《それは違います、ココに存在した時点である程度を精霊や悪魔は理解する、だからこそ迎えに行く者が居る。不当に扱われるだろう、若しくは既に扱われている、そう察した段階で我々は使者を送る。ココに居るべき者、ソチラに居るべき者、そして選ぶべき者がココに居る事を補助する事も、楽しみとしています》




 悪魔とは、天使の一側面に過ぎない。

 そう説明した場合、星屑は驚嘆し、時に動揺し怒り出す事も有る。


 星屑とは、ココで生きる適応力が無い者も指す。


「かなり、大半の方は困惑するかと」

《けれどアナタは既に腑に落ちている、理解しましたね》


『スズラン?』

「天使とは、天の国へ導く神の使い、若しくは善行へ導く翼を持つモノ」

《そして悪魔とは、地獄へ導くモノ、悪行へ引きずり込むとされている》


「向こうでは、ですがココでは違う、あくまでも適材適所へと導くモノ」

《はい、何故ならココが天国であり地獄であり、現世なのですから》


 心根に悪を(ひそ)め、いつか悪行を成そうと企む者へ、敢えてその道を教授する。

 そして正しく地獄へと落ちる様、補佐をする。


「善人と悪人が同じ場所に住んでは、いずれ善人が困る事になる」

《適時、住み分けられる様にと、そう助力しているに過ぎない》


「悪人とは、他者へ害なす者、ですか」

《はい、例えそこに悪意が無かったとしても、害となる者を選り分ける》


 だからこそ、善人には天使に、悪人には悪魔として見える。

 筈なんですが、天使の姿のままに見えるモノも居ますし、悪魔の様な姿に見えるモノも居る。


「だからこそ、向こうでは混乱してしまうのでは、と」

《はい》


『あぁ、成程、しかも嘘を言うかもですしね』

《はい、ですね》


「最初を、覚えてらっしゃいますか」


 朧げに意思を持ちながらも、我々は他を認識し、ただ生きていた。

 そうしていつしか、疑問が湧く様になった。


 どうして他は食し、死に、繁殖するのか。


 我々には食べる欲も睡眠欲も無く、生殖や繁殖の本能も無く、死も病も無かった。

 だからこそ群れる事も、番う事も無く、ただ存在しているに過ぎない。


《仲間の分身に、1人と数えるべきか、問うてくれましたね》

「はい、どう数えるべきかと思ったので」


《我々は孤独でした、1体、では無く1人だと思っていたんです》


 そう考える様になればなる程、何処からか知恵が湧いてきた。

 我々は悪魔だ、我々と言う事はつまり、仲間が居る。


 今となれば、思い出す感覚に似ていたと思いますが、そこにはまだ不思議だと言う考えは有りませんでした。

 当然で、当たり前、考えれば分かる事に何の疑問も有りませんでした。


 そうして幾ばくか過ぎた頃、知識と実態に差異を見付けた。

 そして、(ヒト)種の存在の欠如も。


 そこで初めて、我々は精霊との対話を始めた。

 けれど、精霊は(ヒト)種の存在を拒絶した。


「では、精霊の方からも聞かなければいけませんね」

《そうだね、来て貰っているよ、少し待っていておくれね》




 私達は悪魔と似た存在ながらも、幾ばくか異なっていた。

 番い、家族を持ち、眠る。


『だからこそ、私達は(ヒト)種を拒絶した、分かりますかスズランの』


「相性が、悪いかと」

『そうですね、相性が悪い、私達はその事を既に理解していた』


 互いに惹かれ易く、時に異常なまでに執着し、諍いすら巻き起こす。


 けれどココにはそうした悩みの種が存在しない、その平穏を私達は維持したかった。

 それは他の種も同じく、悩みの種、(ヒト)種の存在を拒否した。


「残念ですが、致し方無いかと」

『ありがとう、ですが悪魔達は折れなかった、そして私達は受け入れた』 


《欠けを感じていたんだ》


 私達も、何処かで欠けを感じていた。


 けれども人種と精霊に起きた事を、私達は既に知り、理解していた。

 人種が存在する事で発生し得る害悪を鑑みれば、人種への思いを無視すべきだ、私達はそう考え無視を続けた。


『人種には分からないでしょう、衰える事の無い記憶、感情。更にはそれらを抑える辛さを、同種も、悪魔も理解していた』


 騙され虐げられたモノ、虐げるよう強いられたモノ、ただただ無惨に殺されたモノ。


 ココはそうした役割から解放され、神に用意された楽園。

 人種と言う暴力装置の無い、天国なのだと、そう理解しようとしていた。


《けれど、何にでも例外は有る》

『そう、人種を求める精霊が現れた』


 あのか弱くも愚かで、群れなければ容易く滅ぶ種が、愛おしくて堪らない。


 存在の欠如を無視する事は出来無い、我々は必要としている。

 と、人種を作り出そうとした同種が現れた。


 私達は説得した。

 アレらが起こす問題は、様々な種を滅ぼす事だけでは無い。


 悪魔なる、悲劇の種を生み出したのだから、と。


「すみません」

《いや、少なくとも君達はそうでは無いだろう、それこそ大元は僅かな数の者が考えた事。それに、君が生まれた時には既に覆せない程の存在だったなら、君に責任は全く無い》


「それでも、悪魔と言う概念には幾分かの固定概念が有ります」

《犬は噛むかも知れないから危ない、その程度だろうし、その程度は許容しているよ》


「それでも、どうして人種の存在を許してしまったのか、全く分からないのですが」

『忌む者、憎む者、愛する者。其々に派生を始め、其々に話し合い、先ずは人種に近いエルフを生み出した』


 長命で賢く、大人しい種で手打ちとならないか、と譲歩してみたのです。

 けれども納得せず、次はドワーフを、小人種を生み出した。


 そこに文化文明が花開き、それぞれが切磋琢磨し、異種間でも交配が起きた。

 当然、見た目は様々なモノが生まれ、殆どのモノが納得した。


 けれど、人種でなければ愛せないモノ達は、相変わらず人種を求め続けた。

 いえ、寧ろ悪化したとすら言えるでしょう。


《二足歩行の文明開化は、結局は僕らの知る人種の文明開化と似通る。思い出させる物が増え、懐かしさを呼んだ》


 良く知っているモノに近い、けれども似て非なるもの。

 物足りなさを覚え、人種を請うモノが増えてしまった。


『私達は制約を設け、一部の繁殖のみを許しました』

《けれど、最初は大失敗だったね》


 時に短命である事に恨みを持ち、私達を恨み、人種では無いモノになった。


《コレが神の立場なのか、そう思わされたね》

『えぇ、大変でした』


 いずれも人種である事を拒み、エルフやユニコーンとなった。

 どの様に育てたとしても、違いを理解してしまうと、私達と同じ何かになってしまった。


「そんなに、根付かなかったんですね」

《今となっては、環境が整っていなかったから、だね》

『そして求めるモノ達も、いつしか声を上げなくなっていった』


 けれど、そうして幾年か経った頃、先祖返りが起きた。


 エルフとユニコーン、魔獣とドワーフの子に、稀に人種が現れる様になった。

 けれども相変わらず人種して生を終えようとする者は現れず、とうとう、悪魔達が引き取ると言い出した。


「何故」


《1人は自らの理論の正しさを証明する為、1人は観察の為だったり、繁殖の為。けれど殆どのモノは、懐かしさと欠けた感覚を補う為》

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