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第17話 ただ、それだけで良かったのに。

私の頭の中はあの時から、常に霧がかかっていた。



覚えている記憶は両親と一緒に弟を探しに行った森の中で

狼の群れに襲われた事。


血を流して動かない弟の姿、数の暴力で狼に組み伏せられる父親

そしてこちらに飛び掛かってくる黒くて巨大な野生の獣の姿。


気が付いたら村にいて自分の家で寝かされていたのだけど

そこに家族の姿はなく、私も声を発することができなくなっていた。

幼馴染のロイドが気を遣ってか毎日食事を届けてくれて

日々起こった村での出来事を面白おかしく話してくれたのだけど

何の反応も示せず、ただ頷く事しか出来なかった。


それから数日して、村の外で大規模な何かが行われる物音がした。


ロイドには前もって「戸も全て締め切って、絶対に外に出るな」と

言われていたのだけど、彼の悲鳴と村長が只事とは思えない感じで

彼の名を呼ぶ声が聞こえて、私は外へ飛び出す。


そこには腕から血を流して地面に倒れ込んだ幼馴染と

村に雪崩れ込んで来ようとする何匹もの狼の姿が見えた。

私の家族を奪った、あの悍ましい獣の姿が。



___お願い!! これ以上私から何も奪わないで!!!___



声にならない声でそう叫ぶのと、視界が光に包まれていくのはほぼ同時だった。


何が起こったのか分からないけれど、それがきっかけで村は窮地を逃れたみたい。

だけど、そのせいで私は村を追われることになったのだ。



始めは冒険者なんて嫌だと思ったし、怖い思いをすることも何度もあった。

私を村から連れ出した二人はなるべくそのような事が無いようにと

随分と気を遣ってくれているようだったけれど、やはり誰かが傷ついたり

魔物と壮絶な命のやり取りを目の前で見せられることは怖くて。


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、気を紛らわせるようにバルゴはよく

私に話しかけてきてくれた。


「見てくれラノア! この眼下に広がる景色を!!

 あの森を越えて、高い塔のあるあの城下を抜けていけば

 この国で一番栄えてる場所、王都に辿り着くんだ!!

 何が待ってるか、ヴァルゴだってワクワクするだろ!? 」

「……別に俺はデカい街になんて、何の興味もないけどな。

 ……だがここからの景色は確かに最高だ」


口数は少ないけれどヴァルゴも穏やかな雰囲気で

私をさりげなく気遣ってくれている。旅を続けるうちに少しずつ

凍り付いていた私の気持ちも解けていくように思えた。

そうしてこのまま3人で冒険者を続けていくんだと思っていた。

あの出来事が起こるまでは。



「ラノアの魔力はまさに『数百年に一度しか現れない聖女様』

 そのものだよ! アンタ達もそう思っただろう!? 」


冒険者としてある程度の実力と認知度が伴ってきた頃、

カルディア王国の隣に隣接するアストレア帝国との国境防衛戦の後

バルゴが興奮気味に他の冒険者に放った一言が、状況を変えた。


こうした大規模依頼に参加して他のパーティーの治癒士と比較して

初めて気付いたのだけれど他の治癒士は個々にしか治癒術を

掛けられないのに比べ、私はそこにいる範囲の全員に治癒を一度に

施す事ができた。それから治癒効果の強さと疲労回復効果も

他の治癒士より優れていたらしく、バルゴはそれを大袈裟に

喧伝していただけなのかもしれない。


でもその噂を聞き付けた他の熟練冒険者からの高難度討伐依頼や

王国の兵士団から国境防衛に関わる大規模戦闘などに駆り出されると

私が聖女の再来である、という噂は勝手に一人歩きして広がっていった。

バルゴはどんどん名声が高まっていく事を喜んでいたが

私は何も嬉しいとは思っていなかった。


私はただ、3人で誰も欠ける事無く旅を続けられればそれだけで良かったのに。


そうしてパーティーの名声が積み上がり、

メンバーも増えて王都での立場が上がっていくうちに

バルゴは周囲に要求する事が増えていくようになり

ヴァルゴは口を聞かなくなることが増えていった。

ううん、もう投げやりというか全て任せるから構うな、という感じ。


新たなメンバーが増える事でパーティー内のバランスが変わった事も

良くなかった。

バルゴの言う事を妄信的に信じて加担しようとするイグルドのせいで

ヴァルゴはますます、自分の意見や本音を口にしてくれなくなった。

ガーネットだけは個人的に何か聞いていたのかもしれないけれど……

二人の間に私が立ち入れるワケがなかった。



そんな事の積み重ねを経て……あの出来事が起こった。

私の治癒の力が及ばない事のせいで仲違いなんてして欲しくない、

その一心でバルゴを庇ったつもりだったのだけど、その瞬間の

ヴァルゴの傷ついたような表情は忘れられない。


『言わせてもらうがコイツの治癒魔法は万能じゃない。

 表面は癒えても破れた内臓は元に戻るわけではないんだ』


そう言われて、初めて思い出した。

夜中に時々、彼の部屋から咳き込む音が聞こえてきていた事。

討伐が終わった後の話し合いで、攻撃のタイミングが遅れた事に対して

バルゴに責められながらも曖昧な返事で謝罪をしていたこと。



私が、治せなかったからだ。



そのせいで彼の大切な人は死に、彼は去っていった。

そう思うと不甲斐ない気持ちで一杯になった。



それなのに、私の目の前に彼はもう一度現れた。

私を窮地の危機から救い出し、私たちに代わって戦い、そして傷ついた。

何の為に??お前らはもう仲間じゃない、って言っていたのに。

それは、わからないけれど。


でも、死んで欲しくないと、心から思った。


バルゴは耳に心地の良い言葉だけをくれる。

私の事を需要な存在だと、いつだって言ってくれる。

でもそれが自分が上にのし上がるためだけに利用したくて

言っている言葉だって事は少し前から気付いていた。


それに対して、こんなにも話さない事で気遣ってくれていた。

その事に気付けるまでに、時間がかかってしまった。

だけど、まだ間に合うとしたら。



____お願い!私の力なんて何ももう要らないから!!

____どうか彼を、死なせないで!!!



私はただ、ひたすらにそれだけを祈っていた。


自分が声を発したんだって事は、その時は気付かなかった。

初投稿作品としての短編になります。

書き方など誤記がありましたら教えていただけると嬉しいです。

また応援や感想などいただけましたらとても励みになります。

どうぞよろしくお願い致します。

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