表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

第5話 今更帰る所など残っちゃいないんだ。

圧政の前に次々倒れていく村人の為に強いる側から

盗んだもので村人を助ける少年時代の主人公、ヴァルゴ。

だがそれも見つかってしまい、処刑の為に王都へと向かう馬車に乗せられる。

馬車が急停止した轟音と、一瞬ひっくり返るのではないかと思うような

大きな衝撃のあと、外から兵士たちの話し声が聞こえる。


「……なんだ!? 野党団の襲撃か?」


「いや、相手は魔剣士たった一人みたいだぞ!? 」


「どうする? 馬車を止めた罪ってことで斬り捨てるか?」


「そうだな。我らの邪魔をした罪… うおぁっ!!


ガチャーーーーン!!!


と、2つ続けて金属の鎧が地面に叩きつけられるような音がする。


続いて手綱とそれを持つ者の重さが無くなり、逃げ去っていく馬たちの蹄音。


そして程無くして馬車の幌を捲り、一人の男が乗り込んでくる。

黒い兜で顔半分を覆い、同じく黒いマントに身を包んだ長身の男。


その姿を見て、食糧商人は一気にまくし立てた。


「ほほう、予定より早いがまあ良いじゃろう!

 ちゃんと代わりの馬車は何処かに用意しとるんじゃろうな?

 さっさとこの縄を解いてこんな粗末な馬車から…… ん?」


言い終わらないうちに一瞬空気が揺れたと思いきや、

商人の身体には男の剣が深々と突き刺さっていた。

いつの間にかヒゲ面の男も胸の辺りを切り裂かれ、絶命している。


男は商人の身体から剣を抜き取ると返り血を拭き取りながら言う。


「王都への献上物でも入っているかと思ったら豚とハイエナか。

 それと…… 子供を手にかけるのはさすがに寝覚めが悪いな。

 小僧、命が惜しければ元居た場所に帰れ!!

 此処で見たことは忘れろ! 」


さもなくば…と言いかけながら剣の切っ先を少年に向ける。

その声音からは親切心や同情などは一切感じられない。


(そんな事を言われたって…


村に逃げ帰っても王国兵たちに捕まり、またこの状況に戻されるのは

間違いない。かといってこのまま馬車を降りて森を素手で彷徨ったとして

魔物か野党に殺される可能性も大差変わらないだろう。

だとしたら、残る選択肢は……


「お願いだ!!俺にその剣を教えてくれ!!

 俺には今更帰れる場所なんてないんだ!!! 」


ヴァルゴは一か八かと思いながら、男にそう頼み込んでみる。

もちろんそんな願いを聞き入れるような人物には到底思えない。

それでも、今はその可能性に掛ける他に選択肢はなかった。


男はヴァルゴの嘆願が想定外だったのか、数秒考える仕草を見せたが


「そうか。ならば死ね!!!



と叫ぶが早いか距離を詰めて斬りかかった!!


商人を殺した時と同じ高速の一突きが来る!と瞬間で理解し、

咄嗟に身体を横に捻じる。

その直後に突きの姿勢から一瞬で放たれた横薙ぎも

後ろに仰け反って紙一重で間合いから逃げる。

仰向けに倒れた所に上からの斬撃が来たので

また横方向に身体を回転させて躱す。

全ての動作は勘のみに頼ったものだが、それでも紙一重で何とか

一連の攻撃をかわし切る事に成功した。


だが距離も集中力も何一つ及ばないまま、どんどん体勢は不利に持ち込まれる。


「ほう。小僧だと思って若干手加減はしてやったが……

 私の斬撃を三度も躱すとは、なかなかのものだ。

 


男は剣を構え直し、そう言い放つ。


「才能が無いと感じたら、その時点で斬り捨ててくれればいい!

 アンタなら簡単だろ? それまでだけでも試してくれないか!?


仮面の下にどんな表情があるのかは知らないが、ヴァルゴは男の

顔をまっすぐに見据えて、もう一度懇願した。


___こんな所で死ぬわけにはいかない!生き延びるんだ!___


心の中でそう念じながら。



男はしばらく剣を構えていたがふっと力を抜くと答える。



「ふむ…… なかなかいい面構えをしている。

 いいだろう! ただし小僧といえど容赦はしないからな!



言い終わるが早いか今までよりも更に勢いを増した速度で

ヴァルゴの懐に飛び込み、足元から上段へ剣を斬り上げる。



その剣圧でヴァルゴの体を馬車の壁面に縛り付けていた縄だけが

バラバラと細切れに千切れて落ちた。


_______________________



「本当に出ていてしまうつもりなのね、ヴァルゴ。」



夜更け過ぎ、急な来訪者。


師匠の下を離れてからその名を知っているのは多分二人だけ。

そのうち、今現在もその名で呼ぶのは彼女一人だった。


「あぁ、せめて君には言っておけば良かったな、ルビィ。」


それと同じように彼女の本当の名前を知っているのも

少なくともパーティー内では俺一人だった。



他の連中が寝静まった頃にこの部屋に彼女が来ることは

特に珍しい事ではない。その時々によって他愛もない話をしたり

その日の討伐の内容について反省点や改善点を話したり

酒を飲む相手になってやったり… 同じ布団で眠る事もあった。

だが、それらも今日でおそらく最後だ。


「あなたが抜けるのなら私もしばらく抜けようかしら。

知ってる? ラノアの出身のアヴェンヌ村ってね、

去年から『聖女の生まれた奇跡の泉』って水浴施設を

大々的に作ったらしいのよ。

なんでもどんな傷も治して肌も奇麗にする奇跡の効果があるとか。

そこで少しゆっくりしていたら、あなたの肺も良くなるんじゃない?」


「……知っていたのか?」


「当り前じゃない。私が普段どれだけあなたの動きを見てると思うの?

 ……あっ、こ、これは攻撃役の仲間としての職務の話だからね? 

 とにかく、これまで無理し続けた身体を休める必要があるわ。

 その先の事はまたその時に考えればいいじゃないの。

 ヴァルゴと私の力なら雇ってくれるパーティーなんてきっと幾らでもある!

 どうせだから元『カルディナの盾』の肩書きも利用しちゃえばいい♪」


そんな提案をしながらウインクして微笑む。

普段は表情をほとんど動かさないヴァルゴだが釣られ頬が緩む。

まったく、この女にはいつだって敵わない。


「そうだな……それもいいかもな。

 だけど、それは俺一人だけで十分だ。」


初投稿作品としての短編になります。

書き方など誤記がありましたら教えていただけると嬉しいです。

また応援や感想などいただけましたらとても励みになります。

どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ