第18話 決着
気が付くと、青い光の球のようなものに包まれていた。
目を閉じながら太陽の光を見上げているような、温かい感じ。
体中の細胞が一つ一つ癒されていくような、そんな感じ。
その感じが弱まって自分が地面に立っているのを認識した時
魔獣の爪が身体を貫通して死にかけたはずの身体は、何ともなくなっていた。
指に填めていた老婆から貰った指輪がボロボロと崩れ落ちる。
それと引き換えに全身に力が無限に湧き出てくるような、そんな気さえする。
俺のただならぬ異変に気付いたのか、ジェイムズ達の方を向いていたハズの
王級大型魔獣が、こちらの方を向き直る。
心なしか怖気付いたようにじりじりと数歩、足を後退させる。
「グォォォォァァァァアアアアア!!! 」
だが次の瞬間、勇気を振り絞るように威嚇するように雄たけびを上げ
一旦後ろ足で立ち上がると、こちらに向けて突撃してきた。
俺も負けじと剣を下段に構えながら、奴に突進する。
低く!! 何処までも低く、早く!!!
「これでカタをつける!!! 喰らえッ!! 地擦り斬月ッ!!!!! 」
奴の牙が俺に届くかどうかという刹那、全身全霊の力を込めて
地面スレスレの位置から剣を振り上げる!!!
それは奴の牙を弾き返しながら上顎を切り裂いた!!
そのままの勢いで飛び上がり、今度は奴の眉間にまっすぐに剣を振り下ろす!!
「天地二段ッ!!!! 」
俺の全力の剣は奴の額を切り裂き、先ほどの上顎を切り裂いた傷まで貫通する。
その一撃と同時にジェイムズの剣が巨大火球を喰らっていなかった方の
目玉に突き刺さり、脇腹には左右から雷鳴と絶対零度の凍気を纏った魔力の槍が
深々と突き刺さっていた。
「グギャアアアアアアアアーーーーー!!! 」
傷口から奴の身体が崩れ落ち始め、砂のように足元に流れ出して消えてゆく。
そうして奴の巨体が時間をかけてすべて崩れ去った後、
顔の左右についていた角の先の部分だけが2本、崩れずに残った。
それを見届けてからジェイムズに話しかける。
「これでようやく討伐完了ですね、この牙の一つはジェイムズさん達のです」
「いや、それはお前の取り分で良い。それよりあの最後の剣……
俺が若い頃に見た『天魔』とよばれた伝説の魔剣士、
シャドウの技にそっくりだった。
お前の名前の由来はもしかして……」
「分からないんです。ガキの頃に頼み込んで剣を教えてもらって
数年で放り出されたんで……この兜と剣だけ渡されて」
俺は師匠から受け継いだ剣をジェイムズに見せる。
確かにこの5年間、どれだけの死線をくぐり抜けてどれだけの
敵との戦いで酷使しても刃毀れ一つしなかった。
それを思えば、実は凄い剣だったのかもしれない。
「この剣は邪龍ファフニールの牙で出来た宝剣。こんな凄いモノを過去に
手にしていたのは一人だけ。間違いなく、天魔シャドウだ。
お前、とんでもない奴の弟子だったんだな。
託されたその剣、ちゃんと役に立てろよ! 」
そう言い残してジェイムズとその一行は山を下り始める。
「ヴァルゴ!!」
それと入れ替わるように、後方から聞こえた声。
そこには、ラノアが立っていた。
光り輝く金色の髪と同じ金色の瞳を持ち、神秘的な雰囲気を持っていた
彼女だったが、青い髪と黒い瞳に代わっており、全く違う雰囲気になっている。
だがその方が本来のラノアであるような気がした。
5年間、ともに旅をしてきた仲間であるラノア。
「……喋れるようになったんだな」
「ええ、何故だか分からないけれど。
でも代わりに、もう癒しの魔法は使えない……と思う」
確かに目の前にいるラノアからは魔力の力は感じられない。
だが。
「でも、その方が良かったんじゃないか?それとも」
「うん……私もそう思う。もう聖女だなんて持ち上げられて
そんな力に運命を左右されるのはうんざりだから」
そう言って、彼女は後ろを振り返る。
そちら側に目をやるとボロボロの恰好で倒れたままの
バルゴの姿が目に映った。
「……生きてるのか?」
「その声は……ヴァルゴか?」
「ああ。王級大型魔獣は俺達でもう倒した」
「そうか……これで何とかメンツは保たれるな」
痛みに顔を歪ませながらバルゴが言う。
彼にとってはラノアの心配よりも、俺がここに何故居るのかよりも
メンツが保たれた事の方が大事なんだな。
もはや怒りも失望も沸かず、呆れるだけしか……
と思っていた時、ラノアの平手打ちがバルゴの横っ面に直撃した。
「何処かで、貴方にも少しは『仲間としての情』を優先する心が
残っていると思ってました。でも、最後まで自分の事なんですね」
そう言って彼の首にかけていた高そうなネックレスを毟り取る。
途端に彼は目を見開き、動かない身体で取り返そうと藻掻きだした。
「何の真似だ!? それが無くなったら……」
「生きていけない、とでも?亡くなったガーネットを呼び戻すための
お金は出し渋ったクセに!! 」
そう言って自分の首にかけていた十字架と共にそのネックレスを俺に渡す。
「この二つを売れば少しはお金になるわ。蘇生魔法に支払った額には
及ばないとは思うけれど」
「馬鹿な真似はよせ!!! 俺がそれを得るのにどれだけの苦労をしたか……」
「じゃあ聞くけど!!! そのためにアナタが踏みにじり、
奪ってきたものはどれだけのものだと思うの!?
仲間の苦しみにも、危険を巻き込むことにも、命を落としたことにさえ
何とも思っていないアナタの独断にどれだけ巻き込まれてきたか分かってる!?
今のアナタの立場があるのはアナタ自身の力ではないわ。
そこを思い知った上で、今度は一人だけで同じ場所まで這い上がるのね!!」
今にも髪の毛が逆立ちそうなぐらいの殺気を放ちながら、ラノアは言い放った。
その言葉に対して、バルゴは何も言い返せずにただうなだれるしかない。
そんな彼を一瞥すると、彼女は迷いのない足取りで山を下り始める。
「何か反論はあるか?」
「……」
押し黙ったバルゴに最後の一言を掛ける。
「これでお互いにもう、利用価値も無いだろ?
俺達もこれでおしまいだ」
俺も彼女に遅れて山頂からの降り口へと進み始めた。
初投稿作品としての短編になります。
書き方など誤記がありましたら教えていただけると嬉しいです。
また応援や感想などいただけましたらとても励みになります。
どうぞよろしくお願い致します。




