100 最後。
『健やかなる時も病める時も、貧する時も富もうとも。かの策略の中に身を置いた時を思い出し、手を取り合い、一生を添い遂げると誓いますか』
「はい」
《はい》
『では指輪の交換を』
結婚する事になりました。
帝国領に戻って直ぐ、既に仕立てられたマーメイドドレス、指輪と式場。
だから2人で帰ってたワケですね、確認の為にもと。
「ちょっ」
《我慢出来無くて》
『では、誓いのキスも済みました事ですし、皆さんお見送りの準備を』
地味な場所で、出席者が尋常じゃない派手さの結婚式。
ドレスを着せられた時より、参列者の顔を見た時の方が緊張した。
皇帝とエル様、悲嘆国からはご姉妹とお子様。
強欲国はエリザベート陛下と、旦那様。
地獄からはバティス伯爵とヒナちゃん、虚栄国からは国王とお姫様。
そして憤怒国と怠惰国のトップ、最重要人物集めて、何をしているのかと。
「怖い、早く解散して頂きたいんですが」
《うん、そうだね》
ニコニコと、嬉しそうに。
「家はどうするんですか」
《もう建てた》
「は?」
《気に入らなかったら売れば良いんだよ》
「はぁ」
《大丈夫、きっと気に入るから》
教会前の馬車の中から、家の前の守衛室に転移。
牧歌的な農村地帯に、飾り気の無い黒い家。
そして中に抱えられて入ると。
あまり拘りが無いせいか、全然、気に入ってしまった。
「クソ、いつの間に」
《憤怒国辺りからだね》
「アレだけ拒絶してたと言うのに」
《掃除が楽で、日当たりと風通しが良くて、気密性が有れば何でも良いでしょ?》
「だからって」
《うん、ガラスのピアノ、近隣まで遠いから大丈夫》
子供が考えた最高の家、みたいなものが目の前に有る。
猫足バスタブに、天蓋付きの大きなベッド。
「はぁ、あ、つい」
《お預けし続けてたし、式は僕だったから、次はレオンハルトね》
「式は」
《その姿が見られれば良いって、じゃ、後でね》
帝国領に帰って秒で結婚式させられてるのに、新婚初夜の心の準備を。
『ネネ』
「待って、少しだけ待って」
家があんなに簡単に建つんですから、そりゃ遊園地なんてあっと言う間ですよ。
結婚式から3ヶ月後、この世界の最初の遊園地が、帝国領に出来上がりました。
《お姉様!!》
「エル様、おめでとうございます」
《何を仰いますの、私達の、ですわ》
「ありがとうございます」
《さ、参りましょう、ヒナも待ってるの!》
いつの間にかヒナちゃんとエル様が仲良くなっており、3人で遊園地を回った。
魔法、凄い。
「何ですか、あの滑らかな加速は」
《ふふふ、秘密ですわ》
『ウチにも欲しいです』
《それは最後になさった方が宜しいですわ、順次開園ですもの、最後こそ最高に仕上がると言うもの》
『確かに、研究せねばなりませんからね』
「気に入って頂けて何よりです」
《お姉様、まだまだですわよ》
自分がアレンジした音楽が、パレードに使われている。
恥ずかしいんだか嬉しいんだか、困る、恥ずかしさ勝ちだ。
「後で、それっぽい楽譜をお渡ししますので、定期的な変更をお願いします」
《ふふふ、了解ですわ。さ、次はお食事ですわね》
メインの噴水広場近くには、妖精のお食事屋さん。
「あ、お久し振りです」
「はい、お久し振りです」
独り立ちした妖精が、こんな所で労働を。
『可愛い』
《ふふふ、味も美味しいですわよ》
ハート形ハンバーグに、ハート形の目玉焼き、添えられたパンもハートに盛られ。
オムライスにパスタ、サンドイッチも有る。
そして隣りの妖精の喫茶には。
お花のパンケーキにベリージャム、花びらの砂糖菓子、生クリームは3色のパステルカラー。
「うん、美味しい」
《お飲み物もどうぞ》
ガラスのティーポットには工芸茶の紅茶、冷たい飲み物は氷入りのバタフライピーティー。
何処の夢の国だココは。
「全部、叶ってしまうかも知れない」
子供の頃に、何になりたいと言うより、理想の遊園地を画用紙に描いて遊んでいた。
チューリップのジュースとバラのケーキだとか、キャベツから生まれてコウノトリに運ばれるアトラクションだとか。
保育園で発表したら、そんなの有るワケ無いじゃん、と言われて泣いて。
誰かに言うのは止めた、家族にも、誰にも。
《お姉様?》
「子供の頃、赤いチューリップのジュースとバラのケーキだとか、キャベツから生まれてコウノトリに運ばれる乗り物だとかを思い描いてたんです」
『私もバラのケーキ好きです』
《チューリップのカップに、真っ赤な紅茶で》
『キャベツから飛び出すんですかね?それとも掬われるんでしょうか?』
「掬われるんです、大きなコウノトリの口で」
《それで園内を移動出来ると最高ですわね!》
『チューリップのジュースは?』
《赤いジュースにします、味は今度の試食でお出ししますわね》
『バラのケーキは何色ですか?』
「虹色です」
《目玉になりそうですわね、ふふふ、もっと教えて下さいお姉様》
『あ、ミモザのお花の何かもお願いします、パフェ、パフェの塔!』
「良いですね、パフェの妖精の塔」
『《パフェの妖精の塔》』
「妖精を助けるんです、そして救えたらご褒美はパフェ。毎月、味が変わる」
『ぶどう!』
《イチゴにミモザ、お花のパフェも作らないと!》
そうだ、こんな友達が欲しかったんだ。
一緒に妄想してくれる友達。
「あの、黒蛇さん」
《なんだ、とうとう小僧共が嫌になったか》
「もし、気になる方が居るなら」
《残念だが、今の私の興味は、お前の子だ》
「私が産むわけじゃないんですが」
《お前の子の成長を、お前以上に見守っていてやる、それから探しに出掛けるさ》
「運命の相手を逃すかもですよ」
《何だ、生まれ変わりを信じていないのか》
「いえ、寧ろ信じてますけど」
《運命なら、私が合わせれば良い、何せ不死だからな》
「お相手になれず申し訳無い」
《構わんさ、いつか、出逢う時が来る》
いつか、生まれ変わったなら。
その時は、流石に相手は私だけだろう。
『アレ、伝わって無いよ?』
《そう伝えたのだから、当然だろう》
俺も、ネネと一緒に居る事にした。
人種は目を離すと直ぐに死ぬし、ネネはまだ赤ちゃんも同然だから、離れるのが怖いし。
世話してやらないと、不安で仕方無い。
『ネネ、もう寝ないとダメだよ』
「まだ私は赤ちゃんですか」
『うん、まだネネは赤ちゃんだよ』
「ふふふ、いつまで経っても赤ちゃんですか」
『うん、か弱い赤ちゃんだから、守らないとね』
「コンちゃんも、いつか家族を作ってね」
『ネネが家族だよ』
「はいはい、良い子良い子」
また見送る事になるけど、それは見送れるって事。
レオンハルトはもう死んだし、子供の1人は病気で死んだ。
ルーイはネネと一緒に死ぬ運命だから、俺達が見守って守ってやらないとね。
『一緒に居てくれてありがとうね』
子供も孫も、立派に巣立った。
《後はもう、私達だけだな》
『うん』
ネネはルーイと共に旅立った。
そして遺言通り、家は子へ、遺骨はレオンハルトと合わせ海へ撒いた。
《家を、探すか》
『うん』
《悲しむな、ネネが悲しむ》
『うん』
人種は脆く弱い。
その寿命は獣の様に短い。
だが忘れえぬ思いを残す。
《悪魔に、ネネが住んでいた向こうの家を再現させようと思うが、来るか》
『うん』
弱く脆いモノに、私達は弱い。
きっとまた、人種を助けてしまうだろう。




