表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/100

10 ズブの素人。

 自分語りをしてしまった次の日。


『宜しくお願い致します』


 エルフと夢魔の混血の男性を紹介された。

 何故、女性では無いのか。


 後で問い詰めよう。


「宜しくお願い致します」


 彼の相棒は火の精霊に属する小型獣、見た目トカゲのサラマンダー。

 自身は水と風の魔法が既に使える為、補助として相棒と組んでいるそうで。


『職業が船乗りなんです、既に持てる力でも十分なんですけど、長旅には話し相手も必要ですから』

「成程」


 職業に就くには、能力は勿論、既に得ている仲間によって難しくなる場合も有る。

 もっと火力の出てしまう相棒では、暴走等の万が一を考え、船乗りは勿論輸送業に就く事はほぼ不可能だそうで。


 強ければ良い、種類が多ければ良いワケでは無い。


 実質、組み合わせ無限大、ぶっちゃけ考えるのが面倒。

 さしてなりたいモノが無い者にとっては、最早絶望でしか無い。


 選択肢の多さに頭が痛くなる。


 敷かれたレールって、本当に楽だったんだな。

 まぁ、レールと車幅が合わなかったんだけど。


『僕の様に職業に生かす為だけでは無く、元から知り合いであったり、趣味の為に相棒を探す方も居ますよ』


「昨今で、足りないと思える事や職種は何でしょうか」


『特には、すみません、思い当たりませんね』


 はい詰んだ。

 我が道を歩む程の我も無い、信念も無い、特技も技能も無い。


 専業主婦の星の元に生まれたのかって程の、家族欲も無い。


 詰んだ。

 無気力女、詰みました。


『ネネ』

「あ、あぁ、失礼しました。お忙しい中来て頂いて」

『いえ、暫くは陸に居ますから、いつでもお呼び下さい』


「あ、はい」

『では』


 あぁ、問い詰めないとな。




『すまないネネ、女性をと、要望したんだが』

「元老院ですか」


『いや、皇帝が、機会を与えるべきだと』


「船乗り、運送業に女性は居ますか」

『いや、あまり見掛ける事は無く、居ても夫婦や家族だが』


「成程、つまりはご厚意だと」

『あぁ、かも知れないが』


「殿下としては、どの職業に不足を感じますか」


『教育に関する者だと思う』

「あぁ、アレですからね」


『週末には貴族との立食会が』

「は?立食会?」


『聞いて』

「無い無い」


『仕立てを』


「確かに寸法は測りましたけど」


『すまない、少し話を聞いてくる』

「あぁ、どうぞ」


 ルーイがエスコートをするからと、俺は予定の確認だけしていたんだが。


『ルーイ』

《お、ケンカ?》

《どうだろう、多分、ネネの事だよね》


『どうして立食会の詳細を伝えていないんだ』


《あのー、私から1つ良いですかね》

『何だろうか、ユノ』


《アナタに譲るか迷ってるのでは?》


『ルーイ』

《どちらも選ばないだろうけれど、何か、フェアじゃない気がしてね》

《おぉ、恋愛沙汰っぽいけど、何が問題なんですか?》


『ドレスの仕立ての事なんだ、婚約者には本来、自分の色を入れたドレスや小物を仕立てさせるんだが。そうか、2種類仕立てさせていたんだろう』


《一応、ね》

《良い気配りだと思いますけどね?》

『いや、婚約者以外の色や組み合わせを使用すれば、双方の評判が落ちる』


《あー、表に出る直前で再度選んで貰おうって事かな?健気だねぇ》

『ルーイ、そうなのか』


《年下だと知られてから、そうした組み合わせのデメリットも考えたし、見た目以上にネネは大人だから》

《自信が無くなった?》


《それもだけれど、据えるべき場所としては》

《皇太子妃?》


《ネネが嫌でも、守れるならソッチかなと》

《でも危険も伴いそうじゃない?》


《まぁ、だから、改めてネネに選んで貰おうかなと思って》


《凄い好きじゃん》

《自分では、そう思っていても、誘導され作り上げられた好意じゃない。とは言い切れないから、ね》


《あぁ、接待術ね、私もするから受けてみたら?》

『それは』

《ネネは多分、嫌とすら思わず受けろって言うと思うよ》


《それはそう》


『正直、受けたくないんだが』

《好きだからこそ嫌なのは分かるけど、それ、ネネさんが喜ぶかな?》


《僕は受けるよ、それこそ慣れも必要なんだし》

《よし偉い、良い子良い子、今日から実践しましょう》


『もし叶うなら、ネネの、見えない所で』

《それもそれでどうだろう、万が一にも嫉妬して貰えないし、見直しても貰えないよ?》


 コレは、ある種の賭けになる。

 俺がユノに傾倒すれば、ネネへの好意も偽りだった事になり、逆に傾かなければ本物だとしての補佐にはなるが。


 容易く落ちれば、本格的に嫌悪される事になるだろう。


 けれど、ネネには選ぶ権利が有る。

 俺もルーイも選ばない、その自由もネネには有る。


 そう選ぶには、情報が必要となる。


『分かった』

《よーし、頑張りましょう〜》




 立食会の事は、ルーイと殿下の思惑がこんがらがっただけだそうで、改めてドレスの説明を受け。

 ユノちゃんと色を合わせる事に、と言うか来訪者用の色が有るそうで、白と銀のお揃いで出る事になった。


 念の為にと、皇帝が用意していてくれたらしく。

 ドレスが2着、余ってしまった。


《ごめんね、ネネ》

「いえ、誰の庇護下に入るか、そこはユノちゃんが居ない時のままでしたし」

《ちょっと忙しなかったもんねー、ごめんね私も気付かなくて》

『いや、コチラにも落ち度が有った、以後気を付ける』


《まぁまぁ、次はもう同じ事は無いだろうし、活かして次にいきましょう》

「ですね、部屋に戻りますね、まだ魔法の問題が解決していないので」


《そこもかー、頑張って》

「はい、では」


 ユノちゃんの存在は大きい。

 喧々して張り詰めた空気が和らぐ、緩衝材で中和剤。


 しかも、どうやら独自の接待術を駆使しているらしいのに、私には敢えて何も言わない。

 敢えて不要な嫉妬心を煽らず、コチラに見極めさせてくれる、若いのに出来た人間だ。


 多分、産まれる場所を。

 いや、私だけが間違えたのだろう、来る場所も産まれる場所も何もかも。


 あの子が生きたかったかも知れない人生を、大切にしましょう。


 いや、ならこの人生を代わりに生きてみろよ、と。

 グレ無かった自分を褒めてやりたい、捻くれず曲がらず生きられるもんなら生きてみろ、他人の人生舐めんなよ。


 この反骨精神が外になり向けば良かったが、そこまですら至らなかった。


 ただ、馬鹿には言っても分からない、兄のその一言が腑に落ちて。

 達観と言うか、諦めが強く出ただけ。


 所詮は凡庸で平凡。

 男に逃げたと言われてもおかしくはない状況で、しかも失敗して、まさかの異世界転移ですってよ奥様。


 家族が居なければ、多少は楽になるんじゃないか。


 そんな事は案の定なかった、居ないは居ないなりの苦労が有るし、少なくとも家族自体は嫌いじゃない。

 ただ、もう、比較されたり揶揄される存在にはなりたくなかった。


 だからこそ、それなりに清く正しく生きてたのに。


 相手選びで失敗した。

 もっと、家族に相談すれば。


《ネネ様、お菓子をどうぞ》

『何か、思い詰めてらっしゃる様に思えたのですが、どうかなさいましたか?』


「人生の伴侶を選ぶコツ、有りますかね」

『それはとても難しい事ですから、失敗を大前提に多くと関わるしか無いかと』

《でもネネ様はココに来たばかり、実質赤ちゃんなんですから、もう少し何か指標が欲しいと思いますよ?ね?》


 赤ちゃん。


 確かに赤ちゃんだ。

 生後半年にも満たない赤ちゃん。


「でちゅね」


《ふふふ、ほら》

『では先ず、身近な者が止めておけと言ったら、1度立ち止まり良く考える事ですね』


「やっぱり、周囲とも関わるべきでちゅよね」

《ふふ、親族が、お相手のお母様からウチので良いのか。そう言われたんだそうです》

『そして私の言葉を思い出し、じゃあ止めます、と帰ったそうです』


「潔い」

『はい、そして後の噂で、借金が有ったそうで』

《お相手のご家族が知らない借金だったそうですけど、自爆なさって発覚したそうです》


「豪運でらっしゃる」

『それこそ、勘も、少し居心地が悪かったそうで。それに重なり、一旦立ち止まろう、そう思えたそうです』


「私は、我慢し過ぎて、失敗してしまいました」

『ですが失敗だったと、既に原因も理解してらっしゃるのですから、それ以上ご自分を責めては可哀想です』

《そうですよ、赤ちゃんは失敗して成長するんですし。誰も死なず、他に害が無かったなら、寧ろ褒めるべきですよ》


「甘くないですか?」

『ネネ様の生きてらっしゃった場所とは、厳しくする部分が違うのかも知れませんが。損をさせず殺させもしない、その事は十分に褒められるべきだと思いますよ』

《そうですよ、八つ当たりも逆恨みもしないなんて、超偉いと思いますけど。しちゃいました?》


「いえ、寧ろ閉じ籠もる傾向に有るので」

《なら凄い偉いじゃないですか、酷い事件程、逆恨みとか八つ当たりが主なんですけど。ソッチって違うんですか?》


「あぁ、いえ、確かに」

『マトモな躾け、お考えをなさっているからこそ、そうした事はなさらない』

《貴族も民草も魔獣も、全てがそうなら、かなり平和になると思いませんか?》


「けれども、そうでは無い」

『はい、事件事故は未だに存在しておりますから』

《当たり前が出来て偉いんです、ココでは》


 目から、鱗と言う名の涙が零れ落ちそうになってしまった。

 けれど、彼女達はココの人間、皇族に使われる立場。


「ありがとうございます、難しいですね、常識の違いは」

《ですよね》

『だからこそ、どうかご遠慮なさらずお尋ね下さい』


「はい、ありがとうございます、少し部屋で考えてみますね」

『はい、では』

《失礼致します》


 これじゃあ、生き様がズブの素人。

 皇太子妃なんか、絶対に無理。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ