表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

第7話 光と影

王都カルディナの西側の街外れにある、

冒険者用の宿屋の階下にある小さな酒場。



まだ陽が高い昼前で依頼を終えた冒険者も

宿を求めてやってくる者も少ない時間帯だが

ヴァルゴはつい先ほど宿を取り荷物を下ろして

とりあえず軽い食事と酒を頼み、これからの事を考えていた。


パーティーにとってのタイミングを考えて

抜ける理由として金の話をでっち上げては見たものの、

実のところ、必要となる金額は実はまだ十分ではない。

今の資産すべてをざっくりと計算すると

村を出る時に領主に提示された5000万Gは

何とか若干上回る程度。

だが何かと金にがめつい領主の事だ。

難癖付けて金が足りないと言ってくることも考えられる。

そう言い出された時の為にもう少し稼いでおいて

高値で換金できそうな所持品はこの街で売り切ってしまってから

村へ移動するようにしたい。


とすれば、この街でまだしばらく滞在して

自分一人でもできる依頼をこなしながら資産を整理していくしかないだろう。


そう思いながら壁に貼られた冒険者向けの依頼を

上から眺めていくが、めぼしいと思われる依頼は見つからなかった。

今までのパーティーでこなしてきた依頼とは明らかに質が違う。


依頼内容や討伐対象となる魔物の強さ、成功した時の報酬の額

全てが今までと比べ物にならないぐらい、質が低いのだ。

出来ればもう少し骨のある相手を倒して報酬も実入りの良い依頼が

受けたいのだが、そういった依頼は既に名の知れたパーティーが

依頼請負い済みの書き込みをしてあって先を越されている。


「アンタ、ここらへんじゃ見かけない顔だな。

 街に着いたばかりかい?」


酒場の店主と思われる人物が頼んだ食事を持ってきながら声をかける。

元パーティーでは常に顔が隠れる漆黒の兜を被っていたせいか、

それを脱いでこうしていると誰も素性に気づかないらしい。


「あぁ、まあそんなところだ。」

「それならまだ生では見たことないだろうけど、この街には

 『カルディナの盾』って呼ばれる聖戦士様と聖女様率いる

 王国直属の冒険者パーティーが居てな、今日はちょうど東門の外側で

 山から攻め下ってきたデカい魔物を仕留めるクエストに出てるんだぜ。

 冒険者やってんならああいうのを目指さねえと! 」


大男はさもそれこそ街の自慢だというようにそう言った。


今日、彼らが討伐に挑んでいるのは超大型魔獣(ベヒーモス)と呼ばれる

四足歩行の城壁ほども大きさのある獣型のモンスター。

ただその魔物は以前にパーティー4人でも倒したことがあり

今回は王都防衛という名目もあって前衛には蒼龍聖騎士団と

後衛には宮廷魔術師団が討伐に加わっている。

奴の巨体での突進や踏みつけてくる攻撃は確かに脅威だが

多勢で力を分散させて包囲してしまえば防げないほどではないし

身動きが取れなくなったところにルビィを始めとする攻撃魔法の専門家が

複数の大魔法で一気に畳みかければ恐らくひとたまりもないだろう。


そして今回の作戦の成功をもって、バルゴは国王から聖騎士への叙勲を受け

冒険者ではなく、国から直々に認められた騎士として認められる。

そのまま恐らくは4つある騎士団の何処かに幹部として配属され、

数年後には第二王女ソフィア様と結婚して侯爵として爵位を与えられるのではと

人々が口々に噂しているのを何度も耳にしていた。


ラノアは聖女としてこの国の『数百年に一度現れる奇跡の力を持った聖女は

王家の血を継ぐ者と結婚し、この国に更なる豊穣と安寧をもたらすであろう』

という言い伝えに則って第一王子ゲオルグか第二王子トーマの

どちらかの妃となるのだろう。


ルビィも強力で類まれな魔法の使い方を素質ある魔術師に伝えるために

宮廷魔術師団から熱烈な誘いが来ているというのは以前から聞いている。

そのまま、高位の宮廷魔術師として身分は約束されることは間違いない。


イグルドは……俺個人の目線から見たらまだまだ実力も経験も足らず

冒険者としてもっとキャリアを積んで落ち着くべきだと考えるが

ヤツお得意の巧みな話術で王国軍に入り込むのは容易だと思う。


そうやって輝かしい功績をもって冒険者から数段飛ばしで上流階級に

駆け上がっていくのはまさしく誰もが憧れる英雄譚なのだろう。


そこに自分の存在も功績も残ってはいない。

だが、それでいいのだ。

これ以上、どこかで命の危険を感じながらパーティーのために

ギリギリの死線をくぐり抜け続ける必要も目的もない。


村をあんな地獄に変えちまった奴らの為に働くのは、もううんざりだ。

俺が金の力で村を取り戻して奴らを追い払う。

それだけの為に、俺は生きてきたんだ。


自分にそう言い聞かせるように酒を一気に煽り

酒のお代わりを注文する。

客が他に居ないためすぐに運ばれてくる。


「お前さん、知ってるだろうし余計なお世話だろうが

 実力が同じくらいの仲間を見つけてパーティーを組むのが

 一人で冒険するよりよっぽど近道だぜ?

 この街はデカいからきっと良い仲間も探せば居るだろうよ。」


そんな忠告のおまけ付きで。


そりゃどうも、と杯を挙げて返事をしながら

随分と前の、初めてパーティーを組んだ時の事を思い出していた。



________________________________



キィィィィィィン!!!


鋼鉄製の盾が繰り出した斬撃を弾き返す音。

もうこの小一時間で何度この音を聴いているだろう?

向かいに立つ全身鎧を着こんだ男の呼吸も乱れ、息をするたびに

肩が揺れているのが分かる。だがこちらも斬撃を弾き返され

反撃を避けるための距離を取るたび、体力が削られるのを感じる。

それでも、お互いにどちらかの攻撃が直撃で決まることは無い。


「お、お前……なかなかやるな!!」

「……そっちこそ。」

「いい加減、参りましたって頭を下げたって良いんだぜ?」

「……その言葉、そっくり返してやる!!!」


体力はもう底を尽きかけているハズなのに相変わらず口の減らない

全身鎧の男にそう返しながら、オレは地面を蹴って向かっていく。

間合いに入る2歩手前で左側、奴が盾を持っていない方の斜め後ろに飛び

身体を反転させながら剣を振り上げる。

だがその攻撃も剣の構えで受け流され、そのままの勢いでオレの身体が宙を舞う。

そこに奴の振り上げた剣での反撃がくる。

身体に当たらないように避けながら自分の剣を合わせて弾き返し、

その反動で距離を取って着地する。

そうしてまた、次の攻撃を放つまで膠着状態だ。

敵は重そうな鎧を着ているくせに反応速度は速い。


正直、ここまで攻撃を打ち込んでも一撃が決まらずに

時間が過ぎるのは師匠との訓練以外では初めてだ。




初投稿作品としての短編になります。

書き方など誤記がありましたら教えていただけると嬉しいです。

また応援や感想などいただけましたらとても励みになります。

どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ