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39 地獄3。

 そこは正に地獄だった。

 いや、寧ろ生き地獄に近い。


 ココに堕とされた者は先ず、口以外は全く動かない状態で積み重ねられたまま、放置される。

 そこに暇潰しに訪れたモノに拾われるか、向こうで言う清掃業者に大まかに分別され、何処かへと送られる。


 単に食べたいだけのモノへ、性欲処理用、そうした様々な分別を経る場所でも有った。


 そして路地裏では何もかもを綺麗に整えられ、椅子から動けない様に魔法で縛られた者が、自分がされている事にひたすら文句を言う。

 ソレを大笑いしながら鑑賞出来る場所が有ったり、拷問出来る場所も、それらと性行為を行う場所も有った。


「お嬢様」


 何を察したのか、執事の少年が彼女に声を掛け。


『あ、お知り合いが居た場合を考えてませんでした、ごめんなさい』

「あぁ、いえ、私も考えていませんでしたし。もし居れば、拾う事は可能ですか?」

「お嬢様が拾い、譲渡する形式になります、ココの国のモノにしか拾う権利は有りませんから」


「成程、では記録は有るんでしょうか、ココに来た者の記録」

『多分、誰かに聞けば分かると思います、挨拶のついでに尋ねれば大丈夫かと』


「1人、お願いしたい者が居ます」

『あ、それは急を要しますか?』


「少し、実は少しコチラに厄介な情報が有るので、適切な方を案内して頂けると助かるのですが」

「であれば紹介所ですね」

『ですね、一緒に行きましょう』


「ですがココは1本道ですから、案内を終えてからと言う事で宜しいでしょうか」

「はい、ありがとうございます」


 ココは不快だけれど、情報は必要、避ける利は無い。

 でも、出来れば早々に立ち去りたい、あまりに不愉快だ。




《実に不愉快な場所だったな》

「ですね」

『まぁ、艶やかでお美しい方ですね、夫様でらっしゃいますか?』


「いえ」

《そうした仲は断られている》

『そうでしたか、それは残念ですね』


《あぁ、ヒナと言ったかお主は、ココをどう思う》

『近寄らせなかった理由が分かりました、でも何でも体験してみるものですね』

「お嬢様が何でも拾ってしまわないか心配だっただけです」


『大丈夫です、私にも分別は有りますから』

「ですから、人種寄りの分別で何でも拾われては困ると言っているんです」


『そこもです、私に誰かを改心させられる程、知恵も何も無いですから』


「お嬢様、であれば備わったら拾ってしまうんですね」

『拾うべきモノが居れば、はい』

「あの、差し出がましい事を承知で伺いますが、拾うべき者は居りませんでしたか」


『言葉の意味が明確には分からない事も有りましたけど、はい、彼ら彼女達をコチラ側に受け入れる利が無いと思いました。乱されたくないですし、私もココを守る側ですから、はい』


《お主、さして引き継いでおらんのだな》

『はい、ご配慮かと、お陰でとても楽しく過ごさせて頂いておりますから』


《成程、であればそうした事は私が説明しておいてやろう》

『はい、ありがとうございます』


《そのついでだ、休憩をさせてくれ》

『あ、はい』


 ネネの心情が濁りを見せた。

 それは明確に毒と分かる様に、色と香りと気配を醸し出し、隔離が施された。


 だが、ネネに自浄作用が有ったとて、労は労。

 既に疲労し、漏れを嫌う為、雲行きが怪しくなっていた。


「どうぞ、コチラの個室をお使い下さい、我々は隣に居りますから」

『ゆっくりして下さい、今日はお散歩の日ですから』

「ありがとうございます」




 カーテンが閉まった瞬間、来訪者様はダレた。


「お疲れ様っす」

「はぁ、私が天才なら苦労しなかったんですが、すみませんケントさん」


「それ、来訪者様が思う天才って、どんなものなんすか?」


 疑問を忘れない様にしつつ、問題の処理をしつつ、いつ尋ねるか機会を伺う。


「それらが器用にこなせる人を天才と呼ぶかと」

「いやハードル高くないっすか?さっきまで表情を崩さなかっただけ凄いと思うんすけど」


「それは気を付けてたからです、同情の表情を見て同情したフリをされても困るので。でも、それでもまだ見極めには至っていないのが、凡人のなせる技ですけどね」


「いや、それだと5つも並行してるじゃないっすか、器用にも程が有りますって」

「家族の幾人かはしてましたし、それを間近で見て育ったのに、真似すら出来無い」


 いや、確かに謙虚で控え目だとは聞いてたんすけど、謙虚過ぎっすよ。

 俺にしてみれば凄いのに、いや、確かに上には上が居るのもわかりますけど。


「マジで皇太子妃は目指して無いんすよね?」

「はい、断言します、絶対に無理です」


 この方で無理って。


「どんだけレベル高いんすか、向こう」

「毎日、民の為に祈り節制を苦とせず、研究や外交も行う。様々な国の方々と挨拶や軽い会話をこなし、文化やマナーも把握、且つ笑顔を絶やさず配慮も完璧。そうして歴代最長の系譜を維持している方が向こうには居られますので、はい、そう有るべきなのだと思っています」


「そんなの、常人には無理っすよ」

「はい、ですので相応しい方が選ばれます、そして滅多に離縁も不和も出ない。しかも、元、神の系譜ですから」


「神の系譜」

「はい」


「ヤバいっすね」

「ですね」


 しかも、それが当たり前だったら、そら尻込みしますよね。


「成程」


《では、次はコチラの事を話すとするか》




 魔族や悪魔の中には、生まれ変わりと繁殖を同時にこなせる者が居るらしく、相手を食べ融合し分離する。

 つまりは食べる事を繁殖の手段とするらしく、彼女はそう生まれたのだろう、と。


「食べる事が繁殖に直結するとは」

《悪魔が死ぬ事は無い、有ったとて一時的、ある種の休眠状態へと変化するのみ。だからこそ寿命の概念が無く、当然子育ての概念も無い、教える事は寧ろ下位への施しとしか思っていない。つまりは教えるのでは無く、最初から知識を分け与える事こそ子への愛情表現、そう思っているらしい》


 生物としての根幹が違うのだから、当たり前が違って当然。

 けれど、何故繁殖するのか。


「どうして繁殖するんですかね」

《新たな知識を得る為の行為の1つ、全てを理解する為、食事と近しい事だそうだ》


「理解出来ますか」

《あぁ、寧ろ最近になり理解したと言って良いだろうな》


 最近。


 あぁ、性行為の事か。

 成程。


「無い経験を得ようとしている」

《あぁ》


 確かに、悪魔からの愛を受け入れる物語は少ない。


「ですけど、一方的に増えるだけでは」

《子孫には寿命が有る、そうした亡骸に魂を移すモノも居れば、更にその子孫の子として生まれ変わる場合も有る。そして時に愚かな一族となれば、容易く途絶えさせる場合も有るらしい》


「苦では無いんでしょうか」

《無いのだろう、あぁして引き継ぎを最小とすれば、新たな人生を謳歌出来るのだからな》


 記憶と経験をリセットし、新たな視点で物事を知る。


「成程、確かに」

《相当に疲れているな、1度引き返し、報告に戻るべきだと思うが》


「ですね、俺もキツいっすもん」

《どうする》

「はい、帰ります」


《だそうだ》

「うっす」


 そうして彼女に挨拶をし、帰る事に。


『では明日もお散歩の日にしますから、一緒に回りましょう』


 側近だろう執事君も、頷いている。

 これらは善意なのだろう。


「ありがとうございます、ご厚意に甘えさせて頂きます」

『いえいえ、私はかなり配慮不足だと叱られてしまいましたので、どうか次こそ挽回させて下さい』


「いえ、あまり人と関わらなければ仕方の無い事かと」

『それでも甘え過ぎは良くないです、次こそお役に立たせて下さい』


「ありがとうございます」

『では明日、何処で待ち合わせるべきでしょうかね』

「コチラにおいで頂くのが宜しいかと、知って頂くには、家をお見せする事も重要ですので」


『成程』

「乗り物を用意して有りますので、門前までお越し頂けますでしょうか」


「はい、宜しくお願いします」


 それからオープンカー仕様の朧車に乗り、彼女の家へ行く事に。


『人力車みたいですけど、乗り心地は良いですから大丈夫ですよ』

「あぁ、人力車、確かにそうですね」


 そして道中は幻影で景色が全く違うモノを見せられていたのは、多分、善意。


『見ましたか景色、酔わない様にとお願いしたんですけど、どうでした?』

「綺麗なネモフィラの花畑でしたね、ありがとうございます」


『ネモフィラって言うんですね、成程、勉強になります』


 やはり善意だった。

 それともし何か企みが有るなら、寧ろ彼、執事の方だろう。


「いえ、では、また」

『はい、また』


 あぁ、報告の順序を組もう。

 情報量が多過ぎた、知恵熱を出さない様にしないと。




《お帰りー、早いね?》

「あのままでは休まらないと思い一時帰宅しました、疲れた」


《お疲れ様》

「報告に行く」


《うん》


 ネネちゃん、本当に疲れてる。

 表情は無だし、言葉も短いし、一体何が有ったのかなって思ったんだけど。


 うん、そりゃ疲れるよね。

 私の偽者と悪魔の事、それに同郷らしき人とも会ったんだし。


《お姉様、お疲れ様でした》

「はい、疲れました」

『代替わりしていたとは聞いていたけれど、そう、アナタ達の系譜かも知れないのね』


「はい」


 いつもなら愛想笑いなり有るんだけど、無だ。


 うん、お風呂を用意して貰おう。

 それとお米料理、今日はガパオをお願いしてみよう。


『ふふふ、お疲れね』

「すみません、知恵熱を出すまいとして処理を疎かにしています」

《お休みになってお姉様、後はミモザの姫からお伺いしますから、ね?》


「宜しくミモザ姫」

《うん、お任せを、ではでは下がりましょう》


「はい、失礼します」


 それからネネちゃんをお風呂に入れて、一息ついて貰ってから詳細を聞く事にしたんだけど。

 私の偽者、同級生だったんだ。


《ごめーん、気付かなくて、って言うか私が出れば》

「それは後でも確かめられるし、大丈夫、問題は次に出会った子」


《あぁ、同郷らしき子なんだっけ》

「健気な幼女の外見通りかも知れないと思うと、正直、疑う事が苦痛で堪らない」


《あー、そんなに幼い子なんだ》

「推定、8才」


《わぉ》


「言葉使いは大人っぽい時も有るんだけど、偶にたどたどしい感じもして、もう」

《どうどう、せいせい》


「はぁ、コレ、殿下達ならどうしてたのか」

《あー、確かに気になる、どう扱ってたんだろうね?》


「しかも、そんな幼女に地獄を案内させてしまって、もう」

《でも誰も止めなかったんだし、うん、大丈夫だったんでしょ?》


「無だった、驚いたり悩むと無になる子なのか、アレで無になれる子なのか全く分からない」

《その地獄はケントさんも一緒だったんだよね?》


「うん」

《じゃあそこら辺はケントさんに話して貰おう、んで捕捉をお願い》


「うん」

《よしよし、何か読み聞かせしたげようか?》


「あぁ、いや、うん、何で性行為に逃げるのか分かった気がする」

《会話の飛び方か凄くない?》


「嫌な事を忘れる、考えない様にするには、性行為って良い捌け口そうだなと思って」

《あぁ、確かに、娼館に行く?》


「無理、その気が全く無い」

《じゃあモフモフは?》


「モフモフで」

『うん、良いよ』


 癒しって、言い換えると現実逃避って事なんだって改めて思った。

 知恵熱を出さない様にする為にも、落ち着いて冷静に考える為にも、時には現実逃避って必要だよね。

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