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第4話 必ず俺は金を手にして戻ってきてみせる

主人公、ヴァルゴが少年時代を過ごした辺境の村、マイヨー。

そこは何の変哲も無い山奥の村だったが、

一つの特産物の爆発的な需要が村の姿を大きく変えた。

そう、村に住む人々の命運さえも。

グルド地方を治めるプロテア子爵家の血筋を名乗る

領主は鼻息荒く、この地に別邸を建て息子を監督役に

送り込むことを村の面々に伝えた。


王都カルディナから派遣されたという兵士たちも

今や高価となったマイヨ―蝶の生糸を狙う野党団が

出てくる可能性を示し、もしそのような者たちが

襲ってきた時の為の警護である旨を村人に伝えた。



___しかし、彼らの存在こそが村にとっての脅威だった___



「今やグルド織の生産はわが国最大の貿易優先事項!!

 貴様らはそれを支える一因として我が国の役に立っているのだ!!

 光栄な事であると肝に銘じ、国の為に身を粉にして働け!!」


毎日事あるごとにそう大声で喝を入れながら

村人達を朝から晩まで総出で働かせ続ける領主の息子。


村中にもう何本存在するか分からない木に

朝から夕暮れまで次々によじ登り

マイヨ―蝶の幼虫の吐き出した糸だけを採取するという

過酷な労働となれば当然、体力的についていけない者も現れる。


「何だ?もうへばっているのか!?この軟弱者めが!!

 我々王国兵の仲間は各地で敵国の兵や魔物の脅威から

 文字通り命をかけて戦っているのだぞ!!

 貴様らも腕の1、2本折れようが木から落ちようが

 国の為に命を捨てる覚悟でこの仕事に臨まんか!!」


木々の下をうろつきながらそう言って、

体力が切れて動けなくなった者を薄ら笑いを浮かべながら

剣の鞘で打ちのめす王国兵達。



(ここは地獄か? いっそ野党団が奴らを壊滅させてくれた方が

 この村にとって良いんじゃないだろうか?)


兵士や領主の息子に手を抜いているのがバレない程度に

木から木へとよじ登りながら、まだ少年だったヴァルゴは

そんな風に思っていた。


領主と王国兵がこの村にやってきてから1年半。


木から落ちて動かなくなったり王国兵に打ちのめされて

倒れたまま息を引き取った村人を何人も見てきた。


当たり前だ。朝から晩までこんな仕事をずっとさせられて

与えられるのは硬くて粗末なパンと井戸から汲んだ水のみ。

それに対して兵士たちは村人たちに建てさせた

立派な兵舎で肉やワインを浴びるほど飲んで食って、

毎日木の下で村人の仕事を監視しているだけ。


生来の素早さを活かしてたまにヴァルゴが兵舎からくすねてくる

干し肉なんかを明らかに体力の落ちた村人に分け与えてはいるが

それでも、元々体力の少ない老人や自分より小さい少年から

脱落者が出てくるのは誰が見ても明白だった。



___いつかこの村を出て、稼いだ金でこの地獄から村人を助けないと___



切実にそう考えていた少年の願いは一部分だけ、

本人の思いもよらない形で叶えられる。



村の中にはもう自分達に抵抗する気力が残っている者など

誰もいないと油断した領主の息子や兵士たちが昼寝している所から

少しずつ、身に着けている高級そうな装飾品などを盗んでいたのだが

それを村に出入りしている食料品を扱う商人と取引して

僅かな食料と交換したところ、翌日には商人が兵士に通報されたのだ。


当然ながら両腕を後ろ手にきつく縛られたヴァルゴは

複数の兵士達に殴られ蹴られ、青痣だらけになっていた。


「本来ならば貴様の様なガキは即刻この村で処刑したいのだが

 事が明るみに出てしまった以上、王国令に則って王都にて

 処刑されることとなるそうだ。何か言い残すことはあるか?」


相当に苛立った様子ながら死ぬ前に一応聞いてやるという態度で

そう尋ねた領主に、ヴァルゴはこう尋ねてみる。


「もしオレが、この村をアンタから買い取りたいって言ったら、いくらだ?」


「……はぁ!? 処刑されるのを前にして気でも狂ったか?

 これから王都に移送されて死ぬだけだというのに。

 まあ無理なのは分かっているが最後だから教えてやろう。

 この村が我が領地にこれから生み出し続ける利益を考えたら

 ざっと5000万(ゴールド)ってところだな。

 それを用意できるもんなら考えてやっても良いぞ?来世でな!

 答えはこれで良いか? 連れていけ!!」


領主はこれから死にゆく少年の最後の世迷言かと笑いながら答えたが

それを聞いた少年の目は、決して諦めた風ではなかった。


「言ったな!?覚えておけよ! 必ず用意して村に戻るからな!!




少年を王都へ護送するための粗末な馬車は村を出てもう数時間

ガタガタの山道を進んでいた。


途中の町から一緒に乗せられた者を含めると乗客は3人。


いかにも悪党といった感じのヒゲ面の男と、少年を領主に売った

あの食糧商人も何故か乗せられている。



「お前さん、そんな歳で一体何をやらかして処刑されるってんだ?

 俺はな、町で強欲な商人と貴族どもの屋敷を4つ潰してやったんだ!

 普段はゴミを見るような目つきで値踏みしてきやがる奴らが

 泣いて命乞いをして縋ってくる姿は最高の見物だったぜ!!」


楽しげに自分の罪を自慢してくるヒゲ面の男に辟易し、

ヴァルゴは何も答えないことにした。


確かに人を人とも思わず平気で踏みにじる貴族や王国兵は憎い。


だがこんな自分の欲望の為だけに簡単に人の命を奪ってしまえる者も

同じくらい、虫唾が走る。


何も答えない少年を見て、商人は呆れたような顔で

代わりに話し出した。


「この小僧は恐れ多くも領主さまのご子息や村を警護する王国兵から

 身の周りの品を盗み取っておってな、しかもそれをあろう事か

 自分の腹を満たすためにこのワシに取引と称して売りつけに来おった!

 手つかずの品であれば銀貨10枚(1000ゴールド)はする懐中時計を村の子供ごときが

 持ってきたので不思議に思ったものよ。


 それをわざわざ領主様に報告したというのに、なぜワシまでこんな馬車に… 」


大方、自分から安く買い叩いた懐中時計を領主に持って行ったところ

領主の息子が紛失した品だった事がバレて弁明したのだろう。

共犯だし捕まって当然じゃないか、と思っていると


「フン!まあよい。王都に着いたらワシだけは釈放してもらえるよう

 使いの者に算段を頼んである。

 貴様ら小悪党どもはおとなしく斬首されるがいい。」


と言い放つと大きな腹で馬車の壁にもたれてふんぞり返る。



所詮、地獄の沙汰も金次第か。とヴァルゴが声に出さずに

心の中で悪態をついた瞬間___



馬車を曳く馬の大きな嘶きと共に、馬車は急停止した。

初投稿作品としての短編になります。

書き方など誤記がありましたら教えていただけると嬉しいです。

また応援や感想などいただけましたらとても励みになります。

どうぞよろしくお願い致します。

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