第3話 俺は、お前らを仲間だなんて思ったことは一度もないけどな?
『何が不満で抜けたいって言ってるのかぐらいはせめて
教えてくれても良いんじゃない?
何かが上手くいってないから、抜けたいって事なのよね?』
俺がルビィから向けられた質問に答えずにいると
バルゴがいかにも作りものの、優し気な声音で言う。
「2人の言うとおりだよ、シャドウ。
何か不満があったりするなら何なりと言ってくれ。
話し合って解決していけば良い。俺たちは仲間なんだから。」
今までこちらの疑念にも応じず、意見も黙殺して
不調に苦しんでいる事すら気付いて思いやることもせずに
何処からそんな白々しい言葉が出てくるのか?
仲間ごっこのお悩み相談に応えてやる代わりに
溜息まじりに吐き捨てる。
「俺は、お前らを仲間だなんて思ったことは一度もないけどな?」
そう、最初から今まで俺たちは利用しあうだけの関係だっただろ?
6年間のあいだ、ずっとそれは変わらなかったはずだ。
「てめぇ!!バルゴさんが気ィ使ってくれてるってのに
何て言い方してやがるんだッ!!
テーブルに拳を叩きつけて立ち上がり、イグルドが
殴りかからんばかりの勢いで向かってくる。
仕方ないのでもう一つの用意しておいた言い訳の方を
話してやることにした。
「……金だ。
俺はずっと金のためにこのパーティーでやってきた。
それがようやく必要な分が手に入ったんだ!
このパーティーに残る理由はもうなくなった。
それだけの話だ。
夜明けまでには荷物をまとめてここは引き払うよ。
それで良いか?バルゴ?」
そう言って拳を振り上げた体勢で止まっているイグルドを無視して
その奥に座るバルゴの方に視線を向ける。
「そうか。そういえばそんな事を言っていたな、
デカい金が必要だって……理由を聞いた覚えはないが。
まあそれなら仕方ない、もう俺は引き止めないさ。
残念だが脱退することを承諾しよう」
淡々とそう答えるバルゴの表情からは残念そうな感じも
突然身勝手な事を言った俺に対する何の感情も見られなかった。
その言葉とともに俺は元パーティーメンバーに背を向け
廊下に繋がる扉を開けた。
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ローザネイ王国グルド地方の外れにある村、マイヨー。
ここより東には港町も整備されていない未開の海が広がり
南の森を進めば徐々に寒さが増し、永久凍土に続く。
そんなローザネイ王国のみならず、この大陸で恐らく人族が生活する
環境の中で最果てに存在している地図にもない小さな村。
村の人々は森で狩りをしたり木の実を採取して食料を得て
村の近くの畑で採れた作物やら特産品をまとめて
少し遠くの町まで売りに行き、細々と生計を立てていた。
そうして村人が町に交易品として持ち込んでいたものの一つに
特殊な生糸があったのだが、それが村の運命を左右する事となる。
マイヨー村周辺でしか見られない特殊な虫の吐き出す糸を集めて
作られたこの生糸は生地として仕立てた時、独特な光の反射によって
他に類を見ない美しさを作り出す。
たまたまその生地を商人から手に入れ、それに目を付けたグルド地方の
とある子爵が王国全土から貴族が集まる舞踏会にて
一人娘の社交界デビューのためのドレスに用いた時、
それは貴族階級の中での流行を一変したのだった。
『グルド織』と名付けられたその生地を求めて
多くの生地商人がグルド地方の片田舎の町に詰めかけ
更にその原料を追い求めて多くの雑貨商が
マイヨー村へと足を運ぶことになる。
それまでの10倍以上の買取値のついた特産品に村は湧きあがり
生糸の量産のためにそれまで作物を耕していた村人達は特殊な糸を吐く
『マイヨー蝶』の幼虫の飼育に向けて、畑を全て蝶の好む樹木の林へと
次々と植え替えていった。
そしてついにマイヨー蝶が大量に飛び交い、幼虫の作る糸の大量採取に
村が成功したその時____
この村にとっては招かれざる者たちがやってきた。
初投稿作品としての短編になります。
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