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36 才能。

 実に、大人げなく身を引いてしまった。

 けれど、傷付きたくは無かった。


 眼前に遺憾なく才能を発揮され、私は気圧され萎縮する。

 そして稚拙な案を出す間も無く、ただただ片隅に座るだけ。


 それは既に経験した事。

 学園祭でコンセプトカフェをと提案した時、採用され、代表者となった。


 そうなった直後、1人の女の子が次々に案を出し始めた。

 少しして知った事だけれど、実際にコンカフェで働いている子で、あっと言う間に主導権は彼女の手に。


 開催される頃には、私は発案者ですら無かった。

 実際に働いていて可愛くて、接客も上手な子が、気が付けば代表者として表に出ていた。


 地味で平凡で目立たない容姿の子は、単なる係の者となり、誰にも慰められる事は無かった。


《私なら、嫌いだな、その子。だって後乗りして乗っ取って、発案者にすら気を使わないとか、上でも下でも一緒に働きたくないもん》

「でも、社長してるらしいし、人生謳歌してるみたいよ」


《大丈夫、どうせいつか失敗するよ、敬いが欠片も無いんだもん》

「でも、その失敗が人生の半分を超えて以降なら、寧ろ得じゃないかな」


《お姉様、それは間違いですわ》


「へっ、何で」

《お姉様は分かってらっしゃるかも知れませんが、代表者、とは時に損な役回りなんですの。そして不誠実な治め方をしていれば、いつかその不誠実さに足元を掬われる、そうお兄様の様に》


《ごめんね、ネネ》

「なっ」

《その女性、上にも下にも敬いが無さ過ぎですわ、それはいつしか不信感となる。大方、内部告発か自壊か、例え長続きしたとて必ず歪さが崩壊を招くのです。お姉様が提出して下さった木製のコースター、アレこそ崩壊しない組織図の縮図、振動を逃がし歪ませない設計はまさに見事としか言いようが無い》


「アレは、私が設計したモノでは無くて」

《ですが、アレの良さを良くお分かりでらっしゃる、でしょう?》


「それは、素人として」

《ですが、私の例えを良く理解して下さっている。そう、例え50年耐えたとて、人を巻き込み事故を起こしては永代不名誉が付いて回る。そう後になればなる程、人生を頓挫させられた子孫の恨みは怖い。大丈夫ですお姉様、その女は必ず不幸になりますわ、なんせ物理学や力学が既に証明しているのですから》

《ごめん、こう言う子なんだ》


「いや、立ち聞きしていた事を」

《謝りませんわよ、私達が居たら聞けぬ事、そうした事態を招いたのはお兄様》

《ごめん》


《事情は良く分かりましたわお姉様、でも私、まだまだ子供ですの。もっともっと、遊園地の事を教えて下さいませ、ね?》


「お気遣いを」

《いえ、私こそ、実は謝らなければならない事が有りますの。ごめんなさい、つい楽しくて、お姉様の杞憂に全く気付きませんでしたわ。ですから、今回の事は私との事のみ水に流し、遊園地について教えて下さいませ。ね?他にどんな遊具が有るんですの?》


 キラキラとしたお姫様。

 ルーイ氏と違い、腹黒さの欠片も無い様に思える。


 本当に兄妹なんだろうか。


「何基もの木馬や馬車が設置された、回転木馬」

《成程、間違い無く幼子が利用しそうですわね》


「急上昇、急下降する、タワー型の絶叫マシーン」

《絶叫となれば、速度と建物の長さが重要そうですわね、成程》


「座席に固定され屋内を移動する、恐怖体験型アトラクション」

《私は嫌いですけれど、怖いお話が好きな方もいらっしゃいますものね》


「恋人が利用する事が多いかと」

《成程、接近する口実を与える遊具ですのね》


「吊り下げ型、回転椅子」


《椅子が、吊り下げられ、そこに座るのかしら?》

「それを大きく振り回された場合をご想像下さい」


《素敵、お父様のグルグルの様に楽しそう》

「あぁ、親しみ易いかと」


《設計も内部構造を考えれば直ぐに出来そうね》

「多分、回転木馬と同じかと」


《成程、確かにそうね》

「固定の仕方で、コースターも無限にアレンジが出来ます。こう、とか、こう」


《まぁ、本当ね、素敵。計算し甲斐が有るわぁ》


「ダンサーや道化師が、色とりどりの衣装を着て、園内を練り歩く」


《警備や園内の整理に使えそうですわね、成程》

「そこでしか会えない園を代表する者に会える、そこでしか買えない物も売り、そこでしか味わえない食べ物や空間を提供する」


《ほら、まさに国ですわ、統治ですわよお兄様》

《あぁ、そうだね》


《ふふふ、ソチラではどの様な空間を提供なさってますの?》

「それはもう、本当に、各国を味わえる場所だとか。乗り物が少なく空間の提供が多い場合も有るんですが、ほぼ必ず、観覧車が有ります」


《観覧車、名から想像は難しいのだけれど》


「2つの大きな丸い構造物に、均等に小部屋や座席を用意し、立て、回します。こう」


《好き、お姉様、私の為に問題を出して下さったのね》

「問題と言えるかどうか」


《とても良い文章問題でしたわ、遊園地設立の前に広めましょう》

「いや、あまり危険な事はちょっと」


《大丈夫ですわ、軸と歯車だけで出来る筈ですもの。そうね、構造物の美しさを前面に出すのも良いわね、それなら職人も喜んで綺麗な仕上げを。アンドレアルフス、紙とペンを出して》


 姫様が考える事に熱中し始め、何も無い場所に手を出すと。

 姫様と同じ様な年頃の、孔雀色の髪と目を持つ美少年が影から生え、懐から紙とペンを取り出した。


 彼は、悪魔。

 72柱の1人。


 いや。


「あの、数を数える際、1人と呼んで宜しいんでしょうか」


 彼は綺麗な孔雀色のまつ毛を伏せ、頷いた。

 悪魔だから綺麗なんだろうか、何だこの生き物は。


 と言うか姫様、本当に妹と良く似ている。

 熱中するともう、他がどうでも良くなって、多分食事とか忘れてしまうタイプだコレ。


《ごめんね、ネネ》


 この姫様は多分、本当に天性の姫様なのだろう。

 現にこうして、コチラは先程の事がどうでも良くなってしまったのだから。


「姫様のお陰で気が逸れましたが、それことコレとは別です」

《だよねぇ》




 絆されて欲しい半面、そう容易く落ちて欲しくは無いけど。


 今回は本当に失敗だった。

 大失敗だ。


《ごめん》


「コレを惑わす程の魅力が、私には有る」

《うんうん》


《しかも妹まで惑わす程》


「まさか妹に」

《そこまででは無かったんだけど、少量が色々と混ざって》

《初恋だからカッコ付けたかったんだよねー?》


《手放したくは無いからね》


《もー、何でさっきみたいに赤くなりませんかねぇ、勿体無い》

「ユノちゃんまで落ちないで下さい、どうせ顔色さえ制御する術を知ってらっしゃるんでしょう」


《ネネちゃん》

「私が間違いだった、そう思っている限り全てを白紙にする事は覆りません、そして覆す利が無ければコチラは覆そうとはしない」

《うん、そうだよね》


 状況は最悪だ。

 元から危うい状況だったのに、2号が手を離れた事で油断していたのかも知れない。


 あぁ、コレも言うべきなんだろうけれど。

 もうアレの事は気にせず、好きな様に動いて欲しかった。


 多分、その善意すらも疑われる。

 分かっていたけど、こうなってしまうと、酷く苦痛だ。


 けれど、コレは自業自得。


『2号は他の者に引き渡した』

「なっ」

《えっ?大丈夫なの?》


『そう気にせず過ごして貰う為、ネネが頂点と会った時点で引き渡す事になったんだ』

「それ、私の」

《いや、元は頂点が訪れた段階でいつ実行するか、そうした手筈だったんだ》


「でも」

《ネネは有力な情報をくれた、既に向こうは自分のモノだと思っている、と。だから僕らが出来る事は限られる、相手のモノだと知った段階で、手を出す事は不義理となるから》

《成程、側近だからこそ詳しいのかなと思ってたんですけど、ルーイさんが皇太子だから詳しいって事ですよね》


《うん、そうだね》

《2号さんは誰かのモノ確定なんですし、それを阻止する力も無いかもだし、そもそも阻止する意義が私にはまだ見い出せないし。期日って、決まって無いんですよね?》

《未だに連絡は無いからね、悠長なのか敢えてかは分からない、相手を知れていないからね》


《なら、ゲヘナに行くのが1番かと、殿下達と距離も置けますしね》


《それに、もう僕らの後ろ盾以上に強力な者が付いた。彼女が認めたなら、実質ウチの国が認めたも同義、つまりは本格的に国が後ろ盾になった事になる。そして強欲の王も、既に君の後ろ盾となる事を帝国に表明している、ネネには恐れる事は何も無いよ》


「っそうですね、選び放題確定ですし」

《うん》


 婚約者に落胆した時とは比じゃない程に、身が引き裂かれる様な感覚が走る。


 心が八つ裂きになる様だ、それは比喩でも何でも無い、その通りの文言が書かれていただけ。

 大袈裟でも何でもなく、あるがまま、その通りの表現。


《何故、思った通りの事を言わない、ネネ》


「影さん」

《言えば煙に巻かれるのが嫌か、それとも更に酷い言葉を聞きたくないのか、絆されたくないのか》


「絆されたくないんです」

《なら、お前は言い訳を聞いて欲しいとは思わないのか、そう後悔はしないのか》

《ありがとう、でも良いんだ、聞かない強さも必要な場合が有るだろうから。ゲヘナ行きを手配するよ、エルを宜しく、レオンハルト》


 多分ネネが聞きたかった事は、唯一の後ろ盾では無くなるから諦めるのか、その程度だったのかと尋ねたかったんだと思う。


 でも、どれも違う。

 どの世の男より良い男だと言い張れる実力も、面の皮の厚さも無いし、しかも僕を選びたくない理由に心当たりも有る。


 そして縛れる理由は何も無く、引き留める手段は不誠実なモノばかり。


 こんな事を伝えれば、また迷わせて立ち止まらせてしまう。

 せめて、足を引っ張る事はしたくない。


『あらあら、その道は酷く険しい、荊の道よ?』

《それも、自業自得だから》


『それすら、伝わらないかも知れないのよ』

《それも、自業自得》


『痛みに浸って、本当に手放す事になってしまっても、後悔しか残らないわよ?』


《彼女の親なら、兄弟姉妹なら、彼女が1番に幸せになれる相手を推すべき。愛しているなら、それも同じ事、少なくとも僕は相応しくないよ》


 好いてもいないのに親し気に接近し、試し、謀った。

 嘘も言ったし、黙っていた事も、黙っている様にと指示した事も有る。


 どれもネネが嫌がる事。

 けれど僕は大して嫌とも思わなかった、仕方が無い事だと流せる、そして未だにさして悪いとも思っていない。


 ただ、もうネネに構って貰えない事、構えない事が酷く悲しい。

 とても嫌で、どうにかして覆したい、どんな事をしても。


 でも、我慢したとて死なない。

 死なないのだから、結局これは僕の我儘に過ぎない。


 ネネが居なくとも、僕は死なない、困らない。


『まぁ、良いわ、精々強がって後悔なさい』

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