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19 不具合。

『あらあら、ごめんなさいね、インクの不具合は滅多に無いのだけれど。運が悪かったのか、良かったのかしらね?』

《エリザベート女王、もう僕らの立場を白状したよ、だから君も正直に言ってくれない?》


 ルーイ氏と共に、陛下の元へ。

 ルーイ氏は、陛下の策略だと思ったらしいけれど。


()()、何もしてないわよ』

「あの、そんなにインクの保存は難しいんですかね?」


『そうなの、水滴1つで無効化されてしまうから。けれど不具合が1つだけなら、インクの色が変わっている事に気付ける筈、なのよね』


 ルーイ殿下の視線の先には。

 近衛。


 いや、ココに居ないカイル氏か。


《はぁ》

「家臣に恵まれてらっしゃる」

『そうね、ただ主の機嫌を損ねるのは良くないわ』


「でも私は助かりました、あのままならどうなっていた事か」

『ふふ、つまりは、殆ど口説き落としてしまったのね』

《彼女がこう言ってますし、良い家臣だとは思いますけど、アレのせいでまだ良い返事を貰えて無いとも言えますね》


「大人げない」

《君より年下だからね》

『本当、こう幼いのがダメなのかしら?』


「陛下、鋭意精査中ですのでご勘弁を」

『ふふふ、本当、手強い子って好き』

《不自由させないから、早く僕を選んで》


「あ、廃嫡以外となると」

《誰かと僕の立場をすり替えて、辺境で仲良く平和に暮らす》

『あらあら、勿体無い』


「ほら」

『けれど彼だけ、だなんて、もっと欲張って貰うべきだわ』

《ほら》


『本当、偶には貸して頂戴ね?』


《考えておくよ》

「例えば何に使うんでしょうか」

『アナタが出来る事、ね』


 何も成していないのにコレ。


 まさか、単なるトロフィー。

 いや寧ろ、広告塔か客寄せパンダなのか。


《解せないって顔をしてるけど、コレは価値観の違いかな、君はちゃんと成してるよ》


 何をした。

 接待術?


 あの程度、別に。


 えっ、何、どれ。


『ふふふ、今日の事は残念だったわね、コチラを贈らせて貰うわ』


 陛下が扇子を閉じ合図を送ると、侍女が箱を側近に、側近がテーブルへ。


《中身は何だろうか》

『今度はちゃんとしたモノと、ウチの書庫の鍵、それとココの魔法陣の使用権よ。アナタに、手を出して』


 いや、それなりに信用はしてますが。


《大丈夫、彼女が問題を起こしたら彼女を潰せるから》

『そうそう、意外と帝国って強いのよ』


 それに、最悪はユノちゃんに助けて貰う事も出来る。


 ユノちゃんが居るって、本当、心強い。

 でも世話になり続けるワケにもいかない、虎穴に入らずんば虎子を得ず、本格的に魔法を習得しよう。


「お願いします」




 すっかり楽しんじゃったから、お腹が空いたな、と。

 で何か頼もうかと思って彼女にお願いしたら、少ししてネネちゃんが来て、呼び出されて。


《えっ、妨害工作?》

「犯人は特定出来てるのと、善意、しかもその善意が良い方向へ導いたので無罪です」


《ごめーん、めっちゃ楽しんでた》

「そこは大丈夫、コッチはコッチで収穫が有ったから」


《そっか、てかどう?イケメンじゃない?》

「モデル出来ると思う、マジで」


《付き合う?》


「そうフるのもアリなのか」

《いやいやいや、殿下はフるにしても、ちょっと年下だけどルーイさんなら良いんじゃない?》


「後ろ盾が無いのは厳しいのは分かるんだけど、何か、他の手段って無いかな」

《そんなに好みじゃない?》


「いや何か、安定を得る為に取り敢えず結婚って、安直過ぎと言うか。後に思わぬ不自由さが有りそうだなと思って」

《そう?無駄に苦労しないで良いかもじゃない?》


「あぁ、うん。ダメだ、心のしこりが思考の邪魔してる」

《でも結婚って大事な事だし、慎重になって当然だと思う》


「もう少し様子見しつつ考えるわ、楽しんで」

《えっ、本当に大丈夫なの?》


「大丈夫、寧ろ褒賞を与えたい位だから、後で感想宜しくー」

《おーう》


 何か、もっと波立ってるかなって思ったけど、穏やかだった。

 あの感じなら、一緒に居なくても大丈夫そうかな。


 うん、精一杯楽しもう、色んな意味で。




《ネネ、言わないでくれたね》


「ユノまで娶る気?」

《ううん、ただもしそうなったら。少しネネには可哀想な事になって貰って、自主的にユノが離れない様にするだけだよ》


「腹黒。習得して欲しい魔法とか有りますかね、それこそ魔獣でも魔族でも、仲間にすべきモノでも良いですし……」


 僕の元婚約者は、本当に、真の箱入り娘だった。

 お菓子の家に守られ、花の蜜と清い水で成長し、真綿に包まれ育った様な子。


 最初は、確かに物珍しさから興味を引かれた。

 けれど何も知らないと理解していながらも、平和に穏便に争わず問題を解決すべきだ、と。


 確かに理想は持つべきだ、そこへ向けて努力すべきなのだから、理想自体は素晴らしい。


 けれど、僕は歓迎出来なかった。

 コレだけ知識と教養の差が格差と共に存在しているのに、対案も出さず理想論のみ。


 何をのうのうとほざいているんだこの女は、脳味噌まで砂糖漬けにでもなっているんじゃないのか。


 そう思った途端、得体の知れない生き物にしか思えなくなり、完全に興味を失った。

 だからこそ、少しだけレオンハルトが優しくするだけで、彼女は落ちた。


 興味を失ったのは幼さのせいかも知れない、共に育てば良き伴侶になったのかも知れない、けれど。

 僕は彼女に対して、そんな時間を1秒も割きたくなかった。


《好き》

「いや質問に答えなさいよ、コッチは真剣に……」


 ネネは策略への耐性と適性が有る、アレや2号の様に過保護なまでに手間暇を掛ける隙も無いし、有っても少しのヒントで自ら穴を埋めてしまう。

 そして警戒しながらも人を信用しようとするし、この世界の役に立とうとしてくれていて、可愛い。


 人を丸呑み出来る程の巨体を持ちながら、生まれたばかりの子鹿の様に震える脚で立ち、子猫の様に威嚇を続けている。


 それが堪らなく可愛い。


《嘘を見抜ける魔法が得られるモノは、どうかな?》

「ですよね、精度も上げたいし」


《となると、対価は少し高くなるかもね》

「永続的となれば更に、か」


 強い者の仲間になる、それだけでも対価と見なし能力を授けるモノもいれば、それこそ吸血鬼の様に血を対価とするモノも居る。


《夢魔の中には、淫夢を見させつつも、身を清く保たせるモノも居るらしいよ》

「ドS」


《ふふ、ネネもそうだものね》


「何故、そうなるのでしょうか」

《だって、僕を暴いたじゃない、しかもこんなに我慢させるんだし》


 残念な事にインクの効能は無くても、一部の成分は体内に残留し続ける。

 だからこそ落としてから3時間は新たに魔法印を押す事が出来ないし、もし使えば月経周期が乱れる程の不調が起こってしまう。


「誰かにお相手して頂けば」

《ネネなら嫌でしょう?だから躊躇ってたんだし、ね?》


 分かっている、そう示す事はコチラの能力を知らしめるも同義。

 だからこそ平凡で凡庸を装い、気付かないフリをする者も居る。


 ただ、それがフリなのか、限界なのかは見極めが必要となる。


「暴かなければ、追い詰め無ければ、猫を被ったままで居てくれたんでしょうかね」

《どうだろう、もっと断り難い状態にしていたかもね》


「あぁ、有り得そう」


 忌避感も嫌悪も見られない。

 だからネネが好きなワケじゃないけれど、コレはネネの良い所。


《僕の、この腹黒さを散々謗られたんだ、元婚約者に》

「腹黒、下衆、卑怯者」


《ふふふ、ネネは良いんだよ、分かってくれているんだし》


 僕がそうした生き物だと理解し、半ば直ぐに受け入れてくれた。


 謀られた、騙された、傷付けられたと大騒ぎをされたら。

 きっと僕は直ぐに興味を失っていたのに、ネネはそうしなかった、そうした強さと優しさを持ってる。


「大した女じゃないと分かれば」

《皇太子妃としてだけじゃない、ネネの良さは分かってる》


「何処ですかそれ」


《夜伽1回につき、1つ教える》

「1回とは何を指しますか、具体的にお願いします」


《ふふ、そうした所だよ》

「で、具体的に」


 しっかりしてるからこそ、安心出来る。

 不安要素しか無い女なんて、相手にするだけ損以外の何物でも無い。


 だからこそネネが良い、けどそれだけじゃない。

 それはあくまでも大前提。


 ネネの良さは。


 いや、多分ネネは今、受け入れる体制を整えてくれてる。

 そこはネネに合わせないとね、手に入れてから手放すなんて、絶対に嫌なのだし。




《しょうがないなぁ、ネネにとって妥当な算出方法は?》

「アナタが達する、中で」


《誘ってる?》

「行為中は口説くの禁止で」


《それは、黙ってしろって事?》

「好意を伝えるのと可愛いを禁句にするなら、考えます」


《今でもコレなのに、かなり難しいと思うんだけれど》

「でしょうね」


《ほらドS》


 無理難題を言っている自覚は有ります。

 そして今、自分の性癖に気が付きました。


「思わぬ性癖の発見に、驚きを禁じざるを得ません」


 正直、悩み苦しんで貰えると、寧ろ悪い気分では無いなと感じている。

 悩ませる事は悪い事だ、それは間違いだと知りながらも、未だにそうした考えが払拭しきれていない。


《本当に驚いてるんだ》

「優しいとまでは言いませんが、平凡で凡庸で無個性だと思っていたので、はい」


 家族の性癖は知らないけれど、こんな性癖を持っていそうなのは。

 いや、1人居るな。


《キスしたい》

「雪崩式だとか、なし崩し的行為に誠意を感じられない、とは思いませんか」


《あまりに頑固で頑なな子には、時に使うべき手段だと思うよ》


 ルーイ氏は多分、本気で手段を選ばない質だ。

 コレは、恋愛初心者にはあまりにも強敵過ぎる。


「確かに、このままレオンハルト様と結婚した方が安全かも知れませんね」


 言い終わるかどうかで、背中に体温と重さを感じた。


 多分、コレは机ドン、とでも言うべきだろうか。

 娼館の部屋に備え付けてあるデスクでメモを取っていたら、背後から覆い被さる様に。


《何処がダメか教えて》


 耳元で囁かれ、急いで両耳を抑えたものの。

 今度は首筋に感触が。


「無駄にエロい」

《色欲と魅了の魔女の子孫だからね》


 あぁ、あの閂、もしかして殿下を閉じ込める為の。


「ちょっ」

《痕を付けちゃおうかな》


「止めろ、明日も人に会う予定が」

《ジタバタして可愛いね》


 耳を隠せば首へ、首を隠せば耳へ。

 髪、上げるんじゃなかった、つか下ろせば良いのか。


 クソ、髪の隙間を狙われる。


「参った」

《聞こえない》


「詰ませるな」

《そう?まだ両手は抑えて無いよね》


 彼は詭弁の天才だ。

 と言うか多分、天才だ。


 自制心を保ちつつ、ギリギリを攻めてくる。

 コチラが嫌悪しない程度に踏み込み、時に自制を促す。


 コレは、天才の暇潰しの一環なのでは。


「そうやって遊んで、飽きたら」

《レオンハルトは絶対に捨てないだろうけど、僕は、絶対に諦めないよ》


「飽きるかも知れないんですね」

《元婚約者に冷めた者としては、否定は難しいからね》


「彼女の愚かな面が見えて冷めた」


《眼前に突き付けられて、得体の知れない生き物に見える様になった》


「なら、それこそ私はこのまま、配下か配下の嫁にでもしておいた方が」

《それじゃあ抱けないでしょ》


「この、大して胸も無いのに」

《どちらかと言うと足首やお尻かな、ローブ越しだった時は、本当に自分で自分を褒めたよ》


「まさかの足首とお尻フェチ」

《それに指も食べてしまいたいし、耳も》


「降参」

《じゃあしてくれる?》


 何かされる度に体が跳ね上がって、悔しい。


 どうすれば逃げられる。

 椅子を体で抑えられて、それこそ身動きが。


 いや、動く、動ける。


「舌を噛み千切るぞ」


《分かった、ごめんね意地悪して》

「先ずは離れて下さい」


《分かった》


 そして、やっと、何とか自由を得られたけれど。

 コレは、ココに居ては身が保たない。


 レオンハルト氏は別室で待機中のまま、かと言ってそっちに行っても若干危うそうだし。


 あぁ、後ろ盾、身を守り合う仲間って本当に大事だ。

 詰んでる。


「はぁ」


《ごめん、手を出さなければ少しは信用してくれる?》

「そしてココにレオンハルト様も呼び、3人で眠るのが条件です」


 今、城には帰り難い状態。

 ユノちゃんと共にココに泊まる事になっており、更に予定を変更する事は心苦しい。


 そして何より、ユノちゃんと離れる利が無い。


《分かった、そうしよう》


 忘れて頂く為にも、本来なら一切何の思い出も無い方が良いだろう、と。

 だから接触を控えていたけれど。


 今回はもう、身を守る為だ、仕方無い。

 エロい皇太子が悪い。

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