28 プレッシャー。
『ネネ、少し良いだろうか』
コレからモフりに部屋に戻ると言うのに、レオンハルト氏は一体。
「あの、どの様なご用件なのか」
『少し複雑なんだが、どうしても話し合いたい』
あ、もしかして昼間の嫉妬を拗らせてたか。
ならまぁ、今の今まで放置してしまったし、うん。
「分かりました」
『部屋で待っている』
本来なら、婚約者の居る相手を自室で待つのは、マナー的には超ご法度なんですが。
「何か、凄い切羽詰まった感じっすよね」
「暴力は絶対に無いので大丈夫かと」
「でも自衛はお願いします、何か有れば直ぐに叫んで下さい、廊下で待ってるんで」
「はい、どうも」
そうして身支度を整え、部屋に入ると。
『説明が不足していた事を、先ずは謝罪したい』
「あの、どの事か」
『俺が青の悲嘆の王族だと、そう言っていなかった事に、強欲の王に気付かされたんだ』
「あぁ」
『既にルーイから聞いていると知っていたが、だからこそ省いたワケでは無いんだが、すまない』
「いえ、真面目ですね本当に」
『いや、それといつ俺ともしてくれるのか、聞きたかったんだ』
あっ、やっぱり情報共有が。
いや、コレは隠すのは寧ろ難しい事か、彼はルーイの側近なのだし。
「今日にでもしますか?」
『いや、すまなかった、君と親密な話がしたかっただけなんだ』
「コチラも冗談です、真に受けないで下さい」
なら嫉妬したワケでは無いのか。
『嫉妬したんだ、どうして読み聞かせる役が、自分では無いのかと』
嫉妬はするのか。
「そりゃ向こうは魔獣ですし、私には婚約者が居ますし、あまりに不作法ですしね」
『俺は皇太子では無い、廃嫡は問題無く行える算段も有る』
「姪や甥の方はお元気ですか」
『上はもう12になる』
「中々に安定してらっしゃる様で」
『あぁ、俺は予備の予備以下だ』
「何故ですか」
『悲嘆の血が濃いとされている』
「あぁ、真面目ですからね」
『情愛が薄い事も、関係すると聞かされていた』
「となると今は違うのでは」
『あぁ、だが廃嫡に問題は無い』
「失敗してしまったからこそ、何故、私なのか疑問です。私が納得しない限り、誰に対しても快い返事は出来無いと思いますし、どんなに言われても納得しないかも知れませんが」
『例え俺が不適格だとしても、以降も守らせて欲しい』
「ドM」
『直前で、ルーイに人員の変更をすると言われ、どうしても離れ難いと改めて自覚した』
「以降も、嫉妬を煽られる事になるかと」
『それより離れる事の方が口惜しい、見えない場所に居られる事の方が、耐え難い』
「ドM」
『ただ、受け入れて欲しいとは思う』
「受け入れる、とは何でしょうか」
『好意を好意で返されたい、例え同じ分量で無くとも、返される立場になりたい』
「何が、何処が良いのか本当に」
『似た境遇、似た感覚を持っていると思っている。良い意味で、考えなくとも君が思う事が、不意に分かる気がする』
「では、今は」
『傷付けずどう断るか、それと同時に好意を素直に受け入れられない自分を幾ばくか恥じ、どうすれば受け入れられるのかも悩んでいる』
全くの当たりで、思わず運命の恋人論を信じてしまいそうになった。
けれど。
「読心術を使えば」
『それも有るとは思う、だが、理解出来ていると思った事は初めてだ』
「運命論者はあまり」
『俺も好きでは無い、思考の放棄だと俺も思う』
コレは、試し行為なんだろうか。
愛されたいとも思うし、理解されたいとも思っている、それらが双方から齎されているのに。
どうしても信じる事が出来無い。
「事情は分かりましたので」
『未だに見極められているのではと、そう疑う気持ちも分かる。ただ考えや気持ちに偽りは無いと誓う、どんな誓いもする。だが、それが重荷と感じるだろう事も分かる。ネネ、どうしたら受け入れる事が出来る』
「そこは分からないんですね」
『ネネが分からない事は、俺も分からないのだと思う』
「時間が、必要かと」
『そう待たせる事も負担になるんじゃないだろうか』
「仰る通りで」
『嬉しい反面、気にせず吟味して欲しいと思う、だがどうしてもこうして口説きたくなる』
「我慢は難しいですか」
『あぁ、出来るなら直ぐに家族になりたいと思っている』
何か、言わないと。
何とか断らないと。
「真面目過ぎは、不安要素なんですが」
『俺もそう思う、だからこそ俺だけのモノになって欲しいと、言い難いのも事実だ』
「ハーレムを受け入れる方が遥かに難しいんですが」
『俺が産む側になるとしても、だろうか』
「へっ」
『必ずしもネネから産まれる子供のみを望んでいるワケでは無いなら、寧ろ当たり前に』
「そこまで考えますか」
『当然だ、出産は命懸け、背負うべきは寧ろ惚れた側とすら言われている』
「異世界だと言う事が確かにすっぽ抜けていましたが、異性愛者が女として抱かれますか」
『それがネネなら、ネネと家族になれるなら』
「ココで、無限にループしてしまうんですが」
『ネネの真面目さに親近感と情愛が湧く、そうした場面を見る度、抱きたくなる』
要するに、真面目な部分がいじらしい、可愛く見えているのだと。
このままでは完全に口説かれてしまう、流されてしまう。
逃げないと。
「時間を」
『流されまいと抵抗する理由を教えて欲しい』
「私は、ルーイの婚約者で」
『どちらかを選ぶ必要は無い、どちらも選んでくれて構わないんだネネ』
「私は、そんなに重いですか」
『いや、今は寧ろ奪う事に対しての罪悪感が大きい。真面目過ぎる相手に対処する方法は、家族を頼る事だ、誰に相談してくれても構わない』
こうした言葉に、何処か既視感が。
あぁ、コレは。
「本当に、今日はこの位でお願いします」
『分かった、すまない遅くまで』
「いえ、では、失礼します」
『あぁ』
万が一にも襲うとか、流石に無いよなー。
とか思ってたんすけど、暫くして凄い強張った顔で来訪者様が出て来て。
「大丈夫っすか?」
「結婚のプレッシャーとは、コレか、そう絶望してます」
「あー」
「且つて、私はプレッシャーを掛け浮気をされフられました。悔しいですが、今、少し逃げ出したい気持ちが分かりました」
「前の事は分かんないっすけど、そりゃ来訪者様が不安に思うのも当然かと、だって子育ては親だの親戚だの頼ってようやく出来る事なんすから。知り合いも居ない、天涯孤独の来訪者様が不安に思うのも寧ろ当然って言うか、俺としては寧ろマトモな方で安心だなって感想っすね」
「こう、言葉がすんなり通じると、つい異世界だと言う事を忘れてしまいがちですが。私、寄る辺の無い存在なんですよね」
「だからこそ慎重なんだと思うんすけど、辛いっすよね、信用できるかどうか常に考えないといけないって」
「はい」
「そっすよねぇ、楽天家とか言われるんすけど、流石に俺でも疑心暗鬼になりそうっすもん」
「まぁ、元から気質は有りましたけどね」
「ココはもう、一旦部屋に帰って寝ましょう、なんせ夜なんで」
「ですね、ありがとうございます」
「いえいえ」
いやー、俺の娘ならと思うと、マジで不憫で堪んないけど。
そうならない様に子育てすんのも親の役目で、でネジ曲がんない様にも育てたりって、そら親になんのも躊躇いますよ。
現地民だってコレなのに、全く違う場所から来て、結婚だ何だで悩むって。
うん、良かったわ良い人で。
けどあんま悩んだり、苦労しないで欲しいなぁ、良い人だからこそ。
《おー、お帰りー》
『何か落ち込んでるけど、何か言われたの?』
「ガチで口説かれて、結婚のプレッシャーとは何か理解しました」
《あー、でもさ、状況が違い過ぎない?》
「うん、そこで、あまりの言い回しの違いに。やっぱり大して好かれて無かったんだな、と」
《どうどう、せいせいせい、もしココに来たらどんな拷問するか考えよう?》
『撫でる?撫でてあげようか?』
「撫でる」
『うん、どうぞ』
《じゃあ私はネネちゃん撫でるねー、よしよし、赤ちゃんに結婚迫るなんて酷だねぇ》
「確かに」
《でも、そんだけ好きって事だよねぇ》
「でも、好きなら加減すべきだと思う」
《確かに》
「でも、好きなら料理は食べ過ぎがち」
《分かる》
「話し合いで、凄く理解されてる感じがして、落ちそうになった」
《良く逃げ切った》
「向こうでなら、3回は抱かれてたと思う」
《良く耐えた》
「時間が欲しいと思う」
《冷静さは大事だもんね》
「でも、疑い続けるのも違うと思う」
《そこ見極めるの難しいと思う、だから怖いもん私、どう選べば良いのかなってずっと考えてるし》
「ユノちゃんでも難しいか」
《殺人鬼の家族ですら気付かないのに、隠された粗に気付くって難しいと思うし。しかも優しくて良い人で自分を好きな人を探すなんて、相当の手段を尽くさないと、ぶっちゃけ無理じゃない?》
「けど、ココには魔法が有るし」
《科学を魔法に置き換えても通じると思うんだよね、魔法は万能じゃない》
「それ、何か、夢が無いな」
《サイコパス見付けるのが凄い難しいんだし、嘘を自覚しない人も居るし、結婚してから豹変する人も居るんだし。だからさ、失敗を大前提にするのはどう?》
「まぁ、確かに離婚すると死ぬ呪いには掛かって無いけど」
《何度でも失敗しても良いや、じゃなくて、最悪は離婚しても良いやってだけ》
「はぁ、ありがとう、完璧主義じゃ無い筈なんだけどね」
《皆さんそう仰るんですよー》
「本当にありがとう」
《いえいえ、持ちつ持たれつ、和気藹々勇気凛々ですよ》
「けど、私はユノちゃんに何を」
《知識とか考え方、ちゃんと得てるから大丈夫、それとモフモフにゴハンにイケメン鑑賞も》
「モフモフ」
《だって安心して狐触るとかレアじゃない?》
「エキノコックスに狂犬病」
《病気怖いし、痛いの嫌いだし》
「モフモフ」
《よし、寝ようか》
「うん、ありがとう」
《いえいえ、おやすみ》
「おやすみ」




