17 ご報告。
「すみません、大変お待たせしました」
『良いのよ、慣れない場所で慣れない事が多いでしょう、悩まれて当然だわ』
「はい、ですので慣れようかと思います、娼館で」
『まぁ、ふふふ、好き。潔いのね』
「習うより慣れろ、そうした格言も有りますので」
《試してガッ、と、慣れようかと》
『ふふふ、では今日、もう行かれるのかしら?』
「はい、直ぐにでも、陰謀や策略に巻き込まれたく無いので」
『もう巻き込まれているかも知れないわよ?』
「既にそのつもりで居ます」
『ふふふ、良い度胸、ただ護衛は付けさせて頂戴ね?建物の周囲に、周りに分からない様に、帝国の護衛をね。だから、アナタ達も建物の中に居て頂戴、良いわね?』
『分かりました』
《はい、畏まりました》
『では、移動魔法陣の前までご案内するわね』
『はい』
恋人でも無いし、法に引っ掛かる事でも無いのに。
彼らが酷く落ち込んでいるの
様子を見て、非常に心の引っ掛かりを覚えた。
嫌なのは分かる。
好きな人に風俗に行かれたら嫌なのは、良く分かる。
でも、じゃあ、どうすれば良いのか。
全くもって打開策が見当たらない。
何故なら彼らの中身を知らない、知る機会が無いからだ。
彼らが私を好きだと言っている様に、元恋人を好きだった。
けれど、思っていた人物像とは全く違った。
しかもココには、周囲には彼らの味方しか居ない、聞いたとて悪評は聞けないだろう。
そしてココにはネットが無い、暴けない。
例え日記が有ったとしても、ハニトラ要員に選ばれたのだから、その中身すら偽装している可能性が有る。
では、言っている事は嘘なのか。
それは違う、言っている事は真実では有る。
けれども、質問が曖昧であったり、自覚が無ければ網に掛からない。
『あら、迷っているの?』
魔法陣の前で、殿下とルーイ氏が立ち止まったまま。
けれど、陛下の問い掛けはコチラへと向いていた。
「すみません」
『娼館を利用する者は様々だわ、けれど、それを誰かに無理に理解して貰う必要は無いと思うの。同じ傷、深さでも治り方は其々、癒し方も其々で良い筈よね?』
「はい」
『大丈夫、気乗りしなければ添い寝だけ、お話し合いだけでも良いのだもの。大丈夫、アナタはココでもちゃんと愛される子よ、良い子だわ』
「ありがとうございます」
『アナタ達、傷薬が何なら納得するのかしら?淑やかに刺繡でもすれば満足なの?それともアナタ達の為に、お料理、かしら?彼女がしたい事を笑顔で送り出せないのなら、さっさと諦めなさい、それともアナタ達に愛の形を決める権利が有るのかしら。違うわよね、けれどどうしても型に嵌めた愛が欲しいなら、他を選びなさい?』
正論だ、ぐうの音も出ない程。
けれど、受け入れ難いのも分かる、でもそれは本当に好意だけなのか。
帝国の手から漏れ出てしまう懸念は、全く無いのか。
『警護を、手配させて頂きます』
『では、どうぞ、お使い下さい』
そうして殿下が魔法陣で城へ先触れとして向かい。
警護隊はそのまま娼館に1番近い警備拠点へと転移後、コチラは少し間を置き、魔法陣を使いそのまま娼館へ行く事になった。
「ありがとうございます」
『また、ね、次は感想を聞かせて頂戴ね?』
「はい」
『ふふふ、では楽しんで、スズランにミモザ』
《はーい、ありがとうございました》
何だか、憂鬱で出来る気がしないかも。
《どっちに決定権が有るか、どっちを重要視すべきか、全然見抜かれちゃってたよねぇ》
「流石、この国のトップだと思う」
娼館の待合室に着いても、気は晴れないまま。
仮初めの婚約者は要るけれど、表だって公表はされてはいない、破棄してもお互いに実害は無い。
悪い事では無い筈なのに。
どうしても、罪悪感が湧き続けてしまう。
《憂鬱そう》
「仔犬を見捨てた気分」
《風俗も行かれてた?》
「デリってた」
《おぅ》
「本当、何で、しか思い浮かば」
『ネネ』
《僕が女の子になるからさ?ダメ?》
いきなり2人が現れたかと思うと、ルーイ氏が足元に縋り付いて。
「えっ?」
《考えたんだけど、男で女を体験したいなら、別に僕でも良いワケだよね?》
《凄い度胸だけど、痛いかもなんだよ?それこそルーイさんが女の子になっても、反応しないかもだし》
《そこはほら、同性の強みで何とかする》
「ちょっと、待って欲しい、ちょっと頭が真っ白で」
《お、チャンスだぞ殿下》
『俺も、先ずは要望に応えさせて欲しい』
「待った待った、言い方を考えるから待って」
《ダメー、猫被り無しにしようよ、フるにも良いチャンスなんだし》
「どうかしてる、必死過ぎて陰謀や計略を疑う、あたおか」
《確かに、分かる、好きで必死なのか政略的に必死なのか区別が》
《本当に好きなだけだよネネ》
「娼館で、告白」
《確かに、でもネネちゃんを手元に置く利しか無いんじゃない?》
『損は無い、けれど例え利が無くても』
「料理も家事もしないで、一切働かず国の為に何も動かないで良いって言われても、それはそれでちょっと嫌かも」
《確かに、でも向こうと価値観も違うし。あ、アレか、廃嫡されたらそうなっちゃうのか》
「何それ、それこそプレッシャーしか無いんですけど」
《ほら》
「いや真面目に考えて廃嫡は、廃嫡されてどう生きるのよ」
『ネネに、付いて行こうかと』
「主体性が無さ過ぎる」
《したい事とか、なりたかったモノとかについて語った事は?》
『いや』
《失礼致します》
「あ、カイル様、お世話になります」
《いえ、部屋の確認を完了致しましたので、後はご自由にお過ごし下さいとの事ですが》
「カイル様はどう思いますか」
《女体となって男の体を体験してみたいですか?》
《いえ、自分は異性愛者ですので、かなり条件が揃わないと難しいかと》
《例えば?》
《好みの女性の様な姿で尚、見てみた際にどうなるか、かと》
《興味が有るんだけど変?》
《いえ、違いに興味が湧いて当然かと、俺も空を飛べたらと思いますので》
《成程》
つまり、空を飛ぶ事と同じ程度、なんだろうか。
《後は、何か》
《ううん、ありがとうございました、警備の方宜しくお願いします》
《はい、では、失礼致します》
ダメだ、頭が真っ白のままで、上手く言葉が取り繕えない。
どうしたら良いのか、凄い、迷ってる。
《よーし、じゃあ私は女の子選んで来るから》
「へっ」
《ガンバっ》
「えっ、いや、待っ」
いや、うん、あそこまで覚悟してたらもうね。
後はもうネネちゃん次第、それに、したら絶対に結婚では無いんだし。
あ、ココ凄い。
可愛い子とか綺麗とか、え、何。
凄いクオリティ揃いなんですけど。
えっ、何、世の男子はこんなワクワク楽しい事独占してたの?
え、ズルいんですけど。
あー、どうしよう。
迷う、超迷う。
《あー、コレが男になったら相手してくれる方ー、挙手をー》
えっ、結構居る。
どうしよう、モテた気になちゃうな。
ヤバい、ハマったらどうしよう。
「あの、責任を取るつもりが全く」
《うん、レオンハルトならまだ良いけど、他は本当に嫌だ》
「いや、にしても、知り合いを避けたいからこそで」
《お願い、他のに触れないで》
いや、分かるけど。
けど、いや。
「そうなって、やっぱり無理ってなったら」
《絶対にならない》
「子供じゃ無いんだから」
《それはネネの方だよ、ダメならちゃんと大人しくする。ね?良いでしょ?》
まぁ、それこそ自分で確認しても萎えるかも知れない。
見てみない事には、先を考えられないワケで。
「分かった、部屋に有る魔道具を使ってみて、それからまた話し合いましょう」
《うん》
「折角ですし手間を省きたいので、来ますか」
《僕は良いけど》
『同席、させて貰う』
そして待合室と言う名の応接室を出ると、絶妙な音量バランスで嬌声が耳に入った。
コレが誘い水になるんだろうか、と、そう思いつつ空き部屋に入ると。
クイーンサイズのベッド。
お城のってシングルだったので、つい、うっかり。
良いクッション。
中身はどうなっているんだろうか。
『ネネ』
「あ、失礼、つい癖で」
急いで起き上がり、魔道具が仕舞われている筈の箱へ。
そして開けると。
ハンコらしき何かと、ガラスの器、それと紫色の液体の入った小瓶。
《ネネ?読もうか?》
「あ、あぁ、お願いします」
箱の裏蓋に説明書きが彫られており、ルーイ氏に音読して貰う事に。
《液体をガラス容器の内側の線まで入れ、インクが染み込むまで判を浸します》
「はい」
《5秒待ちインクを吸い上げた事を確認後、腰か下腹部へ。自然に乾かし終えた頃には、変化しています》
そして急いで乾かすと苦痛を伴う為、非推奨だとも。
「ほう」
《尚、浴室の専用石鹸を使えば直ぐに落ちますが、自然に落ちるまでお楽しみ頂く事も可能です》
ただ元に戻るのは、落とし終えてから約3時間掛かるそうで、眠る前に落とす場合が多いらしい。
「そうか、コレで2号ちゃん落とせば良いのか」
《ネネ、先ずは僕らと試そう?》
「あぁ、うん、じゃあ先ずはルーイからで」
《あ、お風呂良い?》
「あぁ、どうぞ」
《うん》
あ、コレ、凄い気まずい。
「あの、殿下」
『すまない、快く送り出せなかった』
「いや、お気持ちは分かりますので、お気になさらず」
『ネネも、こうした思いをした事が』
「はい、事後で、後から知りました」
『そうか』
「あの、なりたかった、したかった事って何か有りますか」
『無い、この役目についても知っていた、いずれ政略結婚するだろう事も。騎士や学者、そうした者になりたいとは、思いもしなかった』
似ているのが、何だか悔しい。
けれど似た者同士惹かれ合ったと思ったのに、あんな風に失敗したし。
「ルーイ様の誘い水無しで、もし浮気されていたら。一線を越える程の好意が裏切られたら、今でもそうしていられましたか」
『いや。ただ、ネネに対してもう少し、愚かしい行為を慎めていたのではと思う』
「アナタが私を好きな様に、私は恋人が好きでした。酷い男だと知らずに、良い人だと思っていました」
もっと嘘を見抜こうとしていれば、もっと何かに気付けたんじゃないか。
信用し過ぎず、常に冷静に好意を疑い、見極める為にもっと知識や経験が有れば。
『ネネは、選ぶ所から苦労していた。なのに俺は、選んで貰った相手を大切にしていたつもりで、ただ避けていただけなんじゃないかと思う』
「どうして、そうなったんでしょうか」
『正直、面倒だった』




