24 盛った。
「また、謀ったな」
《おはようネネ》
「クソ、歯磨きしてくる」
《ごめんね、どうしてもこの世界での初めてが欲しくて、少し盛っちゃったんだ》
「なっ、ユノは」
《大丈夫、君のにだけ盛ったんだ》
「だからアナタが取り分けたのか」
《うん》
「もう、歯磨きしてくる」
《うん》
体に違和感は無い。
性行為の痕跡は、無し。
ただ着替えさせられてはいるし、ユノちゃんと部屋は別、でもユノちゃんが抗議している気配は無い。
となると、ある意味でユノちゃんも共犯。
何故。
まさか、本当に一気にヤるかもと心配してか。
いや、分かるが。
「はぁ、他に言う事は有りませんか」
《抱かせて、男でも女でも良いから》
「もし、抱かせないとなると」
《君をレオンハルトと共にバートリー家へ逃げ込ませ、僕は廃嫡、目出度く僕は君と一緒に居られる様になる》
「抱かれたら」
《それまでの期間が伸びる、若しくは他の方法になる、かも知れない》
「ユノは」
《ココまでの事は知らない、けれど君が一気に全員とするのを防ぎたいと言ったら、承諾してくれた》
それだけの意図しか無いとルーイ氏が言っていないにしても、好意故にこうした強硬手段に出たのだろう、とユノちゃんは考えたに違いない。
好意故に、若さ故に。
そうした考えが既に植え付けられているからこそ、ルーイ氏の発言に多少の嘘が混ざっていても、ユノちゃんは敢えて嘘や誤魔化しを無視したのかも知れない。
ヤンデレを舐めていた。
いや、先読み系ヤンデレを甘く見ていた。
盛ろうとした頃には既に盛られ、予想通り、敢えて放逐して廃嫡される事すら考えている。
そこまで考えているなら、こうした手段にも頷けると言えば頷けるが。
素直に受け入れるワケにはいかない、抱かれたからこそ、自分は盲目的になってしまったのかも知れないのだから。
「男でなら」
《そう言うと思って、既にコチラから魔獣達に交渉しておいたから、心配しないで》
「は?」
《だって君は僕の婚約者、いずれは家族になるんだから、共同生活者として譲れない事を話し合っただけだよ》
「なっ、邪魔はしないって」
《寧ろ本当に協力しての事だよ、僕は魔獣とはした事は無いけれど、そうしたモノとの行為の知恵は有る。手助けが出来るって事、どっちの性別で、でもね》
「そんなに、ヤバいですか」
《僕のオススメは、両性具有かな。君が言っていた通り、その為にアレは改良されているそうだからね》
「あの、貰った魔法印」
《安全確認の為に取扱説明書を読ませて貰ったけれど、あの箱の中身は、君の言う通りの効果だそうだよ》
淫紋。
先駆者は何を考えて。
「それ、違法性は」
《無いよ、しかも娼館のインクとは別だし、同意の上なら問題は無いよ》
「拒否すれば」
《君が同意するまで僕はココに居続ける。体を張って止めているけど、あまり仕事を疎かにすると、職務怠慢で廃嫡になるかも知れないね》
「詰ませるなと」
《あぁ、鍵は開いてるよ、外ではレオンハルトが待ってる。嫉妬に狂った僕から逃げ出す君を連れ、バートリー家に行く為に、ね。ほら、詰んではいないでしょ?選択肢は有る》
「詭弁だ」
《うん、こんなに詭弁を弄させたのは君が初めてだよ、諦めて欲しいなら抱かれてみるしか無いんじゃないかな》
コイツは、1度程度で本当に飽きるんだろうか。
いや、だとしても、もう逃げ道は有って無い様なもの。
「なら、それでも、男で」
《分かった、先ずは身を清める準備をしようね》
「身を、清める準備?」
《ほら、やっぱり僕の手助けが必要でしょう、任せて》
ネネは男になってもネネ、面影が十分存在している。
「まさかの祖父似」
《素敵なお祖父さんなんだね》
「いや、普通」
《そうなんだね、さ、ここから下準備だよ》
「あ、はい」
すっかり借りてきた猫。
従順で大人しい。
少し可哀想だけれど、僕にも譲れないモノは有る。
《可愛いねネネ、準備が整ったら先ずは僕、それから黒蛇だからね》
枕に顔を埋めたまま頷いて。
可愛い。
本当に、これだけ我慢している僕を少しは褒めて欲しい。
後でお礼を言わせて、その流れで褒めて貰おう。
僕に好かれて可哀想なネネ。
可愛いネネ。
『大丈夫か、ネネ』
「ぁあ、殿下」
『起こしてすまない、食事をと』
「あ、どうも」
『ユノが作ってくれた』
「ぉお、グラタンかな」
『食べ易い様にドリアだそうだ、それとスープも』
「食べました?」
『この後食べる、それとデザートも用意してある』
「あの、服が」
『今はローブで我慢してくれと、食べ終えたらシーツを替える、ゆっくり食べてくれて構わない』
「あ、はい、頂きます」
『あぁ、また後で』
あんなにも疲れ果て、いつもとは明らかに様子が違う、それこそ性別すら違うと言うのに。
《どうだった、レオンハルト》
『コレは、劣情と言うべきなんだろうか』
《かも知れないね、さ、食べよう》
ルーイ殿下は、この後、本当にネネを抱けるなら抱いても構わないと。
けれど、俺は、あんな姿のネネを抱いて良いんだろうか。
そもそもネネは、抱かせてくれるのだろうか。
『君は、それで本当に良いのか』
《もし、他に良い案が有るなら、是非聞くよ》
『いや、だが』
《ネネ次第、次には君次第》
デザートの後に用意されたお風呂に入っていると、既にシーツが替えられ、レオンハルト氏が部屋に。
「あ、どうも」
『君を、抱きたいと思った』
「あ、あぁ、どうも」
『ただ、今の君を抱くのは、忍びないとも思う』
「あぁ、まぁ、跡も付いてますしね」
半分はルーイ、もう半分は魔獣達。
ルーイが出て行って直ぐに、リアル蛇としていた筈が。
いつの間にか人型になっており、ガッツリキスマークを付けられ。
そして終わったと思ったら、またルーイ。
最後までしていなかったから、と。
それが終わると今度はお風呂に、そして次は狐。
しかも変化で一時的に人化出来るらしく、そのまま。
蛇も狐も、どうしてか股間は完全に人化しないもんだからもう、大変で大変で。
いや本当、ルーイが居なかったら確かに困った事になっていたかも知れないけど。
狐が終わった後はまたルーイ、しかも下準備をしてたらしく、そのままあれよあれよと。
それが終わったら再びお風呂、で最後は妖精の番。
ワンチャン、両性具有かなと思っていたけど、その通りで。
けれど。
『疲れているだろう、どうか手酷く断ってくれないか』
凄い葛藤するじゃん。
そんなんで出来るのか童貞。
「やっぱり無理ですか、男では」
『いや、出来そうだからこそ困っている』
まぁ、見た目が酷い状況ですから。
ただ、傍から見る限り本当に出来るのかは分からないし、いざとなってやっぱりダメとかも聞くワケで。
「お仕事は」
『休みを、貰っている』
ヤる気満々じゃないか。
「まぁ、その、本当かどうか少し確認させて貰いましょうか」
『分かった』
酷く落ち込まれましても。
「あの、嫌なら別に」
『嫌では無いんだ、本当に』
赤くもならず真顔でそう言われましても。
「取り敢えず、脱いで貰っても良いですかね」
『あぁ』
そこは後ろを向くんだ。
「あの」
『すまない』
ルーイ殿下から、好きにしろと言われていたとは言えど。
1度で終える筈だった。
そう労うつもりが有ったにも関わらず。
「何故、落ち込まれているのでしょうか」
『君を、労うつもりで、1度だけのつもりだったんだ』
「あ、その、改めてお伺いしますが。こう、自主的に、何かされたりとかは」
『ココ数日は、何も。だとしてもネネの負担を』
「いや、コレの影響で全然、寧ろ調子に乗ってすみませんでした」
『いや、俺の方こそ、本当にすまなかった』
「それだけで、落ち込んでますか?」
『貴族として、節度は守るべきだと』
「つまり、そこまで歯止めが利かなかったと」
『あぁ、ただ好意や執着の制御は、それなりに出来ると思っていたんだが』
全くと言って良い程、出来なかった。
こんな事では。
「した事が嫌だとかでは」
『それは無い』
「なら少しは嬉しそうにしてくれないと、地味に傷付くんですが」
『ぁあ、すまない』
「自制心が効かなかった事だけが、嫌なんですかね?」
『あぁ、すまない』
「なら、私に付き合って仕方無く」
『いや、そうでは無いんだ、本当にすまない』
「幾ら何でも真面目が過ぎると思いますが」
『怖いんだ、こう』
「歯止めが効かなくなる事が」
『あぁ』
「その時はハッキリ拒絶するから大丈夫ですよ」
『それも、あまり』
「あぁ」
『線引きも、不慣れで、以降も君に不快な思いをさせてしまうのではと思うと』
「あの、コレ、向こうで賢者タイムと呼ばれる」
『あぁ、コチラでもそうだな』
「成程、それとマリッジブルー、ですかね」
『あぁ、そうかも知れない』
「私としては、どちらか選べるならアナタを」
『マシ、程度だろう』
「すみません、選択肢が無いので」
『いや、仕方が無い』
「あの、こんな者に好意を抱いた事を」
『いや、それは本当に無いんだ』
「ですけど罪悪感が有りますよね」
『君には、本当に申し訳無い事をしたと思っている』
「しかもヤってしまった、と」
『証明の為に、1回だけに留めるつもりだったんだ』
「けれども誘われて、つい」
『あぁ』
溜まっているだけかも知れない。
確かにそうなのかも知れない、と。
「私としては寧ろお応え頂いて嬉しかったんですが、そうお悩みになるなら、好いてもおらず加減が出来る方と、ご成婚した方が宜しいのでは」
確かに理屈としてはそうだが。
好いてもいない相手と、こうして定期的に体を重ねるのは。
『いや、もう、無理だ』
「すみません、ココまで悩まれるとは思わず」
『いや、俺も、こうなるとは思ってもいなかった』
「それでも、こう悩まれるのでしたら、辞退も考えて頂く必要が有るかと」
『あぁ、すまない』
「いえ」
酷い状態のネネを、更に酷くしてしまった。
自制が効かない事が、こんなにも恐ろしいとは思わなかった。