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11 2号さん。

 今年度は豊作、大量、当たり年らしく。

 再び来訪者が訪れた、しかも立食会の3日前に。


『君の名前を、良いだろうか』


 ラインハルト殿下、ナイス王子様スマイル。


 あぁ、皇族が居る国で育った者としては、魅力的な笑みには王子と言うけど。

 皇子スマイルとなると何か、違う。


 こう、もう少し尊いと言うか。


『ゆ、ユノ、ナダギ、です』


 一緒に隠れたユノちゃんが、真横で目玉が飛び出そうな表情になってから、めちゃめちゃイヤイヤと手を横に振って困惑してる。

 可愛い。


『そうか、俺はジュブワ・レオンハルトだ、宜しく』


 よし、何とか平静を保って計画通りに動いている。


 私の時は、念の為にと一気にルーイと共に攻勢をかけたのが敗因の一因だと、ユノちゃんとは既に合意に達している。

 中には男が苦手な女性が来るかも知れない、となれば先ずは1人だけが相手をすべきだ、と。


『はい、宜しく、お願いします』


 私達は既にユノちゃんの名を騙る者について、存在を知っている。

 けれども、もし知らなかったなら。


 やはり、ユノちゃんには苦労させる事になるけれど、こうした者の存在を周知して回って欲しいと思っている。


 良き者だけが来るなら、どの異世界も苦労はしない。

 幾ら稀人信仰が有るにしても、盲信は滅びへの近道にしかならない。


《はぁ、目まぐるしいねぇ》

「ですね、当たり年にしてもコレは、何処か作為的な匂いを感じますよね」


《神々の、悪戯?》

「遊びでも構いませんが、あ、ココの神は?」


《接触無し、居ないのか隠れてるのか分からない》

「真面目なら良いんですけど、単なる悪巫山戯ならぶん殴りたいですね」


《まぁまぁ、何かの制約が有るのか、警戒しての事かも知れないし》

「でも自分の名を騙られてるんですよ?優しいですね、私なら余程の理由が無いと、年の数だけビンタ決定ですよ」


《あー、それ良いね、採用》

「何かしようとは思って無かったんですか?」


《言ってダメなら、もう良いやって思ってたんだけど。それもそれで悔しいは悔しいから、考えるの放棄してたんだよね》

「器用」


《そうかなー、適当過ぎって偶に言われるんだけど》

「考えないって、実は高度なテクニックですからね、じゃなきゃお坊さんが修行してまで得ようとはしないんですし。修行したからと言って直ぐには得られない」


《ふふふ、褒め上手、しかも知識が相まって凄いなって思う》

「いや、コレは多分、年相応ですよ」


《いや稀人信仰とか、それこそ民俗学とか絶対に触れなかったと思うもん》

「そこは運かと、兄が好きで、そうしたマンガを読んでただけですから」


《そこだよぉ、ウチって大家族だからマンガは単行本禁止だったんだよね、借りるか図書館って決まりで。休みの日は漫喫行ってたもん》

「アレって贅沢な時間ですよね、映画とか流しながら、ダラダラとジュース飲み放題」


《ネネちゃんこそ器用じゃん、私どっちかだけだもん》

「あぁ、集中するとどっちかだけになりますよ、それこそ好きな動画はBGMなんで」


《あ、アレは?絶対音感》

「有りますけど、そこまで興味が無かったんですよね、音楽もドレスも。既に凄い出来る人とか、凄い似合う人とか見ちゃってるので」


《あ、お姉さんはモデルとかなんだもんね》

「等身が違い過ぎて他人だと思われるんですよ、それこそマネージャーだとか、ファンだとか」


《家庭内格差》

「カースト無いけど最下層、他者から不可触民扱いされて、家族としても心苦しさは有ったとは思います」


《他人の言う事は気にするなって、無理だよね、だって多く関わってくのって他人なんだし》

「全くもってその通りだと思います、朝令暮改、ダブルスタンダードを素でやる人は多いですから」


《真面目》

「ユノちゃんも、器用で真面目で集中力が有るからこそ、考えないが出来る人なんですよ」


《ほら褒め上手、ふふふ》


《何か、仲良さそうだね?》

「あぁ、どうですか彼女は」

《あ、そうだ、忘れてたわ》


《暫くレオンハルトが世話をする事になるんだけど》

「でしょうね、宜しくお伝え下さい」

《あ、アレは?そのまま調子に乗って貰って立食会にも出て貰えば?ドレスも少し合わせれば平気だろうし、ウチらは入れ替えで出れば良いんだし》


「天才」

《えへへ》


《分かった、そう相談してくるよ》

「あ、それと、私達は別室に行くのはどうかな」

《だね、小さい個室が有れば大丈夫だし》


「うん、お願いします」


《分かった、ならもう少しココで待っててくれるかな》

「おうよ」

《了解でー》


 ユノちゃんが働いてたキャバクラに遊びに行けてたら。

 もう少し何か、少しは人生が変わってたかも知れない。




『ネネ』


「何か」


『君に好かれていない事を承知の上で、我儘を言わせて欲しい』

「先ずは耳を傾けるだけならしますが」


 こうした問答が、まさか心地良さすら感じるとは思わなかった。

 大前提に賢さが存在している、その安心感は絶大だ。


『構ってくれないだろうか』


「ココには、魔獣でも何でも無い、飼い猫とかって存在していますか?」


『あぁ、貴族は完全室内飼いで、身内にしか会わせない者も居るが』

「猫って、嫉妬深いんです、鼻も良いのか他の猫を構った後だと猛烈に不機嫌になるか鳴いて抗議するか。万が一にも、他の女の匂いはさせない方が宜しいかと」


『君はさして香らない』


「嗅いだのか」

『あ、いや、最近は知らないが。前は』


「赤くなられても困るんですが」

『つい、すまない』


 好いてもいない相手に照れられても困るのは、現時点で、今でも思い知らされていると言うのに。


「どう、構って欲しいんでしょうか」


『ハグを』

「却下で」


『却下されると思っていた、こう話しているだけでも良いんだ』


「ユノの何がダメですか」

『どうしてそうなるんだろうか』


「ユノの手練手管は中々のモノかと」


『こう、嫉妬を』

「弟に母を取られた、そんな幼心なら思い出しましたが、弟はいません」


『あぁ、成程、モヤモヤとはしてくれたのか』

「一応、アナタはまだ保護者や後ろ盾候補ですから、生命維持に関わりますので心配はします。もし落ちちたならどうしてくれようか、と」


『元老院を潰してしまいたい』

「そこも少し考えたんですが、曾孫へのお節介となれば、あながち間違った命令では無かったのではと。殿下は破棄後、直ぐに、精力的に次の婚約者を探しましたか?」


『いや、だが』

「幾つでの出来事ですか」


『18だが』

「5年、ウジウジしてたんですか」


『一先ずは、国政を』

「それが逃げだと理解してかと、成程、元老院万歳」


『確かに5年は、けれども良い相手から先に』

「分かりますよ、しかも時には同じに思えたり見えたり、それこそ選ぶのが面倒だとかとても良く分かりますが。殿下のお立場なんですよ、私の時の様に国内で病が流行り、アナタが最高位となるかも知れない」


『だからこそ、慎重に』

「そんなにココの女は愚かですか?」


『いや』

「では私への好意は逃げですね、例え上手くいかなかったとしても、所詮は生きる世界が違っていたから仕方無かったで済む。そして上手くいけば良い嫁を捕まえた、アナタの評判が上がる、利ばかりですね」


 久し振りのネネの正論は、とても心に響いた。

 反論が思い付かない程に正しい、逃げを含んだ好意なのだと、俺も納得してしまった。


『すまない、否定が難しい』

「すみません労えず」


『いや、俺や国の』

「果ては私の為ですから」


『どうすれば、好いて貰えるんだろうか』


「一切の問題も無く皇太子では無くなり、それなりに安定した地位と仕事を持ち、浮気もし難いのであれば。多分、アナタにはそこまで問題が無いなら、いずれ好くかと」


『君は本当に真面目だな』

「取り柄と言えば取り柄ですし」


『皇太子妃でも問題無いと俺は思う』

「恋は盲目、それに皇太子妃として選別の目に晒され続ける位なら他を探します、絶対にアナタ以外に愛されないワケでは無い筈ですから」


『一応、愛は求めているんだな』

「私を何だと思ってるんですかね、平凡で凡庸な単なる中流家庭に生まれ育った女ですよ」


『下手な貴族より貴族らしい』

「相当、碌でも無い方ばかりなんですね」


『自己評価が低いのは、何故だろうか』


「ユノは、本当に口が固いんですね」

『あぁ、ユノなら知っているのか、そうした君の事を』


「はい、私の自己評価が正当だと理解してくれました」

『つまりは、家族はもっと出来が良いのか』


「ですね」

『俺と同じなんだな、ネネは』


「兄弟姉妹初の、婚約破棄ですか」

『あぁ、家族は擁護してくれても、周囲の意見までは抑えられない』


「確かに似てるかも知れませんが、同情しかしませんよ」


『君と、こうして話している方が良い』

「分かりますよ、あんまりな方との会話は酷く疲れますから。ですけど、コレに慣れるのもどうかと。もう少し優しく言って下さる方の方が、結婚後も仲良く居られるかと」


『だからこそ、敢えて歯に衣着せぬ物言いをしているんだな』


「お疲れ様です、ひと段落付いたら甘やかす事も検討しておきますので、して欲しい事でも考えて凌いで下さい」

『嬉しいんだが、それはルーイもだろうか』


「ですね、公平性は重要ですから。相応を検討しますので適度に頑張って下さい、失敗しては努力も何も泡と消えますので」


『君と結婚したい』

「そんな吐き出す様に言われても、と言うか被虐嗜好が強過ぎですよ。ユノ位がベストです、私が男ならユノを選びます」


『いや、彼女も彼女で隙が無いだろう』

「ですね、違う意味で。でもきっと懐にしっかり入れてくれたら、凄く甘やかしてくれる筈」


『君も、そうしてくれるだろう』


「元恋人に浮気されて、気安い方が苦手なんですよね、それに男臭いのも無理」


『カイルはモテる方なんだが』

「それこそ価値観の違いかと、と言うか良い伏兵は、他にも居ますね」


『居る』

「嫉妬ですか」


『まぁ、そうだ』

「手札を出さないなら甘やかす案は濃度を薄めます、期間も」


『俺を含め、手札は7枚』


「七つの大罪同様、ですか、成程」

『ひと段落したら改めて口説かせて欲しい』


「それが要望で良いんですか、ハグし放題とかも考えてたんですけど」

『口説きつつハグ』


「では頑張って成果を出して下さい、ほら、お帰り」

『俺の口に合う手料理も可能だろうか』


「料理した事有ります?手間ぞ?」


『分かった、考えておく』


 居心地の良さ、とは何なのだろうか。


 香りは勿論、対話の苦痛の無さに加え、反応の好ましさ。

 だろうか。


 それとも自分に似た何かを持つ事か、或いは理解出来る言動、なのか。


 兎に角、ネネは居心地が良い。

 俺を正しい位置に戻そうと押し戻す力加減や、それら全てが心地良い。

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