帝国で過ごす最後の日
帝国と王国の戦争。
長く続いたこの戦争に対する民衆は無関心で返した。
それは両国が民兵を使用せず、他国の略奪を行わなかったのが原因だろうか。
それとも長く続いた戦争のせいで国境付近に国民が居なくなったのも原因かもしれない。
とにかく、民衆は戦争を自国で起きている、どこか遠い話だと思ってしまっていた。
だけど私、アイリス=ダグラスは違う。 私の父は軍人だった。
一年に一回返ってくるならば良い方で、ここ何年かは全く帰ってこない日が続いていた。
父が軍人ということを私は知っていたが、軍で父が何をしているのか全く分からなかった。
父に聞いても守秘義務だとかで私に教えて枯れることはなかった。
守秘義務だと父は言っていたが、本当の理由は別に有ったのだと幼い私は朧げながら理解していた。
多分、父は話したくなかったのだろう。
なぜ話したくないのかは分からない。
でも私に気を遣って、と言うよりももっと別の考えがあるように感じた。
ある日、私の人生の大きな転機が訪れる。
それは父が戦死したと言う知らせだった。
それだけだったら私は涙を流し、悲しむだけで済んだのだろうが、そうはいかなかった。
父が軍事命令を違反し、クーデターを起こそうとしたという内容の新聞が大量に、帝国にばら撒かれた。
新聞にはダグラス曹長が帝国の軍事基地の乗っ取りを企て、失敗したと言う内容だった。
頭が真っ白になりかけたが、自宅に投げ込まれた石が私を正気に戻した。
家の前には知らない人が罵倒を叫びながら角材や石を持って立っていた。
ここにいては危ないと感じた私は着の身着のまま、裏口から走って逃げる。
そうして町外れまで走って逃げた先に一人の男とぶつかって倒れた。
「お、オい、コドモ、ドシタ? だいじぶか?」
拙い帝国語で私の心配をする彼は王国民だったらしい。
私は、荒れた息を整える間もなく、帝国の商人に事情を説明した。
「……お前、奴隷になる。 そすれば帝国から簡単に出られる」
商人はそう言いながら手枷を私に差し出した。
今、思い出すのは先程まで晒された暴力。
生まれて初めて、大人の暴力に晒された私は何も考えたくなくなっていた。
殻に閉じこもって何も考えずにいたい。 そう思ってしまっていた。
私は無意識に商人から手枷を受け取り、彼の奴隷となった。
父が死に、訳もわからず隣人に否定された私は奴隷となって王国へと向かうことになったのだ。