20 出会い。
《どう?眠れた?》
「うん、爆睡した」
どうにも、人の体温は眠くなってしまう。
しかも寝酒をしたからもう、即寝落ち。
《ネネちゃん、豪胆》
「それに、開き直りました、飽きられ捨てられる前提で過ごそうと」
《振り切れ方が異次元な気がするけど、どうして?》
「抱かれてメロメロになった後、こんなものか、適当に扱おう。そう」
《僕が以前の婚約者があまりに愚かで冷めてしまった事を、気にしているみたいなんだ》
《おぉ、詳しく聞けますか?》
《平和に、穏やかに、出来るだけ争う事無く問題を解決すべきだと思うわ》
「で、だからどうしろと」
《そうなんだよネネ、幼かったとは思う、けれどあまりに綿菓子の様な》
《あ、ラインハルト様は寝れました?》
『あぁ、何とか』
散々、押し問答した挙げ句、ラインハルト氏はソファーで寝た。
そしてルーイ氏は、ちゃんと手は出さないでいてくれたが、寝ても覚めても股間を押し付けられまくった。
「はい、では、朝食会に伺わせて頂きましょう」
《おー》
エリザベート様より感想を、と事前に招待を受けており出席する事に。
全く、どんなモノなのか想像していなかったけれど。
ザッと言うと、モーニングパジャマパーティーだった。
勿論、男女別。
「何て素晴らしい会なんでしょうか」
『お気に召して頂けて、何よりだわ』
《このお衣装は既にご用意を?》
『来賓用に、ね』
上下別のシルクのネグリジェと、綿のローブ。
勿論、色は黒。
庭で焚き火を囲みつつ、地べたに敷かれたカーペットで寛ぎながら朝食を頂く。
優雅。
《あまり寒くないのは、やっぱり結界か何かのお陰ですかね?》
『火を扱うモノに、熱だけ逃さない様にして貰っているの』
「おぉ、そうした使い方も有るんですね、成程」
『まぁ、誰の能力かは、ね』
本来、滅多に自分の扱える魔法や仲間を明かさない。
それが人種ともなれば特に、弱いからこそ、様々な内情を明かす事は無いそうで。
人種同士で能力を明かすのは、職場か家族か。
情報への扱いは、寧ろ向こうよりも繊細。
暴く事も、広める事も罪となる。
そしてステータスオープンなんかさせてしまった日には、死刑も有り得るそうで。
「新参者には生き辛いですよね」
《ね、向こうで言われる様な魔法の世界と少し違うし、私が居た所とも違うし》
『あら、隠し玉が有ったのね』
《こうした対価の殆どは彼女へ、私には役目が有りますから》
『そう、どんな役目なのかしら』
《伝え繋げる、ですかね》
ユノちゃんは、1度ならず2度までも、自分と同じ名前を持つ者を確認している。
しかもそれはユノちゃんが後だったり、先だったり。
「でも、次も安全かどうか」
《そしたら逃げるもん、大丈夫、絶対にいつか帰るから無理はしない》
『アナタは、帰還を望む者なのね』
《いずれは、ですね》
ユノちゃんは転移を繰り返す、けれどその間にも時間は過ぎる。
仮に5年後に帰ったなら、どうなるのか。
その疑問には、直ぐにユノちゃんが答えてくれた。
もしかすれば、記憶と共に加齢も消えて無くなってしまうのでは無いか、と。
記憶や経験が保持されないかも知れない。
それでもユノちゃんは行ける所まで行く、納得出来るまで転移を繰り返す、中途半端は気持ち悪いからと。
もう、その心意気が善人気質だと思った。
実際には実行しなくとも、少なくとも元彼には絶対に出ないだろう発想だな、と。
『それでも、だからこそ』
《はい、得られればと思います》
『なら、先ずはウチの森ね。全てとは言わないけれど、かなりの種に会える筈よ』
多様な気候と植生により、最も多様な種が集まっている。
と、されているからだ、と。
「他にも有るんでしょうか」
『アナタ達の様な種の居る、東側の国、けれど帝国の影響の範囲外なのよ』
《あぁ、成程》
どうやら、母国はコチラでもガラパゴス化しているらしい。
「コチラの森へ、行っても宜しいのでしょうか」
『勿論、けれど、少しお昼寝しましょう?』
《賛成ー》
本当に軽くお昼寝をしてから、南西の森へ。
西から順に、枯れ木だらけの死の森、魔獣の森に聖獣の森。
で聖域。
『あの向こうに有るのが本拠地、アレは所謂大使館、帰りに移動魔法を使わせて貰うと良いわ』
向こうって、要するに海の向こうに見える他国なんだけど。
まだ、ちゃんとした地図を見せて貰えて無いんだよね。
「ありがとうございます」
『じゃあ、頑張って』
《はーい》
護衛にはカイルさんと、何故かラインハルト殿下。
大丈夫かな、皇太子様を危ない場所に連れて行って。
《あの、一緒に来ちゃって大丈夫ですか?》
『あぁ、問題無い』
「ですが、身を守る事を優先して下さいね、殿下」
『あぁ、分かった』
「では、宜しくお願いします」
こう言ってるなら、もう、仕方無いよね。
《よし、行こーう》
昔々、雪の様に肌が白い娘が産まれました。
金色の髪に黒い瞳を持つ、大変美しい娘で、父親は大変可愛がりました。
ですが、父親の再婚相手に妬まれ、15才の若さで王宮へと送られる事に。
そして美しい娘は直ぐに王に気に入られましたが、相手は父親とほぼ同じ年の男、可哀想に思った王妃が王宮から逃がした。
ですが父親の再婚相手に雇われた者が、娘を追い掛け。
廃坑へと逃げ込むと、7人の小人族が現れ、共に暮らす事に。
何も知らずに育った娘に、小人達は様々な事を教え。
娘は家事を、小人達は廃坑で採掘を。
そんなある日の事、落盤事故により廃坑になっていた場所へ王子様が現れ、美しい娘を見て直ぐに求婚しました。
ですが7人の小人達は、直ぐに娘を譲るワケにはいかない、先ずは婚礼の準備がどれだけなされるのか確認してからだと。
そう王子に伝え、追い返しました。
そして娘に再び様々な事を教え込んでいると、生きていると知った後妻が老婆に変装し、娘へ毒リンゴを届けました。
無知な娘はリンゴを齧り、仮死状態へ。
そして小人達は、ガラスの棺に娘を入れ、王子を待ちました。
そんな中、次に来た王子は棺の中の娘に驚きましたが。
最後にと、口付けを。
王子には妖精の加護が有り、その口付けが毒を解くと。
娘は目覚めました。
そこで再び王宮に戻った娘は、行方不明になっていた王の側室だと直ぐに判明し、王子の妻として迎え入れるべきかの議論になりましたが。
幸いにも、王のお手付きが無かった為、その事は問題にはなりませんでしたが。
7人の男と一緒に暮らしていた娘を、王子が妻にすべきか、と。
そこで王子は言いました、小人族の7人の男だった為、彼女の身は清い筈だと。
次に娘が言いました、何者かに追い掛けられ、はしたなくも走ってしまった。
もしかすれば、純血の証を残せないかも知れない、と。
それでも王子は食い下がり、何とか側室になる事が認められ。
王族は滅びました。
《ではココで問題だ、何故、王族は滅びた》
今、こうした問いを出したのは、目の前の真っ黒な大蛇。
目も鱗も黒曜石の様に艶やかな、この身を簡単に飲み込めるだろう大きさの蛇。
「性病を持っていたのでは」
《ほう、どうしてそう思う》
「小人族は性行為が出来無いんですか?」
《いや》
「なら、性的な事も含め、色々と教えたのでしょう」
《だが仮に、病を持っていたとしよう、どうして移ったのだ》
「帰りの馬車で小人達に教えられた通り、ありとあらゆる手練手管を遣って、骨抜きにしたのでしょう。私が卑しい小人族なら、そうした慰み者にしていたでしょうし、そう面白がって手放すでしょうね」
《だとして、どうして王族が滅ぶ》
「王も手を出したのでしょう、そして他の男も、娘は無知で小人達の言う通りにした。誘われたなら歓迎し、丁重におもてなしをしろ、と。そうして病は広がり、分かった頃にはもう、手の施しようが無かったか。病により気が可笑しくなり、誰かが殺して回ったか、嫉妬か」
《では何故、小人達はそう画策した》
「自分達を苦労させる国の王子が来たのです、復讐して当然かと」
《ふふふ、あぁ、正解だ》
「あ、有るんですね、正解」
《勿論だ、来訪者が広めた問答だからな》
「中々、キレの有る問答を出す方ですね」
《あぁ、私は会った事は無いが、面白い男だったそうだ》
「成程」
《お前を気に入った、私の能力を教えてやろう》
「あ、待って下さい、何故ですか。私には素養があまり」
《器、容量が少なければ、行使出来る事も範囲も何もかもが減ってしまう。半端に行う事は、最早不快でしか無い》
「成程」
《では、教えるとしよう》
そして教えて頂けた能力は、どれも欲しかったモノばかり。
あまりにも都合が良過ぎる。
森に入って秒で出会い、即座に問答へと入ったのだから。
「私が来る事を、既に知ってらっしゃいましたか」
《あぁ、風の精霊や妖精が噂をしていた。強いモノがココへ来るだろう、と》
「あぁ」
《そして死闘の末に、最初にお前に会う事が叶った》
「えっ、怪我とか」
《それに知恵比べもしての事、心配無い》
「あぁ、ありがとうございます」
《いや、問題は対価だろう》
「はい、ですね」
《私を傍らに置き、お前を知る権利を与え、魔力を供給する事》
「魔法の永続的な」
《お前の味を知る事だ》
「味、血ですか?」
《それと体液だな》
「体液」
《若しくは》
「若しくは」
《人型への進化を手伝う事、だな》
「抱かれろ、と」
《1度で構わない、どうせお前を取り合っている者達が居るのだろう、面倒は御免だ》
「あの、体液だけの場合は」
《様々な種類を吟味し、定期的に摂取させて貰う事になるだろうな》
「そう抱かれる程の」
《護衛として必要では無いのなら、それでも構わないが、考える時間はやろう。次のモノへ案内してやる》
「あぁ、お願いします」