34 才女。
「長く寝過ぎると頭痛がするものですが」
《やっぱり違う世界だからかなぁ、うん、スッキリ爽快》
「ですね」
そう言ったかと思うと、突然ネネちゃんが顔を押さえて。
《どしたの?今頭が痛くなった?》
「いえ、ただ、朦朧として行動すると、後々になって凄く恥ずかしい事になるなと思いまして」
《あー、レオンハルト様の部屋に行ったんだもんねぇ》
「と言うか、抱かれても良いから今直ぐに色々と教えろ、と迫りました」
《ネネちゃぁん》
「不安で、いたたまれず、つい」
《安売りはダメだよ?もっと高嶺の花になろ?》
「善処します」
《もー》
「マジで、安売りし過ぎたと思います、もうしません」
《うん、絶対に、ね?》
「はい、絶対に、だ」
って言うかネネちゃん、何が、どれが不安だったんだろ。
《どれが不安だったの?》
「見落としてた事」
《それは》
「自分が無意識に無視してた事が、凄く怖かった。そうしない様に意識してたのに、気を付けてたのに意識から外れてて、凄く怖かった」
《うん、私も。他を経験してたのに、ごめんね》
「いえ、コレは謝り合うだけになりそうなので、終わった事にしましょう」
《うん、でも頂点に会いに言った事については、少しだけ言いたいな》
「無茶だとは思って無いので謝りませんよ」
《でも次は、もう少し他の人にも相談してね?》
「はい」
《よし、ゴハンにしよう》
「ですね」
先ずは食べてから、ね。
《お兄様、レオンハルト様、おはようございます》
『おはようございます、エル様』
《おはようエル、さ、頂こうか》
《はい》
我慢強い子で助かる、あの木製の建物について話したいだろうに。
けれど朝食は朝食、しっかりと領分を弁えてくれる。
本当に、全く、アレの何が良いのかまるで分からない。
《エル、少しだけ許可してあげるよ》
《アレはもう最高傑作ですわ、だからこそ、転用されては非常に困ります》
《だろうね》
《ですが、覆ってしまえば良いのです、見えなければどうと言う事は有りませんわ》
《けれど、鉄道に関わってしまう事になるよ》
《お兄様、そろそろ鉄道を開通させても宜しいと思うんですの、それこそ鉄道も娯楽として運用される事も有るんですもの》
《けれど機関部はどうするんだい》
《ふふふ、それこそ何某かの動力に頼る事こそ間違いですわ、誰かに走らせれば良いだけ》
《問題は、走ってくれるかどうか、だね》
《いいえ、それも問題有りませんわ、競技とすれば良いんですもの》
有形無形問わず、競う事を好むモノは一定数存在している。
しかも安心安全に競えるとなれば、その数は更に増えるだろう。
《なら、しっかり食べ終えてから、書簡を書き上げよう》
《はい》
この案を更に洗練させれば、技術革新を抑えつつも娯楽が広まり、人も物も更に動く事になる。
そしていずれエルは功績を手に最高位となり、ネネは自由を得る。
功績の無いモノを自由にさせる程、この世界は優しくない。
人種は時に餌なのだから。
「えっ、採用されそうって」
『勿論、技術革新を抑えて尚、利用出来る目処が立ったと言う事よ』
《おぉ、一夜にしてそこまで》
「具体案を聞けるんでしょうか」
『勿論よ、けれど、また熱が出ても困るわ。今日はその知らせだけ、迎え入れる環境整備について、ね?』
《ネネちゃん、我慢出来る?》
「もう、全然、無理」
『ふふふ、そう言うと思って既に招待して有るの、その危険性について考査して下さった方を。今日のお茶会に、出席して頂けるかしら?』
「是非、お願いします」
もう、頭の中はその事ばかり。
コレは現実逃避だとも思う、けれど建設的前向きな現実逃避。
もしかして、初めて異世界に来た事に感謝したかも知れない。
遊園地に関われるなんて、思ってもいなかった。
でも、正直、嫌な面は見たくない。
聖地で、聖域で、穢されて欲しくない場所。
ケチが付く様なら、勇気有る撤退をする。
遊園地が無くても死なないから、諦める。
泣く泣く、致し方無く。
《私、エルと申します。お兄様がお世話になっているそうで、宜しくお願い致しますわね、お姉様》
ネネちゃん、固まってる。
《あの》
《あ、ミモザの姫、ご機嫌よう。大変有益な情報を頂きました事、感謝してもしきれませんわ、不自由の無い様に私からも伝えておきますわね》
キラキラ金髪の巻き毛の、お人形みたいな子。
明るくて、ハツラツとしてて、誰の妹さんなんだろ。
《ふふ、僕の妹だよ》
《あ、レオンハルト様は仏頂面で判別が付き難いですものね、失礼しましたわ》
「いえ、コチラこそ失礼致しました、宜しくお願い致します、エル様」
《宜しくお願い致します》
『さぁ、お掛けになって皆さん、コレは長くなりそうだもの』
《勿論ですわ陛下、コレはとても素晴らしく、とても素敵な事なのですから》
ネネちゃんと同じか、それ以上に目をキラキラさせて、如何に技術革新をさせず鉄道を引くか。
如何に遊園地のコースターが可能か、私でも分かる様に説明してくれて。
『どうやら本当に、可能そうね』
《はい、勿論ですわ》
「ありがとうございますエル様、遊園地を、どうか宜しくお願い致します」
《あら、何を仰いますの?共に作り上げましょうよ、お姉様》
「いえ、私には人種のみの案しか御座いませんので、大してお役には立てないかと。寧ろ、来訪者用の環境整備について進言させて頂きたいので、遊園地の案は随時書簡でお送りさせて頂きたく」
《分かったわ、ですけど何時でも私のお部屋にいらして頂戴ね?》
「はい、ありがとうございます」
ネネちゃんの事を知ってるからこそ、何も言えなかった。
多分、遊園地に関わる事を諦めたのは向こうでも何か、何か似た事が有ったんだと思う。
『今日はこの位に致しましょう、まだ熱が下がったばかりなのだから』
《お姉様、今日はありがとうございました》
「コチラこそ、ありがとうございました。では、失礼致します」
誰も悪く無いんだろうけど、ルーイさん、知ってたならなんとか出来なかったのかな。
《ネネ》
「理由を説明しますが、お聞きになりますか」
《うん、お願い》
とある遊園地で働こうとした時、私は間違えて採用されそうになりました。
姉や妹の方と勘違いされ。
ですが見た目も何もかもが平凡な私は、土壇場で採用を取り消されました。
間違えた、と。
「既に姉も妹も名が売れていたので、仕方が無い、そう思おうとしてもダメで。妹の事も重なり、今回の件は裏方に回らせて頂きたく存じます」
《ルーイさん、予想出来無かった?》
「まさか、敢えて」
《ごめん》
《何でそんな》
「諦めれば結婚するとでも思いましたか」
《ごめん》
暴力に訴え出る人の気持ちが、初めて分かったかも知れない。
どうしようも無い事を、なんとか発散させたい、ただそれだけ。
そこには人を傷付ける意図も、何かを壊すつもりも無い。
ただただ、どうにか発散させたいだけ。
《落ち着け、コレが何故謝っているのか、いつものお前なら尋ねるだろうに》
黒蛇さんの言う通り。
ダメだ、確かにまだ本調子じゃない。
「何故、謝っていますか」
《ネネは、それでも乗ってくれると思ったんだ》
「か弱くてすみませんでしたね」
《そう思って無くても、結果的にそうなるよね、目測が悪くてごめん》
「とても大事な部分なんです、大好きで、だから良い思い出だけにしたい。あのまま関われば、きっと私は妹を重ね続け、重荷に感じる事になる」
《本当に、ネネちゃんを喜ばせたかっただけ?》
《ただネネの願いが叶う様に、ネネが喜ぶ様に支えるつもりだったんだけど、確かに道を遮る事も考えた。ごめん》
やっぱり、間違いだったんだ。
段階を踏まず、歪な関係を築いたせいで、不信感と依頼心がごちゃまぜになった。
そして判断を誤りかけた、彼が謀ったかも知れないと、苛立ちをぶつけそうになった。
「けれど謀らなかった、大変失礼致しました、謹んでお詫び申し上げます」
《ネネ》
「間違いを正しましょう、どうか無かった事にして下さい、全て」
すべき事は、来訪者の環境整備、その事の方が遥かに命に関わる。
そして皇太子との婚約破棄も。
コレで良い、コレが正しくて、分相応。
《ネネちゃん、もっと怒って良いんだよ?もっと責めても、まくし立てたって良いんだよ?だってさ、紛らわしい事を言ったんだし、そもそも目測を誤ったのはルーイさんだし、私だってムカついたし。だからね?怒ろう?》
ネネちゃん、怒るの不慣れだと思ったんだけど。
それも違ったら、コレ。
「分かってくれてると、思ったのに」
《ごめん、分かってるって自惚れてたかも知れないけど。どうしてこんな風に見誤ったのか、今でも分からないんだ》
《好きならちゃんと考えろー、熟考しろー》
『少し、良いだろうか』
「どうぞ」
『ルーイ、そろそろユノにも真実を話そう』
《へっ?》
『すまない、俺は悲嘆の王族、彼こそ皇族なんだ』
《えっ、あー、うん?》
「ごめんユノちゃん、ユノちゃんを守るつもりだったんだけど」
《僕が口止めしたんだ、ネネと親密になりたくて》
『俺は殿下の命に従った、皆もそうだ』
《えー、じゃあ私、未だに見極め中?》
『いや、だが』
「中間テスト、期末テスト、学期末テスト。それに卒業論文が有ると思ってる」
《単語の意味は良く分からないけど、ネネは僕のせいで、未だに見極め中だと思ってる》
《誤解は解いた方が良いよ?》
《そうだね、今回の件で身に沁みたよ》
《うん、ちゃんと話し合いな?》
《ごめん、ネネと仲良くなりたくて、ユノへの件は放置してた》
「見事に悪手と化しましたね」
《そうだね、ごめん。ユノもごめんね、君にとっては些末な事だろうと思ったから、放置した部分も有るんだ》
《そこの目測は合ってますけど、真っ直ぐな方が良いってお伝えしましたよね?信じられ無かったんですか?》
《いや、ネネを縛り付けたかったんだ、善意に乗じて懐に入り込みたかった》
「秘密の共有は親密さを深めるのに良く使われますしね」
《うん》
《それで、嘘が暴かれましたけど、それが一体》
『エル様こそ、次期最高位なんだ』
「へっ」
《あれ?皇太子とかって、王位継承権が》
《有るには有るよ》
『予備、いや俺の場合は予備の予備なんだ』
「でも、だからって」
《そう身内贔屓だったかも知れない、レオンハルトはそう言いたいらしい》
『だけでは無いです、アナタもアナタで自信は無いでしょう』
《つまり、ある意味でネネちゃんと同じ?》
《僕はそこまで自信を》
『では未だに自身を器用貧乏だとは思ってらっしゃらない、そう思って宜しいですか、殿下』
レオンハルトさん、徹底的に言葉を使い分けてたんだ。
凄いな。
《エルよりは》
「狡い、怒れないじゃないですか」
《確かに、狡いよ殿下、今まで弱味を見せなかったのに土壇場で教えるの》
「凄い狡いっ」
あ、ネネちゃんからこうして抱き着かれるの、初めてかも。
さっきは拳を振り上げてたけど、ネネちゃんにはこうして逃げたり発散して欲しいな、だって殴ったら怪我しちゃうかもだし。
《よしよし》
「ごめんねユノちゃん」
《ううん、私も同じ状況なら同じ様に黙ってたし、実際にどうでも良いのは事実だし》
「肝が据わってる」
《だって恋の当事者じゃないもん、だからぜーんぶ、好きだから仕方無いのかなって思っちゃう。騙されたーって怒るのも、そう思われて落ち込むのも、好きだからでしょ?》
「全然、好きじゃない」
《はいはい、ルーイさんはどう?好きでしょ?》
《凄く好き》
「嫌い」
《はいはい、で、頑張って冷静に分析したレオンハルト様偉い》
『いや、もっと早くに言うべきだった、すまない』
《謙虚、でも譲れない位に好き》
『あぁ』
《うん、迷うの分かる。しかも試されてるかも、とか、実際に前がそうだったからこそだと思う》
「うん、はい、そうです」
《落ち着いた?》
「いいえ、全く」
《まぁ、ココはね、ちょっと解散と言う事で》
「はい、解散、散れ散れバカ、どっか行ちゃえ」
《どうどう、さ、2人だけで話し合おう》
「うん、ごめん、ありがとう」




